完全犯罪クラブ

完全犯罪クラブ

これも最初はWOWOW。私はこういう映画はわりと好きだ。静かで沈んだムード。でもネットでの評価はあんまりよくない。確かに一種の煮え切らなさはある。題名から一分のスキもない犯罪期待するけど、ちっとも完全じゃないし。お定まりの疑惑・亀裂のルートたどるし。いくら時間をかけて念入りに計画しても、計画と実行は別物だし、仲間がいるほど尻尾が出やすい。この作品の場合クラブと言っても二人で、最少人数だけど、それでも尻尾出す。この映画はリチャード役ライアン・ゴズリングと、ジャスティン役マイケル・ピットの若手コンビが見どころなんだろう。二人とも演技がうまいし、個性的だ。親が金持ちで有力者のリチャード。我々から見るとハンサムと言うにはニヤケすぎだが、人をとろかす甘い笑み、頭の回転が速く、目立ちたがりや。大胆不敵だが、その影に弱さもちらほら。粘りがなく、いざとなると自暴自棄。殺人事件が起こり、そのうち彼ら二人が捜査線上に浮かび上がるが、刑事キャシー(サンドラ・ブロック)がリチャードに嫌悪感を抱くのがおもしろい。彼女は高校の人気者と結婚するが、彼は実はDV男。ひどい目に会わされ、心の傷は今でも癒えていないが、リチャードはたぶん元夫とよく似ているのだろう。ジャスティンは典型的なオタクタイプ。頭がよく大人しいが、何を考えているのかわからず、薄気味悪さも漂う。ちょっと油断するとぶくぶく太りそうな感じだし、目の間が狭く、唇ぼってり。見るからに対照的な二人が、なぜ結びつき、手を組んで完全犯罪を企むようになったのか。映画ではその部分は描かれないが、たぶんリチャードの方から声をかけたんだろうな。無差別に選んだ女性を殺す。殺した時間帯のアリバイを作っておく。わざと証拠を残し、犯人に仕立て上げた男に捜査の目を向けさせる。そしてこの男・・この場合高校の校務員で、前科もあるし、現にマリファナも大量に所持しているレイ(クリス・ペン)・・を、自殺に見せかけて殺す。警察が構築するであろう犯人像までコントロールしようとする二人。ただ、二人が考えたのはあくまでも頭の中でのことで、これが現実となると・・。一番見落とされているのはリチャードの性格。犯行後ボロを出すに決まってる。目立ちたがりやだし、ヤキモチ焼きだし、いざとなると自分だけ助かろうとするし。

完全犯罪クラブ2

コメンタリーによると、この映画のテーマは恋愛ではなく友情なのだそうな。若者二人はさしあたって生活には困っていないし、親は放任主義。学校生活は退屈だし、アルバイトも部活もしていないようで、時間があり余っている。何か刺激が欲しい。完全犯罪なんてどうだろう。警察をだます自信はある。殺人となれば固い結束が必要で。この二人には友情と言うより同性愛風な雰囲気も漂うけど、それは見かけだけで、実際は友情でも愛情でもない。少しでも自分が優位に立とう、相手をコントロールしてやれというのが見え見え。表面的にはリチャードがイニシアチブを取っているが、実際はジャスティンがというのも見え見え。従って二人のやり取りには何の新味もないが、この二人のうち最初の犠牲者オリヴィアを殺したのはどちらなのかはラスト近くまで不明で、そこはよかったと思う。一方捜査する側のキャシーとサム(ベン・チャップリン)。キャシーに誘惑されたサム、結ばれた後もっと親しくなりたいと思ってもそっけなくされ、困惑する。キャシーは過去の経験から恋愛なんてごめんで、欲望が処理できればそれでいい。コメンタリーで、キャシーがボガード、サムがバコールの役回りと言っていたのが印象的。人にリードを許してひどい目に会ったので、今は自分がリードしなくちゃ気がすまない。サムは誤解して、自分が手柄を立てたのが悔しいのか・・みたいなことを言うが、そのうち本筋に戻る。結果的に二人の間には恋愛は成立せず、友情が芽生える。コンビを続けるにはそちらの方がいいが、見てる方としては、キャシーはともかくサムは恋愛感情を整理できるのかな?という気もする。チャップリン君いつもこういう都合のいい男やらされてるな。最初見た時感じる煮え切らなさは、キャシーのぐじゃぐじゃしたキャラのせいだけど、何回か見ているうちにブロックはなかなかよく演じているな・・と。勤務中のかちっとしたヘアスタイルや服装、お化粧っけのない顔。対照的に家でのだぼっとした室内着姿。過去からずっと逃げていたけど、正面から立ち向かうラストも、ありきたりとは言えよかった。出演者では「ブラッドウルフ」のアグネス・ブルックナーが出ていたのでびっくりした。撮影時まだ15歳くらいで、ブロックのがさがさした肌と比べ・・いや、これは余計か。