鑑定士と顔のない依頼人

鑑定士と顔のない依頼人

ジェフリー・ラッシュの映画はあまり見たことがない。「TATARI」くらいか。ネットで調べると、疑問・質問がわんさか。あ~意味がわからずとまどってる人は私だけじゃないんだ。2時間以上あって、わりとゆっくり進む。家具とか風景とか趣きがあって、重厚。見ていて、ハッピーエンドはありえないな~とは思うけど、どう着地するのかわからない。オールドマン(ラッシュ)は一流の鑑定士。彼の意見は絶対だ。オークションでは相棒のビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで、気に入った絵画を安価で競り落とし、自分のコレクションに加える。このやり方が私には今いち理解できなかったのだが。ビリーが競り落とすよう、うまく仕切るのだが、いくら安価と言ってもかなりの金額で、彼はものすごい金持ちのようだ。豪邸に住み、食事も衣類も一流。家族も親戚もなく、友人はほとんどいないし、女性経験もなし。女性を描いたおびただしい絵画に囲まれ、至福の時を過ごす。ある日奇妙な依頼人と関わりができたせいで、決まりきった日々に変化が訪れる。なかなか会えない依頼人にいら立ち、怒っては許すのくり返し。相手は若い女性で、両親の遺品の鑑定・売却を望んでいる。しかし広場恐怖症のため、人前には出られない。オールドマンは床に転がっていた部品に目を止める。修理屋のロバート(ジム・スタージェス)に見せると、幻のオートマタ・・自動人形の一部らしい。もっとあれば復元もできる。依頼人の正体とオートマタ・・二つの興味のせいで、オールドマンはこの件から抜け出せなくなる。ようやく見ることができたクレア(シルヴィア・フークス)は影のある美女で、オールドマンはますます引かれていく。この頃になると見ている方は、大丈夫か~オッサンだまされとるぜ~ちーとは警戒しろよ~と心配し始める。ロバートの恋人サラが彼の浮気のことで、ろくに知りもしないオールドマンにわざわざ相談しに来るのはおかしい。オールドマンがクレアのこと調査しないのもおかしい。彼ほどの大家なら調査員の一人や二人雇っているはずで。彼はしかし今回の件がきっかけで、様々なことを初体験する。ケータイは持たない主義だったが、使うようになった。持てばとたんに束縛され始める。かかってくれば出ないわけにいかない。

鑑定士と顔のない依頼人2

クレアが失踪した時はオークションと重なり、醜態を演じるはめになった。以前の彼には考えられなかったことだ。失踪の時点で普通なら警察に届ける。でもロバートや屋敷の管理人フレッド(「ポアロ」のジャップ警部でおなじみのフィリップ・ジャクソン)など、うちうちの者だけで解決しようとする。女性へのプレゼント・・それも下着を求めるなんてことも初体験。彼はモデルを正視できない。それくらい(生きている)若い女性は苦手。クレアは家から出られない。誰か・・クレアを見ようと隠れていたオールドマンなのだが・・が家に侵入するとパニックを起こす。二人とも普通の人のような交友関係は苦手。だから二人は似た者どうし・・とは言え、そう言われた時は、喜ぶより警戒すべきだ。だって相手に取り入ろうとする時の決まり文句じゃん!あることがきっかけで彼女は外へ出ることができるようになる。いつまでも閉じこもっていたのでは話が進まん。その後も関係は良好で、オールドマンはついに隠し部屋を見せる。おいおい、見せちゃったよ~。たぶん彼女は彼が暗証番号押すのをこっそり見てたはず。遺品も売らないと言い出す。ほらほら、やっぱり~。売らないんじゃなく、売れないんでしょう~。売れば何かがバレる。オールドマンは引退を決め、最後のオークションに。クレアは留守番だ。彼のいない間にやることいっぱいある!で、帰ってきて隠し部屋開けると・・見事に何もなくなっていましたとさ。これってビリーの復讐らしい。才能がないってオールドマンに”鑑定”されちゃって、画家としての未来を断たれてしまった。ビリーは結局何をしていたの?私は彼が贋作の名人だと単純に思っていたけど・・。オークションで競り落とす役で小遣い稼ぎしてただけ?絵の盗難は警察へ届けるわけにもいかない。不正な手段で手に入れたものだし、オークションで競り落としたのはビリーということになってるんだし。それともクレアを逮捕させたくないから?その後の・・クレアの屋敷のことやロバートの店を訪ねるところ、病院で腑抜けになっているところ、どこか(プラハ?)へ行って妙な店に入るところと、この三つがどういう順番なのかよくわからない。

鑑定士と顔のない依頼人3

ある人は、店のシーンは病人の妄想で、彼は気が狂ったのだと書いている。あるいは詐欺にあったことが確実になり、精神を病んで入院したが回復し、プラハを訪れたのか。また、オールドマンが車のトランクで見つけたのは何かという疑問もある。ある人はあれは発信器で、彼の車がクレアの屋敷に近づくのを知らせたのだと。なるほどそれなら彼女の方も用意できるからね。私自身はGPSだったのでは?と思ったけど。ロバートの店にいた時、徘徊老人の位置を知るためテリーという女性に渡していたのがこれだと思うんだけど。つまりクレアやロバートやフレッドだけでなく、サラもテリーももう一人の女性もみ~んなグルだったとこれではっきりしたと・・。それこそ「スパイ大作戦」かよ・・と思うくらいの周到なオールドマン囲い込み作戦。たいていの人は、彼は生涯かけて集めたコレクションを失ったけど、その代わり愛とは何ぞやというのを経験できたのだからいいのではないかと書いている。確かに今の彼の頭の中は、クレアと過ごした情熱的な時間、耳元でささやかれた愛の誓いの記憶であふれかえっている。彼には一生縁がないと思われていたことだ。また、彼を気の毒に思う人も多い。こんな優しいおじいさんをだますなんてひどい・・とか。でも私の考えはちょっと違う。映画の冒頭で彼は何をしていたか。依頼人をだましていた。そりゃ中には金に飢えた欲深な連中もいるだろう。でももしかしたら払いきれない相続税とかでせっぱつまった状態の人もいたはずだ。そのピンチを逃れる唯一の望みだったかもしれないのに、本物を贋作と鑑定し、安く買いたたく。そして自分のものにする。クレアにだまされた善人じゃないのよ。彼だって詐欺師なのよ。今まで何人の人を犠牲にしてきたことか。しかも彼はそのことを思い出しもしない、悔やみもしない。頭の中は自分とクレアのことだけ。彼女が話した店が実在するってことは、全部が全部ウソってわけでもないのだ。彼女の愛の誓いももしかしたら・・。そうやって一生彼女が現われるのをそこで待ってろ!!う~ん、何だか腹が立ってきたぞ。