クアドロフォニア-多重人格殺人-

クアドロフォニア-多重人格殺人-

昔はこんな役(悪役)やってましたシリーズ第二弾はオーウェン・ウィルソン。四重人格の連続殺人鬼。でも第三弾はいつになるかわかりません。だって「悪魔の恋人」のマーク・ウォールバーグと、この作品のオーウェンと、今のところ二人しか見つけられなかったんだも~ん。今はナイスガイ専門だけど過去(デビュー当時)は変質者やってましたって人他にいます?・・って誰に聞いてる。この映画の存在知ったのはエリック・メビウスがらみ。「デスクロウ」や「クロウ 復讐の翼」の感想書いている時、彼のこと調べていたらこれがあって。「クアドロフォニア」なんていう語感から、最初はいやらし系映画だと思っていたのよ。ニンフォマニアとかあるじゃない。アラクノフォビアとかも・・って、あれは違うって!!そしたらサイコサスペンスみたいだし。感じがよくて誰からも好感持たれる青年が実は殺人鬼で、しかも演じているのがオーウェンだというじゃない。それで興味持って。いちおうメビウス君も見たかったし。当時は神奈川に住んでいたけど、レンタル店回っても置いてなくて。ええい、ままよ・・とネットで購入しちまいました。当たりかはずれかは見るまでわからない。これはもう賭けですな。批評は何も起こらないとかすべてがあいまいとかそんな感じ。確かにいかにもな題名に釣られて血みどろ殺人期待して見ると当てがはずれる。最初から最後まで作りたての舗装道路みたいに平坦。殺人と言ってもキノコから抽出した毒の粉末まぜたお酒を飲ませるだけ。犠牲者は苦しみもせず眠って死んじゃう。視覚的にショッキングなシーンなんてほとんどない。聴覚的にも静か。こういう映画にはつきものの突然ドカーンとくる大音響、キーンという耳ざわりな音、がなりたてるロックミュージック・・いずれもありません。ヴァン(オーウェン)は軽トラで放浪している。あちこち回ったらしい。父親の看病をしていたけど、死んでしまったので今は自由の身。大学に入り直そうかとも思ってる。でもこの簡単な身の上話が本当かどうかは不明。相手に合わせててきとーなこと言ってる場合もあるし。彼の一番の特徴は無害に見えること。たいていの人間は、彼の邪気のない笑顔、大人しくて愛想のいい態度に心を許してしまう。

クアドロフォニア-多重人格殺人-2

酒場に入ると、昼間から飲んだくれているキャスパーが話しかけてくる。バーテンは金もないくせに・・とキャスパーを追い出す。ヴァンは彼女のぶんまでお金を払い、車に乗せる。そして彼女はここでの犠牲者第1号となる。彼女の前にも犠牲者はいるが、詳しいことは不明。キャスパー役はシェリル・クロウで、これが映画デビューらしい。よりにもよって何でこんな役選んだのか・・というのが大方の意見。確かにクスリ漬けで薄汚れた感じのする飲んだくれの役じゃファンはがっかりだろう。バーテン役はジョン・キャロル・リンチだが、クレジットはされていない。このバーテンだってキャスパーの体心配して、あのような態度取るのであって・・。無愛想だけど、どこか人間味があって・・演技にそういうのを出せるリンチのような役者、私は好きです。海辺に車をとめて寝ていたヴァンは、見回りに来た女警官に見とがめられる。鋭い目つきで職務質問をしてくるが、ヴァンはいかにも邪気のないふうで答える。ついさっきキャスパーを死に追いやってきたばかり・・なんておくびにも出さない。ヴァンはこの町が気に入ったので、しばらく暮らしてみるつもりだ。部屋を借りようとジェーン(マーセデス・ルール)、ダグ(ブライアン・コックス)夫妻を訪ねる。彼が借りるのは夫妻の娘カレンの部屋。彼女は今大学に行っている。部屋には彼女の写真が飾ってある。部屋があいたから人に貸して、家計の足しにしよう・・この流れにおかしいところはない。だがこの夫婦・・どこか変だ。ジェーンは疲れきっていて、何かに耐えているふうだ。きっかけがあれば爆発するかもしれないが、今はそれを押さえつけている。彼女がかかえている悩みは何?ダグは自分のことを躁鬱病だと言う。ジェーンの勧める治療をいやがり、彼女の目を盗んで酒を飲んでいるらしい。ゴミを捨てるついでに酒ビンもそっと捨てる。その後いきなり太極拳の動作やり始めたのには見ていてびっくりさせられたが・・。この映画で一番ショッキングなのは殺人ではなく、ダグが顔を腫らして現われた時。自分で自分を殴ったのだ。いったいなぜ?そういう病気?カレンはたぶん家出して、今は行方不明なのだろう。大学になんか行っていない。その原因は不明。

クアドロフォニア-多重人格殺人-3

大人しいヴァンは夫妻に気に入られる。仕事を見つけてくれたし、クリスマスには心のこもったプレゼントをくれた。最初は間借り人なのだから距離を置くべき・・と警戒していたジェーンも、すぐそんなことは忘れてしまう。さてダグは親友の息子ジーン(メビウス)を、自分の息子のように思って目をかけている。地元高校の花形アメフト選手であるジーンに期待し、生きがいに思っている。ジェーンによれば、ダグには常に愛情を注ぐ対象が必要なのだという。前はカレン、今はジーン、ジーンがいなくなると今度はヴァン・・。練習の帰り、一人で歩くジーンに、ヴァンは家まで送る・・と声をかける。目のつくところにフラスクが置いてある。誘惑に勝てずジーンは飲んでしまう。ここでの犠牲者第2号。ヴァンはなぜジーンを殺す?将来有望、未来はバラ色の青年に嫉妬した?車に並んで座っているシーンでは、二人は同年代に見える(メビウス君に高校生役はちときついが)。ジーンは18歳くらいだろうし、ヴァンは後で年齢を聞かれて34歳と答えている。やっぱり若さや未来に、めぐまれた境遇に・・。ヴァンの言う通りなら彼の20代は父親の看病のせいでつぶれてしまったことだろうし。とは言えヴァンに嫉妬の感情があるかどうかも不明だ。彼は自分の心理を分析するが、元々感情に欠落部分があるから、我々が聞かされるのはわかったようなわからないような独白。彼の行動を理解する助けにはならない。恐れたり後悔することのない彼は、表に何も出ないので、人に疑われることはない。ジーンの捜索や教会での集会に参加するなど、いかにも心配しているように装うが、余計なことは決してしないので、ボロを出すことはない。ジーンの行方は不明のままで、ダグは沈み込む。ついでに言うと私も沈みましたよ、メビウス君の出番あれだけ!?ってね。少なすぎるぅ。ダグは自分で自分を殴るが、それは自分を束縛するジェーンへの憎しみのせいか。妻を殴るわけにいかないので、自分を殴るのか。ジェーンが何かするのは夫の身を心配してのことだ。それがわかるくらいには今のダグには分別が残っている。でもそのうちキレるのではないか。ダグもヴァンも似た者どうしだ。ヴァンは(暴力を)自分に向けず、他人を殺す方に向けているけど。

クアドロフォニア-多重人格殺人-4

クリスマスだというのにここでは空はよく晴れ、気持ちのよさそうな天気が続く。明るい日差しの下、くもりのない笑顔の好青年。でも家の中はどよ~んとした空気。無気力さが漂う。ダグは家の前に巣箱を置くが、小鳥は来ない(後でダグがジェーン殺し容疑で連れて行かれると小鳥達が集まり始める)。ヴァンは郵便局で働き始める。早速フェリン(ジャニーン・ガロファロー)という女性に目をつけられる。彼女の猛アタックぶりが詳しく描写される。ヴァンは恋人が欲しいようには見えないし、過去に恋したことがあるかも不明・・というか、ないだろう(大事なのは自分だけ)。彼は「殺人がボクを選ぶ」のだと思っている。自分から獲物を求めなくても、向こうから近づいてくるのだ。毒入りの酒だって置いておくだけ。勧めるわけじゃない。相手との接点がないから捜査線上に浮かぶこともなかった。でもこの町へ来てからは、自分に課したルールが崩れてきている。バーテンはキャスパーと話していた自分を覚えているだろうし、ジーンはごく浅いとは言え知人だ。中盤あたりになると、ショッキングな殺人シーンも血しぶきもなく、わけのわからん独白聞かされるだけとわかって失望し、眠気を催す人も出てくるだろう。期待したのと全然違う、いったい何が言いたいんだろう・・って。私自身はフェリンの涙ぐましい努力が印象に残った(とは言えこういうのが見たくてDVD買ったのでは決してないが)。普通なら相手のあまりの無反応ぶり、鈍さにこりゃだめだ脈がない、やってらんない・・とさっさと見切りつけて離れる。でも彼女はあきらめない。絶対モノにしてみせる・・と意地になってる。元々は彼女の一目ぼれのようだ。彼は他の男とは違う!運命の人だ!という確信。そりゃ他人と違うのはあたりまえで・・多重人格で殺人鬼なのだから。でも彼の持つうわべの雰囲気・・うぶで邪気のない言動に引かれる。仕事に慣れないヴァンに近づいて親切にする。ランチタイムや休憩時間に一緒になる。さりげなく機会をとらえてはヴァンにさわる。飲みに誘う。家に誘う。あらゆる手を使う。車の中で寝たふりをして、ヴァンが行動起こすの待ってる。どうして何もしないの?・・とその目が訴えかけている。

クアドロフォニア-多重人格殺人-5

「こういう状況って困っちゃうわね」というセリフが悲しくもおかしい。女の方からモーションかけているのに男が反応してくれないバツの悪さ。男の方がモーションかけて、女が適当にあしらうのが普通なのに・・恥をかかせないでよッ!でも(フェリンは気づいてないけど)ヴァンにとってもこういう状況は困るのだ。殺す相手は見ず知らずの人でなきゃ。殺す雰囲気はさりげなくでなきゃ。見方を変えればこれってブラックコメディーだ。「殺人がボクを選ぶ」なんてカッコつけていたのに「フェリンがボクを選ぶ」になってる。さて、このヴァン・・クアドロフォニアということで四重人格らしいが、ホントに四人?ちなみに原題は「ザ・マイナス・マン」である。マイナス男・・マイ茄子男・・草食系か(違うって!)。最初見た時は刑事二人が出てきてヴァンを尋問するので、今は逮捕されているのかな、回想形式なのかな・・と思った。そのうちこの二人がヴァンの別の人格なのだとわかってくる。刑事役はデニス・ヘイバートとドワイト・ヨーカム。ヨーカムの方が薄気味悪さがある。好青年のヴァンと、殺人を続けるヴァン、刑事二人・・これで四人なのか。ただ、見ていてこれは現実の人間なのか・・と思えるキャラもいて・・。例えば女警官。殺人を続けるヴァンは常に警察を意識しているはずで。刑事二人が出てくるのもそのせいだろうし、ジーンが将来FBIに入りたいというのも殺人の動機かも。この女警官も時々現われてヴァンの行動左右するのでは?冒頭どちらへ行こうか迷うシーンがある。ラストシーンも道の分かれ目だ。警官は右に、ヴァンは左に・・今回もどうやら逃げられそうだ・・でも、また(道が合流して)現われるかもしれない。他に気になるのが数回うつる郵便局員。最初休憩を取るフェリンの横にいるので、同僚に見える。フェリンの目はヴァンに釘づけ。ヴァンもフェリンに注目しているように見える。でもヴァンが見ていたのは本当にフェリンだろうか。フェリンの横には現実には誰もいないのでは?ヴァンにだけ男が見えてるのでは?ヴァンを見てただ立っているだけの男・・はかなり不気味だ。腕っぷしが強そうで・・いろいろ妄想がわく。私はヴァンは四重どころか、もっとたくさんの人格を持っていると思う。

クアドロフォニア-多重人格殺人-6

このDVDにはメイキングもコメンタリーもついておらず、すごく残念。原作はあるが、邦訳はされておらず、理解の助けになるものが何もない。映画を見ていてもわからないことばかりでもやもやする。キャスパー、ジーン、ダイナーでの男・・この三件は完全にヴァンの仕業。ダイナーの男あたりになると、ヴァンは機会さえあれば・・という感じで、最初の頃と違っている。局の上司、画家らしき中年女性・・いずれも思いとどまるが、「殺人がボクを選ぶ」という状況ではない。老婆が石の下敷きになって死んだという事件はヴァンの仕業?でも殺害方法が違う。ヴァンはジェーンからその話を聞いても気にとめていないし。でもヴァンには暴力的な面もあるって我々にはわかってるし・・。そして何よりもジェーンの死は?あまり謎ばかりで映画が終わってしまうのは酷ですぜ。コメンタリー入れて欲しかった!ダグとジェーンのあぶなっかしい関係もこの映画の見どころ。コックスとルールの演技もあって、殺人よりこっちの方がスリリングかも。わめくとかつかみ合いの大ゲンカするとか、そういう発散型ではなく、内にこもる。表向きは平静を保ってるし、お互いのことを大事に思ってるのも確か。でも何か今にも爆発しそうな危険なムードが感じられる。ある日ジェーンが死体で発見される。警察はダグを疑っている。映画を見ている限りではダグは犯人ではないように思える。クリスマスは平穏に過ごしていたし、妻の死にショックを受け、とほうにくれている。(妻が死んだというのに)仕事に行かなくちゃ・・と混乱しているパンツ姿のダグが哀れ。ただ、調べれば二人の間にいろんなトラブルがあったのはすぐわかってしまう。娘の家出、躁鬱病、自傷行為、酒、発作的に暴力をふるう傾向がある・・。それが妻に向かったのかも・・。一番困るのは、ダグ自身自分に自信が持てないこと。彼には妻を殺したという記憶はないようだが、おまえがやったのだろうと言われて突っぱねるほどの気力が今の彼にあるかどうか。自分がやったのかも・・と思い込んでしまう可能性が高い。ネットでの感想は、ダグがやった、ヴァンがやった・・と、意見が分かれる。ヴァンがやったとするのは、ジェーンがヴァンのテープを聞いたから。彼は自分の心理を録音しておいたらしい。この設定は私には合点がいかないが。だって証拠を残しすぎだ。

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ジェーンは聞いてみたものの何も録音されてなかった・・とダグに言う。ヴァンは消去したからね・・と答えるが、本当かどうかは不明。元々録音などせずカッコつけていただけかも。あるいは録音内容が奇妙なものだったので、ジェーンはどう考えていいのかわからず、ダグに何も入っていなかったと言ったのかもしれない。そしてそれがヴァンがジェーンを殺す理由になったのかも。考えてみればジェーンがヴァンに老婆の事件の載った新聞を見せにくるのも変だ。彼女はヴァンに好意を持ちながらも、何か引っかかっていたのでは?ただそれだとヴァンが思い浮かべる、事件当日出かける時のジェーンの笑顔とつながらない。録音内容がショッキングなものなら、ジェーンがヴァンにあんな笑顔見せるだろうか。それともあれはヴァンに向けた笑顔ではないのか。当時のヴァンにはジェーンに近づく足がなかった。彼女は売り家を見に行くため車で出かけた。そのためダグはヴァンの軽トラを借りて歯医者へ出かけた。ヴァンは車がないので家にいたのだ。となればダグが怪しい。売り家・・この家を出る・・別れ話でも出ていたのか。そのせいでジェーンを?ジェーンの殺され方は、はっきりしないが残酷なものであったようだ。いつものヴァンのやり方ではない。ああ、でもヴァンにも残酷な面があるのだ。フェリンを殺そうとした時には(抵抗されてすぐやめたけど)別の(暴力的な)人格出ていたし。毒のような力を必要としない殺人、暴力的な殺人、両方あるのではないか。まあ、いくら書いても切りがないのでもうやめますね。とにかく静かで不思議な映画。そして私はどうもこういう映画の方が好みなんですよ。レイルズバックの「エド・ゲイン」もそうだったけど。「クアドロフォニア」は好き嫌いの分かれる映画。ぜひ見て!・・なんて勧める気もない。中には気に入る人もいるかも・・私みたいに・・って、そんな感じ。出演者は他にジーンの父親役でラリー・ミラー、ヴァンがのこのこついていく中年女性がメグ・フォスター。フォスターはあの顔だからヴァンよりよっぽど怪しい。若い男性を連れ込んだというより仕事熱心な画家。ヴァンにモデルになる気はないかなんて聞いたり。でもヴァンは彼女の絵(ピストル自殺しようとしている女性)を見たせいで、すたこら逃げ出してしまう。「将軍たちの夜」でゴッホの自画像見て固まっていた殺人鬼の将軍思い出す。