コーラス

コーラス

はい、間違いなくいい映画だと思います。同じ音楽を扱っていても「オぺラ座の怪人」よりこっちの方が感動できまっせ。公開一週目のレディス・デーで、朝一番の回はオバさんでいっぱい。前の方はすいてたけど半分から後ろはいっぱい。前の方は見にくいと思うよ。スクリーンと席が近すぎるし、映画はシネスコサイズだし。途中から白いものがちらほら。ハンカチ出してるわけよ。印象的だったのは映画が完全に終わって明るくなるまで誰も席を立たなかったこと。もっと歌を聞いていたい・・そんな雰囲気。「いい映画だったねー」とみんな満足げ。当分の間ジャン=バティスト君の大きな瞳と澄んだ歌声がオバさん達のハートをわしづかみ(かな?)。誰もジェラール・ジュニョのこと覚えてないと思うよ。さて、天使の歌声と言えばウィーン少年合唱団。私が子供の頃はマンガ雑誌のカラーページを来日した美少年達の写真が飾り、田舎に住んでいてそういうのには縁のない私は、指をくわえて見てるだけ~。今回この映画を見に行ったのは、毎中新聞などに紹介記事が載っていたから。特にジャン=バティスト・モニエのことを強調しているので、ホンマかいな・・と確かめに行ったわけよ。いつも通りジャック・ぺランが出てきて、お葬式で、子供の頃の回想で・・。いつも通りと書いたのは「ニュー・シネマ・パラダイス」もこんな感じだったでしょ?1949年のフランス、孤児や問題児が集められた寄宿学校に失業中の音楽教師クレマン・マチューが赴任してくる。彼は一流の音楽家を夢見ながら挫折したようだが、手のつけられない生徒達を体罰ではなく歌に親しませることによって矯正しようと思い立つ。最初はムリだと相手にしなかった同僚達もやがて彼に力を貸すようになり、子供達も変化し・・。マチューは顔つきも体つきも性格もみーんな丸くて、心の広いロマンチストだ。演じているジュニョは初めて見るが適役で非常にうまい。感じとしては異常でないドナルド・プレザンスってところかな。マチューは音楽によって子供達を変えたけど、実は彼自身も子供達によって変わったのよね。子供達に合唱指導をし、子供達のために曲を書く。生きがいができたのだ。生徒の中でもピエール少年の才能には驚くべきものがあった。問題を起こし、罰ばかりくらっている彼だけど磨けば必ずや一流の音楽家になれるだろう。彼も母親もその才能には気づいていない。

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そんな希望に満ちた日々の反面、問題児モンダンの存在、名誉を求める校長・・などなど難問も山積み。ラスト近く、モンダンの放火によって学校は焼け、校長の夢は破れ、ついでにマチューをクビにする。生徒達に別れを告げることは許さん、黙って消えろ!ひとりぼっちで学校を去るマチューだが・・。子供達がさして問題児には見えない(モンダンは別だが)とか、あんなに簡単に子供達が変化するはずないとか、文句つけようと思えばいくらでもつけられる。他の映画だったらコンクールに出るとか、そっちの方へ話を持っていくはずだが、そうならない。マチューには歌でも、まごころをこめた指導でもモンダンを救うことはできなかった。彼はこのまま転落の人生を歩むのだろうか。マチューが去った後子供達はどうなったのか。せっかく歌う楽しみを覚え、真っ当な道を歩み始めたところなのに。その一方でピエールは努力して一流の音楽家になったし、来るはずのない父親の迎えを門でじっと待っていた孤児のペピノは・・。この最後のオチがとってもかわいらしくて暖かかった。ペピノを演じているのはジャック・ぺランの息子。えッ!孫じゃないの?さえない中年の音楽教師マチューは名声とも勲章とも富とも無縁だったが、多くの人を幸せにした。人生それで十分なんじゃないの?この映画アカデミー賞にもノミネートされたらしいがとれなかった。でもいいんじゃないの?とれなくたって十分いい映画だもの。この映画のテーマは生きる希望、生きる喜びだと思う。それを与えてくれるものは人によってさまざまだが、この映画の子供達にとっては歌だった。そしてそれを与えてくれたのは一人の教師であり、彼と出会ったのが事実であるのと同様、別れがあったのも事実だった。でも思い出は残る。そんな作り手の暖かいまなざし、生きていればいいこともあるさ、どんな人間にも善の面はあるさという静かな主張が伝わってくる映画だった。さてジュニョが主役だってのはわかってるけど、やっぱり目が行ってしまうのがジャン=バティスト。印象に残るのは彼(だけ!)だ。まずルックス・・きれいな金髪、大きな青い瞳。確かに美しい。しかしその美しさは完成されたものではない。まだ変化している途中、未熟でバランスが取れていない危なっかしい・・そんな美しさだ。目と目の間が狭い。目の下にシワがある。右と左とで目の形が違う。頭が大きい。首が細い。手が長い。

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他の子供達と明らかに違う。マチューじゃなくたって問題を起こすピエールにはこう言いたくなる。「君は自分に似合わないことをしている」・・彼は選ばれた者、神の祝福を受けた者なのだ。めぐまれた容姿・美声。・・声の方は私にはよくわからない。確かに美声なのだろう。でもこれくらいの子は他にもいると思う。でも美声と容姿両方にめぐまれた子は・・。さらにジャン=バティストの場合は演技もできる。・・いや、演技以前に存在感がある。彼がうつるとそっちに目が行ってしまう。吸引力、カリスマ性、何かうまく説明できないけど、要するに彼を見てると胸キュン!母親と面会した時のピエール、服装はだらしなく、態度はそっけない。でも本当はお母さんが大好きなのだ。甘えたいのだ。でも体も表情も動かない。その不器用さ、ぎこちなさ。全世界の女性味方につけましたぜ!学校を抜け出して一生懸命働くお母さんの姿をこっそり見ているいじらしさ。雨降ってるよ誰か傘差しかけてやってよカゼひくってばよ。さてその大事なお母さんにマチューは柄にもなくポーッとなって、嫉妬したピエールはインクを投げつける。罰としてソリストであるピエールを無視して合唱指導するマチュー。学校の後援者である伯爵夫人の前で歌うことになって、マチューに許されて途中から歌に加わるピエール。歌わせてもらえないことがこんなにも辛いことだったなんて。歌うことがこんなにも喜びだなんて・・この時のピエールの笑顔。彼はどちらかと言うと悲しそうな、さびしそうな顔立ちなので、笑顔と言ってもやはり悲しげでさびしげで・・てなわけでここでオバさん達はいっせいにハンカチを取り出すわけですな!私もこのシーンが一番好きです!指揮者を見つめて一心に歌っている子供達の顔は美しいけど、その中でもピエールは特にね。パンフによれば本当に歌っているのはジャン=バティストだけで、他の子のぶんは本物のサン・マルク合唱団のをダビングしたのだそうな。やっぱりねえ・・歌っている子の中にはロクに口を開けていない子もいて、あれじゃあ声が出ない。確か歌う時には口をたてに開けろって言われたような記憶がある。喉を開いておなかを使って歌う・・小学生の時、合唱団にいた私。一番最初に歌わされたのが「つーきなきみそらーに♪」ってやつ。月も空もわかるけど「月なきみ」って何だ?・・なんて意味もわからず歌っていたのよー。