ガラス細工の家

ガラス細工の家(1973)

これは1973年に放映されたとのこと。だから私が見たのは再放送だろう。すでに「未来からの挑戦」で熊谷俊哉氏のファンになっていたと思う。あまり昔のことなので定かではない。録画したが、そのうち消してしまい・・当時はテープが高価で、あれもこれも残しておくわけにはいかなかった・・、後で非常に後悔することとなった。私の人生ってこれのくり返し。後悔してばっかり。それと、録画すると安心してしまって、ちゃんと見ない。見ないでいると、そのうちこれは取っておかなくてもいいかな・・と、思い始める。で、重大な過ちを犯すはめに。これは最初に見た時の印象が強烈で、各シーンが頭に残っている。ある時本屋で脚本を見つけて買い、何度も読んだ。小説の形でないのがちょっと残念だったけど。何年か前DVDが発売されたが、高価なので買わなかった。そのうち手に入らなくなり、結局もっと高額な中古を買うはめになった。ずっと待ってたけどテレビではやってくれなさそうだし、そのうちもっと高くなるだろうからと思いきって。そしたら・・テレビでやり始めたではないか!こりゃ何かの陰謀としか思えない。でもいいんだも~ん。私がテレビで見ていた時より画面はきれいだ。時々画面の下部が揺れるが、これはまあ仕方のないことなのだろう。この作品は「火曜日の女」シリーズの最終作なんだそうな。73年頃の私は、何曜日の女だろうがそんなのは見ていなかった。たぶん男子バレーボールの選手にでも夢中になっていたのではないか。・・ヒロイン土門冴子(岸田今日子さん)は、リーフレットによると39歳の設定。東済病院の内科医師土門公一(高橋昌也氏)の妻で、12歳の長男洋(熊谷氏)と、9歳の次男正(小山渚氏)の母親。公一は独立して横浜に病院を建てようと、土地も購入ずみ。洋は難関中学の入試が迫り、家庭教師芹沢(大門正明氏)に勉強を見てもらっている。少し前、老人ホームにいた公一の母が亡くなったが、このことが今回の事件に大きく影響していることに、冴子も公一も全く気づかない。老人がホームに入ることや、そこで亡くなることは、大人にとってはさして特別なことではないが、子供達にとっては重大なことである場合も。

ガラス細工の家2

一人でさびしいということの他に、祖母は孫達に何を話したのか。何も描写はないが、だからって何も話さなかった・・愚痴らなかった、恨み言を言わなかったとは限らない。今回久しぶりに見て、登場人物の背景に気が行った。最初に見た時はもちろん正の誘拐事件や、意外な犯人、意外な動機に目が行ったのだが。これはつまり結末を知っていても楽しめるということでもある。もちろんすべてにおいて気に入っているわけではない。私は四回くらいで終わるのだと勝手に思っていたが、実際には七回ある。最後の方になると、冴子の行動は支離滅裂になる。見ていても気恥ずかしくなる。結局は子供の考えた計画だからでもあるが、それに乗るしかない大人の何と情けないことよ。最初の方で何度もカナタイプが打たれる。これはつまりこれを打っている人物から土門家がよく見えるということだ。望遠鏡があれば、冴子達の行動もよく見えるってことだ。最初はカタカタとうるさいな・・とだけ思うが、今見れば親切だ。(向かいの)団地もひんぱんにうつる。冴子が正にべったりなのも、主婦として充実した日々を送っているのもわかる。買い物をし、料理を作り・・。関係ないけど、途中で出てくる、ごはんをフォークで食べているシーンにはびっくらこいた。彼女が楽しそうなのは芹沢の存在もある。彼とは一度モーテルで関係を持った。21歳の若者に憧れの目で見られるのは悪い気はしない。自分もまだまだ捨てたもんじゃないと思える。もちろん深入りする気はない。映画を見たりお茶を飲んだり。向こうは熱くなってるけどこっちは冷静。彼に恋人がいるのもわかっている。恋人はヤキモチ焼いてるけど、こっちはうまくあしらう自信がある。そういうウキウキ感が、かえって冴子にいっそう家事に育児に精を出させることになるのだ。ところが・・デートから帰ってくると正がいない。時間がたつにつれてだんだん不安がつのってくる。あちこちに電話をかける。公一はハンブルグへ出張して不在。だから気軽に芹沢の誘いに乗ったのだが・・。そのうち脅迫状めいた紙きれが落ちているのに気づく。

ガラス細工の家3

それまでに何度も無言電話がかかってきていた。充実した日々の中で気になることと言えばそれくらいで。見ている者はまず芹沢の恋人美子(木村菜穂さん)のことを思い浮かべる。しかし冴子は水田という・・子供を失ったのは公一のせいと恨んでいる・・女性のことを思い浮かべる。美子のことは問題にしていないってことだ。冴子が頼ったのは芹沢と、公一の友人で東済病院の外科部長でもある内山(小池朝雄氏)、正の担任松木(橋爪功氏)。警察には知らせたくないと言い張る。内山は、小池氏が演じていることもあって、もしかして犯人では・・と思わせるが、違った。私は見ていて、この後何日も冴子のために土門家へ張りついていて、病院の方は、家庭の方は大丈夫かいなと思ったが・・。橋爪氏は・・若い!私は彼を見たのがどの番組が最初か覚えていないが、ウィリアム・ゴーントによく似ているな・・と。もちろん目の色とか違うけど顔の感じが・・硬い線の感じが。今回見ると額や髪の感じも何となく。さて内山は警察へ通報。そのため土門家へは吉岡刑事(小栗一也氏)達がやってくる。「警察へ知らせましたね」という電話に、気も狂わんばかりの冴子。こういう時の家族って「みんなお任せします」とか「よろしくお願いいたします」とはならないのかしら。冴子みたいに食ってかかったり、果ては警察だましたりなんてこともあるのかしら。ほとんどほったらかしにされている洋だが、彼は彼で何か考えているようだ。もちろんこういうのは一回目には気づかないけど。時々はさまれるのが、芹沢と美子のやり取りだ。二人の性格がまた興味深い。冴子は芹沢とデート中に正が誘拐されたことで、天罰が下ったのだと考えている。これからは芹沢との浮気なんてとんでもない。もともと彼は洋の家庭教師というだけの存在。美子と結婚するならどーぞどーぞ。正が無事に帰って、あとは洋が試験に受かって、芹沢とのことが公一にばれないで。虫のいい話と言うより、それが人間ってもの。ところが芹沢は・・未練があるんですなあ。美子には、自分が強引に誘った、夫人は悪くないと弁護。

ガラス細工の家4

美子が気づいた重大な手がかりも、警察には黙っていてくれと頼み込む。真実がばれたら・・狂言だとばれたら大変なことになる。このウジウジした・・気のいい青年は、冴子に尋ねずにはいられない。あの情事は遊びだったのか、それとも本気だったのか。すっぱり決着つけるには、思いを断ちきるには・・それも人間ですわな。前にも書いたように冴子の頭の中には情事のじの字も、芹沢のせの字もたぶんなし。美子がまた陰にこもった性格で・・。本来はもっと明るいのかもしれないが、芹沢の浮気知ってからは・・。たぶんその前から芹沢の様子、おかしかったんだと思う。心ここにあらずって感じで。で、彼女はあとをつけ、モーテルへ入るのを目撃。冴子の方はモーテルのマッチを洋に見つけられ。マッチを不用意に持ってきたのは、タバコを吸う芹沢の方か。それとも芹沢のライターがつかなくて、冴子がつけてあげたマッチがモーテルのものだったとか。それを洋が目撃し・・って妄想全開ですな。まあ芹沢に限らずここでの男性達はよくタバコを吸う。昔はこうだったんだよな。時間をつぶすために、考えをまとめるために、何かしゃべる前に。それに外で吸う時はみんなポイ捨てしている。ストーリーにはあまり関係ないけど、1970年代の風景が興味深い。立ち並ぶ団地、ラッシュアワー、有楽町の映画館、新宿の人込み。映画は・・看板は「ラ・マンチャの男」・・でも冴子達が見ているのは「カンタベリー物語」か。もっと他の(ロマンチックな)映画見ればいいのに。そう言えば大介(高野浩幸氏)のセリフにある、「多摩プラーザの駅で待ってた」というのが、最初見た時印象的だった。そんな名前の駅があるの?って。今はカタカナも珍しくないけど。ファッションだととっくりのセーター、スソの広がったズボン。鬱陶しいヘアスタイルもちらほら。冴子が決めた身代金は3000万。相談された内山は500万と弾き出して、冴子に食ってかかられる。そうか、外科部長でも貯金は300万、家を担保に200万が精いっぱいなのか。刑事達は50万か、多くて200万と話している。

ガラス細工の家5

3000万は病院を建てるためにためたお金だ。と言うか、(脚本をよく読んでみると)銀行から借りることになっているお金が3000万で、貯金がいくらあるのかは不明。新築と思われるりっぱな一戸建てを買っているし、これは売る予定だがいくらになるか・・。公一の母親を老人ホームに入れるのだってお金かかっただろう。誘拐事件そのものは目新しい感じは受けない。この作品の特徴はむしろ正が無事戻ってきてからにあると思う。とは言え、ていねいな描写であるとは思う。私は日本製ドラマはほとんど見ないが、多くはもっとスピーディーで、あちこち省略され、きめは粗くなるだろう。そんなの見たいとも思わんが。さて、警察をだまして正を取り戻した冴子。3000万を自分一人の裁量で犯人に渡したことで、公一には申し訳ないという気はある。しかし正の命には代えられない。たまに洋の言動に引っかかるものはある。警察をだまそうなんて普通の子供は言わない。自分には3000万の価値はないと言うのも変だ。彼は何を考えてこんなことを言ったのだろう。公一も帰国して、報道騒ぎもおさまって、でも警察はそれで終わるわけにはいかない。ここで感心するのは正の証言ぶりである。どんなに誘導されても、最初の証言をがんとして変えない。彼が洋に何を言い含められてるのかは不明。おばあちゃんのためだとでも言われているのか。さて、事件の渦中にいたのに洋は難関麻布丘中学に合格する。一緒に受験した大介は口頭試験で落ちてしまう。試験初日、彼に付き添ってきたのは、父親と再婚するという若い女性。「家になんか入れるか」という大介の言葉が印象的だ。もっとも家には正が隠れていたのだから、どちらにしても入れられないのだが。冴子は美子に呼び出される。美子は偶然洋達が団地から鳩を飛ばすところを目撃する。新聞には犯人は連絡手段として鳩を使ったと書かれている。彼女にはわけがわからないが、冴子には言っておかなければ。このことから冴子には不安の日々が始まる。合格した翌日、朝早く出かける洋。大急ぎであとをつける冴子。

ガラス細工の家6

途中で彼女にも行き先がわかったはずだ。洋が行ったのは祖母の墓。冴子は今日が100か日なのも忘れていた。それどころか49日にも来なかった。前に来た時、老人ホームの仲間の花が供えられていたという洋の言葉が身にしみる。ここで洋は「犯人は僕だよ」と、こともなげに言う。冴子にはわけがわからないが、大きなショックを受ける。しかもモーテルのマッチまで見せられる。後で冴子が池のほとりで洋を問い詰めるシーンがあるが、洋の目に涙が浮かんでいるのがわかる。私はラストの洋の涙が印象に残っているが、ここでも・・。全然気がつかなかった。冴子は芹沢を呼び出し、美子の口止めを頼む。その際冴子が口走った言葉が芹沢には気になる。後で電話をかけて、あの時何を言うつもりだったのかとくどくど聞く。前にも書いたが、冴子にはもう終わったこと。何と未練がましい・・。そんな彼は恋心を振りきって、美子との生活を始めるのだろうか。美子は芹沢に無言電話のことを聞かれて、かけてないとしれっと言ったけど、結局ウソだったようで。芹沢も芹沢なら美子も美子だ。でも不思議と彼女って憎めない。意固地な感じだけど、芹沢の過ちは許している。彼女の住んでいるアパートの一室も、何だか懐かしい。入口のすぐ横に流し、タンス代わりにファンシーケース、壁のポスターは映画の「ジョー・ヒル」か。私は見たことないけど、主題歌は知っている。スコット・ウォーカーのLPに入っていたから。また日本テレビの会社には「太陽にほえろ!」のポスターが貼ってあったな。正達が食事の時見るテレビ番組に出てたのは地井武男氏と林美智子さんかな。誘拐犯の声に使われたのは平泉修氏。話を戻して、芹沢・美子のカップルはお金とは無縁だが、冴子達とは違い、犯罪とは無関係でいられる。どちらが幸せなのかは言うまでもない。それにしても3000万、洋はどこに隠していたのだろう。冴子や公一は家捜ししたはずだが。そして洋はどうやって2000万振り込んだんだろう。老人ホームへ直接持っていくわけにはいかない。

ガラス細工の家7

ホームの人は公一や冴子の顔知ってる。だから銀行通したはず。しかし小学生がこんな大金振り込もうとしたら銀行はやっぱり怪しむ。私が思うに今回の犯罪(いちおう)には協力者がいたと思う。もちろんニセ誘拐には大介が協力していたけど、振り込みに関しては大人の協力者が必要。で、私はそれはたぶん老人ホームの祖母の友達だろうと。ほとんど訪問もしない公一や冴子に怒り、逆に洋や正のことを感心な孫だと思っていた友達が・・。あと、新宿の人込みにまぎれて洋から3000万受け取る人物も必要だ。どこか物陰に隠すというわけにはいかない。大介にやらせることもできるが、芹沢に見られたらアウトだ。いかん、また妄想が・・。でも、不思議に思いませんでした?ここんとこ。さて、そろそろラストだ。金の使い道を知ってショックを受けた冴子。自分達の祖母への仕打ちが、どんなに洋達の心を傷つけていたか。でも自分だってうまくやっていこうとさんざん苦心したのだ。でも結局義母とは心が通わなかった。そればかりでなく、実は夫とも心が通っていなかったのだ!公一との会話でそれがわかった。みんな私のせい?そんなのずるい!でも夫は最後はオレが悪かったことにしとこ・・と、幕引きを図る。もういいじゃないかと逃げる。でもって何ですか?「お茶が欲しいな」だとぉ~!すべての女性視聴者は思ったでしょうな。飲みたいなら自分でいれろ!このあんぽんたん!とかさ。でも冴子は習慣的に茶の支度するんですな。そこが見ていて悲しい。この後もう公一と冴子の心が通うことはないと思う。一生距離を感じたままだと思う。だからラストの冴子は考え込んでいて。冒頭の生き生きとした、充実した冴子じゃなくて。復讐のためにあんなことしたの?と洋に聞く彼女も今までの彼女じゃなくて。傷ついた冴子は、傷ついた洋や義母と同じ状況で。だから洋も涙を浮かべたんだと思う。ただやっぱり無言で、たぶん彼はこの先も一生心のうちは明かさないだろうな。と言うわけでいろいろ書いてきたけど、まだまだ思うことはある。思うことはあるけどうまく書き表わせない。何年たっても色あせることのない、類まれな作品であることだけは確かだ。

ガラス細工の家(1991)

以前テレビでやったけど、その時は見なかった。てっきり1973年版の再放送だと思って。そしたらいしだあゆみさんが主演の2時間ドラマ。「火曜サスペンス劇場」。これにはびっくりした。他にも作られていたとは・・。再びテレビでやったので早速見た。ストーリーはそのままだが、2時間物なので公一の友人内山は出てこない。水田夫人も省略されているが、あれだと美子がかけたのではない無言電話は誰が?ということになる。芹沢が薬丸裕英氏、美子が村上里佳子さん。公一は終わりの方でちょこっと出てくるだけ。冴子の浮気には気づいていなさそう。警視庁から来るのが吉岡(伊東四朗氏)、中山(斉木しげる氏)、川村(余貴美子さん)。伊東氏はあまり出番なかったな。斉木氏は深刻な場面でも顔が何となく笑っているように見える。身代金受け渡しの際、警察をだまそうということになる。何も知らない川村は冴子を気遣って励ますが、それでも冴子は警察には打ち明けない。川村達にも家庭があるけど、事件が起きてからは土門家に泊まり込みとなる。それもこれも正(平田哲也氏)を助けたい、犯人をつかまえたいの一心でだ。仕事とは言え大変だ。本人も家族の人も。正は無事に戻るが、身代金は犯人の手に。振り回された吉岡達は釈然としない。おまけに後で、洋(藤原亮氏)が仕組んだ狂言とわかる。子供が犯人とも言えず、捜査本部は解散。当然みんな仏頂面。銀行をだましたこともうやむやにされるのかな。追求すればマスコミにたたかれ、銀行の方が悪役にされかねない。何しろ世間は家族愛に感動しまくっているのだから。身代金は30年近くたっていることもあって3000万から1億に。1億じゃ病院は建たないと思うけど。セリフは73年版とほとんど同じ。しゃべる時のトーンまで同じだ。男の子二人がいるのに、家の中はきれいに片づき、食卓の上もサラッとしている。食料を買い込み、冷蔵庫に収納し終わった冴子が何をするかと言えば、ラーメンの出前を頼むこと。これじゃキッチンは汚れないわな。今回も5000万振り込んだ人間は不明のまま。子供の洋じゃ銀行の人に不審がられるはずだが。