御法度

御法度

おそらく松田少年の演技に腹が立つだろうと思って、長いこと見ないでいたが、見てみるとまあまあだった。「戦場のメリークリスマス」もそうだったが、この映画も配役よし、題材よし、ベテランの監督が力をふりしぼって作った名作・・になるはずだった。それなのに・・。最大の欠点はセリフが聞き取れないこと。ちゃんと聞こえるのは二郎さんと雅さんだけ。ナレーターがいて、説明文が出て、ビートたけし扮する土方の心境が語られて、二重三重に状況が説明されているのに、肝腎のセリフが全然聞こえない。内容は二つのエピソードで成り立っているが、井上のエピソードはちょいとまずかった。「禁断の愛の世界」、「美しい狂気の世界」を描くはずなのに、ほのぼのとした井上のじいさんと若い加納との交流が描かれたため、加納の魔性も底知れない狂気もうすれてしまった。彼が普通のやさしい少年に見えてしまうのだ。加納と田代が親しくなる導入部分はいいが、その後田代はほとんど出てこない。いつの間にか濡れ衣を着せられて、加納に斬られてしまうのだが、加納の心境がスッポリ抜け落ちているために説得力が全然ない。最後の方はもっとめちゃくちゃで、加納は実は沖田が好きだったなんてことになっている。沖田と加納の接触は入隊の時の試験と、井上の素性を尋ねた時のたった二回で、加納が沖田を好きになる理由もきっかけもない。映画にも原作にもない二人の隠されたエピソードが監督の頭の中には存在するのだろう。こんなつじつまの合わないストーリーで、しかもそんなことはどこかへ吹っ飛ぶほどの妖しい魅力が松田少年にあるのならまだしも、眠そうな顔をしたふくれっつらの少年にしか見えない。顔立ちは原作にあるような美しさだと思うが、背が高すぎる(原作では小柄)。色っぽさも何もありゃしない。まあ元々ごく普通の高校生なんだから色気を出せっていうのが無理な注文なんだけど。こういう映画はその役に誰がなったかで成功するかどうかが決まってしまう。「御法度」の場合は話題性は申しぶんないとして、映画の出来はそう期待できるものではなくなった。まわりがいくら芸達者でも目玉が素人なんだから、埋められないすきまができる。湯沢との逢瀬(?)のシーンはばかばかしいくらいひどい。大夫と会うシーンを出さなかったのは賢明だった。それにしても大夫役のうのさんが歩くシーンときたら・・。私二回目はテープを早送りしました。

御法度2

内容としてはこのように物足りない作品ではあるが、ユニークな何人かの出演者によって楽しむことはできる。一番よいのは山崎役の雅さん。彼も役者としては素人だと思うが、ボソボソしゃべっているようでいてセリフははっきり聞こえ、無骨な中にも愛嬌があって、見ていて何やらホッとさせられる。仕事で加納に近づいて誤解され、困惑するシーンはクスクス笑ってしまうほどおかしい。最初は警戒して避けていた加納が、いつの間にか山崎を好きになってしまい、山崎が勘違いするなと困り果てるのがほのぼのしていてとてもよい。うーんここでもほのぼの路線だなあ。田代を演じた浅野氏も「五条霊戦記」よりずっといい。この人はいろんな映画に出ているけどあんまり魅力がいかされていないような・・。剣の腕もそれほどじゃなくて、あんまりとりえもないけど、一本気で知らないうちにワナにはめられて殺されてしまう田代は、わけのわからない加納とは違い、わかりやすいだけに心にも残る。まあ中盤から全然話に絡んでこないので、その間何をしていたの?という気もするが。ケガをした加納に取りすがる部分は見ていて首を傾げたくなるし。さて妙な連中ばっかり集まっている新選組だが、ドロドロした人間関係から一人距離を置いて存在しているのが沖田である。彼は自分の命がそう長くないことを知っているが、それを受け入れてできるだけ普通に生活しようと思っている。誰に対しても親切で愛想がよく、欲がない。生まれたての赤ん坊のように純だが、命令とあらば人も斬る。主義や大義なんていう難しいものは近藤や土方にまかせ、自分は彼らの命令を実行するだけである。武田氏が加納を演じていたらこの映画はもっと成功していただろうな。無邪気な顔をして人を殺し、男女の性を超えて人の心をとりこにする妖しさ、狂気もうまく表現しただろう。彼が沖田を演じたので皆が沖田に抱くイメージは最大限うまく表現されたが。血なまぐさい集団の中にいてもけがされず清らかな天使、それが沖田である。もっとも監督は沖田に「菊花の約」を全部話させるという愚をしでかしている。だから説明のしすぎなんだってば。加納が実は沖田を好きだったというとんでもない結論をくっつけ、土方がいかにも作り物の木を切断して(切る前から切断されるところが見えてるぞ、おい)映画は終わり。何とも不満の残る映画ではある。ほのぼのしたところは気に入っているけど。