ギャンブル・プレイ

ギャンブル・プレイ

この映画は「死ぬまでにしたい10のこと」を見に行った時に予告を見た。最初は見る気になれなかった。予告が流れている間、暗闇でブヒヒ・・と笑いそうになるのをこらえていた。だってぇ・・いかにもな作りなんだもの。カジノでしょ、場末のクラブでしょ、けだるげな口調の若い女、どん底まで落ちたギャンブラー、起死回生を狙っての大仕事、吉と出るか凶と出るか・・ウワォ!教科書通りな作り、お決まりのセリフ。目新しいものが何もない。しかもニック・ノルティにチェッキー・カリョというじみーな顔合わせ。え?若くて新鮮なナッサ・クヒアニチェが出てるって?だめだめ、あんな鼻づまりみたいな声の女。ハナかんでからセリフしゃべろ!それにしても絶対一度じゃ覚えられないね、この名前。結局見に行くことにしたのはこのじみーなムードにソソられたからですの。たまにはこういうのもいいかしら・・って。いつも通り二回見てきたけど、二回目での発見ってあまりなかった。どんな映画でもこの言葉にはこういう意味があったのか・・とか、このシーンが最後のどんでん返しの伏線になっているのか・・とか、一回目には見逃していることがあるものだが、そういうものがほとんどないのよ。ノルティ扮するボブがナッサ扮するアンに初めて会った時、「強運の目をしている」と言うんだけど、彼女が彼にとっての幸運の女神らしいことに気がついていたってことくらいかな、発見は。とにかくとってもわかりやすいストーリー展開で、まあ最後にびっくりさせられるシーンもあることはあるんだけど、ああそう言えばそうだったっけ・・というくらいで、驚きも許容範囲。意味もないどんでん返しばっかり見せられるよりずーっと気持ちがいい。地味だけど好感の持てる作品!二回ともお客さんは20人くらいはいて、「死ぬまでに」もそうだったけど、ここは20人くらいが限度だと思う。それ以上入るとスクリーンが見えなくなっちゃう。男の人ばっかりだろうなーと思ってたら若い女性も数人いて、きっとレイフ・ファインズのファンなんだろうな・・なんて思ってみたり。予告ではいきなり「花と蛇」なんてのがかかって、私はずっと下向いていました。かんべんしてよー。よい子が見にくるかもしれない一般映画の時にはこういう予告は流すなっちゅーの。え?下向いてナニしていたかって?おにぎり食べてました、グフッ。

ギャンブル・プレイ2

さて、落ちぶれて金もない上に、ヤク中のボブに持ち込まれた仕事の話・・それはカジノを経営する日系企業所有の一流絵画を盗み出すことだった。そのままやるとばれるから、カジノの金庫を狙うとまわりには見せかけよう。そのために麻薬を断ち、仲間を集め、計画を練る。彼を追っている刑事ロジェがいるし、ロジェに使われているスパイのサイードもいるし、店で働かせていたアンをボブに連れ去られた・・と恨んでいるレミもいる。おまけに金庫破りを持ちかけてくる当のカジノの警備担当者もいる。いろんな駆け引き、密告といった大人の男の世界に、若いアンが絡んでくるから始末が悪い。まだ17歳でオムツもはずれてないってのに、この女はふてぶてしくて打たれ強くて世の中こんなもんよ・・という態度。しゃべり方も鬱陶しくて湿度100%。ミンチにして海にばらまいて魚のエサにしてください!あるいはゴートの殺人光線で焼いちゃってください。ダイヤルの目盛りは「強」でお願いしますっ。決行の夜、ボブとアンはカジノへ出かける。ビシッとドレスアップし、優雅にふるまう。彼らが警察の目を引きつけている間に、仲間達は地下道を通って絵画の保管庫へ。警報システムは設計者ウラジミールの協力で解除してある。・・ところが!ボブの方は勝つわ勝つわ・・信じられないほどのツキで勝ち続け、カジノの支払能力限界というところまで勝ってしまった。途中から明らかにボブは絵画のことなんか忘れちゃって、目の前の勝負にだけ集中しているみたい。結局彼は泥棒ではなくてギャンブラーだってことらしい。ロジェはすでにボブ達の目的が金庫ではなく絵画だということに気がついて、部下をそっちに向かわせている。ところがガスの爆発というアクシデントで盗みは失敗。一人を除いて全員が逃げ出す。それにしても何でガス栓をひねらなくちゃならないのか理由がわからないんだけど・・。逃げ遅れたフィリッパを逮捕し、ロジェがカジノへ戻ってみると、勝負が終わりに近づいたところ。チップを現金に換えようと金庫を開けてみたら・・あはは、ここはよくできてました。警察が保管庫の方に回り、カジノにいる人達全部の目がボブ達の大勝負に釘づけになっている間に、例の警備担当の男がゆうゆうと金庫からお金をちょうだいしたってわけね。このカジノでの勝負のシーンはけっこうドキドキもの。

ギャンブル・プレイ3

私にはルールなんて全然わからないし、勝ってるのか負けてるのかもわからない。それでもね。うつし方もいいし、カジノの人(何て言うの?ディーラー?)の流れるような手つきとか、うっとりと見ほれてしまう。・・で、そっちの方に気を取られて金庫のことなんてすっかり忘れていたわけ。映画を見ていた人で、今頃警備員達が金庫を開けているぞ・・なんて考えていた人います?ほとんどの人は私と同じで勝負に目が釘づけになっていたんじゃないの?だからほとんどカラになった金庫を見た時にはびっくりすると同時に、作り手にすっかりだまされていたという爽快感さえ感じてしまったわけ。ボブは小切手を手にしたし、ポーロ達は現金を手に入れたし・・で、暗いムードから始まったのに太陽の光がいっぱいの明るいムードで終わる。じゃあすっきりした気分になれるかと言うと、そうでもないのよ。金庫を開けてびっくりのシーンから後は何となくもたついているの。よーく考えてみるとフィリッパがつかまったということは、彼の口からいろいろばれるってこと。彼は性転換して女性になったばかり。誰だって刑務所には入りたくないだろうけど、彼(彼女)は特に入りたくないと思うよ。ボブがいい弁護士を雇って釈放させるわけ?でも警報システムが破られたことで設計者のウラジミールも疑われる。金庫破りの方もあまりにも鮮やかな手口だというので内部の者の犯行だと思われ、警備担当の者が実は双子だった・・とばれるかもしれない。あれこれ考えるとボブはああやってルンルンしている場合ではないのよ。その点アンは気楽でしょうけどね。あと気になったのは「茶の湯」みたいなシーン。日系企業がどうの・・という設定はいいけど、ああいうシーンは出さない方がいいと思うよ。向こうの人が画面に「日本」を登場させて、まともだったためしがない。バブル時に金にあかせて一流の絵を買いまくった・・それでいいじゃんよ。それとテレビで流していた中国系の人向けのものと思われる番組、あれもなあ・・違和感あるな。わざわざこんなの出さなくたってカジノのお客を見れば世界中の人が集まってるってことはわかるよ。ところでカジノでのシーン、お客の中にK姉妹の姿をついつい捜してしまったのは私だけ?・・人生の辛酸をなめ尽くしたようなボブ。いいかげんなようでいて自分なりの規範はきっちり設けている。

ギャンブル・プレイ4

麻薬を断つぞ!と決めたらきっぱり断つ。あんなふうに若い女の方からすり寄ってこられたら普通はフニャッとなるものだが、そうならないのもいい。自分にとっていいことか悪いことか考えているようじゃまだ半人前。ボブのように相手にとっていいことか悪いことか考えるようになって初めて一人前の男と言えるんだぜ、ベイビー。だから若い者は若い者どうしで仲良くしろ・・と、アンをポーロに振り向ける。人を殺したポーロにはものすごく怒る。乱暴なやり方は彼の流儀ではないのだ。ボブが今回の仕事に乗り気になったのは盗むのが絵画だったから。金庫破りなんかよりこっちの方がエレガントだ。ボブの男の美学みたいなものは、渋くて大人でカッコよくて・・。一世一代の大勝負に賭けるさまは「男の中の男」である。でもね、ヤッホー聞こえてますかボブ。この夜の奇跡みたいな大勝ちは二度とないと思うよ、たぶん。この夜のアンは確かに幸運の女神だったけど、過去のギャンブラー人生のうちには、やはり女神がいたはずで・・それが一時的なものでしかないことはよくわかっているはずよ。数年、いや数ヶ月たてばまた落ちぶれてヤクまみれのどん底生活に逆戻りしていること間違いなし。今度のことは「運のつき初め」ではなくて「運の使い果たし」だったのよ。この後は「あの晩の夢よもう一度」が続くだけ。みんなもう一度もう一度と思うからカジノがにぎわっているのでしょ?でもそうやってしがみついている方が楽かもしれない。きっぱり足を洗って真っ当に生きていくことよりもね。だから今この時ボブは「強運の目を持つ女と組め」なんて言ってしまうのよ。ルール11、「女とは組むな」・・失敗の元ですぜ、ボブ。あ、それとうまく大金を盗み出した警備担当クン、どうせこれに味をしめてもう一度同じことをやるんでしょうけど、きっと失敗すると思うわ。金庫の番人は金庫のなかみを欲しがっちゃいけないのよ。一方のロジェ、彼は仕事に追いまくられている。家に帰るヒマも食事をしているヒマも、ついでに寝ているヒマもない。ボブを尾行している時に車を壊し、ボブの車に移るシーンがある。書類みたいなものと何やら黄色いものを小脇にかかえている。ちらりとうつっただけでもその鮮やかな黄色は目につく。私はこの二、三本のバナナを見た時、胸がキューンとなっちゃったんです。正直言ってボブなんかどうでもよくなっちゃったんです。

ギャンブル・プレイ5

彼が朝から晩までかけずり回ったとしても、犯罪はなくならない。ボブもポーロもラウルもウラジミールもサイードもレミも・・誰一人自分のやってることが犯罪だなんて思っちゃいない。思っていないからくり返す。死なない限り同じことをくり返す。ロジェだって少々汚い手を使うこともあるし、自分一人が動き回ったところでどうにもならないこともわかっている。ボブがロジェをうらやましく思うことはありえないが、ロジェがボブをうらやましいと思うことはあるはずだ。自由で気楽で・・でもやっぱりロジェは働く。実りのある仕事であろうがなかろうがね。カジノ側が青くなるような大勝ち・・その瞬間ボブにはスポットライトが当たっている。その後ろ、客にまじってボブをながめるロジェの姿はぼやけている。彼にスポットライトが当たることなんてあるのだろうか。いつだってその他大勢の中の一人。いても気づかれず、いなくなっても気づかれない。ろくに寝ているヒマもなく、尾行しながらバナナをかじる。絵の保管庫に入った彼は、あまりのすばらしさに息をのむ。ボブならこっちを狙うだろう・・と確信する。金庫の金よりこっちの方がボブには合っている。金にあかせて買い集めたものだろうが何だろうが、絵の価値は変わらない。持ち主が誰だろうが名画は名画だ。一方で絵が本物だろうがニセ物だろうが、持ち主にとってはかけがえのないもの・・という場合もある。ボブが部屋に飾ってながめていたニセのピカソの絵・・この設定も泣かせるぜ!ロジェはボブが罪を犯すのでは・・と心配しているように見える。ボブには真っ当な暮らしをして欲しいと思っている。それでいてそうなって欲しくない気持ちもどこかにある。自分が追いかける必要がなくなったら、自分が仕事をする意味もなくなってしまうような気がする。ああロジェ、あなたには天国もない代わりに地獄もないと思うわ。ボブはそのうちに落ちぶれるだろうけど、あなたはちゃんと勤めあげて引退し、心静かな余生が送れるわ。そうでなければこの世を生きてる意味がないわ。そしてそれが結局は男のカッコよさなんだと思うわ。むくわれなくても真っ当に生きる・・それが一番難しく、また価値のあることなのよ。ああでもそれじゃあ映画にならないんだけどね。ノルティさんにシビレルつもりで見に行って、カリョさんに胸キュンで帰ってきましたの。