グッドナイト&グッドラック

グッドナイト&グッドラック

この映画はいろんなものをそぎ落としたような映画だ。色さえもね。まあそれは冗談だが、そぎ落としはある点では成功し、ある点では・・。失敗かどうかはその人の見方にもよるけど。白黒なので、ある部分はくっきりと浮かび上がり、ある部分は闇に沈む。カラーにはない独特のムードをかもし出す。困るのは字幕が見えないこと。暗い部分を求めて字幕があちこち動く。それでも見えないことが度々ある。ただでさえ難しい内容なのに・・。記録フィルムと普通の映画の組み合わせで緊迫感、臨場感を盛り上げる手法。50年前に本当にいた人々。本当に起こった出来事。でも・・マッカーシーの顔をどれくらいのお客が知ってる?どの人がマッカーシー?彼はなぜ途中で退席したの?拍手したくなるようないいこと言っていたのがマクレラン?泣いていたようなのは?コーンとかウェルチとか・・何だかよくわからない。いちおう映画だからフィルムはそのまま流されるけど、説明用の字幕がなきゃこれらの人々の立場、ほとんどの人にはわからない。ちなみに二回目に見た時にはロバート・ケネディに気がついたけど、これだってパンフに書いてなきゃ全然気がつかなかったと思う。最後の方でうつったのはアイゼンハワーだよな。私の年代ならそれくらいはわかる。・・てなわけで内容は難しく、結末はほろ苦。たまにはこういうのもいいけどね。ハデなアクション、何でも可能にするCG・・そんなのばかりじゃ頭がなまる。きちんとした髪、ワイシャツにネクタイ、煙突のようにタバコの煙を吐き、この頃の人達はある意味かっこいい。タイプライターの音、重そうなフィルムの缶、フレッド(ジョージ・クルーニー)がマロー(デヴィッド・ストラザーン)の足を万年筆の尻でたたき、番組が始まる。マローはほとんどまばたきせず、じーっとこちらを見ながら話す。彼は気骨のある人なのだろう。登場人物の背景(家庭とか)はほとんどわからない。会社には内緒で結婚しているワーシュバ夫妻の描写がほんの少し。最初はてっきりこの二人不倫してるのかと思った(ロバート・ダウニー・Jrだし)。時々黒人の女性がジャズを歌うシーンが挿入される。でかい口、鼻の穴をおっぴろげて歌うので、こっちは吸い込まれそうな気分になる。私が子供の頃はまだこういう歌番組やっていたな。白黒で15分、パティ・ペイジが「テネシー・ワルツ」歌ったり・・。

グッドナイト&グッドラック2

ただ私はこんな歌のシーンなんかいらないから、そのぶんマローの背景明らかにして欲しかったな。家庭は、暮らしぶりは、どんな夫でどんな父親だったのか。この映画は本当に職場のことしか描いていない。パンフによれば、当時のマローの年収はおよそ20万ドル。1950年代だからものすごい高額所得者。でもそういうのは画面からは全然伝わってこない。薄給でハードワークのように見えてしまう。全編リアリズムにあふれているけど、ここに出てくるマローは全部ではなくて一部。仕事以外の部分はそぎ落とされている。だから映画だけ見てマローを英雄視するつもりは、私はないのよ。主演のストラザーンは完璧で、意思の強さの中にちらりと見せる弱さ(同僚ホレンベックが自殺した時とか)が絶妙。クルーニーは役のためだろうがちょっと太った感じ。変な甘さを見せないこういう役が似合っている。ワーシュバ夫人役のパトリシア・クラークソンはどこかで見たような・・と思っていたら、「エイプリルの七面鳥」で末期ガンの母親演じた人だ。ちょっとシワシワだが、気品がある。髪が美しくセットされ、着ているものも(下着も含めて)エレガントである。あの頃はきちんとしていたのだなあ・・。ダウニーは久しぶりにまともな役。他にフランク・ランジェラ、ジェフ・ダニエルズ、ティト・ドノヴァンなど。マローのチームはみんな似たような顔で、ティト・ドノヴァンはどの人だっけ・・などと思いながら見ていた。見分けがつかないんだもーん。公開されてからだいぶたっていたけど、一回目は20人くらい、二回目は25人くらい。平日の昼間にしては入っている方じゃないの?お客さんの感じとしては、つまんないとかそういうこと言ってた人はいなかったけど、難しくてよくわからないって顔してたな。私もよくわかったとは言えないけどさ。いちおうノベライズ本買って読みましたよ。・・で、わかったけど最後の方でインタビュー受けてる女性ジーナ・ロロブリジーダですってさ。マッカーシズムについては・・。それにしても50年も前に、すでにテレビの危機感じていた人がいたことには、単純にびっくりしたな。そう言えば低俗さややかましさにうんざりして、我が家のテレビも多くの場合使用されず、「ただの箱」になってますよ。