コラテラル

コラテラル

公開終了も近かったので館内はガラガラ。でもこういう雰囲気好きなんですぅ。この映画、予告だけはしこたま見たな。最初は見なくていいや・・って思ってた。トム・クルーズのファンでもないしね。初の悪役とかアカデミー賞確実とか、そんな宣伝文句はどうでもいいわけ。だいたいトムの作品は「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」と「ミッション・インポッシブル」の一作目しか見てないのよ。どこがいいの?って感じ。ただしトムがとってもいい人だってことは知ってる。「映画界でもっとも愛想のいいスター」とパンフにも書いてあるけど、テレビなどで見るトムは本当に親切でファンを大事にしていると思う。さてこの映画で感心したのは、くっきりきれいに見えるロスの夜景。クルーズ扮するヴィンセントはねえ・・「マクべス夫人」が気に入ったわ。彼ってとっても頭がいいのね。いろいろなこと知ってるんだわ。それ以外はしゃべりすぎ。ヴィンセントに限らず、この映画の登場人物はほとんど全員しゃべりすぎ。クールな殺し屋もタクシーの運ちゃんもその母親も女性検事も悪いボスも殺されるトランペッターも♪みんなみんな生きているんだしゃべりまくるんだー♪ってなもんよ。こら、いいかげんにせーよ。何でもない、はた目にはいつもと同じ一晩の間に起きる思いがけない出来事・・のはずなのに、これじゃ「青年の主張」か「勝ち抜き弁論大会」じゃんよ!クールでもストイックでも何でもない、ただただ人に自分の言いぶん聞いてもらいたいさびしくもおしゃべりな連中の集まりじゃん。こちとら「ザ・ドライバー」みたいなクールな映画期待していたんだけどなー。でもそれを救ったのがファニングさん。最初出てきた時から「オッ」と思ったわけよ。私ごのみー。何となくジョンを思い出しましたの。やさしそうでいながら意志の強い目をしているところが何とも・・ウフ。彼は麻薬捜査官なんですの。相棒はやる気ないんだけど、ファニングは真面目に仕事するの。生活のために仕方なくとか、年金もらうためとか、そういうのではなくてこの町をよくしたいと純粋に思っているわけ。いくらがんばったってよくなるわけないんだけど、でもそう信じて希望は捨てないの。気持ちが澄んでいるからマックスが事件に巻き込まれた被害者だって見抜くことができるのよ。他の人は頭も目もくもっているから、マックスが犯人だ!と見当違いをしてしまう。

コラテラル2

そして!こういういい人に限って若くして命を落としてしまうのよ。この映画で一番ホッとするのはコリアンクラブでファニングがマックスを保護するところ。そして一番がっくりするのがそんなファニングをヴィンセントが撃ち殺してしまうところなの。それでも一回目を見ている時は、もしかしたら負傷しただけですんでいるかも・・とはかない希望を持っていたんだけど・・だめなのね。死んじゃったのね。何かもうその後はどーでもよくなっちゃったわ。はーでも気づいたのよね。ヴィンセントがどういう人物かはっきりするのが実はこのシーンなんだ・・って。つまり彼は人を撃つとしたら絶対にはずさないのよ。しかもケガをさせるという程度ではおさまらないわけ。間違えて撃たれたとか、巻き添えになって撃たれたとか、そういう人まで全部死んでしまうわけ。彼の辞書に「負傷させる」はないのよ。それと同時に「キャンセル」という単語もないと思うわ。ラスト、列車内でのヴィンセントは他の人も言っているようにまるでターミネーター。あの時のヴィンセントはまさに炎の中から現われた機械のターミネーター同様、引き受けた仕事を完遂することしか頭になかったはず。コリアンクラブの時もそうだが、目撃者がいようが邪魔する者がいようがおかまいなし。さてファニングを演じたのはマーク・ラファロなのね。パンフを見てびっくらこいたわ。だって「死ぬまでにしたい10のこと」や「ラスト・キャッスル」とはじぇんじぇん違うじゃないのよー!でも声はふにゃっとしてるとは思ったのよね。しゃべり方はそう言えばあのラファロ君のしゃべり方だわな。途中でコヨーテが道を横切るといういいシーンが出てくる。そのあたりからヴィンセントの顔にやつれが出てくるのよ。マックスの方は職業柄慣れてるからそんなに変わらないんだけどね。ヴィンセントはびしっときめていたのがだんだんみすぼらしくなってくる。目はくぼみ、それでなくたって口を開けていることが多いんだけどだらしない感じ。最後の方では上着の肩の部分が破れていたし。でも私はそういうところがリアルでいいと思ったんだけどね。若くて溌剌としたトムじゃなくて、ボロボロになってもプライドだけで何とかとりつくろっているようなそんなトムがね。さてマックスは夢はあるんだけど一歩が踏み出せないでいる。用心深いと言えば聞こえはいいけど、要するに臆病で怠惰なの。

コラテラル3

「殺すなんて・・」と耳の痛いことを言われたヴィンセントは、逆にマックスの痛いところを突くんだけど、どっちもどっちなのよね。世の中はマックスのように夢を見るだけで終わっている人がほとんど。でもだからこそ人類は今日まで生きのびることができたのよ。ヴィンセントみたいな一歩を踏み出せる人ばっかりだったら人類はとっくに滅亡しているわ。まあ映画はそれではすまないからマックスは一歩を踏み出すんだけどね。ストーリーは新鮮味に欠け、おしゃべりは多すぎ、時間は長すぎる。ロスの夜景は美しい。光の洪水で、目にまばゆいだけでなく多弁でもある。せめて人間は寡黙にすればそれで釣り合いが取れただろうに。ムダな時間がなくなり、スピーディーな展開になっただろうに。マックスがヴィンセントの代わりに資料のコピーを取りに行くシーンなんて、ありゃギャグのつもりですか?サンタの話、マックスがヴィンセントの言動をまねるところ、アホらしいったらありゃしない。だいたいヴィンセントは最初の方で検事局のビルにちゃんと下見に行っているんだから資料なくたっていいじゃん。四人目の韓国人(?)だって顔と場所さえわかればいいだけで、何でボスはあんなにもったいつけて資料を出し渋るのかね。その後自分の手下をコリアンクラブへ行かせてるし、そんなら別にヴィンセント雇う必要ないじゃん。あ、冒頭ジェイソン・ステイサムが出てましたな。エンドクレジットではエアポートマンになっていたけど、違うでしょ、フランク・マーティンでしょ。いつの間にかニースからロスへ移っていたのね。でも仕事は同じトランスポーター。「2」はまだですか?待ってるんですけど・・ウフン、何だかトクした気分。あ、いけね、「コラテラル」の感想だっけ。えーと、はい、見てよかったです。余計なロマンスとかなしで、最初から最後まで男っぽい雰囲気で通してくれたでしょ。いちおう女性検事も出てきたけどわりと気丈だったし。公判の直前に、不利な証言をする証人を全員始末するとか、FBIがロクな調べもせずにマックスを犯人と断定するとか、あんな混雑したクラブで大捕り物を敢行するとかさ、「ありえねー」って言えばそれまでなんだけどさ。ところでマイケル・マンの作品「刑事グラハム/凍りついた欲望」では、いきなり喜多郎の音楽が流れてきてびっくりさせられるんだけど、「コラテラル」でもやっぱりそっくりのが聞こえてきたぞ。