コブラ

コブラ

原作はポーラ・ゴズリングの「逃げるアヒル」。文庫のあとがきでは、せっかくの原作をだいなしにして・・と、だいぶけなしている。連続殺人鬼を偶然目撃してしまった女性を、ニヒルな刑事が護衛するという骨格だけを残し、それ以外は変更しまくっている。脚本はシルベスター・スタローン自身。自分を主人公に変更し、当時新妻だったブリジット・ニールセンを相手役に。「ロッキー」「ランボー」に続き、「コブラ」もシリーズ化・・なんて考えていたらしいが、これ一作で終わり。ニールセンとも一年ほどで離婚。当時彼女のものすごい浪費癖の記事を雑誌で読んだ記憶があるが、それが原因?さて、原作はクレアというブルネットの小柄な・・でも胸はでっかい美女が主人公。仕事はコピーライターで、ダンという申し分のない男性にプロポーズされているが、断るつもり。日曜の午後、駐車場に車をとめ、ボーッとしていたら、先ほど二人連れで通り過ぎた男の一人が戻ってきた。書類を落としたが、気がついていないようなので声をかけた。長身でハンサムで・・ちょっと心残りだけど、その時はそれだけ。ところがこの男・・エジソンと呼ばれる腕利きの殺し屋。今も一人殺してきたところ。今まで誰にも・・顔も正体も知られていなかったけど、クレアに見られてしまった。しかも・・彼はクレアを知っていた。殺人は裏稼業。表向きはクレアと同じコピーライター。今はまだ気づかれていないけど、そのうち気づくかも・・。その前にと、通り魔装って彼女を狙撃するが失敗。次にアパートを吹っ飛ばすが、犠牲になったのは不運なダン。ようやく彼女が重要な目撃者とわかり、護衛することになったのがマイケルとゴンザレス。マイケルはエジソンをずっと追っている。彼女を囮にしてやつをつかまえたい。警察内部に内通者がいることがわかると、クレアと二人だけで逃避行。最初は冷たくて傲慢な彼に反感持ってたクレアだけど、彼の苦悩に気づき・・。彼は任務とは言え、ベトナムで狙撃兵として多くの命を奪い、今でも悪夢に苦しんでいる。マラリアも再発する。マイケルの方は、クレアを一目見た時から引かれているけど、自分の過去を考えると・・。とは言え、一度くっつくともう二人は逃避行なんだかハネムーンなんだか。事件解決までには何人も犠牲者が出るけど、自分達はゴールインして甘い新婚生活・・ケッ!いい気なもんだぜ!!

コブラ2

男性が書いた小説だと、出てくる女性は男に都合のいい女。今回のように女性が書いた小説だと、出てくるのは女に都合のいい男。細いけど筋肉質な体つき。髪の量が多い。暗い過去を背負い、母性をくすぐる。よく見ればハンサム。太ってぶよぶよ、ハゲで、現在過去未来何の悩みもなしなんて男はお呼びじゃない。で、この筋書き読んでわかる通り、原作は映画とは全然別の内容。女はクレアからイングリッドへ、コピーライターからモデルへ。ついでに言うとダンはカメラマンになってる。ブルネットからブロンドへ、小柄から大柄へ。理由もわからず命を狙われるけど、でもほら・・見たことないけど「レッドソニア」なんでしょ?反撃できそうな気も・・。マイケルの方はロシア系からイタリア系へ。名前もマリオン・コブレッティに。通称コブラ。いつもマッチ棒くわえていて、今見るとダサダサ。ベトナムも暗い過去もなし。銃とかにコブラの模様彫るのもダサダサ。当時はこういうのがカッコよく見えたのか。冒頭スーパーマーケットでいきなり銃乱射、人質立てこもり事件発生。まわりを囲んだものの、次の手が思い浮かばない警察。そこで一声・・「コブラを呼べ!」・・いいなあ、わかりやすくて。現われたコブラは単身スーパーへ潜入。すっげえ簡単に。犯人仕留めて人質救い出す。アホレポーターが食ってかかる・・「犯人の人権は!」。今度立てこもり事件が起きたら、おまえが行って人質になれ!相棒ゴンザレス役はレニ・サントーニ。コブラと対立しまくりのモンテがアンドリュー・ロビンソン。サントーニとロビンソン・・どちらも「ダーティハリー」に出ていて。「コブラ」が同じ路線狙ってるのは見え見え?他に「メンタリスト」に出ていたアート・ラフルー。この人インディアンぽい顔立ち。さて、映画の方は斧を両手に持ってカチカチ打ち鳴らすようなカルト集団が出てくる。ドクロマークだのバイクだの、ここでもう原作とは似ても似つかぬ滑り出し。長身でハンサムで謎めいた殺し屋の登場期待すると当てがはずれる。ちょっと残念なのは、警察内の裏切り者が最初からバレバレなこと。少しは推理する楽しみも欲しい。カルト集団は何を考えているのかよくわからない。人を殺して新世界を作るみたいなわけわからんこと言ってて、頭悪そう。もっともスタローンが描きたいのは「正義の執行・悪の始末」で、これははっきりしている。

コブラ3

途中イングリッドが「なぜ異常者を隔離しておかないの?」と言うと、コブラは「裁判所が釈放してしまう」と答える。つかまえても出てきてしまう・・そのくり返しという現実。こんなのおかしいと思っても、犯人の人権が叫ばれる。出てこないようにするにはどうすればいいか。逮捕じゃなく、殺しちゃえばいいのだ。そんなムチャな・・って思っても、映画ならそれができる。悪が退治されれば、見ている方はスカッとする。この頃のスタローンは引き締まっていて、ランボーの面影をまだ残している。何度も顔が・・目が大うつしになるが、とろんとしていて、かえって緊張感がなくなる。でもそうしたいのだ。自分をカッコよく見せたいのだ。グラマーで若い新妻相手に熱いラブシーン入れて、うんとのろけることもできたけど、それはしないでおく。新妻見せびらかすより、自分を見せびらかしたい。この映画、あまり評判はよくない。けなしている人が多い。新味に乏しく、内容は薄っぺら。敵に魅力がないのもバツ。取り柄は85分と短いことくらい。まあ・・確かにそうなんだけど・・。私は「ロッキー」シリーズには興味がなく、「ランボー」の一作目ばかり何十回も見ているという変則的なファンだから、コブラがランボーに似ているという、それだけでほとんどオッケー。イングリッドと恋に落ちたとしても、むやみにいちゃこいたりしないし、ランボーみたいな泣き言も言わないし。ニールセンは大根というわけでもなく、まあよくやってる方。途中のカーチェイス、クライマックスの鋳物工場での死闘・・いずれも力が入っている。コブラと戦うのが、まだ若いブライアン・トンプソン。前見た時はまだ彼のことは知らなくて印象に残らなかった。この頃はマット・デイモンとウィレム・デフォーをミックスして、少しねじったような・・軽く押し潰したような顔してる。頭がおかしくて、びっしょり汗をかいたり目を剥いたり・・でもしょせんはコブラの敵ではなく、あっさりやられちゃう。何となく尻すぼみな印象。原作も実はそうで、エジソンに大いに期待するんだけど、そのうち大したやつじゃないな・・って思えてきて。最後まで興味を持続させ続けるのってホント難しい。本格的なサスペンス小説のはずが、いつの間にかロマンス小説になっていたり。まあ・・いろいろ欠点はあるにしても、私はこの映画の方・・「コブラ」・・スタローンの作品の中では好きな方ですよ。「フェア・ゲーム」という題で再映画化されたらしいので、機会があったら見てみようか。