5枚のカード
一回で終わらせるつもりで感想さらっと書いたけど、ネットで調べたらあんまり書いてる人いなくて、じゃあ私がもう少し詳しく書いてやれ・・と思ったわけ。最初に見たのがいつなのかは・・どの局で放映されたのか、吹き替えだったのか、もう覚えていない。だいぶ前NHKBSでやったのを録画してそのままほったらかし。何年か前、原作があると知って入手。でもこちらもやっぱりほったらかし。手に入れると安心しちゃうのよ。少し前これじゃいかんとやっと原作を読んだ。そんなに長くない。おもしろいかどうかと言うと、そんなでもない。つまんないかと言うと、そうでもない。わりと淡々としている。一番違うのは主人公ヴァンの年齢だろう。と言うか、映画のヴァン役ディーン・マーティンが年取りすぎなんだけど。とにかく読んだ内容忘れないうちにと映画も見たわけよ。でもやっぱりもう一度ざっと読み返したんだけどさ。あんまり有名な作品じゃないんだろうな・・原作も映画も。本の解説にある通り、西部劇とミステリーの融合は難しいんだろう。西部劇ってわりと善と悪がはっきりしている。謎だらけだとどこへ向かって銃を撃っていいのかわからんし。映画の製作は1968年で、マーティンは1917年生まれだから51歳くらい。ちなみに共演のロバート・ミッチャムも同年の生まれ。主人公ヴァンの年齢は原作には書いてない。彼の幼なじみノーラの年齢も書いてないが、「20歳は越えているはず」という描写があるから、ヴァンもそれより少し上・・20代半ば、30にはなっていないだろう。50を越えたマーティンはアクションもちゃんとこなすけど、どう見たってくたびれた中年男。娘ほども年が下のノーラにほれられるのは無理がある。ノーラをやってるキャサリン・ジャスティスは、「刑事コロンボ」の「殺人処方箋」でジョーンをやった人らしい。まあ映画だからこその世界。性格的には映画のヴァンも原作のヴァンもあんまり変わらない。一つのところにじっとしていられなくて、あちこち流れ歩く。ギャンブラーではあるが、性格はわりとまとも。イカサマはしないし、無理はしない。ツキは回ってくることもあれば去っていくこともある。
5枚のカード2
カードは仕事の手段であって、信心の対象ではない。命をかけるとかそういう極端な考え方はしない。ただ、彼が冷静でもまわりがそうであるとは限らず、そのせいで時々トラブルに見舞われる。原作でのヴァンは金を奪われたりひどい目に会う。それでも何とか立ち直るのは若いからだろう。50過ぎのおっさんじゃ風呂へ入ったり一晩寝たくらいじゃ元に戻らん。だから映画ではそういう災難には会わない。映画では冒頭ヴァンやニック(ロディ・マクドウォール)達がカードをやってる。ヴァンが席をはずした時に、ニックは町へ来たばかりの男のイカサマをとがめる。同席していた連中と共に男を吊るし、止めようとしたヴァンを殴り倒す。その後すぐヴァンは町を離れる。ニックを一発殴った後で。なぜ男を吊るしたのがニック達だと保安官に言わないのだろう。ニックの姉ノーラはヴァンに恋している。ヴァンも彼女が好きだが、自分はひとところに落ち着く性分じゃないし、カードしか能がない。とにかくノーラやその父シグにニックのことを言いつける気にもなれず・・。だから黙って町を離れることにしたのだと思う。ただそのせいで真実が伝わらず、後で何人も殺されるはめになった。原作では事件が起きたのは二年前で、イカサマではなく牛泥棒。ニックはリンチには無関係。リンチの首謀者はメイスで、止めようとしたヴァンを撃とうとして逆に足を撃たれる。そのせいで足が不自由になり、酒に溺れる。ヴァンを恨み、リンチのリーダーはヴァンだったと言いふらす。ヴァンはその後町を離れるが、戻ってくるまでの六ヶ月の間に金鉱が見つかり、町は一変する。一獲千金を夢見てどっとよそ者が入り込む。デンバーにいたヴァンが戻る気になったのは、ママ・マローンの手紙のせいだ。まずメイス、続いてストーニーが殺されたという警告の手紙。でもそう言われれば戻ってしまうのはお約束。帰る途中で見つけたのがフレッドの死体。リンチの件はニックの父で町の有力者でもあるシグがもみ消してしまった。正体不明の殺人犯は、メイスを拷問して名前を聞き出したに違いない。残りはハーリーとシグとヴァンだ。ヴァンは無関係だが、彼を恨んでいたメイスはウソをついたに違いない。
5枚のカード3
町に着いてすぐヴァンも襲われるが、何とかしのぐ。こういうトラブルと同時に、若者だからやっぱり女性にも目が行く。ノーラは保安官の妹で、雑貨店の店主ライルと婚約しているが、ヴァンを忘れられない。一方ヴァンは町へやってきたダンサーの一人リリーにも引かれる。彼女はノーラよりも世間にもまれ、人生経験を積んでいる。映画の方は手紙ではなく、わざわざママの店のバーテンダー、リトル・ジョージがヴァンに警告しに来る。リトル・ジョージ役はヤフェット・コットー。「エイリアン」に出ていた人だ。ノーラは保安官の妹ではなく、婚約もしていないからライルは出てこない。雑貨店の店主フレッド、農場で働くストーニー、続いてメイスが殺される。次がハーリーで、彼は鍛冶屋か。演じているビル・フレッチャーはよく見かける人だ。デヴィッド・キャラダインとスコット・グレンをミックスしたような感じ。映画は「墓石と決闘」、テレビの方は西部劇や刑事物にたくさん出ている。たいていは悪役で、ボスってことはなくて手下の一人。今回もそうなのかなと思っていたら何となくまともそうで、こりゃ初めていい人の役かなとびっくり。そのうちリンチ仲間の一人とわかって・・それと言うのも冒頭のシーンでは誰が誰だか全然わからないからだが・・いつも通り悪役かな・・と。でも違うのよ。あの時はニックが突っ走って、他の者は乗せられた感じ。酒の勢いとニックの暴走がなければあんなことはしなかった。今では後悔しているし、怖くてたまらない。逆にニックはシラフでもああいうことができるし、後悔もしない。後で彼が自分のことを話すシーンがある。子供の頃母親が亡くなったが、全然悲しくなかった。遺体はただの物体に思えた。怒った父親に「心がない」と折檻されたが、それでも悲しいとは思わなかった。ニックの場合、感情の欠落だけで終わらない。他の人を陥れて、それを見て楽しむというところまで行ってしまう。彼は牧師のラッドに近づき、彼の意図を知るや、仇の名前を一人ずつ教えて殺させる。ラッドがそれで満足するとは思えんが、映画だからね。
5枚のカード4
ニックはこの中の誰かが名前を教えたのだとハーリーやメイスの不安や不信をあおり、自分が気に入らないからというだけでリトル・ジョージまで殺させる。最後にヴァンを残しておくのは当然だが、ラッドがヴァンを殺した後はどうするつもりだったのか。全部教えてしまうと自分は用なしと消されるおそれがある。と言ってラッドを殺してしまったのではヴァンが残る。まあどちらにしろ自分が最後に残ると思ってる。自分でも自分が一番で二番はなしと言ってる通り、自己中心的なやつ。ラッドの正体を知っても保安官に言わず、かえって犠牲者が出るよう持っていく。自分でやらず、人にやらせて喜ぶ。原作のニックはここまで異常ではなく、ただの単純なバカ。ヴァンとはケンカばかりしているが、憎み合ってるわけではなく、意地の張り合いとか若さゆえ力があり余っていると言うか。マクドウォールは適役だと思う。この頃は40歳くらいだろうが、非常に若く見える。と言うか、この映画はクローズアップが少ないので、シワとか見えないのだが・・。ちなみに父親シグ役デンヴァー・パイルとは8歳しか違わない。彼がヴァンをやっていれば・・まさに異色中の異色作品になったことだろう。若いけれどもその中に老成したところがあって、自分で決めたルールを律儀に守る。女性が引きつけられて寄ってくるけど、どこかさめていて、まわりの状況を見失わない。そんな珍しいキャラを拝めたかもしれない。でも・・やっぱりマクドウォールが受け持つのはこういうエキセントリックな、強烈な個性が目立つ役だ。彼に求められるのはまさにこういう役で、彼はその期待にこたえ、主役を食ってしまう。今回のマーティンは確かに影が薄かった。飲んでいなくても酔っているような・・女性にはマメな・・。ミッチャムのラッドはどう見たって「狩人の夜」のキャラそのまんま。「恐怖の岬」の異常キャラも入ってる。発達した上半身と、爬虫類のような目が印象的。映画では弟フランキーの復讐だが、原作では息子ジョニーの復讐。この町で死んだとわかるまで二年かかった。その間食べていくのに役立ったのが牧師のまねごと。父親が本物の牧師だったから、見よう見まねで覚えたのだ。シグを殺した時、リリーに見られてしまい、彼女を殺そうとするがヴァンがつかまえる。つまり原作ではラッドは死なず、逮捕される。
5枚のカード5
ヴァンは町に落ち着くことを考え始める。ノーラはライルと結婚するし、ママ・マローンは年なので共同経営者を必要としている。リリーは浮草のような仕事はやめ、教師になるつもりだ。つまりみんなして落ち着くところに落ち着くという、ややあっけないラスト。映画はそうはいかない。ラッドは牧師のくせに銃を撃ちまくるなど行動が派手。途中でヴァンの命助けたりして見ている者の目をくらませるが、どう見たって彼が犯人。聖書に銃を隠し、ニックを殺すが、ヴァンの方は失敗してしまう。聖書を逆さまに持っていたからね。この聖書は原作にはなし。たぶん映画の内容は忘れても、この小道具のことだけは忘れない。この期に及んでもヴァンはニックの悪事をシグやノーラに言わない。二人を傷つけたくない。あ~でもシグくらいは真相に気づいて欲しかったぞ。こちらのヴァンはまた町を離れる。たぶんもう戻らないんだろう。ノーラにもそれはわかる。とは言え何もかも捨ててというわけではない。リリーを誘う。こちらのリリーはダンサーではなく、理髪店の経営者。しゃれた店構えと設備。若くてきれいな女性達が客のヒゲをあたる。こんな商売成り立つのだろうか。いかにもハリウッド的と言うか・・現実離れしている。結局お客はヴァンだけだったし。そう言えばどの西部劇にも必ず出てくる酒場、ピアノ、踊り子達のシーンはなかったな。新しくできたポーの店がそうで、ママ・マローンにとっては商売敵。でもママは方針を曲げる気はない。女は置かないし、いい酒を出す。閉店も早い。それが気に入らないやつはポーの店へ行けばいい。リリー役はインガー・スティーヴンス。「刑事マディガン」に出ていた人。細くて頼りなげな感じ。いかにもスウェーデン出身らしく、色白。豊かな金髪が美しいが、髪に負けてるような気もする。顔がクローズアップでうつるわけでもなく、印象に残らないのだ。ダンサーと違い、店を構えて設備を整え、女の子も雇って訓練し、さあこれからという時に、町を離れないかと持ちかけられて承知するものだろうかという気はする。しかも相手はギャンブラー、そのうえくたびれた中年のおっさんだ。でも何となく承知しそうなムードなのは映画だから仕方ないね。ちなみにスティーヴンスは、この二年後くらいに自殺している。他に保安官役ジョン・アンダーソンは「サイコ」でマリオンに車売る役をやっていた。