カポーティ

カポーティ

近くのシネコンで、二週間限定で公開されたので見に行った。休日の午前中、お客は14人くらい。カポーティの作品は「ティファニーで朝食を」の文庫本持ってるだけ(この映画を機に「冷血」買ったけどまだ読んでいない)。何度か読んだが意味よくわかんない。映画も印象うすい。「冷血」は学生時代図書館から借りたものの、最初の方少し読んだだけで挫折。今なら全部読み通せるだろう。映画の「冷血」は見てないけど興味はある。本を借りたのは確か当時テレビで「刑事バレッタ」をやっていて、主演がロバート・ブレイク。その彼が注目されたのが「冷血」での犯人役。それで読んでみる気になったのだろう。今回映画を見に行ったのはクリフトン・コリンズ・Jrが出ているから。正直言ってフィリップ・シーモア・ホフマンはどうでもいいの。彼がうまいことはわかっている。声やしゃべり方が鼻につくだろうということも・・。実際見てみると、まあ確かに彼もよかったんだけど、他の出演者も皆いいのよ。一番びっくりしたのはそのこと。地味な感じのキャサリン・キーナーがいい。いつもはカリカリしてヒステリー起こしてたり、美人でもないのに「美しい」とか言われていたりして「?」なんだけど、今回はホント服装も顔つきも地味なオバさんで自然。幼なじみとしてカポーティに協力したり理解したり。たいていのことは容認するみたいな心の広さと、それでいて真実を見逃さないようなところ・・つまりカポーティの暗部もちゃんと見透かしているようなところがよかった。作家としてお互いを尊敬しつつ、ライバル意識も心の底にはあって、後の不仲を予想させるシーンも折り込まれている。ネル・ハーパー・リーの「アラバマ物語」は今でも書店で見かけるが、読んだことあったっけ・・覚えてないな。グレゴリー・ペック主演の映画は昔見たことがあるけど内容は覚えていない。ブルース・グリーンウッドはまず声のすばらしさに驚いた。彼こんなにいい声してたっけ。カポーティがああいう声・しゃべり方だから余計美しく聞こえるのかな。カポーティの恋人で、やはり作家のジャック・ダンフィー役。社交的なカポーティとは違い、孤独を好む性格。ベストセラーはないけど堅実な仕事ぶり。ベストセラー作家として、巧みな話術で、いつも座の中心にいるカポーティだけど、彼の方が孤独に見える。

カポーティ2

ジャックは一人でいても孤独には見えないが、カポーティは大勢の取り巻きの中にいても孤独だ。ハンサムだけど地味で、どこがどうってことないグリーンウッドだけど、何とこの役にぴったりなことよ。デューイ捜査官役のクリス・クーパーもいい。ひと昔前が似合う。堅い一方に見えて、カポーティにいつの間にか協力しちゃう。お客をもてなすためにはかかってきた電話にも出ないほどの律儀さ。こういう堅物に、陽気できれいな奥さんがいるというのもいい。年齢のわりに子供がまだ小さいというのも微笑ましい。捜査資料を見せてくれだの、早く決着つけて欲しいのに(つまり彼は被害者一家と親しかったので、憎い犯人達には早く罰を受けて欲しいのだ)有能な弁護士をつけるだの、余計なことばっかりするカポーティには不満感じたはず。だけどそれを表には出さない。そういう役にクーパーはぴったりだ。ニューヨーカー誌の編集長ショーンはどこかで見たような・・と思ったら、「水中嬢」で見たばかりのボブ・バラバンだった。出番は少ないが存在感がある。犯人二人のうち、ヒコックはマーク・ペルグリノ。「ツイステッド」「ハンテッド」に出ていた。金髪で背が高く、冷たい目つきが印象的。彼を見る度にナチスの親衛隊とか似合いそう~って思っちゃう。そして・・クリフトン。ある意味カポーティと同じかそれ以上に重要な役。カポーティがなぜ彼に強く引かれたのか、見ているお客を納得させなければならない。同情心をかき立てなければならない(死刑なんてかわいそう!)。繊細で傷つきやすく、純真で悲劇的。それでいてぱっと出現する狂気、邪悪さ(やっぱり彼は殺人犯なんだわ!)。そのどちらも表現しなくてはならない。彼を見たのは「マインドハンター」だけだが(「ラスト・キャッスル」にも出ていたらしいが印象に残っていない)、この時もかなりの難役。FBI捜査官の実習生。能力はすぐれているけど車椅子生活。猜疑心が強く、銃の信奉者。足が使えないぶん上半身が発達していて、手でぶらさがるとか。気の毒な境遇なんだけど心はねじ曲がっているみたいな・・。とにかく大変な役で、誰よりも印象に残る。「カポーティ」はこのように出演者がよくて、題材も興味深い。これといった破綻も感じさせず最後まで行く。しかし・・何だろ、すごく偏っているみたいな感じ受ける。

カポーティ3

ていねいに描かれつつ、触れられていない部分があちらこちらにある。一番気になるのはクリフトン扮するペリーの自白。彼が事件の真相を話すまで、カポーティは本の要の部分を書くことができず、あせったり苦悩したりする。・・てことはペリーは取り調べの段階で警察には何も話していないの?ペリーもヒコックも犯行自白しないまま裁判受けて死刑判決?クラッター一家四人を殺したのがペリーなら、誰も殺していないヒコックは無罪主張するはず。それとカポーティはノンフィクション書くつもりならヒコックにも取材するはずだが、そういう描写は全くない。ペリーだけ。世論は?裁判が長引くことに関して被害者の親戚とか不満言わなかったの?ペリーやヒコックはどういう人間で、事件前事件中事件後は何を考え、刑務所では何を考え、被害者に対してはどう思っていたのか。そういう普通だったら描くであろうことがかなり省略されている。その代わりカポーティのあれこれうつす。まあ彼時間くうのよ。しゃべる前に、しゃべっている間に、しゃべった後に、いろんな表情したりしぐさしたり口の形作ったり顔色赤くなったり間を取ったり。そうやってアカデミー賞当然の演技見せて、まあそれはそれでいいんだけどさ。省略されていること全部描かれていたら、今以上にいい出来になったかというとそうも思えない。原作や「冷血」読めば、映画とはまた違ったことが書いてあるんだろう。映画は非常に表面的な感じ、浅い感じはしたけど、その一方で描かれていないことへの興味をかき立てられた。すべてを見せりゃいいってもんでもないってこと。興味をかき立てられるのはやっぱり演じている人の魅力のせい。カポーティは描かれすぎ、しゃべりすぎのせいでかえって興味が持てず、さらりと描かれるだけのペリーやヒコックに目が行く。比重の軽いヒコックだけど、ペルグリノはすごくよかったのよ。自分の運命に対し、どうでもいいやみたいな感じ。そしてそれ以上によかったクリフトン。つかまって護送されてくるんだけど、車の中にいる時、出てきた時、階段上る時、拘置所で外を見ているところ、足が痛むので薬をくれと言うところ(なぜ足が痛むのかは映画では説明されない)。彼の描く絵(なかなかすばらしい)、手紙、子供時代の写真、実姉の語る彼・・。中でも一番印象的なのは処刑直前の二人。

カポーティ4

ガムでもかんでいるのか口を動かし、二人して並んで(いつも別々の房にいたから、並ぶのは久しぶりなのでは?)不思議なものでも見るようにカポーティの方を見ている。処刑される彼らよりカポーティの方がよっぽど取り乱している。このシーンはとてもよかったな。感情の高ぶっているカポーティじゃなくて、二人のさめた感じがね、とてもリアルだった。処刑そのものもペリーの方だけでヒコックは省略。やっぱりどこまでもヒコックは軽視されていますな。まあとにかくクリフトンにはこれからも注目です。この次はどんな演技見せてくれるのかという期待が持てる。もちろんペルグリノの方もね。・・映画はずーっと沈んだ感じで来て、ペリーが自分の犯行をとうとう口にするシーンで、ぱっと狂気が挿入される。呆然とするヒコック。一瞬前までは殺す気なんてなくて、むしろヒコックを止めようと思っていたのに・・。ぱっと一線を踏み越え、次々に四人とも殺し・・。そう言えばその後のことも省略されていたな。普通だったら「何をする」とか「これからどうする」とか。二人してあわてるとかケンカするとかそういうのが入るけど何にもなし。逃亡中のことも逮捕の瞬間も・・。そういうのがなくても映画ってできちゃうのね。・・てなわけでどっちかと言うとカポーティではなくて、犯人二人の方に目が、興味が行ってしまった映画でした。見る前はもうちょっと産みの苦しみ(子供じゃなくて作品ですよ)の感じられる映画かな・・って期待したんだけど、そういうのは全然伝わってこなくて。いちおうカポーティが苦悩するシーンはあるけど、ちっとも感情移入できない。何となくうすっぺらでお気楽。かってに苦悩していろ!アホなことして人生早くに終わらせてしまった二人の、悲しいくらいの運の悪さが心にしみた。絞首台を前にして、もうどうやっても逃れられないというあの状態・・。本当は被害者クラッター一家に同情しなくちゃいけないんだろうけど、そんな気は全然起こらなかったな。とにかく偏った映画で、見た後満足感はあったものの、感動はしなかった。さて・・暮れになってからはなかなか映画を見に行くヒマもない。実は伯母が認知症になり、先週やっとこさ施設に入所させた。来年90になるけど子供はいないし、近くにいる私の妹が世話していたけどもう体力も忍耐力も限界。すでに私のこともわからないし、そのうち妹のこともわからなくなるだろう。