恐怖の岬、ケープ・フィアー

恐怖の岬

私が子供の頃、土曜の夜には遅くまで起きていて、父と二人で深夜映画を見た。私の洋画好きはたぶんこのせい。いろいろ見たはずだが、覚えているのはアラン・ラッドの「烙印」、リチャード・ウィドマークの「太陽に向って走れ」、ヴァージニア・メイヨとジョエル・マクリーの「死の谷」、「激突!」、それとこの「恐怖の岬」くらい。中でもこの「恐怖の岬」はけっこう印象に残った。とにかくロバート・ミッチャムが薄気味悪くて。最初に見たのがこれなので、その後「眼下の敵」などを見てもぴんとこなかった。そのうちファンになってビデオを買い集めたりした。「ケープ・フィアー」で書いたが、原作が出ている。文庫のカバーイラストはマックスがサムの首を絞めているところだ。どう見たってデ・ニーロとニック・ノルティなのが笑える。原作と違うのは、サムの子供が三人から一人に減らされていること。まあ男の子二人がウロチョロすると焦点がぼけるからね。作り手はナンシーのピンチ強調したい。マックスの犯行は戦争中だが、映画では戦争のカゲはなし。刑期も八年になっている。私立探偵シーヴァス役で髪のあるテリー・サヴァラスが出てくる。「ケープ」では探偵は殺されるが、こちらでは死なない。代わりに不運な保安官助手カーセックが殺される。一番違うのはラストで、サムはマックスを撃って負傷させる。「ケープ」のような派手な死に様はなし。原作では撃ったけど取り逃がし、次の日に捜したら出血多量で死んでいたという、何となくな解決。あとがきでも「結末がややあっさりしすぎている」と書いてある。こちらの映画でサムがマックスを殺さないのは、それをやっちゃうと後味が悪くなるからだろう。それにサムを演じているのはグレゴリー・ペックだ。ミスター正義、ミスター・クリーン。冒頭・・裁判所へ歩いていくマックス。階段で女性にぶつかるが、知らん顔だ。女性が落とした書類を踏んづけているようにも見える。マックスがどういう人間か表わす、いい見せ方。サムはマックスが現われても気にしないが、度重なると心配になる。そのうち飼い犬が毒殺されるが、マックスの仕業という証拠はない。警察署長ダットンがマーティン・バルサム、サムの妻ペギーがポリー・バーゲン、娘ナンシーが「走れチェス」のロリ・マーティン。

恐怖の岬2

マックスのいやがらせに、サム一家は追いつめられていく。何か実害が出てからでないと警察が動けないのが困るところ。警官、弁護士お互いにとって屈辱的な方法である、私立探偵の力を借りるしかない。ただ、今の我々から見ると、1960年代ならテープレコーダーくらいあるはずで、何でマックスの脅しとか録音しておかないのかな・・と思ってしまう。車に乗っていたナンシーが、近づいてくるマックスを見て、車から出て学校へ逃げ込もうとするのも、子供だから仕方ないとは言え、何でかな・・と思ってしまう。窓を閉め、ドアをロックしてしまえばすむことなのに。しばらくすればペギーだって戻ってくる。放課後なので学校はひとけがなく、閉まっているところが多い。必死で逃げるナンシーは小動物のようで痛々しい。逆にマックスは顔をうつさず、腹のあたりをうつす。それがいっそう不気味だが、これは後でわかるが見ている者への引っかけ。たぶん作り手はこれをやりたくてナンシーを車から逃げさせたのだろう!さて、サムはマックスにゴロツキを差し向けたのがばれてしまい、弁護士生命が危うくなるが、反対にこれを利用する。まず倫理委員会の呼び出しで町を離れ、自分が留守だと思わせる。ペギーとナンシーをケープ・フィアー川のボートに乗せ、自分は急いで戻ってきて二人と合流する。マックスはサムがいなくてチャンスだが、二人がどこにいるのかわからず、手がかりとしてシーヴァスを見張るはず。シーヴァスはボートに向かい、わざとマックスにあとをつけさせる。二人を襲おうとするマックスを、サムと助っ人のカーセックがつかまえるという筋書き。ボートと言っても大型で、部屋もいくつもある。外で待ち伏せするより中で隠れて待っていた方が効果的だと思うが。案の定まずカーセックが殺される。次にボートが岸から離れ始め、サムはナンシーには警察に通報するよう言い、ボートを追う。その時、川底に沈んでいたカーセックを見つけて呆然とする。さてこの後だが、ハラハラドキドキするかと言うと、ちょっとビミョー。マックスがペギーの前に現われるので、ナンシーが目的じゃなくペギーの方だったのかと我々には思わせる。

恐怖の岬3

ペギーも、マックスが目の前に現われるまでいったい何をしていたのかね。お湯or油をわかしておいてぶっかけるとか。手元に何本もナイフあるでしょ。フライパンだって・・。何もできずにアワアワオヨオヨ。サムはやっとボートに乗り込んでペギーを捜す。次の部屋、次の部屋、また次の部屋・・だからぁ何でこんないくつも部屋のあるでかいボート借りるねん。結局ペギーは何ともなくて、狙いはやっぱりナンシーかとなる。で、彼女がいるのは岸辺の建物で、ここには電話があるけどマックスはすでに線を切って通じなくさせている。で、外にマックスが現われてナンシーピンチとなるわけだけど、彼女ここで卓球やっていたはずで、入口の床に卓球のボールばらまいておいてコケさせるとか・・少しは頭働かさんかい!すぐつかまって外に連れ出されるから、たぶん映画館のお客はナンシーの運命やいかに・・と固唾をのんだはずなのよ。ところが・・いつの間にかナンシーはどこかへ行っちゃってサムの前にマックスが現われて激しい戦いになるわけ。もうここらへんになると、マックスはいったい何をやってるのかね・・としか思わない。今NHKのEテレで「お寺の知恵拝借」やってるじゃん。「脚下照顧・・二つのことを同時にやろうとしないで一つのことに集中しなさい」って。ペギーかと思ったらナンシーで、ナンシーかと思ったらサムで・・こうなるとドキドキもハラハラも使いきっちゃって(←?)どうでもよくなるのよ。途中でサムは首を絞められ、水に沈められ大ピンチ。でも死んだふりしてマックスをだますんだろうってのは予想がつく。すでにカーセックの死体見てるから、力を抜けばマックスはサムも死んだと思うはず。で、油断させといて川底の石で一撃。それで終わりかなと思ったらまだある。で、前に書いたように銃で撃つけどとどめは刺さない。逮捕して病院で治療して健康体に戻す。それから裁判受けさせ、終身刑にしてやるというわけ。警官殺してるからもう言い訳はできないってか?でも正義の味方ペックより印象に残るのはミッチャム。川に入ると髪が額にぺったりくっついて、まぶたの垂れ下がった目は爬虫類のよう。上半身裸になって川に腹這いでするりと入るところはホラー映画より怖い。白黒映画というのも効果を増している。

ケープ・フィアー

これはだいぶ前民放で見た。吹き替えだしかなりカットされてたはず。旧作の印象が強いせいで、見ていても違和感ばかり。でもスコセッジがリメイクしてくれたおかげか、原作も邦訳され、読むことができた。今回ノーカット字幕版で見たわけだが、旧作が直球なら今作は変化球と言うか。うんと派手に、どぎつくしてある。弁護士サム(ニック・ノルティ)の前にマックス(ロバート・デ・ニーロ)が現われる。14年前サムは彼の弁護を受け持ったが、マックスの犯行が許せず、被害者に不利な証拠を一つ握りつぶした。マックスは当時は字も読めなかったが、服役中に字を覚え、記録を読み、法律も勉強。サムがちゃんと弁護しなかったのを知って、復讐を決意。出所するとサムや家族につきまとい始める。旧作では登場人物はシンプルなキャラだったが、現代ではそうはいかない。サムは浮気をくり返し、弁護士にあるまじき行為をする。妻のリーはただの良妻賢母じゃ古いとばかりに仕事を持ち、夫の浮気で精神が不安定になって精神科医に通い、派手に夫婦ゲンカをする。この作品はデ・ニーロのモンスターぶりがすごいんだけど、ジェシカ・ラングも、あたしだってアカデミー賞女優ですからねとばかりに大熱演。見ているだけで疲れる。娘のダニー(ジュリエット・ルイス)も無邪気で可憐だなんてありえなくて、反抗期真っ只中プラス性への目覚めで扱いにくいバカ娘。親はああやって騒いでるけどマックスはあたしには何にもしなかったじゃないの。話はおもしろいし、危険なムードがあってそそられちゃう~と、クネクネ軟体動物化。ひっぱたいてやりたくなったのは私だけでしょうか?何と言うか演技にしろ何にせよ過剰になればなるほど本筋から離れて行ってるような気がするんだよな。怖いと言うよりギャグに思えたりしちゃまずいと思うんだけど、作り手は「もっともっと」って思ってる。旧作のグレゴリー・ペック、ロバート・ミッチャム、マーティン・バルサムの登場はうれしいけど、私が一番よかったと思うのはジョー・ドン・ベイカー。過剰になりすぎず、普通だから。声もいいし。あと、イレーナ・ダグラス、フレッド・トンプソンが出ていた。