危険なめぐり逢い

危険なめぐり逢い

「キネマ旬報」がシナリオを載せなくなって久しい。昔は映画館へ行く機会も少なく、見ることのできない映画のシナリオを読んで、想像をめぐらすしかなかったことも。あるいは映画館で見た後、何度も読んで、思い出に浸ったり。今は六ヶ月もたてばDVDが出るし、一年も待てばテレビでやってくれるが、昔は次にいつ見られるかわからなかった。記憶を助けるものとしてはサントラがあった。原作があればなおいいが、「危険なめぐり逢い」にはなし。監督は「太陽がいっぱい」などで知られるルネ・クレマン。彼の作品というと「雨の訪問者」や「パリは霧にぬれて」を見たが、晩年というか往時の勢いはないようで。音楽はヒットメーカー、フランシス・レイ。サントラも買ったが、同じメロディーばかり聞かされる。私がこの映画を見たのは有楽シネマだったと思う。珍しいことにパンフレットも買った。これと「キネ旬」のシナリオを何度も読み返した。当時はブルース・リーにはまっていた頃だから、こういう映画をなぜ見に行く気になったのか、今となっては思い出せない。で、すっかりマリア・シュナイダーに魅せられて帰ってきたわけだ。何年か後で「ヨーロッパ特急」を見に行ったのも彼女目当て。他にはビデオをレンタルして見た「ジェイン・エア」くらいか。残念ながら彼女は何年か前に亡くなってしまった。もう一人のヒロイン、シドニー・ロームは健在のようだ。IMDbでは1951年生まれになっている。「危険なめぐり逢い」のパンフや、当時の映画雑誌では1946年生まれになっていた。30近くになってやっと有名になったのか・・と、当時は思っていた。彼女の出世作、アラン・ドロンと共演した「個人生活」は見たことなし。と言うか、他の作品も見たことなし。映画雑誌では景気よくスッポンポンで出ていたが、「危険なめぐり逢い」でも脱いでくれる。巨匠監督、ヒット連発の作曲家、センセーショナルなデビューを飾った新進女優の豪華共演というのがこの映画の売りだろうが、外国テレビ映画ファンにとっては、「0011ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーンと「コンバット!」のヴィック・モロー共演というのが、そそられポイント。映画館で見た時は、テレビではあんなにステキだったのに、スクリーンではなぜくすんで見えるのだろうと不思議だった。特にヴォーンは。でも後から考えると、画質のせいもあるような。映画館の・・スクリーンのせいなんだろう(と自分に言い聞かせる)。

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冒頭ミシェル(シュナイダー)とアン(ローム)の部分が交互にうつされる。流れの通りに書いていくのは煩雑なので、筆の赴くままに書いていく。いや、今は筆じゃないけど。ミシェルはローマで彫刻を学ぶ美術学校生。家族はセネガルにいる。父親は機械工で、ミシェルには姉が三人と弟が一人いるから七人家族か。それを養うだけでも大変だが、留学している娘に送金もするのだからもっと大変だろう。ミシェルは最初パリで勉強していたが、恋に破れ、一人になりたくてローマへ。ジャンニというボーイフレンドがいるが、熱心なのは彼の方で、ミシェルはどこかさめている。まだ心の傷が癒えず、恋愛に積極的になれないのか。このジャンニが太り気味で表情に締まりがない。ドロンとした目つき、だらしのない口元。善人なのは確かだが、間抜けで鈍感。何でこんなの出してくるのだろう。アンはアメリカ人で、なかなか芽の出ない女優。彼女くらいの美女はゴロゴロいるし、たぶん演技も大したことないのだろう。男に目をつけられやすいタイプなのは確か。現に初対面のカララ刑事も彼女誘っていたし。彼女は手の届く女なのだ。実業家フランクリンと出会ったのはロンドン、その後ローマで再会。フランクリンには幼い息子ブーツがいる。妻はバハマにいるが、離婚したのか別居中なのかは不明。アンは彼が自分のことを隠しているのが不満だったらしいが、もし別居中ならそれは当然で。離婚の時不利になる。ブーツに会わせないのも当然だ。離婚して独身だったとしてもアンは実業家の妻にふさわしくない。安っぽすぎる。あの時なぜフランクリンがアンに愛想をつかしたのかは不明。何かに怒った彼が裸のアンに毛皮を投げつけ、去る。動揺し、道に飛び出した彼女は、タクシーにはねられる。それに乗っていたのがミシェル。ジャンニと約束したレストランへ行くため乗っていた。パンフレットにはアンがミシェルのアパートに転がり込んで、二年一緒に暮らしたと書いてあるが、二ヶ月の間違いだろう。何とかケガから復帰し、役にありついたアンだが、裸になるのを拒否したためクビになる。彼女には事故のせいで胸に大きな傷があった。自分がこんなふうになったのはフランクリンのせいだ。彼女は彼に復讐したい。事故にあったのは自分が道に飛び出したから・・とは考えない。みんな人のせいにする。こういうマイナス思考でいたのでは、呼び寄せるのは悪運だけ。

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その後ブーツを誘拐して身代金300万ドルを要求。犯人としてミシェルを身代わりに・・となるのだが、経過は不明。この映画は犯罪物としては描写がぬるい。説明不足。犯人側の行動がもたついている。素人の集まりだから仕方がないということなのか。それとも映画は二人の若い女性の運命を描きたいのだから、犯罪物特有の鋭さ、スピード、緻密さは必要ないのか。最初はアンのドラマチックな境遇がメインのように思える。ところがすぐにアンなんかどうでもよくなる。いやホント、がんばってるロームには悪いがアンなんかどうなろうが知ったこっちゃないのよ。メインはミシェルとブーツなのよ。アンには芯がない。美しさも演技力も中途半端。それでいてプライドだけはある。すぐヒスを起こす。犯罪の片棒担ぐのにも向かない。話が違う、私はもういや、うんざりよ・・泣くわわめくわ動揺するわ、それでいて何もしない。ところで犯罪計画がまとまったのはどういうふうにしてなのだろう。描写してくれないならこっちで勝手に妄想してすき間を埋めてやれ。これも作り手の一つの手か。アンが裸を拒否して騒いだ時、ヘンダーソンも居合わせた。彼はフランクリン家の執事・・と言うか、仕事の方も取り仕切っているようだ。自分が稼ぎ、フランクリンは使うだけ・・と思っている。フランクリンはアンが事故にあっても見舞いの手紙も電話も寄こさない。バラの花を送ってきたが、実は送ったのはヘンダーソン。このことでもわかるがフランクリンはエゴイストで人の気持ちがわからない。いつか彼を見返してやりたいという気持ちがヘンダーソンにあったとしても当然だ。フランクリンに弱味があるとすれば、それはブーツ。息子のためなら彼は何でもする。誘拐されても警察には手出しさせないはず。と言って自分が疑われるのはまずいから、他の者にやらせる。ちょうどいいのがスチュアート(ヴォーン)。落ちぶれた俳優で、誘えばすぐ話に乗ってくる。次に彼や彼の妻ロッテ(ナジャ・テイラー)がアンに話を持ちかける。フランクリンに復讐できるし、金も手に入る。ブーツには危害を加えないし、ミシェルにしても疑いがかかってもすぐ晴れるから心配なし。そう言われればアンも承知する。とにかく計画を立てたのはスチュアートということにして、ヘンダーソンは表に出ない。

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ところが実際にやってみると、なかなかうまくいかない。スチュアートは、以前共演したことのあるヴィック(モロー)という男を仲間に引き込む。ちょっと人数が多すぎるように思える。その分スチュアートとヴィックの印象薄まる。一人でできることを二人でやってる。ヴォーンファンにとってもモローファンにとってもちと残念。どちらかと言うとヴィックの方があれこれやっている。アンが(ミシェルに疑いがかかるよう)黒髪のカツラをかぶり、ベビーシッターとしてフランクリン家に現われる。ブーツに睡眠薬を飲ませ、眠らせる。その後別の屋敷に移動する。持ち主はウェルナーという指揮者で、今は不在。この屋敷のカギをどうやって手に入れたのかは不明。ミシェルが呼ばれたのはこちらの屋敷。よく考えるとミシェルを巻き込んだせいで計画がうまくいかなくなったように思える。別に複雑にせず・・ミシェルに疑いの目を向けさせるなんて小細工はせず、ブーツを誘拐したらどこかに監禁するだけでよかったのでは?あんな大きな屋敷に監禁したのではヴィック一人じゃ目が届かない。おまけにミシェルを心配したジャンニがウロウロ動き回る。ヘンダーソンはたぶん金を手に入れたら、スチュアートやロッテ同様アンも始末する気だったろう。ブーツが彼女を見るようなことがあったら、あのベビーシッターだと気づくかもしれない。フランクリンに恨みを持つ者として彼女の名が上がるかもしれない。いや、あの警察の連中の無能ぶり見ると、そんなの無理かな?フランクリンは誰が自分をこんなに苦しめるのか全然思いあたらない。わりと最近捨てたアンのこともすっかり忘れているようだ。ましてやすぐそばにいるヘンダーソンの心中などわかるはずがない。事件が片づいた時、ミシェルはブーツを一人で家に行かせる。付き添ったりしない。普通なら付き添う。フランクリンには感謝され、下へもおかぬもてなしを受けるだろう。でも彼女は近づかない。たぶんブーツの父親がアンを捨てた男だとは気づいていないだろう。単に疲れて一人になりたいだけだろう。

危険なめぐり逢い5

さて、話は前後するが、ミシェルは戻ってきたジャンニと会う。ここで二月ぶりと言っている。冒頭ジャンニはレストランで彼女を待っていたけど会えなくて、そのまま旅行か何かへ出かけたのだ。すっぽかされたと恨み言を言う彼に、「私のせいじゃないわ、事故があったんだから」とミシェル。そこにベビーシッター依頼の電話がかかってくるのだが、ジャンニは断れと迫る。部屋代がたまっていてお金が必要なのだと説明しても聞かない。あげくの果ては「他に男でも・・」と言い出す。根負けしたミシェルが夜中に会うことを約束しても信じられないのか、自分のアトリエ兼住居のカギを気づかれないようこっそり彼女のカゴに入れる。いや~こういうのを見ていて、何て一途で純情な男なんだと思うんですかね。私にはバカとしか思えないんですけど。生活に困っているとかそういうのは関係ないのだ。自分と一緒にいるか、いないか・・それだけなのだ。いないってことは即他の男がいるってことになるのだ。単細胞め。合鍵を渡すならともかく、一つしかないカギをこっそり忍ばせる。ミシェルはこの後ブーツと共に行方がわからなくなるから、ジャンニは自分のアトリエに入れず、往生することになる。後先考えないからそうなるのだ。ミシェルのアパートへ行ってもアンに追い返される。彼の存在は、暗くなりがちな内容にコメディー的要素をプラスしてくれる。だから本来ならばもっと好感持っていいはずなのだが、私にはただの間抜けにしか思えない。さて、たいていの批評では、少年の、年上の女性への憧れとかそういうことが書いてある。ブーツにとってミシェルは自分を守ってくれたすばらしい人だ。パパを別にすれば一番大切な人で。彼には母親もいないし兄弟もいない。友達のことは全く出てこないし、ペットもいない。夜一人でテレビを見ているような・・それも三里塚闘争のようなドキュメンタリー。たぶんフランクリンは新しい愛人のところにいるのだろう。そういう時を狙ってヘンダーソンは計画を実行したに違いない。とにかくブーツはそういう孤独な境遇にいるのだ。

危険なめぐり逢い6

ミシェルが現われ、姉と弟のような心の通い合いが生まれるが、事件が解決すればまた別々の生活に戻る。再会を約束したけど、実現しないのはわかっている。ミシェルもブーツも孤独な一生を運命づけられているのだ(たぶん)。クライマックスはどのへんだろう。金の受け渡しの部分か。私はこの部分が・・映画館で見た時も、テレビで見た時も・・何が何だかさっぱりわからなかった。車が何台も出てくる。どれに誰が乗っているのかわからん。ミシェルとブーツが乗っている車、フランクリンが金を運んできた車、その金を移すよう指示された車、スチュアートとロッテが乗った車、ヘンダーソンが乗った車・・全部で5台か。ミシェルの表情の変化が印象に残る。ここでまた話が前後するのだが、最初の方では普通の若い女性だ。たぶんほとんど化粧もしていない。黒い髪、白い肌、ほっぺたにホクロ。体つきは板のような・・やせた感じ。黒々とした瞳に、長いまつ毛。どこかさびしそうな、でも無邪気で元気で・・子犬のようなという形容もうなずける。夜、指定された家に行き、彫刻の本を読みながらミルクを飲む。一晩中いることになって、またまたジャンニとの約束を破るはめになったが、気にしても仕方がない。連絡したくてもなぜか電話が通じない。翌朝ブーツを起こすが、様子がおかしくても気にしない。いろんな家に行って、いろんな子供を見ている。ほうっておいた方がいい場合だってある。トースターで次々にパンを焼き、ジャムを塗って食べる。その時のカリッ、サクッという音がいい。ブーツがこちらをうかがっているのはわかってる。見せつけるように大きなカップにコーヒーを注ぐ。こちらにまで香りが漂ってきそうだ。ブーツが思わずつばを飲み込むのもわかる。私はこの朝食のシーンが好きだ。パンは薄めで、こんがり焼く。朝は食欲がなくてブラックコーヒーだけ・・なんていう不健康なことはしない。たっぷり眠ったからおなかがすいてる。だから何枚も焼く。ブーツの分もあるだろうが、朝からもりもり食べるのだ。お菓子の缶みたいなのもある。思えばミシェルが平和な時を過ごしたのは、この時までなのだ。その後異変に気づく。なぜブーツが自分を警戒しているのかわかる。どうやら二人して誘拐されたらしい。

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彼女は平凡な女性だから、失敗もする。犬を使って隣りの老女に助けを求めることにするが、すぐ近くにヴィックがいるのに犬の入ったカゴを下ろす。いなくなるまでなぜ待たないのだろう。そのせいで老女も犬も殺されてしまう。ヴィックが二人を捜し回っている時、フタを持ち上げて様子をうかがったせいで、大きな缶に隠れているのを見つかってしまうところも?だ。なぜジッとしていなかったのだろう。その後ヴィックに髪を切られ、殴られるなどひどい目にあわされるが、ブーツの居どころを言わない。たまりかねてブーツが飛び出してくる。で、いよいよ金の受け渡し場所へ。受け渡しの時、後ろにいた車(スチュアートとロッテが乗っている)が爆発したけど、ミシェルには理由はわからない。誰が乗っていたのかもわからない。その後金を持って行った男(ヘンダーソン)は、覆面をしていたから顔はわからない。仲間割れがあったらしいのはわかるが、それ以外は全然。でも、誰が生き残り、金を手に入れたかなんて彼女にはどうでもいい。この頃になるとミシェルは疲れや殴られたせいでやつれ、表情がなくなっている。ブーツが元気なのとは対照的だ。その彼を家に送り届けた後、アパートに戻ったミシェル。最初はそれでもホッとしたような表情をしている。やっと帰れた、アンも心配していることだろう。彼女はアンが片棒担いでいたことは知らない。彼女が接触したのはヴィックだけ。ロッテとは電話で話しただけ。アンの姿が見えないので顔が曇る。泣きそうな顔になる。手紙のようなものが貼りつけられているのに気づく。浴室でアンが死んでいる。彼女はすべてから逃げたのだ。傷のある自分の体は好きじゃない。ショックを受けるミシェルの前にヴィックが現われる。彼はスチュアートに言われ、アンを連れにきたのだ(金を山分けするためだろう)。彼はまだスチュアートとロッテが殺されたことは知らない。事件の黒幕がヘンダーソンで、金を一人じめしたことも知らない。アンの自殺を知った彼はミシェルを殺そうとするが、警察に連絡したと言われ、思いとどまる。そして姿を消す。後でミシェルはカフェか何かで警察に電話をかけていたから、アパートには電話はないのだ。とっさについたウソのおかげで命拾いしたのだ。

危険なめぐり逢い8

アンの遺書には黒幕がヘンダーソンだということも書かれていたから、ミシェルはそれも警察に話す。彼女はジャンニのカギに気づき、彼のアトリエへ行って中に入り、彼の帰りを待つ。警察が来るから自分のアパートにはいたくない。立ち会うには疲れすぎている。その頃・・中に入れず困り果てたジャンニはカギ職人を連れてアトリエに向かっていた。ミシェルが待っているとも知らず・・。最後ほっこりさせようという魂胆か。私にはジャンニが騒ぎ立てるのが目に見えるようだ。今のミシェルに必要なのはぬくもりと静けさ・・黙ってそばにいてくれる人だと思うが。私にはジャンニよりミシェルとヴィックの結びつきの方が気になった。もちろん誘拐する側とされる側で、心の通い合いなどあるはずもないのだが、二人の根底には共通するものがあると思うのだ。二人とも貧乏くじを引いてばかりの人生だったはず。それでもミシェルは道を踏みはずすことはなかったが、ヴィックは汚れ仕事をやらされ、ついには殺人まで。元々粗暴で、あまり頭もよくないのだと思う。それでもこれまでは何とか犯罪者にもならずに来たけど、今では・・。彼はスチュアートやロッテ、ましてやヘンダーソンのような側にいることはできない。常に敗者の側なのだ。それはミシェルも同じ。敗者と言えばアンもそうだが、彼女には根性もなく、まわりに流されるだけ。ヴィックのような生き延びようとするしぶとさも、ミシェルのような真っ直ぐ生きようとする強さもない。ああ、何だかわけのわからないこと書いてるな。要するにヴィックがミシェルを殺さず姿を消したっていうことには何か理由があるはずだと言いたいわけ。自分も彼女も振り回されたあげく、ほっぽり出された同類なのだと。同類を殺す必要はないわけで。それにしてもこの映画・・どうしてDVD化されないんだろう。一日も早く出してください。出すからにはちゃんとフランス語版でお願いします。いつだったかテレビでノーカットでやってくれたけど、英語版で。違和感ばかりつのって。普通ならヴォーンやモローがフランス語しゃべるのに違和感感じるものだけど、そうじゃないんです。やっぱり最初に映画館で見た時の印象が残っているんです。おフランスでなければだめなのです。断言します。この映画は「危険なめぐり逢い」ではありません。マリア・シュナイダーという稀有な女優に、ミシェルという忘れがたい女性に出会える・・「幸せなめぐり逢い」の映画なのです!