パニック・トレイン

パニック・トレイン

これを見たのはダグレイ・スコットが出ているから。ロンドンから地方へ向けて走る列車。たぶん休日の夜か。平日なら通勤客でもっと込んでいるだろうから。シングルファーザーのルイス(スコット)も7歳の息子マックスを連れて帰るところ。夜の11時というのはかなり遅いが。彼は救急医で、今も交通事故があったとの電話が来たところ。駅に着いたら病院へ直行だ。マックスはおばあさんの家に預けるしかない。妻に先立たれ、孤独と疲労を身にまとっているが、子供の相手を精いっぱい務めるやさしい父親。電話を受けてる間に、マックスのせいでサラ(カーラ・トイントン)はコートにコーヒーがかかってしまう。すぐそばに腰を下ろした彼女は怒るわけでもなく、明るく感じがいい。彼女はイベント関係の仕事をしていて、彼氏と別れたばかり。女友達が彼女を励まそうと誘ってくれたけど、帰ってきてしまった。そのおかげでルイスと出会ったけど。何となくお互いが気になる。現実なら子持ちのやもめなんか相手にされないけど、そこは映画だからね。サラは子供好きで、相手をするのが上手。一人禁煙なのにタバコを吸ってるのがいて、車掌が注意しても聞かない。頭の固そうな老紳士が断固たる態度を取る。タバコもそうだけど、ルイスやサラはケータイで話す。そばにいた初老の女性の非難のまなざしも何のその。実はこの映画で私が一番共感持てたのはこの女性です。最初の方はこんな感じで退屈。全体としては予想を裏切る展開の連続。と言っても逆の意味で・・ですけどね。つまり、くたびれた中年なりかけのルイスは実は元特殊部隊の戦いのエキスパートで・・とか。マックスは実は超能力者で・・とか。サラは実は某国のプリンセスで、結婚させられそうになって逃げてきたのだ・・とか。普通の映画ならそういう思いがけない裏がある。だからこそ予想を裏切る展開ができる。でも、そういうのは全然なし。ただのくたびれたオッサン、そこらの子供、失恋女。列車の様子がおかしくなって、止まるはずの駅も通過してしまう。非常ブレーキもきかない。車掌はいないし、運転士はインターホンで呼びかけても応答しない。最初は何を騒いでいるのだと非難していた例の老紳士カーマイケルも、そのうち異常に気づき、警察に電話。普通のパニック映画なら妨害電波のため、通じない・・となるが、ここでは通じる。

パニック・トレイン2

でも、警察がうつるわけではない。応答が聞こえるわけでもない。となると、カーマイケルはちゃんと電話しているのか?と疑いたくなる。かけるふりをしているだけなのでは?何しろ彼はかなりうさんくさい人物。もしかしたら乗っ取り犯の標的は彼なのかも。大金持ちなのかも・・科学者で秘密の研究をしているのかも・・。あるいは彼こそこの乗っ取りグループのリーダーなのでは?いろいろ想像をたくましくして見ているけど、どれもこれもはずれ。彼は息子とうまくいってないただの気難しい父親。タバコ吸ってたのがヤンという男。カーマイケルがヤンにきつく当たってしまうのも、ヤンがカーマイケルをおちょくるのも、二人とも父子関係がうまくいっていないから。ヤンはグダニスク工業大学を出たらしいから、ポーランド人か。今は地下鉄の清掃係をやっているが、決してカーマイケルが思っているような低能な外国人労働者ではない。もちろん後で二人の心は通い始めるが、いい人になり始めたキャラは退場する運命にある。ご多分にもれず、カーマイケルも死んでしまう。まだ乗っ取られていない頃の列車は、駅に着く度に客が少なくなる。疲れから眠ってしまったルイス。目を覚ますとサラがいない。他の乗客もいない。まるで「銀河鉄道999」だ。マックスだっていないはずだ。「フライトプラン」みたいに。止まらない列車の中でルイスが必死に息子を捜すのだ。でも・・いなくならない。ちゃんとそこにいる。サラも戻ってくる。結局何も起こらない。これも一種の予想を裏切る展開だ。マックスはルイスの注意を聞かずに遊んでいて、危うく列車から落ちるところだった。向こうの列車は、窓と窓の間に扉があって、ちょっとしたことで開いてしまう。危ないことこの上ない。この扉は後で何か・・突然開いてしまうことが、展開に関係して来るのか。いや、何もない。途中トンネルの中で列車が止まり、ルイス達はこのチャンスに・・と下りようとするが・・何とドアがトンネルの壁に阻まれてちょっとしか開かない。マックスだけでも下ろそうとするが、彼は嫌がる。確かに下りても危険なだけだが。それにしてもトンネルはそんなぎりぎりの大きさしかないのか。ドアを開けて下りることもできないなんて。暴走する列車に対して、まわりは手を尽くしているはずだが、そういうのはほとんど描写されない。

パニック・トレイン3

パトカーが並走するとか、列車を止めようと何やらやってくれたようだが。運転士(本物の方)のこともよくわからない。ルイスがレールのそばを誰かが這っているのを見つけ、ケータイで救急車を呼ぶのだが、画面が暗くて何も見えない。向こうでは普通ならデンゼル・ワシントンとかジョン・タトゥーロとかロザリオ・ドーソンとかが知恵をしぼっているはずだ。運転室にはジョン・トラボルタかジョン・ヴォイトがいて。あるいは誰もいなかったりして!!インターホンでのわずかな会話。運転室にいるやつはなぜかこちらの人数を聞いてくる。ルイスとマックス、サラとヤンとカーマイケル、それに孫に会いに行くらしい老女エレイン。この六人だ。後でカーマイケルはムーアゲートで起こった地下鉄事故の話をする。その時は40人死んだ。原因は不明だが、運転士が自殺の道連れにしたという説も。今回もそれじゃないのか。だとしたらそいつは六人と聞いて失望したことだろう。途中で事故なんか起こさない。駅に突っ込んで派手にやるはずだ。それまでに何とかしなければ。でも・・そのつもりでいるならなぜもっと早く行動を起こさないのか。ロンドンから遠ざかれば遠ざかるほど客は少なくなる。駅だって夜中じゃ誰もホームにいない。それにしても・・客が六人て・・。ワンマンカーじゃあるまいし。ルイスは自分が見た男が犯人なのでは・・と思っている。そいつは居眠りか何かしていて、下車し損なったようだった。何か飲んでいたが、酒だろう。だとしたら発作的な犯行だが、カーマイケルは計画的な犯行だと思っている。何の情報もないから本当のところは誰にもわからない。前にも書いたが、運転室は無人かもしれない。どこかから遠隔操作してるかも。でも、そういうホラー的な結末でもなかったな。なぜか運転席には死体はなかったとか、そういう不条理な結末でもいいのに、それもなし。誰が運転していたのかわからない・・それで終わり。あれこれ試してどれもだめとなると、最後は連結器。「新幹線大爆破」のチバチャンみたいなアクションをヤンが見せてくれるかと思ったけど、だめでしたな。まあうまくいきっこないってことは最初からわかってるからいいけど。次はバーのお酒とか何かのガス使って爆発起こして、切り離しを図ったけど失敗。でも、穴が開いて連結器は剥き出しに。

パニック・トレイン4

最初の方でこの連結部分がちょっと長めにうつる、伏線めいたシーンがある。もう一つは「パパは走らない」というマックスの言葉。六人全員が助かったっていいのに、エレインは心臓発作を起こして死亡。カーマイケルは連結器をはずすところで転落死。ルイスは運転室側に取り残され、しかもまわりは火の海、おまけに自分の体は重油まみれのトリプルピンチ(←?)。イチかバチか列車から飛び降りるしかない。彼は元陸上の選手。たぶんオリンピック候補だったかもしれない。でもじん帯を痛めてしまった。「走らない」のはそのせいだ。でも今はそんなこと言ってられない。位置について~!ここだけは都合のいい設定でしたな。ラストシーンはやや間延びしている。ルイスを捜しているサラの声が聞こえて、彼が生きていることがわかる。「やっと病院に行けるわよ」という皮肉なセリフ。彼は医師として病院へ駆けつける途中のはずだったが、今回ばかりは患者として運び込まれるのだ。このセリフで終わってもよかったのに。燃えている線路や上から照らすヘリなんかうつさんでも・・。まあ仕方ないこととは思うが、ヘリとか列車とかみんなウソくさい出来で。スコットはややシワが増えたが、最初見た時(「エバー・アフター」だったと思う)からそんなに若々しいという感じではなくて。調べてみたらいつの間にかクレア・フォラーニと結婚していて。トイントンは知らない人だが、笑顔がかわいい。カーマイケル役デヴィッド・スコフィールドはどこかで見たような。「アウト・オブ・タイム」に出ていたらしい。ちなみに「アウト~」の原題は「アンストッパブル」である。ヤン役イド・ゴールドバーグも見覚えが。「メンタリスト」に出ていたらしい。「ブラックリスト」のトムにそっくりだ。エレイン役リンゼイ・ダンカンも「ミス・マープル」や「ポアロ」でおなじみ。てなわけでいろいろ書いてきたけど、こちらが想像するのとはことごとく違う、ひねりのなさすぎる展開。でも考えてみりゃそれが普通。ヴァン・ダムやセガールがいつも乗り合わせているわけじゃない。でも、子供が鉄道オタクくらいの設定は、あってもよかったかも。

パニック・トレイン5

これは感想書いた後で消しちゃったのだが、後で後悔するはめに。またやってくれるかな~と思ったけど、そういう時に限ってそれっきり放映してくれないんだよな。もう何十回も放映してるのがあるってのに・・。それで少し高いけどDVD買ってしまった。私ったら何をやってるのかしら~。まあ思いきって買ったのは、メイキングとかインタビューなどの特典がついてるせいもある。こういう・・未公開の、向こうでもヒットしたとは思えない平凡な作品なのに、なぜか52分も特典がついてる。でも、実際に見てみると、重複している部分も多いし、内容そのものも、さほど目覚ましいわけじゃないんだよな。ここでIMDb調べてみたのだが・・ちゃんと公開されてるんだかいないんだかよくわからない。監督オミッド・ノーシンはまだ若く、頭痛に効きそうで、脚本・監督やったわけだから、まさに自分の思い通りだよな。彼が言うには、この映画は神話の枠組みの中にはめ込まれるのだとか何とか。はあ~?神話?内容は要するにドラゴン退治で、この場合列車がドラゴンで、乗客は勇者。何かいかにもゲーム世代のアンチャンが言いそうなことだね。盛んに火が出てくるのはそのせいかね。先に予告編作って、それを見て興味持った俳優を集めたんだとも言っていたな。キャストが決まる前に予告編ありきなんていうのはいかにも現代的。キャストのインタビューでは、ダグレイ・スコットはくたびれた感じ。カーラ・トイントンは若いから、明るくて楽しそう。同じ若者でもイド・ゴールドバーグはもうちょっと屈折した感じ。監督に自分の考えをどんどん言ったとか、そういうタイプ。デヴィッド・スコフィールドは味のあるベテラン風味。これに油を足してコテコテにするとパスカル・グレゴリーになる。撮影には実物の車両を使い、外の景色はあらかじめ撮影しておいたものを流す。これって「スパイ大作戦」と同じだな。音響担当の人はいろんな動物の鳴き声を効果音に使っていると話す。急ブレーキには蛇の声・・ん?蛇って鳴くの?コブラのシュッシュッという音だろう。他にはクジラの鳴き声・・う~ん、言われなきゃわからん・・と言うか、わかっても別に・・。リンゼイ・ダンカンの言葉が心に残る。最高のものを作りたい、最高のものになるはず。そうそう、どんなゴミ映画でも作ってる連中はそう思っているんだよな。そう思わなきゃやってられないことだってあるだろうし。