ファントム

ファントム

原作は文庫二冊でかなり長い。こんなのを映像化するとしたら相当お金がかかるだろう。と言って映画は(アメリカで)話題になった気配なし。日本でも公開されたが、どこでやっていたんだろう。ひっそりこっそりいつの間にか・・。テレビで予告を見たので興味はあったのだが・・。しばらくたってビデオをレンタルして見てみたら・・正直言ってポカンである。ストーリーも登場人物も大幅に省略してある。と言うか切り詰めてある。節約感が漂う。人気作家(ディーン・クーンツ)の話題作を、意欲満々に作り始めたけど、途中でお金もやる気もなくしましたって感じ。特撮にお金かかるから出演者は地味め。でもいちおうの顔ぶれは揃えてある。特撮もそれなりに工夫してあれこれ見せてくれる。でも目新しいものはなく、驚きもない。意気込みは大作風なのに、尻すぼみで終わっている。エンドクレジットで流れる曲でいっそう気持ちが萎える。カントリー調の一曲目はいい。映画の中でも流れ、耳に心地よい。しかし二曲目はいったい何だ。腑抜けたような、調子っぱずれ。理解に苦しむ選曲。ストーリーは・・スノーフィールドという山あいの町で開業している医師のジェニーが、妹リサを連れてロスから戻ってみると、町の様子がおかしい。家政婦のヒルダを始め、住人達は死んでいるか行方不明かのどちらかだ。いったい何があったのか。死因は?電話は通じず、車は動かず、しかも何やら正体不明のものがいるようで・・。前半はホラームードでなかなかいい。女二人というのが心細い。ジェニー役ジョアンナ・ゴーイングはあんまりなじみのない女優さんだが、ブレンダンファンにとっては忘れることのできない人だ。「いつかあなたに逢う夢」で共演している。彼女はとびっきりの美女だ。うらやましいくらいの容姿である。顔立ちは整いすぎるほど整っていて、冷たくさえある。大きな目、つんとした鼻、半開きだと官能的で、閉じていると理知的な口元。体つきは細くてきゃしゃ。背もあまり高くない。楚々としていながらセクシー。今にも壊れそうな繊細さと芯の強さとが同居している。小さくまとまっているのでスケールの大きさはなく、美しさのわりには地味に見えてしまうのが弱点か。この作品ではモコモコ着込んでいるので、スタイルのよさもわからない。妹リサ役ローズ・マッゴーワンの方が印象的かも。

ファントム2

途中で保安官ブライスとその部下が登場する。正体不明の「それ」もわりと簡単に正体がわかる。古来時々文献などに記録される、人間の集団失踪。フライトという考古学者が「太古からの敵」の仕業だと前々から提唱していたのだが・・。フライトを演じているのはピーター・オトゥール。まわりに認められなくても自説を主張し続けるイギリス人学者。今回の事件で自説の正しさを証明できるかもしれない。彼の移送を担当するFBIの捜査官達はなかば小馬鹿にしていたようだが。フライトは目をらんらんと輝かせ、油断のなさとすっとぼけた不器用さが混在する。今回の事件は大きなチャンスで、一時的にはスポットを浴びるだろう。でもしばらくすればまた無視される。貧乏学者に逆戻りだ。オトゥールはすごい。そばにいるのがベン・アフレックだから、その差がいっそう際立つ。堂々としていて威圧感がある。筋が通っている。皮肉屋である。自分を笑う。世間とは隔絶している(と言うか無視されている)。それでいてけっこう利用する(金のためならタブロイド紙にでも何でも書く)。オトゥールは登場した時から格が違う。カップにミルクを入れ、ポットを静かにゆすり、紅茶を注ぐ(ミルクが先なのだ!)。たったそれだけのしぐさなのに・・!ブライス役アフレックは大味である。いちおうトラウマくっつけられているが、苦悩は伝わってこない。誤射で少年を死なせ、FBIをやめ、こんな山の中でくすぶっている。原作ではFBIも少年の誤射もなし。交通事故で妻をなくし、息子は昏睡状態という設定。年齢も39と高め。映画ではもっと若い。当時のアフレックは25か26だ。ハーバードを卒業し、FBI捜査官になり、やめてから小さな町の保安官になって・・とくりゃ、そんな若造のはずありませんぜ。いちおうアフレックは見かけは30くらいには見えるけど、なかみが伴っていない。リサは原作ではまだ14歳。母親の急死に心がゆれ動く思春期の少女。映画ではもっと年がいってて、母親も生きている。母親はアル中なので、ジェニーは妹への影響を心配して引き離す。ブライスもジェニーも重荷をかかえ、そのせいでお互いに共通点を見出す。原作では最後に結婚する。ハッピーエンドである。映画では人物の背景の多くは省略されているが、賢明な措置だ。第一アフレックに過去や苦悩くっつけたって伝わってこない。みんなあごにたまってる。

ファントム3

うつる度に顔がでかい・・とそればかり気になる。向こうの基準だとすごいハンサムになるらしいが、私から見るとまのびしたうすのろアンチャンにしか思えない。ブライスの性格も冷静かと思えば激昂するしで・・よくわからん。さて登場人物のことはまた後で書くとして、この映画はいろんな映画を連想させる。住民全滅は「アンドロメダ・・・」、犬が出てくるのは「遊星からの物体X」、「太古からの敵」である「それ」はもちろん「エイリアン」風。教会での戦いは「バイオハザード2」、「それ」が悪魔やエイリアンではなく、人類誕生のずっと前からこの地球に存在しているもの・・というのは「プロフェシー」風味。ただし映画のではなく原作の「プロフェシー」の方だけどね。前にも書いたけど、この地球で人類に気づかれず存在しているものって、あってもおかしくないと思う。山には雪男がいるかもしれないし、地底には地底人、海には海底人。自分のすぐそばに異次元への穴があいているかもしれない。見えないからって存在していないとは言いきれない。人間が地球生物の頂点に立ってるなんて思うのはうぬぼれだ。さて・・「太古からの敵」はいちおう「生命を持ったカオス」というふうに説明される。本体の他に化身(ファントム)があり、エイリアンみたいに花が咲いたり(?)、タコみたいにニョロニョロしたり、蛾になったり(「プロフェシー」のモスマンじゃん!)、首が回ったり(「エクソシスト」風)、まあいろいろ。「それ」は時々エサを食べる。海底で大量に魚を食べても人間にはわからないが、それが人間社会で起きると謎の集団失踪になるわけだ。「それ」は食べたものから栄養だけでなく知識も吸収する。そのうち自分は悪魔で、神のような存在で、不死身で全能で・・などと思い始める。その思い上がりが精神的弱点。体の方は分析してみると原油に近い成分。軍と一緒に出動してきた科学隊の実験車には、ちょうど原油を食うバクテリア「バイオサン」があった。何とも都合のいい設定だが、クライマックスではこの「バイオサン」を「それ」に注射してやっつけるわけ。もちろん美人姉妹、ヒーロー保安官、孤高の学者を活躍させなくちゃならないから、軍隊も科学隊の連中も、ほとんど何もできずに全滅する。で、そこでまた省略感、節約感が漂うわけですな。

ファントム4

原作ではフライトも死んじゃいます。でも映画では生き残ってくれるのでバンザイです。死んだら後味悪くなっちゃう。「バイオサン」用意した後、「それ」をおびき出すおとりとしてフライトが外へぽつんと立たされる。雪が降ってるけど、本当に冬の夜撮影したんだろうな。老オトゥールじっと立ってるの寒かったろうな。ふるえているのは演技とは思えん。ここでも彼の演技に目が行く。目の配り、声のトーン、間の取り方・・名優だよなあ。今年こそアカデミー賞とって欲しいよなあ。年齢から言って最後のチャンスだろうし・・。でも私の応援している人ってとったためしがないのよね。さて話がそれたけど、実験車の中ではあのくそったれ裏切りやがって・・と、ブライスが怒り狂うのよ。何て単純なの。そしてアフレックの演技も単純。その前の、犬におびえながらの注射器運搬シーンなんて、見どころのつもりだろうけど全然ドキドキしない。やたら長いし。さてもちろんフライトの呼びかけは罠。うぬぼれの強い「それ」は姿を現わす。音もなく町の住人が立っているシーンは、本来ならぞっとするところだ。でもちっともぞっとしないんですよ。みんな白い息を吐いてる。寒いから当然なんだけど、あんたら死人ですぜ。化身ですぜ。息してるはずない。体温あるはずない。画面から息を消去する手間省いたのかな。そのせいでちっとも怖くなくなって、エキストラのみなさーん、寒いところご苦労様でーす、さあ豚汁であったまってね!ムードになっちゃう。見る度にがっくりきちゃう。さてこのように欠点は多いんだけど、それでも私はこの映画けっこう好きである。最初に見た時の何じゃこりゃ感は、二回目からはうすれてくる。最初書いたようにこの映画の原作は長いので、とてもそのままでは映画にできない。背景を変えたり削ったりしてかなりシンプルにしてある。殺人犯とか暴走族リーダーの副ストーリーがあって、クライマックスも二段がまえになっているが、映画にはそれがない。時間的にも一晩のうちに起こった出来事として描かれる。保安官達もフライトも軍も「すぐ」来る。「それ」の正体も弱点も「すぐ」わかる。フライトはなぜか実験車の装備を知り尽くしていて、これは不自然だが、おかげで展開はスピーディーになる。原作では日系の遺伝子学者ヤマグチがフライトと同じくらい活躍する。

ファントム5

コンピューターで「それ」と対話し、「それ」を分析し、弱点を見つけ、「それ」に気づかれぬよう「バイオサン」を外部から取り寄せる。「バイオサン」がちゃんと実験車に用意されているなんて、都合のいい設定にはしない。残念なことにこのヤマグチ嬢も「それ」の餌食になっちゃいます。演じているのは日本人ではなく香港出身の人。さて内容がシンプルなだけでなく、出演者も考えて揃えてある。アフレックとゴーイングという美男美女カップル、美人姉妹ジェニーとリサ、大人の女性の美しさはゴーイングで、体は一人前だが精神的にはまだ未熟な危なっかしさをマッゴーワンで見せる。マッゴーワンはどんな時でもゴーイングより目立つよううつされる。いつでもゴーイングより前にいるし、より危ない目に会い、セリフも重要な意味を持つ。大して知識もないのに、言うことは真実を突いている。色が白くハデな顔立ち。小柄だけどグラマー。マッゴーワンのおかげで大衆受けのするSFホラーになる。ゴーイングだと大衆的にはならず、もっとお上品になる。アフレックだとSFにもホラーにもならない。登場した時には西部劇風。アフレックに対してはリーヴ・シュレイバーを配す。生真面目なブライスに対し、シュレイバー扮するステュは異常すれすれ。好色(リサに目をつける)、いやらしい(「いいもの見る?」が口癖。何を見せるんだろ)、スケベ(女性なら変死体でもOK)・・って同じこっちゃ!何でも冗談にしてしまう不謹慎さ、ニヤニヤ笑い。シュレイバーの演技がうまいので、単調なアフレックはかすんでしまう。笑わせてくれるのも薄気味悪いのもシュレイバー。ラストシーンも彼。この映画怖くないし、展開はシンプルでありながら時々ひどくのろくさく感じさせられる。「大丈夫?」「大丈夫」・・この会話だけで五、六回ある。芸のないやり取りにうんざりさせられる。その一方でホラーには欠かせない笑いの部分がけっこうあっていい。同じくお約束のお色気の方は全くと言っていいほどないが。そしてその笑いの大部分を、シュレイバーが担当しているのだ。笑いったって不健康で不健全な笑いだけどね。冒頭部分はまとまっていていいムードなのに、クライマックスは行きあたりばったりと言うか、ちぐはぐ感があり盛り上がらない。それでもいちおう事件は解決する。それでいてラストは死んだはずのステュだ。

ファントム6

こういう思わせぶりなラストはホラーにはつきもの。いい終わらせ方と見るか蛇足と見るか。あんなに大騒ぎして人もたくさん死んで、何だよ結局何にも解決してないじゃん。人類の危機は先のばしにされただけで、同じことはこれからも起きるのだ、ちゃら~ん。とは言え、原作も読んで改めて映画を見直してみると、このけったいなラストシーンにもそれなりの意味があるように思えてくる。もちろんそれは私のかってな思い込みで、映画の作り手は単なるお約束としてくっつけただけかもしれないが。原作にはジェニーの「ほんとうの意味での悪魔は人間にほかならない」という言葉が出てくる。「それ」は動物を食べていた時には神とか悪魔といった概念は持たなかった。人間をエサとし、知識を吸収して自分は神だ悪魔だ不死身だ全能だなどと思い始めたのだ。自分は一番すぐれた存在だから何をしてもかまわない。自分以外のものはエサにすぎない。「それ」が自意識を持てたのは人間のおかげだが、そういう認識はない。誰と競争したこともなく、負けたこともない。失敗や挫折から学ぶこともないから、頭でっかちでうぬぼれや。映画でのブライスが指摘したようにひ弱ですらあるのだ。とは言え、「それ」が人間の悪の部分の投影であることには間違いない。「それ」は決してなくならない悪を見せつけ続ける。しかしありがたいことにすべての人間が悪人というわけではない。善の部分も持っているのが人間だ。だから希望はある。映画はこういう原作のような掘り下げはせず、勝つか負けるか、生きるか死ぬかに焦点をしぼっている。まあ娯楽映画だからそれでいい。原作ほどのハッピーエンドではないがとにかく危険は去る。前にも書いたが原作ではジェニーとブライスは結婚する。「それ」も完全に死んでしまう(スノーフィールド以外にも生息しているんだろうが)。映画でも二人のロマンスをにおわせてもよかったと思う。しかし・・しつこいようだが映画では人間の悪の部分がなくならないように、「それ」もまた生き続けるのだ。本体が生き残ったのか化身が生き残ったのかは不明。もしかしたら人間の意識の中に潜んでいるのかも・・。とまあ妄想は果てしなく広がるわけだが、ラストのステュは「ファントム」そのものとも言える。保安官補の制服着ているから、見た人は誰でも正義の味方・法の番人・・と思う。

ファントム7

しかしなかみは・・異常で不謹慎で好色で・・要するに邪悪。実体であろうが幻影であろうが悪は存在し、ステュはその見本、象徴なのだ。そう考えるとこのふざけたラスト、笑えるにしてもちょっとゾクッとする笑いになりません?(考えすぎかな)・・さてと、これまでアフレックのことかなりけなしてきたけど、別に嫌いってわけじゃない。大作だけでなくチマッとした作品にもよく出ていて、私は実はそっちの方が好きだったりする。「偶然の恋人」なんか大好き。他にも「世界で一番パパが好き!」とかさ。今回の映画でも人のよさとか真面目そうなところが気に入っている。恐怖におののくジェニーを、お菓子のつつみ紙の占いで笑わせる茶目っ気もある。危機に陥ると同時に恋にも落ち、生きるか死ぬかなのにラブシーンとかさ、そういうアホな展開がゼロなのは気に入った。さて・・いくつかつけ足し・・ブライスが誤射で死なせてしまう少年役ルーカス・エリオットは、「硫黄島からの手紙」に出演しているらしい。おかっぱでそばかすだらけの少年は、今では成長して金髪で瞳キラキラの美青年である。月日のたつのは早いものだ。もう一つ・・ゴーイングは何と「イルマーレ」のディラン・ウォルシュと結婚したらしい。とっくに40過ぎてるが、子供を産み、ますます美しい。「イルマーレ」プレミアでの彼女は妖艶ですらある。あたしゃモニカ・ベルッチかと思っちゃった。「イルマーレ」のパンフのキャスト紹介のところにはそんなこと全然書いてなかったな。「イルマーレ」の感想のところでは余白がなくて書けなかったけど、パンフにはがっかりさせられたのよ。形が変則的だし小さい。もっとキアヌの大きい写真たくさん載せろこら。紙質悪いし余白大きすぎるし記事もよくないの。とにかくダメダメパンフ。DVDはもう出たのかな。特典が未公開シーン4分だけってのもひどいと思わない?てなわけで話がそれたが、この「ファントム」、欠点は多いものの手元に置いて何度でも見たい作品。DVDは高いので中古ビデオを買って楽しんでいる。さてと・・まだ少し余白があるので・・きのうテレビで「メン・イン・ブラック」を見た。たまに民放見るとCMの多さに辟易する。お目当てはフレデリック・レーン。冒頭出てきて・・あれで終わり?「ダドリーの大冒険」のブレンダンみたいだったなウヒヒ。