犯罪潜入捜査官

犯罪潜入捜査官

この映画のことを知ったのは、「犯罪心理捜査官」の感想を書くためネットを検索していた時。主演がニック・モランというのが気になる。「ヤング・ブラッド」はつまらない映画だったけど、彼だけはよかったし。あまり活躍するわけじゃないけど・・何か奥が深い感じがしたのよ。例えコミカルな演技していたとしても・・何かある。あ、彼「ハリー・ポッター」シリーズにも出ているらしい。「潜入」がレンタルビデオ店にあることはわかってた。「心理」三作のそばに並んでいるから目に入る。どうせ似たような内容で、しかも「心理」一作目を超えることはないだろう・・と思っていたから見るつもりもなかったけど、モランが出ているとわかったからには見なくちゃ。吹き替え版だけどそれでもいい。で・・見た感想・・何と言うかこういうのに出会うとうれしくなる。幸せ感じる。いろんなのを見て中には大はずれだったり、絶賛の嵐だけどどこがだよ・・って思ったり。でもたまにこういうのにめぐり合う。名作でも傑作でもないありふれた作品。安っぽいし地味。「午後のロードショー」あたりでやるには最適。適当に引っくり返り、適当にいちゃつく。ハデな撃ち合いの後まあまあのハッピーエンド。後味は悪くない。翌日にはもう内容忘れてるけど、いっこうにかまわない。また次の・・似たようなのがいっぱい控えてる。でも中には私のように「大当たり!」とか「拾い物!」と喜んでいるのがいるわけで。ついでに言うと「サイコ2001」の予告も入っていて。何でこうも私をうれしがらせてくれるのッ!!さて主人公はテリーと名乗ってもう半年も囮捜査やってる刑事。冒頭階段の上から何かが落ちる意味深なシーンが・・。二度目にこれはカセットテープだとわかる。作り手は適当に映像にもこだわっている。でもスローモーションだらけとかフラッシュバック入れまくりとか、そこまでバカじゃない。わりと節度があり、いい感じ。やりすぎはよくないのだ。ある男がずーっと命乞いしていて、その彼をテリーは見てしまうのだ。で、正体がばれた時の自分の姿と重なるわけ。夢に見たりする。上司のザックには報告入れろとせっつかれるが、大した成果もなくあせっている。故買商として悪党のボス、サイモンに近づいたものの、なかなか尻尾をつかめない。

犯罪潜入捜査官2

サイモン役スティーブン・ラングは「ハード・ウェイ」に出ていた。他に「D-TOX」。最近では「アバター」にも出ていたらしい。ガラス玉みたいな冷たい青い目が印象的。誕生パーティに奥さんも連れてこい・・とサイモンに言われたテリー。ウーム・・何で奥さんがいることにしたのかな。テリーは非常に用心深い男だが、ところどころ抜けたところがある。後で書く注進の件もそうだ。とにかく早急に誰かを奥さんに仕立て上げなくてはならなくなり、ザックに相談する。彼女なら適任・・と呼ばれたのがスーザン。クレジットではこのスーザン役ジェニファー・エスポジートの方が先。モランは二番目(何でだよ)。彼女は「ドラキュリア」「TAXI NY」に出ている。こう言っちゃなんだが、この映画が安っぽく見えるとしたら彼女のせいだろう。出てきたとたん怪しいし、変に意味ありげ。美しい髪の持ち主だが、その髪でさえうさんくささを助長する。髪のかかり具合に、しなくてもいい計算を感じる。大きな目は・・伏せるにしてもまばたきするにしても視線を移動するにしてもすべて開けっぴろげ。わざとらしい。口も意味ありげに半開き。口で呼吸してるみたいな。彼女はある意味こういう映画にはぴったりだ。ものすごく謎めいているように見せるが、全然謎めいていない。何でもかんでも丸出し。半分寝ていてもわかる。うん、こいつ絶対裏切る・・そうよ、出てきた時から顔に書いてある。深さや奥行きのない表面的な演技。さて、テリーにとってはパーティの間だけいてくれればいい奥さん。余計なこと言わず口を閉じているだけの分別さえあれば容姿なんか関係ない。捜査が行き詰まっているのは確かだが、彼は誰とも組む気はない。一人でやるつもり。何回つかまえても出てきてしまうサイモンを、何とかしたいと思っているが、自分の命まで犠牲にするつもりはない。ましてパートナーのせいで危ない目に会うのはまっぴらごめんだ。だから細かくいろいろ細工する。・・こういうのってもっとハデに、スマートに、効果的に描写できる。例えば「ボーン」シリーズのように。ジェイソン・ボーンの鮮やかな手並み!その代わり動体視力必要だが。こっちはそんなのいらない。わりとのんびり描いてくれる。

犯罪潜入捜査官3

別になくてもいいシーンだ。でもちゃんと見せてくれてうれしい。だってそうでしょ。今我々はここでこうしてのほほんと生きているけど、実際はとても危険。盤石じゃない。安全だと思い込んでる、思い込まされてるだけ。ある日突然安全じゃないってわかる。津波が来るなんて・・原発事故が起きるなんて・・。そこまでいかなくてもふとまわりを見渡せば・・メール打ちながら歩いてる人とか、フラフラ蛇行する二人乗り自転車。いやホントみんな無防備、無頓着。話を戻して、テリーの用心深さは半端じゃない。他の人から見れば滑稽ですらある。何もそこまでしなくても・・。いや、でもホント必要なことなのよ。「パニッシャー」の主人公もそうだったけど、生き延びるためにはルール、備えが必要。テリーは入口のドアに小さなテープ貼ってる。留守中誰かが忍び込んだらわかるよう。ドアにはカギがいくつも・・これ常識。部屋の中はちらかってるけど、これにもたぶん意味があるのだ。まっすぐ歩けないし、すぐ何かにぶつかる。忍び込んだ誰かは何かにぶつかって山を崩し、元通りにすることは絶対できない。テリーはどういうふうにごちゃごちゃしてるか、頭の中に入ってる。あの歩き方から見て、たぶん暗闇でも山を崩さない。アンテナの角度、マッチの置き場所。さてスーザンはありきたりなタイプだ。やる気満々だし、対等でないと・・つまり何でも知ってないと承知しない。「悪いけど」「私これでもいちおう」・・セリフもお決まりだ。何にでも頭を突っ込み、でしゃばり、主導権を取りたがる。「悪いけど」と帰りかけた彼女を追いかけ、協力を頼み込むのは映画だからだ。いやそれくらい彼女は物事をぶち壊すって見え見え。囮捜査の心得をテリーが言って聞かせるのは、その後の展開を思えば釈迦に説法だ。つまり・・ネタばらししてしまうと・・スーザンは実はFBIの潜入捜査官。ある意味テリーよりずっとうわて。ずっと前からサイモンに近づき、信用を得ているのだ。テリーが半年サイモンのまわりを嗅ぎ回っていながら、彼女の存在に全く気づかないのはおかしい・・などと、ほじくるのはやめましょう!とにかく彼女の言動はいちいち見ている者の神経を逆なでする。あんなのがうろうろしていても事件が解決するのは映画だからだ!

犯罪潜入捜査官4

さて、夫婦なのだから・・とザックがアパートを用意。買い物に出かけるシーンがまた!すばらしいんですわ。テリーは買い物リスト持っていく。スーザンの方は、どうせ仮の姿なんだしインスタント食品でも・・とか軽く考えてるわけ。彼女の正体が何であれ・・つまり囮捜査のエキスパートだったとしても、買い物のことまで考えていたかどうか。誰も自分達のことなんか見てないわけだし・・そりゃ自分は人目を引く美人なのは確かだが(絶対そう思ってる)・・いや、見ていたとして彼女はサイモンの手先という立場なんだから、サイモンの部下に見張られていたっていっこうにかまわないわけで。でもテリーは自分のやり方を通す。彼はスーザンの正体は知らないけど、でもそういうのに関係なく用心する。一瞬のスキが命取りになる。あの彼・・助けてやれなかった彼・・あの姿は将来の自分かもしれないのだ。自分のミスでああはなりたくないし、誰か・・例えば今隣りにいるバカ女のせいでそんなことになるのはもっと嫌だ。こういう仕事をするには完璧なウソつきであることが必要。例え一時的な夫婦だったとしても完璧にやらなければならないのだわかったか。テリーはスーパーマーケットの片隅でスーザンに説教するが・・ちょっと声が大きすぎる気もするが・・聞かれたらどうする・・でも映画だから。とにかく彼の言葉は映画を見ている我々に向かって発せられていると言ってもいい。つまりそれだけ潜入捜査官は大変だってことだ。地味で危険で退屈で実りがない。例え悪党をつかまえたとしてもすぐ出てくるし、出てこなくてもすぐ次のが現われる。それでも誰かがやらなくちゃならないわけで。彼が苦労してるのにチャラチャラしたのが横から入ってきて勝手な行動取りゃ・・そりゃ頭にきますわな。ねえテリー、女房はあいにく実家に帰っていて・・ってなぜ言わなかったの?買い物から帰るとなかみを流しにぶちまける。そう、スーパーで芝居して終わりじゃないのだ。全部新品、封を切ってないなんてありえない。使いかけでなければおかしい。食器だってそう。使い捨て容器ばかりじゃ怪しまれる。ああこのこだわりぶり!よくぞここまでちゃんと描写してくれました。そりゃ表面だけそうやってもちょっと詳しく調べれば・・結婚届けとか・・すぐばれるだろうけど、そこまでほじくるのはやめましょう。

犯罪潜入捜査官5

それにしてもいちいち言い聞かせ、説明しなくちゃならないんだからテリーも疲れるよな。それに・・説教してもあんまり聞いてないみたいだし。もちろん魅力的な美女を目の前にしてテリーがフラッとなるのはお約束。テリーだめだよこんなのによろめいちゃ。パーティでは夫そっちのけででしゃばるし、物事を複雑にするし、いやに物慣れてるし、サイモンの態度もおかしい。ということで早々に彼女の正体・・サイモンとのつながりも見えてくる。もちろんそれだけじゃ底が浅すぎるので、その裏にもう一つ実はFBI捜査官というのを持ってくる。テリーはスーザンだけでなく、ザックにも詳しいことは言わない。ザックのことは疑ってなかったけど(見ている我々には彼には裏があると早々にわかる)、それでも全部は言わない。例えばタレコミ屋ジョジョのこと。言わないのに彼がタイミングよく殺されたってことは、まわりに裏切り者がいるか盗聴されてるってことで。そのうちFBIがウロウロしてるのに気づく。グラニン捜査官役の人は「ゴースト・ハウス」に出ていた。グラニンによれば、サイモンの命狙ってるのがいるとのこと。ここらへんはよくわからない。テリーが急いで注進に行くと、何とスーザンがサイモンとランチ中。家で大人しくしているはずなのにぃ~。サイモンによれば、スーザンは見かけ倒しのくだらぬ女とのこと。あらアンタ人を見る目があるわねえ・・思わず感心しちゃった。いえもちろんサイモンとスーザンはぐるだから、これもテリーに聞かせるためのウソですけどね。と言うか、スーザンはサイモンに近づくためにどの程度まで・・情婦とかそこまで行っちゃってるの?そういうのがなくてサイモンの腹心にまでのし上がるには何か功績上げなくちゃならないけど、そういう目立ったことすればこの半年の間にテリーが気づくはずで・・。あッ、またほじくっちゃった。わざわざ注進しに行くテリーの行動も不可解。だってその情報どこから得たのかって必ず聞かれる。答えられないから疑われる。その時の言い訳も用意しないまま、ただ行くかな。それと誰かがサイモンを狙っているのならかえって好都合じゃん。何で知らせて用心させるのよ・・と、私なんかは思うんですけど。そうでもないのね。ちゃんとつかまえて裁判にかけてと思っているのか。

犯罪潜入捜査官6

さてサイモンは思い当たるのがいたらしく、その男・・バーテンのレイをテリーに殺させようとする。テリー君とんだ藪蛇。仕方なく肩を撃って取り繕おうとするんだけど、レイのバカが反撃してきやがった。結局サイモンの部下が蜂の巣にしてしまう。何をやっても裏目に出るテリー。ふと壁を見るとレイの家族の写真がぁ。いやホント気の毒で・・レイのことじゃなくてテリーのことですけど。彼が直接手を下したわけじゃないけど、死者を出したことでショックを受ける。だからぁ・・何で注進したのよ。こういう状態って今までにもあったはずで。今回違うのはそばにスーザンがいること。もちろん「仕方なかった」とかあれこれお決まりの慰め言うけど、もしテリーが癒されたとしたらそれは映画だからで。普通は言葉かけられればかけられるほど気分がどよ~んと。だって薄っぺらいんだもの彼女。やることなすことすべてウソくさい。ついでにテリーは父親の話もする。これがまたお約束、使い古した内容。父親も警官だった、彼が子供の頃理不尽にも殺されてしまった、彼が潜入捜査官になる決心をしたのはそれがきっかけ・・いや~それしか思いつかないんですか。精神的に落ち込んでいる彼は「君のこと愛してるみたいだ」とポロッと言う。ここもいいですな。「愛してる」じゃなくて「愛してるみたいだ」。見てる人全員「そうそう、本当に愛してるんじゃないのよ。気がするだけよ。すぐ目が覚めるわ」と思う。二人にはあんまり仲良くなって欲しくない。だって彼女が裏切るの見え見えなんだもん。テリーにはこれ以上悲しい思いして欲しくない。そりゃ最後にはFBIってわかるけど、サイモンの手先・・と引っくり返って、さらにもう一度引っくり返るかなあ・・と思いながら見てましたよ。引っくり返すのはこういう映画のお約束だけど、そのぶんつじつまも合わなくなってくる。後半イチャイチャが入り始めるがあまり見たくない。潜入捜査の方にもっと力を注いで欲しい。でも作り手は主人公の心のゆれも描きたいんだろうなあ。テリーはスーザンに引かれつつも、眠っている間に見る夢では彼女を疑っている。彼女の言動やこれまで起こったことを考えてみれば、不審な点がいっぱい。

犯罪潜入捜査官7

スーザンの服・・警官の給料じゃ買えない高価な服とか。今頃になって彼女の態度がよそよそしくなるのもおかしい。サイモンの別荘に招かれた二人。通された部屋には彼の大きな肖像画。こんな悪趣味な絵を前に何でイチャイチャ?同じイチャつくにしても、絵の裏側調べてからにしろッ!・・と言うか、スーザンは前にもここへ来たことがあって、カメラとかないってわかってる?テリーはすでに彼女疑ってるんでしょ?何でイチャつくの?何かいちゃもんばっかりつけてますな。テリーは追跡装置ついてないかどうか二度ほど車調べてたけど、一つ見つけてやめちゃうものかな。他にもついてないか一通り調べるはずだが。話を戻して別荘でのくつろぎのひととき。スーザンはうまくサイモンを誘導し、殺人の実行(冒頭命乞いしてた男性の件)を録音するのに成功する。内容を確認できれば任務は終了だ!ちなみにテリーはいつも銃を二丁携帯していて、そのうちの一丁にテープレコーダーを仕込んである。だから撃つことはできない。サイモンが射撃をしようと言ってくるのが、この映画で一番ハラハラするシーンか。弾が詰まって調子が悪いと言い訳するが、見せてみろ・・と近づくサイモン。いやもちろんうまく切り抜けますけどさ。早々に別荘から引き上げる二人。うそみたいにうまくいった!今まで録音したテープを一人で取りに行ったテリー。もちろんスーザンがつけてくる。サイモンも現われる。テープが階段から落ちるシーン、その後の冒頭の男と同じ運命たどりそうになるテリーのピンチ。いよいよ悪夢の再現だ。ただ彼はこうなることは・・サイモンとスーザンがぐるなことは予想してたはずで。テープのコピーは取ってあると言ってたけど、打った手はそれだけ?命を賭けた勝負に出るにしてはちょっとコマ不足。サイモンが殺人のことしゃべったのはわざとだけど、彼はテリーの正体前から知っていたわけで。今まで泳がせておいたのはなぜかな。今回のテープと同時に今までのテープも回収する気だったのかな。テリーのピンチも、スーザンのためらう顔うつすので、土壇場でサイモン裏切るってわかってしまうのでドキドキしない。その後はハデな銃撃戦。警官が駆けつけたやれ助かったと思ったら・・何とジョジョを殺したヤツだ!ここは意外でよかった。ザックは・・まあ思った通り。

犯罪潜入捜査官8

サイモンは警察内にも勢力伸ばしていて・・最初はテリーも仲間に引きずり込むつもりだったらしい。そのうち弾切れとなりテリーとスーザンは大ピンチ。ここは確かテリーが借りてる倉庫だよね?何も・・武器とか・・用意してないの?で、大ピンチだってのにこの二人何をするかと思えばキスですよ。アホか!もっと生き延びるため知恵をしぼれ!もっとあがけ!いやもちろんそこへFBIがなだれ込むんですけどさ。まあテリーが助かるんならFBIでもアナログ終了に伴う駆け込み客でも何でもなだれ込んでくださいッ!サイモン、ザック、殺し屋警官みんなまとめて逮捕され、めでたしめでたし。テリーは本当はフィルという名前で、スーザンは本当はアリソンという名前で、お互い改めて名乗り合って。お互い改めて・・と言うかすでに恋に落ちていて(ドッボーン!)。ボーイ・ミーツ・ガールですな。たぶんテリーはこれまで積み重ねてきた苦労の成果を、FBIに横取りされちゃうと思うけど。だってスーザンが手柄譲るとは思えない。あたしの方がずっと前から潜入していたのよッ!この二人がうまくいくとは思えない。スーザンの方が強すぎる。これからもばりばり仕事するだろう。テリーが主夫になるのなら別だが・・(家庭管理うまそう)。健康そうで目がギョロッと大きくて、開けっぴろげな肉食系スーザン。逆にテリーはなまっちろく、ヒゲはきれいに剃ってあり、がつがつしたところのない草食系。映画のトーンは暗く地味だが、スーザンのおかげで明るくはっきりした雰囲気に。スーザンを別の女優が演じていればこの映画もずいぶん印象が変わっただろう。と言っても別にエスポジートを非難しているわけじゃない。サイモンのセリフにもあったように、作り手は「見かけ倒しのくだらぬ女」を要求していたのだから。・・あれこれ書いてきて、ほめるよりけなしの方が多かったけど、でも本当に気に入ったのだ。人が死んでも眉一つ動かさないとか、撃てば必ず当たるとか、悪夢なんて見ないとか、そういうスーパーマンは現実にはいないのだ。いつ果てるともしれない地道な努力の積み重ね、多くの場合成果が出るとは限らない・・っていう描写がね。心にしみ入るんですわ。は~出会えてよかった・・。