復讐のセクレタリー

復讐のセクレタリー

これは劇場未公開のようだ。いかにも単館向きに思えるが。「譜めくりの女」に似たムード。いかにもおフランスらしく、復讐も静かで深く、エレガント。ギャーギャーわめいたり銃を撃ちまくったりはしない。主演はナタリー・バイ。たぶん見るのは初めて。60代半ばを過ぎ、アップになればシワだらけなのだろうが、適当な距離と照明のおかげでアラは見えない。冒頭、夜、雨の中、トマは陣痛に苦しむ妻オドレイを乗せて病院へ急ぐ。ほんの一瞬で事故は起きた。はねられたのはまだ若い青年。病院で妻は出産。男児で、レオと名付ける。同じ病院の別の場所では、息子セバスチャンの遺体に取りすがる母親マリーの姿が。どっちが悪いのでもない。ただ運が悪かったとしか言いようがない。九年後、トマの臨時秘書として採用されたマリー。冷静で有能で仕事はそつなくこなし、人あたりもやわらか。最初は勝手な真似をする・・と気分を害したトマも、そのうち頼りにするようになる。彼は妻とは別居中らしいが、理由は不明。レオは彼が育てているが、仕事との両立はかなり大変。九年たってるにしてはトマは若すぎる気もするが、演じているマリック・ジディとかいう人は1975年生まれ。若く見えるのね。都市計画課にいるので、公務員かなと思ったが、マリーの面接の時正社員というセリフがあったから、会社なんだろう。フランス映画ではよくあるが、職場はガラス張りで明るく清潔。ぴかぴかで機能的。マリーの背景は全く説明されない。夫はいないのか。元々秘書なのか。それともトマに近づくため秘書の勉強をしたのか。会議の時、トマの助手ピエールが秘書にちょっかい出しているのに気づく。彼のミスを口実にトマの家を訪ね、レオと会う。セバスチャンが死んだ日に彼は生まれたのだ。レオはマリーにとっては息子の生まれ変わりだ。そう書いている人がいて、なるほど・・と思った。私自身は見ている時は全然気づかなかった。ピエールはマリーに陥れられたと怒るが、秘書の件をほのめかされると、黙るしかない。時々マリーは荒っぽい行動に出る。女性社員をトイレで脅していたけど、あれはどういう意味なんだろう。自分のことをうわさし、笑っていると思ったからか?

復讐のセクレタリー2

彼女はトマのコーヒーに何か垂らしていたが、あれは何だったのだろう。彼女がトマに復讐しようとしているのはわかる。まず秘書として近づき、信用させ、家にも入り込む。それが一般的な筋道だ。誘惑して夫婦仲を壊すという手もあるが、トマはすでに別居している。それに彼女は彼の母親くらいの年だ。いくら何でも色じかけは無理だろう。トマが帰宅すると、マリーが眠り込んでいるシーンがあって、おフランスなら相手が老女・・もとい、熟女もありかなと思ったが、何事もなし。少しずつ毒を盛って、トマを弱らせるのかなと思ったが、それもなし。何をやろうとしているのか、だんだんわからなくなる。でもこれは私が彼女の目的はトマ一家への復讐と思っているからそうなのであって、レオの母親になるのが目的と思えば・・。じわじわとからめ手から攻めているのだとすれば・・。彼女はレオに執着し、愛情深く、でも自分の思い通りにしようとする。レオがなかなか彼女になつかないのは、そういう束縛めいたものを感じ取って、警戒するからか。オドレイも彼女に会ったとたん警戒心を抱く。あの女はおかしい。逆にトマの父親エリックはマリーに一目ぼれする。妻をなくし、長い間味気ないやもめ暮らしを送ってきたが、知的で物静かでやさしそうなマリーは、余生を共にするにはうってつけ。マリーがピアノを弾きながら、やさしい声で歌うシーンがすばらしい。子守歌のようで、心が休まる。男どもはうっとりと聞きほれる。彼女がエリックと結婚する展開にはちょっとびっくりした。エリックに愛情を感じるはずはなく、ただただレオのそばにいるための手段として?トマは父親の幸せを心から喜ぶ。あの時手を出さなくてよかった・・とも思っているはずだ。それほどマリーは男にとっては魅力的なのだ。そういう描写が不自然ではないのはおフランス映画だからだ。オドレイはもちろんおもしろくないだろうが、かと言って何かするわけではない。向こうの人は結婚するにしても身元調べとか何もしないのだろうか。トマは秘書であるマリーがどこに住んでいるのか知らない。臨時の秘書だから、どうせ短期間・・と、気に止めなかったのか。

復讐のセクレタリー3

休んでいた秘書が出てこれるようになって、マリーはお払い箱になる。その時も、正社員になる気はないかと声をかけられる。ボスも彼女の魅力にまいっているらしい。でも、エリックの心をつかむのに成功した後なので、申し出は断る。実際は彼女はトマのすぐ向かいのアパートに住んでいた。窓からはトマの家の中が見える。結婚式には彼女の方からは誰も出席しない。本人達さえオッケーなら、過去も家族も関係なしってか?あたしゃてっきりオドレイが調べ回るかと・・。それにしても彼女とトマの仲はどうなっているのかね。誕生日とか発表会とかレオに関係することがある時には彼女も来る。トマは休暇には彼女も一緒に旅行を・・と考えているらしい。つまりよりが戻りそうな雰囲気なのだ。彼女は書店を経営している。ある晩、マリーはエリックに薬を盛って眠らせ、閉店時刻を狙ってオドレイの店に現われる。彼女を刺し殺し、何食わぬ顔で戻る。レジの金を奪っていたようだから、強盗殺人に見せかけるつもりだったのか。もちろんトマやレオには大ショック。特にトマは妻とはうまくいかなくて別居中だったし、過失致死の前科があるから、警察にも疑いの目で見られてしまう。この時も不仲の理由は言ってなかったな。過失致死の前科ってことは、服役したのかな、それもよくわからない。オドレイを殺したのは、母親がいなくなれば、トマが困ってレオを祖父母に預けるだろうと思ったからかな。このままトマとオドレイがよりを戻すと、こっちはこっちでやるからお父さんとお義母さんはご心配なく、二人でお幸せにとなってしまうからかな。二人がなかなか訪ねてこないので、マリーはいら立ち始める。エリックに当たったりする。ありゃまこんなはずでは・・夫より孫の方が大事なのかい・・と、エリックも思ったことだろう。その前に、かわいがっていた犬のゾロが死に、レオはマリーが殺したと言い張る。彼はなぜそう思ったのだろう。犬とばかり遊んでいて自分のところへ来ないから殺したと?でも、レオを悲しませ、自分を嫌いにさせるようなことをマリーがしますかね。老犬だったからいつ死んでもおかしくなかったというのが妥当な線?次にマリーはエリックを殺す。この頃になると彼女の異常ぶりが目立つ。

復讐のセクレタリー4

トマとレオが荷物を取りに来るが、マリーはエリックは買い物へ行っていると嘘をつく。この後トマは荷物作りをしていて、ペンダントに気づき、愕然とする。事故の直後、倒れた瀕死の青年が首にかけていたものだ。実はこれ、マリーがレオにプレゼントしたもの。裏にちゃんとセバスチャンの名前と生年月日が彫ってある。そのうちオドレイかトマが気づくに決まっているのになぜあげたのかな。レオがセバスチャンの生まれ変わりだから?で、これでマリーの正体も目的もわかったから、少しは用心すると思うけど・・。料理中で包丁持ってる相手に何で近づくのかね。で、刺される。これじゃああまりにも芸がなさすぎだが、その後力を振りしぼってマリーを刺す。で、それで力尽きたようなので、マリーがとどめ刺すかなと思ったが・・そうすりゃ一家皆殺し(レオまで殺すとは見ている者も思ってない)で復讐完了で。そしたら・・マリーはレオを車に乗せて走り出す。刺された老女より、9歳の男の子の方がすばしこいと思うけど、でも何もできなくてマリーの言うがまま。彼女がどこへ行こうとしてたのか、何をする気だったのかは不明。こうなりゃレオを道連れに川に飛び込むとか、向こうから来た車と衝突するとか、最後に一花咲かせるかと(←?)期待したけど何もなかったな。車を止めてご臨終。ラスト・・担架に乗せられたトマにレオが駆け寄る。トマは助かったのね、よかったよかった。でもエリックの死体は?こうやって見てくると、セバスチャンが死んだ時点で、マリーはおかしくなっちゃったんだと思えてくる。病院に入院してたけど、精神病院かも。九年後に現われた時には正常に見えるけど、それでもどこかに狂気が潜んでいて、時々顔を出す。トイレでの件だって、半分は妄想のように思える。多くの場合マリーは微笑を浮かべている。ニコニコしているのではない。目を少し細め、口角が少し上がる。モナリザのような謎めいた微笑。彼女のような母親と二人きりの生活だったら、セバスチャンも息苦しかったのでは?愛情の深さのせいとわかっていても反発したのでは?あの日、トマの車の前に飛び出したのも、母親と口論して興奮してまわりが見えてなかったとか。