バリスティック

バリスティック

この映画の主人公はルーシー・リュー扮するシーバーである。いちおうアントニオ・バンデラスも出ているが、印象に残るのはリューである。バンデラスの役は他の人がやってもかまわないが、シーバーの役はリューでなければならない。辞書によれば「バリスティック」とは弾道という意味である。確かに撃ちまくっている。スローモーションで念入りにうつしてくれたりする。でも爆発も多い。何もかもふっ飛ばす。ついでにストーリーまでふっ飛ばしている。ふっ飛ばしたから何もない。いや、ふっ飛ばす前から何もない。設定・背景・ストーリー、何もかも大破。やってることは意味がない。妻ヴィンを失い、酒びたりの元FBIジェレマイア・エクス(バンデラス)。だがヴィンは生きていると聞かされ、その居どころと引き換えに仕事をさせられる。ベルリンの研究所で開発中の夢の暗殺兵器ソフトキルの試作品が盗まれた。暗黒の王子ロス(レイ・パーク)の仕業だが、チェックにも引っかからず、どうやって持ち出したのかわからない。黒幕は国防情報局(DIA)の闇工作担当ガント(グレッグ・ヘンリー)。彼はエクスにはヴィンが死んだと思わせ、ヴィンにはエクスが死んだと思わせ、ヴィンと結婚し、息子マイケルの体にソフトキルを忍ばせ、国外に持ち出したのだ。しかしマイケルはシーバーに誘拐されてしまう。シーバーは元DIAでガントの部下だったが、息子を殺され復讐に燃えているのだ。まあこういったストーリーらしいが、そんないいかげんなことで生き別れになって、七年もたって、荒れた生活して身も心もボロボロのはずなのに、チョー簡単に復帰し、危ない目に会ってもへっちゃら。車にぶつかったり、崩れてきたものの下敷きになったり、エクス君数回は死んでいるはずだが・・。もっとすごいのがシーバー。どんなに撃たれても弾は当たらず(歩く宝くじかよ)、車が引っくり返ってもぴんぴんしている。息子の父親は不明。シーバーなら父親いなくたって子供作れる。シーバーならできる。それくらいチョー自然的存在。彼女は恐ろしく回りくどい方法を取る。マイケルを誘拐し、体内からソフトキルを取り出す(どうやって?)。それを入れた弾でガントを撃って、スイッチ押せばそれで終わり。ソフトキルが体内で動き出し、ガントを内側から殺してくれる。チョーお手軽。ただこれにエクスの話を絡ませなければならない。

バリスティック2

エクスは友人ガントにだまされたおバカさん。ヴィンが死んだと思い込んでるおバカさん。シーバーはこのエクスの目を覚ましてあげるため、いろいろちょっかいを出すのだ。あなたはガントにだまされている。ヴィンもガントにだまされている。マイケルは実はあなたの息子である。そう言ってしまえばコトは簡単なのだが、それじゃ映画にならないので、何も言わない。言わないままハデな銃撃戦、ハデなカーチェイス、ハデな護送車襲撃、ハデなカークラッシュその他モロモロをくり広げるわけだ。全然意味のないことをやって時間を稼ぐわけだ。中でも一番無意味なのは、エクスに話を持ち込んできたFBIの副長官フリオをシーバーが狙撃すること。弾が1センチそれていたから命はとりとめた・・ってアンタ。そもそもフリオを撃たなきゃならない理由がどこにあるってのよ。それとDIAの扱いがいいかげん。国の正式な機関のはずなのに、まるで暗殺集団みたいに描かれている。銃撃戦や爆発で彼らが犠牲になっているのを見て、我々はどう反応すればいいのかな。ガントやロスはなるほど悪人だけど、下で働いている人全員が悪人とは限らないでしょ。でもこの映画はそんなこといちいち考えちゃいけないんだろう。銃を撃ちまくり、次々に爆破し、それで終わりにしなくちゃならない。エクスは妻と再会できたし、いるとは思ってもみなかった息子にも会えた。こんなにかわいくて賢い息子がいたなんて!感動しろって言うんでしょ?いいわよ、感動してあげるわよ。でもクールな作りじゃないわね。どうせならマイケルはガントの息子ってことにして欲しかった。マイケルはエクス達をだまし、ヴィンを手に入れ、権力やお金も手に入れようとした悪人ガントの息子だけど、半分はヴィンの血が流れている。いいよ、オレの息子として育てるよ、育てようじゃないかえ皆の衆~♪・・とこういう結末であって欲しかった。でも・・だめなのよね・・甘い結末にしちゃった。それらに目をつぶり、ルーシー・リューの存在一点にしぼれば・・この映画最高にいかしているのよ。たいていの映画での東洋人女性の役割は決まっている。癒してくれる、従順、庇護すべき存在、神秘的。だがシーバーは男を癒すために存在しているわけではない。従順ではないし庇護されるのではなく庇護する方。この映画で常にリーダーシップを取っているのは彼女である。男はみんな彼女に振り回される。

バリスティック3

神秘さは十分にある。彼女はすべてを拒否している。ほとんどしゃべらないし無表情。体から発散するものが少ない。白人女性ならもっと伝わってくる。伝えようとする。見て!聞いて!わかって!シーバーの怒りや悲しみは封印されている。ほとんど表に出ないが、それ故に我々は感じ取る。一枚の写真からあれこれ想像する。たいていの登場人物はしゃべりすぎるし、感情をむき出しにする。だからシーバーを見るとホッとする。彼女の存在によってこの映画には価値が出た。彼女がいなければこの映画はズドンズドンドカンドカンだけのからっぽ映画である。ラストの潔い姿の消し方もよかった。たった一つ不満なのは長い黒髪。見ばえをよくするための他に、スタントウーマンと入れ替わってもばれないようにああいうサラサラなびかせヘアにするのだろう。だがプロの殺し屋はそんなことしない。髪をつかまれたらどうする。髪が何かに絡まったらどうする。リューはちゃんとアクションのできる人だと思うが、それでも髪で顔が見えない時はスタントウーマンだというのがバレバレ。細切れだしね。・・てなわけでバンデラスのこと全然書いてないけど、書くことないのよね。「レジェンド・オブ・ゾロ」でくたびれていると書いたけど、この映画ですでにくたびれているの。もうちょっと鋭い感じ期待していたのに。ガント役のグレッグ・ヘンリーは何となくトム・ジェーン風。悪人には違いないんだけど、ヴィンに横恋慕して汚い手使って奥さんにしたんだけど、ヴィンはやっぱりエクスのことが忘れられなくてうまくいかない。マイケルがエクスの息子だって気づいているのか不明だが(シーバーは何で知っているのかな)、家庭にめぐまれないのは何となく気の毒な気がする。レイ・パークのロスはシーバーにやられっぱなし。映画だからそうなるけど現実には男の方が強いと思うよ。エクスに協力するリー捜査官役のテリー・チェンは「リディック」や「アイ,ロボット」に出ている。前にも書いたけどこういう東洋系の人って流れている血もサラサラって気がする。うつっただけで画面がさわやかになる。チェンはすっきりとハンサムな顔立ちだからなおさらね。フリオ役のミゲル・サンドヴァルは「くちづけはタンゴの後で」のパコ。アゴがなくて気持ち悪い顔。後半出てこないので助かった。てなわけで・・「ルーシー・リューは最高!」映画ですよ。