フライトプラン

フライトプラン

公開一週目のレディス・デー(金曜)に見に行った。さすがと言うべきか・・こんでいた。こういう時に行くと前の人の頭が邪魔でスクリーンが見にくいし、女子トイレは行列するし・・いつもだったら避けるところだ。でも見に行きましたよ。私は別にジョディ・フォスターのファンじゃないので、久々の新作だから見に行ったわけじゃない。ストーリーに引かれたわけでもない。まあサスペンスものだから、いずれは見に行っただろうけど、こんなに早くは行かない。でもって見に行った理由ですけど・・ピーター・サースガードのせいですの。「K-19」に出ていたらしいがよく覚えていない。でも「フライトプラン」の予告で彼がうつったとたん「よしッ!見に行くぞ!」となったわけよ。だってぇ・・こんなうさんくさい顔つきの人ってなかなかいないでしょ(特に若い人で)。ジョディがいくら偉大でも、彼女だけじゃムリ。やっぱ共演者がクセモノでなくちゃサスペンス盛り上がらない。普通の客かと思ったらジョディの腕ねじり上げているし、がぜん興味がわいて、それでホイホイ出かけて行ったわけですの、混雑覚悟で。上映前の予告で「ジャーヘッド」やって、これにも出ているのねピーター。お客がたくさんいると何となく一体感のようなものを感じますな。サスペンス映画としてよくできていて、おしゃべりするアホや寝ている者もいない(たぶん)。みんな集中して見ている。途中で犯人はあっさり正体を現わすが、さほど失望感もなかったのでは?とにかく久しぶりに見ている方の熱気を感じましたよ(私の場合まわりはいつも寒々としてますから・・)。さて・・飛行機という密室の中で少女がいなくなる。見つからないはずはないのに、なぜか見つからない。少女はどこへ消えたのか。捜す母親の頭がおかしいのか。私の印象としては・・「パニック・ルーム」に似ているなあ・・と。夫との関係(かたや離婚、かたや死別)、密室(かたやパニック・ルーム、かたや飛行機)、守らなければならない娘(かたや病気持ち、かたやまだ6歳)。絶体絶命の危機を乗り越え、何と強く偉大な母!今回その強さは「パニック」のヒロイン、メグ以上である。私が「パニック」で一番印象的だったのは、メグが追い返したにもかかわらず、自分の勘を信じて残って見張ってくれていた警官の存在。

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ヒロイン一家が生き残れたのは、この警官と、100%悪人にはなりきれなかった犯人の一人のおかげである。「パニック」はこの二人の扱いがあいまいで、十分な説明も後始末もしておらず、母娘のノーテンキな会話で終わるため、不満が残る。今回も同様で・・つまり「ありがとうございました」も「おかげさまで」もないので不満が・・。今回のヒロイン、カイルは「パニック」以上に孤立無援。大勢の人に囲まれていながら孤独。勘の鋭い警官も良心的な泥棒も出てこない。だから「パニック」以上に強くならなければならないのよ。でも・・こんな役ばっかやってていいの?ジョディさんよ・・という気もする。この次はシングルマザーの合衆国大統領でも演じてください。部下みんな男でさ。機長リッチ役はショーン・ビーン。この人最近人気が出てきたようね。「ロード」のせいですか?渋くていい俳優さんだけど、このリッチは・・何ですかフニャフニャと・・。サスペンス映画に出てくる機長は鋼鉄の意志持ってるのがフツー。チャールトン・ヘストン、ロイド・ブリッジス・・アラン・ドロンでもいいけど。冷静沈着、悪には屈しない、メチャ頼りがいのある男の中の男でなくっちゃ。でもねえ・・何たってこの映画ではジョディ扮するカイルが鋼鉄の女ですから。強い機長なんか出てきたら話が進まないのよ。飛行機が舞台で機長がヘナチョコだと、何か違う~って感じがして仕方がない。カイルは機長に対しても私服航空保安官カーソン(ピーター・サースガード)に対しても態度がでかい。ましてスチュワーデス(フライトアテンダントという呼称はどうもぴんとこない)なんか・・。カーソンには職務怠慢だと言い、機長にはあやまれと言い・・何なんでしょういったい。カイルは明らかに被害者である。夢オチでも宇宙人でもないとしたら(「王様のブランチ」でそう紹介していた)、彼女は事件に巻き込まれたのだ。夫の棺が事件に関係しているのは容易に想像がつく。離陸前、貨物室に運び込まれる棺をわざわざうつす。窓から見ていたカイルと娘のジュリアは悲しみを新たにする。でも見ているお客は(サスペンス映画である以上)棺に何か細工があるはず・・と確信する。カイルが眠り込んでいる間にジュリアがいなくなるが、誰も彼女のことは知らないと言う。信じてもらえないカイルはひとりぼっちだ。観客の同情が集まるところだ。

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しかし・・彼女は強い。偉大な母である。同情なんかいらない。最後には娘を助け出し、みんなの前に(これ見たことかと言わんばかりに)現われる。歴史スペクタクルだったら、カイルには後光が差し、まわりの者は全員ひれ伏したことだろう。でも・・重ねて言いますけど・・いいんですか?こんな役ばっかやってて。普通なら観客はカイルを気の毒に思う。助けは現われないものかしら・・と思う。ハッピーエンドになれば(なるに決まってるんだけどさ)よかったわねえ・・とホッとする。でもカイルの場合気の毒じゃないの。乗務員や乗客が気の毒。犯人さえ気の毒。何でこうなっちゃうの?それにしても他の乗客にとってはとんだ災難だった。トイレに行っちゃいかん、がまんしろ。酸素マスクは降りてくるわ、電気は消えるわ・・でパニック状態。乗客の一人は犯人・変態呼ばわりされる。またこういう時必ずキレる人間もいて(あんなふうにキレてばかりいて、今までよく生きてこられたわねえ・・)、騒ぎに拍車をかける。あまりにもカイルが騒ぎを起こすのでとうとう緊急着陸。もしかしたら家族が危篤・・とかでかけつける途中の人もいたかもしれない。でもみーんなガマンしなくちゃならない。高級車メルセデスをボコボコにされた人もガマンしなくちゃならないんでしょうなあ。だって娘が車の中にいるかもしれないと思ったんだもーん。車の一台や二台でがたがた言いなさんな、どうせ保険が降りるわよ。何たって私の娘が無事に見つかったんだからいいじゃないのよ!最新鋭のジェット機オシャカにしてもびくともしません。だって私が作ったんだもーん。誇り高く頭をもたげ、誰にも決してあやまりません。こんな人に誰が共感できます?反対に腹立たしくなってくる。そりゃ彼女は被害者で、憎むべきは犯人だ。でも・・まわりに迷惑かけたんだからあやまれ。全部自分が悪いんじゃなくてもあやまれ。皆さんのおかげで娘が助かりましたとお礼を言え。皆さんのおかげでなくてもお礼を言え。壊したものは弁償しろ。いやーアハハ、もう笑っちゃうわ、何でこんなふうに思うんだろ、日本人だから?でもさ、カイルは被害者だけど乗客達にとっては加害者なのよ。でもってちっとも力を貸してくれない乗客達はカイルにとっては加害者でもあるのよ。どっちか一方ってことはありえない。人間だから、同じ空間に居合わせているんだから常に相反する関係を持ってる。

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そういう時の潤滑油となるのが「ありがとう」や「すみませんが」や「おかげさまで」の一言だと思うんだけどなあ。信念を曲げず毅然としていることは難しい。でも不条理でもあやまることの方がもっと難しいと私は思うな。テレビで見たことあるけど、例えば原爆落としたって絶対にあやまらない。正しいことをしたという信念があるからあやまらない。あやまると信念がぐらついてしまう。信念がぐらつくということは自分のやったことが正しくないということにもつながる。だからその信念にしがみつく。そういうの見ると気持ちが暗くなる。正しいことをしているという信念が持てれば、きっとまた原爆でも何でも落とすのだろう。何かあるとすぐセラピストが出てくるのもアメリカらしい。メガネをかけたりはずしたり・・、もったいぶって「わかるわ・・」となぐさめる。あたしゃこのシーン半分呆れ、半分笑っちゃいました。信念を曲げないということは、曲げた時の衝撃も大きいということで、ポキンと折れた自我はプロのなぐさめを必要とするんです。まあとにかく主人公の苦闘に観客を同情させる、あるいは信念に共感させるというサスペンス映画の王道を見事にはずす展開にはびっくりしましたよ。これってわざとですか?それともアメリカなどの観客はああいうタイプに深く共感するんですか?拍手喝采するんですか?そっちの方がよっぽどサスペンスフルですぜ。は~日本人でよかった。てなわけで二回見たんですけどカイル見てると腹立ってくるのでカーソンばっかり見てましたの、ウフ。他にはスチュワーデスのステファニー役の人が浅丘ルリ子さんそっくりでびっくりしましたな。ジョディよりよっぽどインパクトあります。まあ最後はよれよれになっていましたけど。無理やりこじつけたようなストーリーだけど、細かいこと言わなければ十分楽しめる映画ですよ。乗客は他人の娘の失踪には無関心だったけど、カイルだって自分の身に起こったのでなければあんなに必死にはならなかっただろう。他の乗客の子供が失踪したんだったら、自分が飛行機の構造に熟知しているからってジュリアほっぽって捜索の先頭に立ったとも思えん。しょせんは他人事。ラストの待合室でのちぐはぐな雰囲気。よそよそしい雰囲気。そういう空気にしたのはカイル自身である。で、カイルはそのことを何とも思わない。ああ「パニック」の警官のような天の助けはホントまれにしかいない!

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感想を書き終わった後でまた見に行ったのよ。三回目をね。前にも書いたけどホントは「ゾロ」見るはずだったの。でもサースガードに浮気してました、ごめんねルーファス。その時も午前中なのに60人くらいはいて、やっぱヒットする映画って女性が多いなあ・・と。女性はグループで見に来るからね。もうストーリーもみんなわかってるから今回はひたすらサースガードを見てました。手前がセラピスト役のグレタ・スカッキで、後ろのサースガードがぼやけているシーンでも、ちゃんと彼の方見てました。ノベライズ読んで気になっていたところもチェック。カイル一家が住んでいたフラットの入口がうつっていたのは記憶していたが、彫像が欠けていたかどうかまでは気づかなかった。ノベライズでは屋上から転落する途中、夫は彫像にぶつかり、その衝撃で欠けたと書いてある。そのシーン、ああちゃんと欠けている。でもこのシーン見てどれだけの人が気づいただろう。普通ならカメラがだんだん近づいていって、欠けた部分を強調すると思う。ジュリアが外へ出るのをいやがったのもこのせいだ。玄関が言わば父の死に場所。でも映画はさりげなく通過してしまうから、彫像がうつる意味も見過ごされてしまう。DVDのコメンタリー聞くまで気づかない・・え?コメンタリー入ってないの?DVDもうすぐ発売ですよ、早いねえ。ヒットしていたのにあっさり公開終了。二番館での続映もなかったし、そのぶんDVD買わせようという戦略なのかな(考えすぎ)。もう一つのチェック・・カイルのせいで機内がパニックになった時、カーソンはカイルが姿消すのを目で追ってますな。前に見た時は、カイルだと気づいていないと思ったけど、ホントは気づいているんでしょ?すぐにあとを追わないのはカイルが棺の置いてある貨物室へ行くとわかっているからでしょ?でもノベライズだと彼はカイルにまんまとだまされたと怒っているのよ。おかしいなあ、カイルが行動起こすよう仕向けたのカーソンなんだから、本気で怒るわけないんだけどなあ。さてこの映画、緊迫感出すためなんだろうけどやたら息づかいを聞かせるのよ。動いたからハーハー言うのは自然だけど、普通にしゃべっている時まで聞かせるのはやりすぎ。特に機長はためらう感じ出すのにやたらハーハー言ってる。だからぁもっと冷静で毅然とした機長見たかったんですってば。こんなヘナチョコ機長見たくないんですってば。

フライトプラン6

私は別にショーン・ビーンのファンじゃないし、よく知らないんだけど、この人機長役にぴったりよね。最近スティーヴン・キングの小説「ランゴリアーズ」を読んだけど、これにも機長が出てくるの。だからビーンをイメージしながら読んでいたわ。ついでにイギリス人工作員はダニエル・クレイグをイメージして読んでいました。かなり長い小説で、一緒に収録されている「シークレット・ウインドウ」の原作読んだ後長いことほったらかしにしといたんだけど、読んでみたらこっちの方がおもしろかった。まあとにかくビーンという渋くて端正な俳優使っているんだから、「フライトプラン」の機長の描写はもうちょっと何とかして欲しかった・・と、そう言いたいわけですの。この映画のクライマックスはカイルが爆弾のスイッチ押すところだけど、あまり説明もなくいきなりそういう展開になって、しかもハッピーエンドになだれ込むから、お客は置いてけぼりをくったような宙ぶらりんのような。何がどうなったのかちゃんとわかったお客ほとんどいないと思うよ。・・で、この映画のもう一人(?)の主役は、カイル達が設計した最新鋭の旅客機。あんなふうに何もかも見せてしまって大丈夫なの?と心配になるくらい客室以外のところも見せてくれる。トイレから天井に抜けるとか、試してみるバカが出たらどうする・・なんて思ったのは私だけ?まあこのクライマックス部分を見て、私は「サンダーバード」のスカイ・トラスト号思い出していましたの。不時着などの緊急時に一番危ないのが燃料タンク。だからそれを切り離すことができるよう設計されているのがスカイ・トラスト号。でもそれこそ万に一つあるかないかの事態のために、わざわざそういう設計をするのか。実用化してすべての機に応用するのか。今回の「フライトプラン」での爆破って、ちょうどそういう事態。映画では何も説明されないけど、この飛行機は機体の一部が爆破されても、他の部分には影響が及ばないよう隔壁をものすごく強化しているんでしょ?カイルは設計に携わっていたからそのへんを熟知していて、イチかバチかの勝負に出たんでしょ?でもそういう万一の場合に備えての壁の強化が果たして実用化されますかね。爆弾の強度やしかけられる場所も特定できないのにそれだけの防護策取りますかね。それでなくても航空業界は経営が厳しいんだし・・。そんな余計なこと考えながら見ていましたの。