ブレス・ザ・チャイルド

ブレス・ザ・チャイルド

さて「陰陽師」は一休みして去年の暮れに見た「ブレス・ザ・チャイルド」について書く。東急3は「ゴッド」の試写会をやったところだ。いろんな意味で思い出深い。最初の回はお客は10人ちょっと。テレビで予告も見なかったし、新聞広告もなし。ひっそりと公開された。当時は「ハリポタ旋風」真っ盛り。「ブレス」の主演キム・ベイシンガーは2001年のラジー賞のワースト女優賞にノミネートされた。だからそんなにひどい映画なの?とちょっと心配だった。まあうちで購読している毎日新聞の批評記事はさほど悪くはなかったので、それで少し安心したのだが。ところで私がわざわざ渋谷まで見に行ったのは、ルーファス・シーウェルが出ているから。「ロック・ユー!」は見逃したのでせめてこれだけでも見ておこうと。しかし公開されたと思ったらもう最終日が決まり、しかも昼の二回しかやっていないではないか。よっぽどお客が入らないのね。さて内容は例によってキリスト教、サタン、善と悪の戦い・・で、こちとらにはピンとこない。例えばローソクにいきなり火がつくのはコーディの神秘的な力だとして、聖母マリアの像が涙を流すのは寒い部屋にたくさんのローソクがついたため、空気が暖まって、冷えたままのマリア像の表面に水滴がついたいわば結露現象じゃんか。この映画の欠点は善(天使)によって引き起こされる奇跡を、あまりにも気軽に描きすぎたことである。悪(サタン)によって引き起こされる災いはいくら描かれてもこっちはもう慣れっこだけど。悪の方はすぐ受け入れられるのに、善の方はこんなことあるわけないじゃん・・となってしまう自分にも悲しいものがあるが・・。枯れたユリの花(いかにもという形で出てくる。ユリというのも何か意味があるのだろうが)が生き返るところも、本来なら感動的なエピソードなのだろうが、あんなちょっと祈っただけでホイホイ神の使いが出てくるか?とかえってしらけてしまう。でもコーディの力で病気の女性が癒されるシーン(この女性の表情の変化の出し方はうまかった)や、クライマックスで天使が姿を現わすシーン(はっきりとした形を見せず、光で表現したのはとてもよかった)はけっこう感動した。主人公マギーの性格も好もしい。子供にめぐまれなかったために離婚され、看護婦として働いている。妹のジェナはヤク中で、生まれたばかりの赤ん坊を置いていなくなってしまう。

ブレス・ザ・チャイルド2

それでマギーが育てるが、コーディには障害があるため、せっかく恋人ができても障害児の面倒まで見るのはごめんと男の方から去っていってしまう。小さくため息をつき、「去る者は追わず」とあきらめのいいマギー。恨み言一つ言うでなし、コーディを愛し前向きに生きていく真面目で愛情豊かな女性をキムが好演している。コーディ役の女の子は気の毒なくらいみっともない顔をしているが、だんだんとかわいく見えてくるのが不思議。教会で「ママはお祈りがあるから静かにしていてね」と言われてこっくりとうなずくところなんか本当にかわいいなあと思った。見ていてH・J・オスメント君を思い出したが(不思議な力を持っていること、おびえるシーンが多いなど共通点がある)、彼のいかにも演技してますというクサさは彼女にはなく、自然なのがとてもよかった。さてお目当てのルーファスだが、残念ながらあまりよくない。あの強烈な目も独特のかすれた声もちっともいかされていない。マギーや子供を脅しても怖くない。子供を突き落とそうとしても最後には思いとどまるのを見て、それほど悪人じゃないんだ・・なんて思っちゃう。悪魔に魂を売り渡した悪人のはずなのに、小さな子供にやりこめられているのだから。怖さが中途はんぱなのはこの映画の特徴でもある。途中でクリスティーナ・リッチが出てきてルーファス一味が「人の運命も自由にあやつれる」なんて言っていたけど、説得力のあるシーンがないので見ている者は納得しない。暴力的なシーンはあるが、それだって悪魔崇拝に限らず世界中どこでも昔から(もしかしたら今も)やってきたことでしょう?全体的に見てつきつめた問題提起があるわけでもないし、善と悪の戦いを見事に表現したわけでもない。なまぬるい映画という印象も受ける。ただ見ていて心にじわりと来る部分はあった。前に書いた病気の女性のシーンもそうだし、マギーの生き方もそう。映画の中心に据えられた強いけれども弱い母(この場合は本当の母ではなく育ての母だが)と、弱いけれども強い娘(はっきりとはわからないが大変な力を持っているらしい)の固いきずなが見る者の心に迫ってくる。それがクライマックスに達するのが、死んだマギーのところに天使が舞い降りてくるシーン。光があふれ、音楽が鳴り響いた時にはこっちもゾクゾクさせられた。マギーが生き返るのは俗っぽい展開ではあるが、まああまり突っ込んでもね。

ブレス・ザ・チャイルド3

ラストも中途はんぱで見ていて物足りなかった。これからのコーディの運命、とんでもない力を備えて生まれてきて、成長していくうちには恋もし、結婚もするだろうけど、普通の女性として暮らしていけるのか。何だか続編も作れそうな終わり方であった。あ、そうそう一つほめておきたいのは(日本の映画と違って)CGの見事なこと。あっちもこっちもではなく、ところどころでばっちり見せてくれるのがいい。最近使いすぎの映画ばっかりだから。マギーの家に現われたネズミの大群は必要だったとは思えないけど、最後の方のネズミが集まってサタンになるところはさすがで「ほー」と感心させられた。さて映画が終わって外に出たら「ハリポタ」の上映を待つ長蛇の列。上の階にある映画館でも上映しているんだけど、そっちは吹き替え版だろう。子供が走り回っていたから。どちらにしても朝からやれば館にとってはお金になるはずなのだ。それなのに(お客の入らない)「ブレス」をやってくれて感謝。超大ヒット作が出るといろんな映画にしわよせが来るけど(私みたいに)そういうのに興味のない者もいるんですからね。二回見てパンフレットも買って「見てよかった」と満足して帰ってきて、次は原作捜し。分厚い文庫本二冊は読みでがあるぞと期待してたら・・何じゃこりゃ、駄作もいいとこ。こんなひどい原作をよくまああそこまで「改良」して映画化したものだ・・と本心から思った。原作は大ブロシキを広げていろんな知識をこれでもかとひけらかし、何千年もの時と宇宙的な広さとあらゆる哲学、思想、宗教を盛り込み、・・で何をやってるかというと女一人と男二人の三角関係なのである。原作者が女性ということもあってメロドラマ的要素もてんこもり。映画のよいところは、母と娘(この場合姪だけど)とのきずなに焦点をしぼったこと。ルーファスの魅力はあまりいかされてはいなかったけどでもまあ満足。さて予告で「ロード・オブ・ザ・リング」をやったけど、私もう20年以上前にアニメの「指輪物語」見てるのよね。「人間の動きをそのままアニメにした」ってのがウリだったけど、そんな面倒なことするくらいなら始めっから実写にすればいいのに・・って思ってた。「顔も悪いが頭も悪い」なんていうセリフを覚えているんだけど吹き替え版を見たのかな?全然おもしろくなくて、今回の公開を知った時は「今更なんで?」と不思議だった。