ブレイブ ワン

ブレイブ ワン

久しぶりに上野東急へ。前は「トランスポーター」とか「ブラック・ダイヤモンド」とかけっこう見にきたものだけど、最近は御無沙汰ぎみ。もう終了間近で一日一回しかやってないという頃だったので、お客は15人くらい。毎日新聞の批評には「最後のツメが甘すぎる」とあって、どうも結末に難がある様子。でもって見てみると確かにウームな結末。それまではけっこうよかっただけに何とも残念。婚約者を殺された平凡な女性が、銃を手に入れ始末人に変身という内容。要するにか弱い女性でも銃さえあれば男を倒せるってこと。パンフではチャールズ・ブロンソンの「狼よさらば」とか引き合いに出してるけど、私は「ダーティ・ウィークエンド」思い浮かべた。「狼」も「ダーティ」も見たことないんだけど、「ダーティ」には原作がある。いとしのルーファスが出ているらしいのでいちおう読んだのだ。ひっそりと目立たないように生きている若い女性べラ。でもそんな彼女に目をつけ、いじめて優越感にひたろうなんて考えるケチな男が世の中にはいるわけ。べラがおびえればおびえるほど男はつけ上がる。でもある時立場が逆転する。これ以上は耐えられないと反撃に出る。で、男の方は自分の思い通りになるといううぬぼれがあるから、相手が逆襲してくるなんて夢にも思わない。油断してるから簡単にやられちゃう。一方べラは自分が取り乱しもせず冷静なことに気づく。一人目をクリアーすると二人目、三人目・・。「ブレイブ」でのヒロイン、エリカは恋人を殺され自分も重傷を負う。体の傷はそのうち治るが、心の傷は治らない。警察の捜査はちっとも進んでいない(ように見える)。警察で延々と待たされるシーンが印象的だ。待たされているのはエリカだけではない。とにかく犯罪が多すぎてどうにもならないんだろう。これって病院もそうだよな。事務的だし、とにかく待たされる。でもってエリカは銃を手に入れようとする。でも手続きが必要だし時間もかかる。そんな彼女に売人が声をかける。現実にああやって銃砲店をうろつき、買い手を捜すのか。コンビニで買い物をしている時、エリカは夫婦ゲンカの果てに夫が妻を撃ち殺す場に居合わせてしまう。隠れていたが見つかりそうになり・・。初めての殺人。

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撃たなきゃ自分が殺されていたけど、エリカはその場から逃走する。使った銃が無認可だからね。次に地下鉄の中でチンピラ二人に絡まれ、ナイフを突きつけられ、またしても銃。ここまでは彼女自身に危険が迫っていて、それなりに正当化できるケース。でもその後は・・。「ダーティ」のべラもそうだけど、銃(やナイフ)で武装していると、危険が遠ざかるのではなくて向こうから近づいてくるような・・。あるいは自分からわざわざ危険に近づいてしまうような・・そんな感じ受ける。エリカは銃を手に入れたことによって、だんだんカゲの部分が大きくなってくる。防禦から攻撃へと移っていく。攻撃と言っても悪の始末だけど、そういう彼女の変化に感情移入できます?前半の傷ついて立ち直ろうと苦闘するところ、銃を手に入れ、人を殺し、うまく立ち回って怪しまれずにいるけど、刑事のマーサー(テレンス・ハワード)に近づいてしまう・・吸い寄せられてしまうと言った方がいいかも・・中盤あたりまではなかなかよかったと思う。監督はニック・ジョーダンで、まあわりと信頼されていると言うか、固定ファンがいると言うか。今回もだから安心して見ていられる。緊張感が途切れず、とてもいいムード。それだけにあのラストがねえ・・。エリカは被害者である。普通は殺人事件の捜査線上には浮かんできっこない。銃を始末し、仕事をこなしていれば何事もなくてすんだ。事件は迷宮入りになったことだろう。でも・・犯行現場に近づいてしまう。マーサーと親しくなっていく。まあそうしないと映画にはならないんだけどさ。パンフによれば、最初の設定では二人の関係はもっとそっけないものになるはずだったようで。それがマーサーには人情味、正義感があって、疑いながらもエリカに引かれてしまい・・というふうになってる。共感し、心を通わせ合うのはいいけど、共犯になるのはちと行きすぎなのでは?エリカはマーサーに近づきすぎだし、マーサーはエリカに共感しすぎ。エリカは自分から殺人に近づいてきている。しかも隠そうという気もだんだんなくなってくる。これはつまり自分でも歯止めがきかず、誰かに止めて欲しいということ。止めるには逮捕してもらうより他にない。私自身は、アンタそんなことしていたら本命見つかる前に別件でつかまるか殺されるかしちゃうよ・・って思いながら見ていましたけどさ。

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さて脱力クライマックス&ラストへ行く前に・・。この映画でのジョディ・フォスターは美しい。「フライトプラン」見て「どうしちゃったの!?」とびっくりしたけど、この映画では・・。40代なかばとはとても思えない。小柄だし顔小さいしヘアスタイルは無造作。何か年齢とか性別超越しているような不思議な若さ美しさ。年齢超越と言ってもイザベル・アジャーニとかに感じる無理してるみたいな雰囲気はなくて、とっても自然。知的で透明な感じがいい。そりゃよく見りゃシワとかあるけどさ。小柄だけど吹けば飛ぶような弱々しい感じはしない。両肩を出すようなシャツ着ていることが多くて、その肩から腕にかけてがっしりとした印象受ける。そんな彼女の外側からの魅力、内側からの魅力(声とか)両方を堪能できる作品。ただし、いくつか違和感感じるシーンがあった。例えば恋人デイビッドとのバランスの悪さ。どう見てもかなり年下。しかもインド系。そりゃニューヨークは人種のるつぼだし、恋に年齢は関係ない。でも私にはバランスが悪いように見えて仕方なかった。ラブシーンがいやに長く流れるのも?だ。ジョディには恋人とラブラブというシーンは似合わない。この映画は知ってる人ほとんど出ていない。ジョディとテレンスは別として、あとはマーサーの相棒刑事ビタール役のニッキー・カットくらいか。彼は「インソムニア」に出ていた。さて、エリカは何も期待していなかったけど、事件の捜査はちゃんと行なわれていたのよね。被害者なら一刻も早く犯人見つけて罰して欲しいと思うのが人情だけど、捜査には手順というものがある。今すぐは無理だけどじっと待ってればそのうち動き出す・・っていう部分もある。盗品などがそれ。そのうち質屋などに流出する。質屋から届け出がある。それ(この場合は指輪)を持ち込んだ者が誰かわかる。しかしエリカは面通しでウソをつく。こいつが犯人・・ってわかるが、言わないでおく。自分で始末をつけたいからだ。警察なんかにまかせてられるか・・ってなもんよ。こういうエリカに観客はあんまり共感しないと思う。地道に捜査し、犯人を突きとめてくれたマーサーに何で協力しないの?復讐するなら・・例えば立件できなくて犯人が釈放され、大手を振って出てきた時でもいいじゃん。

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その時なら観客全員エリカに味方する。法律は弱者に味方しない。こうなりゃ個人で恨みはらすしかない・・ってね。でもそうはならなくて、エリカは無謀にも犯人達の元へ。代わりに犯行時のビデオ出してくる。冷酷な犯行改めて見せて、エリカを苦悩させる。彼女が行動起こすのも当然だ・・って観客納得させる。それにしても自分達の犯行うつすバカがいるんですねえ。後で何度も見て楽しむんだろう。オレって最高!名監督・・とかさ。「モーテル」と同じだな。ビデオを見たエリカは、あの時の恐怖・無念さを思い出して苦悶するけど、今の彼女はそれを怒りに変えるのさッ!したがってもうためらいも何もなく犯人達を始末する。ケータイでマーサーに画像送ったから、万一自分が復讐に失敗しても何とかなるのさッ!で・・クライマックスだけど、ああなってこうなって、何でそうなるの?エリカはもう自分がどうなってもかまわないの。復讐さえできればあとはつかまろうが撃ち殺されようが。刑務所に入ればこれ以上罪重ねなくてすむし、あの世にはデイビッドが待ってるし。それなのに・・何だあの潔くない結末は・・。エリカはこの先銃を使わずにいられるのか。銃による解決法知ってしまった後では、誘惑も強いと思う。私自身はマーサーの今後の方が気になった。「インソムニア」と同じじゃん。正義のためとは言え、捏造には変わりない。うまく処理できるようなこと言っていたけど、一つのウソは次のウソを呼ぶ。どこかで矛盾し、ボロが出る。物事ってそういうものだ。てなわけでエリカよりマーサーが気になる私。マーサーはエリカにほれちゃっているからなあ。刑事である前に一人の男になっちゃってるからなあ。まあこの甘々ラストのせいで満足度低いけど、でも力強いいい作品だった。DVDの特典で「別のラスト」とかないのかな。それにしても「消えた天使」とか「モーテル」とか「ヒッチャー」とか、人間のカゲの部分描いた苦い映画、昨年はたくさん見たような気がする。カゲの部分と言っても、エリカの場合そうなる過程がわかるけど、たいていの映画では最初出てきた時から狂ってる。

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「ブレイブ」での犯人達・・地下鉄でのチンピラもそうだけど、ラップでリズム取りながら暴行したりナイフ突きつけたりしているようなところがある。つまりものを盗むのも人を殺すのも「乗り」でやってる。気分よくノリノリでやってるから恐怖も後ろめたさもなし。デイビッドを殺したやつらは、数ヶ月後エリカが現われた時も全く変わっていない。反省することがないから進歩もない。エリカ達を襲う前も、襲った後も変化なし。今エリカが始末しなかったらこれから先も同じことくり返すだろう。つかまるか死なない限りずーっと永遠に。だって彼らにとっては犯罪は音楽と同じ。いつでもノリノリのいい気分にさせてくれるもの。前にも書いたけど、彼らには何かが欠落しているんだよな。欠落していることすら気づいてないんだろうけど。正直言って私にはエリカの行為が許せるか・・なんてことよりも、こっちの方がよっぽど気になった。生まれた時からこうであったはずはない。でもある時、何かのせいで彼らはこうなったのだ。いつ?何が原因で?変な例えだけど、病気になってしまってからどうすればいいか騒ぐより、病気にならないためにはどうすればいいかの方が簡単。病気に予防法があるように犯罪にも予防法があるはずだ。そりゃ病気や犯罪はゼロにはできないけど、減らすことはできるはず。・・でも人間はあまりにも多く、あまりにも自分かってに暮らしている。したがって病院には患者があふれ、町には犯罪者があふれ・・。警察は次々に起こる犯罪に振り回され・・予防もへったくれもなし。だからと言って個人で復讐・・なんてことになったらますます社会は混乱するだろうし。てなわけでこの問題にははっきりした答なんて出ない。出せない。「ブレイブ」のラストは一つの折衷案だけど、もっと苦い結末の方が映画が締まってよかったと思う。パンフ見てたら製作者ジョエル・シルバーの名が・・。彼がかかわった「リーピング」「インベージョン」そしてこの「ブレイブ ワン」、いずれもアカデミー賞女優が力演しているというのに全部ラストぐずぐずの今いち映画。何か関係が・・(シルバーの余計な口出しとか)と勘ぐりたくなったのは私だけ?