キャッシュトラック
「ブルー・レクイエム」がリメイクされてるなんて全然知らなかったのでびっくり。しかも主演がジェイソン・ステイサムで監督がガイ・リッチー。ほ~これじゃあさぞかしテイストが変わっちゃうんだろうなあ。流れはほぼ同じ。冒頭現金輸送車が襲われるけど、ここではまわりの状況はよくわからない。金が奪われ、犠牲者が出たらしいことだけはわかる。で、フォーティコ・セキュリティに新しく採用されたのがステイサム扮するヒル。ヒルなのでHと呼ばれることに。ブレット(ホルト・マッキャラニー)の見るところ採用基準ギリギリのところで合格となり、早速仕事につく。現金を運ぶ仕事は狙われやすく、先日の事件では一般人も犠牲に。見ている方は「はは~ん」となる。Hは取っつきにくい感じで、変に落ち着き払っている。「ブルー・レクイエム」の主人公とは全く違うタイプ。あっちはただの一般人・・銀行員だから当然。それに比べこっちはギャングのボス。修羅場を経験し、部下もいる。襲撃のとばっちりを食って愛する息子を撃ち殺され、自分も重傷を負う。あちらの妻は頭がおかしくなって病院へ。でもこちらは「アンタのせいよ」となじって離婚。ま、アメリカならそうなるわな。自分の意見ははっきり言って、さっさと行動起こす。あちらは95分でこちらは119分だから20数分長い。あちらでは省略されたことがこちらでは描かれる。入院しているところとか。部下を使って容疑者達を次々に・・とか、FBIが出てきたりとか。あっちはホントに一人でコツコツ。しかも時々発作に悩まされ。でもこちらは調べてくれる人がいる。Hは何にもしなくていい。あんなに大ケガしたのに後遺症もない。つまり同じ孤独でも全然違うのだ。そりゃまわりに人がいっぱいいても孤独なことはあるけれど、こちらのHは楽しすぎでもある。さて、ほどなく輸送車が襲われる。組んでいたディヴはパニクるが、Hは冷静。ディヴ役はジョシュ・ハートネットで、たぶん見ている人は彼が主役の「キャッシュトラック」想像したと思うよ。ステイサムだと、運ぶ方と言うより襲う方。それにしてもハートネットは何でこんな情けない役?Hは「黒幕は誰だ」と聞くけど吐かないのであっさり射殺。ブレットもディヴも啞然。そりゃそうだ。六人も殺して平然としている。
キャッシュトラック2
オーナーは喜ぶけど、いくら向こうが悪いと言っても問題になるだろうに、サラッと通り過ぎちゃう。マスコミも登場しない(あのオーナーなら、宣伝しそうなのに)。いちおう審問みたいな場でHは以前の襲撃の映像見せられていたけど、自分が巻き込まれた件か。あの時の被害者の一人だってのは誰も気づいていなくて、そりゃ名前は変えてるけど特徴のある顔はそのまんま。せめてあの時は髪があったけど今は坊主とかさ。三ヶ月後、今度はチャイナタウンで襲われるが、Hはあわてず騒がず車を降りて顔をさらす。すると相手はなぜか何も取らずに逃げてしまう。実は襲ってきたのはHの部下。まあここらへん筋立てにはかなり無理があって。Hは息子のダギーを殺され、自らも瀕死の重傷負ったけど、何とか生き延びた。でも、元々は自分の部下があの輸送車襲うはずだった。襲った連中の手がかりはなし。情報をくれ、一時的に見逃してくれているのがFBIのキング(アンディ・ガルシア)。彼とのいきさつは不明。彼だけはHの身元に気づいた?とにかく容疑者のリストをもらい、次々に始末していく。キングからすれば自分達の手の出せない悪党連をごっそり片づけてくれるのだから、ありがたいこって。ここらへんの拷問シーンも、「ブルー・レクイエム」とは違うとこ見せなくっちゃとばかりに、見たくもないもの見せられる。部下もそのうちいくら何でもやりすぎなんじゃないの?と思い始める。それでやっとこうなったらフォーティコに入って襲われるのを待とうってことに。でも部下達がそのフォーティコ襲うってのは、いくら何でもバカすぎないか?どうせリメイクするならあっちより話広げて・・というのはわかる。さえない男が一人でシコシコなんてのはフランス映画ではアリだが、アメリカじゃあね。でも筋におかしなとこいっぱいありすぎ。さて、途中で襲撃する方が出てくる。「スズメバチ」もそうだったけど、「ブルー・レクイエム」では襲ってくる連中のことはほとんど描かれてない。マスクしてるから顔もわからない。ただただ襲ってくる、ある意味人間離れした連中。でもこっちは襲う方だってちゃんと描かなくちゃというスタンス。スコット・イーストウッド、ジェフリー・ドノヴァン、デオビア・オパレイなどちゃんとした人配してある。どうやら彼らは軍隊あがりで、危険と隣り合わせの時は生きてる感じがしたけど、今は退屈で物足りないみたいな。
キャッシュトラック3
表向きはちゃんと仕事していて、リーダーのジャクソン(ドノヴァン)の仲むつまじい家庭が描かれたりする。悪党も人間なのだと言いたいのか。それを言えば被害者のHだって息子思いの父親であり、同時に悪党でもある。とにかく一儲けしようと企んだあの襲撃はジャン(イーストウッド)の暴走で三人の犠牲者が。その彼を今度の大仕事に加えるなんて・・ありえないでしょ?今回はブラック・フライデーということで相当な金額に。輸送車を襲うのではなく、会社の中に入り込む。内部に協力者がいるから・・。警備会社にはこういう時はこうしろという規則があるし、せんじ詰めれば自分の金じゃない、命を落とすことはない・・となる。ジャクソンだって銃撃戦は避けたい。でも武器庫の連中は反撃し、そうなると収拾がつかなくなる。途中までテリーと一緒にいたディヴは、臆病なくせに勇気をふるい起こし結局は・・。隠れていればそのうちSWATとか来るけど、なまじ銃を持ってるせいで反撃しなくちゃと動くのがいて。しかも裏切り者がいるせいでややこしくなる。途中でHが撃たれるので、ありゃどうなるの?とびっくり。一味の方はジャンだけが生き延びる。彼は最初から金を一人じめする気。仲間も殺しちゃう。その彼の前にHが現われる。ジャン達が逃げたって平気。警察は途中で見失っちゃったけど、彼はバッグの中にケータイ忍ばせておいた。だからゆうゆうと追跡・・って、いつの間にケータイ入れたの?そんな暇あったっけ?もう一度そこんとこ見て確認しよう。あ、あそこで入れてる・・でもあれじゃあ見ていて気づきませんてば。まあ要するにあちらと違ってこっちは主人公死なせるわけにはいかんのですよ。息子の仇を討ってそれでおしまい・・自らも力尽きるなんていうのではアメリカのお客は承知しないのですよ。何で撃たれたのに助かるんだ?とか、あの修羅場でどうしてバッグにケータイ入れることができるんだ?とか考えちゃいけないんですよ。助かったのは防弾チョッキのおかげだと思うけど、着てなくても助かると思う。ステイサムだし!てなわけでおもしろかったけど、後に残るものの量は「ブルー・レクイエム」の方が多い。テリー役はエディ・マーサン。彼が主人公やっていたら・・。もちろんギャングのボスなんかじゃなくてただの銀行員で。そしたらさぞ味わい深い映画が・・。
ブルー・レクイエム
この映画を見るために渋谷まで出かけて行った。場所がわからなくて苦労したけど、何とか上映開始には間に合った。お客は数人しかおらず、平日の昼間は別に入れ替えにしなくてもいいのでは?・・と思った。二回見たい映画だったし・・。びっくりしたのは置いてあるチラシの多さ。ものすごい量ですよ!あ、シブヤ・シネマ・ソサエティという館です。「ブルー・レクイエム」のTシャツも売っていて、欲しかったけど家にあるTシャツの量考えると・・。さて息子を殺され、自分も重傷を負った父親が復讐を誓い(「チャングムの誓い」ならぬ「ちゃんの誓い」ですな)、現金輸送の仕事につく。なぜなら襲撃されたいから。なぜなら仇は輸送車を襲撃した武装グループの一人だから。事前の知識はこの程度。でも何だかこのストーリーにはそそられるものがあった。「息子のまなざし」がやはり息子を殺された父親の話だったが、あちらと違ってこちらは血なまぐさい内容のようだ。でも共通する思いは同じ。相手のことを何も知らされていなかったオリヴィエとは違い、アレックスの方は輸送車襲撃のとばっちりで息子を失ったのであるから、手がかりはいくつかある。冒頭ムダ話に興じる三人組の登場に意表を突かれる。まるで週末に田舎にくり出すハンター仲間のようだが、実は現金輸送会社の社員で仕事中。ローリング・ストーンズだのドリー・パートンだの(彼女は「デンジャラス・ビューティー2」に出ていた)とお気楽にしゃべりちらしていると、後ろの車がやけにクラクションを鳴らす。追い越せばいいじゃないかなどと言っていると突然ドッカーン。何が起こったのか。実は私、この三人のうちの一人(右側にうつっていた人)が主人公かな?と最初思ったのよ。後ろから来たのはもちろん襲撃グループの仲間で・・ってね。そしたらドッカーンの後で場面が変わって深夜、一人の男が会社に来る。この時点でもまだ、襲撃されたけど助かってケガが治って再び出社してきたのかと思っていたのよ。そしたら一人の男にいろいろ聞かれてる。トラウマになるような体験はとか、妻子はいるかとか、精神疾患はあるかとか。「いいえ」って答えるけど、後でわかるけどみんなウソっぱち。パスしたらしくてすぐに仕事につく。・・ってことはこの人は新人で、この人が主人公で、さっきの人は違うのね。
ブルー・レクイエム2
この映画の特徴として、出てくる人がみんな似たような顔をしていて見分けがつきにくいってのがある。出演者で知っているのはベルナール役のフランソワ・ベルレアンだけ。あとは知らない人ばっか。終わり頃になってやっと少し区別がつくようになる。年寄りで自殺しちゃうのがミイラ、親が警察関係なのがイタチ?途中で死んじゃうのは誰だっけ。同僚の中での紅一点がニコル。何とまあ今時こんなパンダかタヌキみたいな目の化粧する女性がいるなんて・・ゾンビかと思ったぜ!彼女を見て、いかにもフランス的だなと思ったのは私だけ?アメリカ女性だったらもっと健康美を強調すると思うよ。ところで私、彼女とホテルのメイド、同じ人かと思ってた。主人公アレックスは職場近くのホテルに泊まる。慣れないカード式キーにとまどっていると、ササッとやってくれたのがメイド。この女性てっきり化粧を落としたニコルだと・・彼女もここに泊まっているのかと・・それにしてはアレックス、彼女にお金あげてたし・・。何でニコルにお金あげるの?そのうちに彼女が住み込みで働いてる子持ちのメイドだとわかって、ああ、あれはチップだったのかと・・。てなわけで人の区別がつきにくい映画なのだ。何だかよくわからなかったり勘違いしていることも多いと思う。二回見ればもっといろんなことがわかると思う。さてこの映画では普段目にすることのない現金輸送会社が舞台になっていて、パンフによればリサーチしようにも相手(輸送車のドライバー)はあんまり協力的でなかったような・・。そりゃそうだろう。防犯上こういう仕組みになっているなんて情報与えたくない。弱小会社ヴィジラント、社員はいつ襲撃されるかもしれない危険な仕事についているにもかかわらず、ロクな訓練も受けさせてもらえない。給料も安い。近いうちにアメリカの企業に買収されることが決まっているため、それまでは何も変わらない。つまり車の装備が旧式だとかそういうことはほったらかし。今から安全にお金かけるなんてムダだから。そのせいかどうか、今年に入ってから三度も襲撃されている。そしてアレックスがここへ来たのもそのため。つまり四度目を期待して・・。社員の仕事ぶりは・・監督は「真実」と自信持ってるけどホントかね・・。ペチャクチャおしゃべり、ハッパをやり、酒を飲み、居眠りし、スーパーでは万引き。
ブルー・レクイエム3
安い給料で危険な仕事だと強調されるが、一方でたががゆるんでいるのも間違いない。そんな中ではアレックスは異色。現金の受け渡しがすむのを待っている間、落ち着きのない様子であたりに目を光らせる。そのうちに銃をいじくり出す。運転手は雑誌を読んでリラックスしているのに彼だけは・・。この映画、ニヒルで孤独な一匹狼風中年男の復讐劇ということになっていて、確かにそうなんだけど、見ているうちにアレックスにちぐはぐな面のあることがわかってくる。例えば家族はいないことになっている。そりゃ息子は殺されたんだからいないけど(まだそのシーンは出てこないけど事前の知識はある)、奥さんらしい人が出てくる。どうやら息子の死のショックで頭がおかしくなったようで、アレックスのことも認識できないようだ。職場ではあんまり話さない彼だが、ここでは一生懸命話しかけている。病歴もトラウマもないことになっているが、時々足がふるえ出したりする。注射をしてそれを止めようとする。洗面所で倒れる。画面にうつっているのはヒクヒクと痙攣する骨ばった足だけ。パンフには「癲癇」と書いてあるが、私は頭を撃たれたことで神経が傷つき、足が痙攣を起こすのでは・・と思っている。癲癇の発作が起きたら自分で注射もへったくれもないと思う。彼はホテル暮らしをしているがちゃんと家がある。郵便物がたまっている。ホテルは一時的なものなのだ。目的があってホテル暮らしをしているのだ。後になってこういう方法を取っていて正解だったことがわかる。仕事をやめようと悩んだ時に、それを思いとどまらせようと同僚のジャックが電話をかけてくる。なぜ住んでいるところがわかったのか聞くと、尾行したという答。尾行先が安ホテルでよかった。これがりっぱなアパートだったら・・ジャックは不審に思うだろう。アレックスは失業したためヴィジラントへ来たことにしてあるのだから。時々発作に襲われる一方で、ヴァン・ダムばりに逆さになって腹筋(?)やったりする。しかも途中で泣き出す。涙はどちらに流れるのだろう。上?下?下りてから泣いた方がいいと思うよ。アレックスを演じているのはアルベール・デュポンデル。これがまた字あまりでおさまりの悪い名前。アルベール・デュポンならアルセーヌ・ルパンみたいでカッコイイのに。短く刈った髪と黒々とした目が印象的だ。
ブルー・レクイエム4
回想シーンではチリチリ頭で、何でこんなギャグ頭にするのかと呆れた。これじゃコメディー映画。でもって今は短くしているんだけど、額の真ん中に半島のように突き出している髪が気になって気になって・・。富士額と言うには丸すぎるようだが、精悍と言うよりやっぱりギャグ。ところで彼、頭に傷があるらしいんですけど、私には全然わからなかったな。メイドが尋ねていたけど「どこ?」ってなもんよ。あんなに髪を短くしているってことは隠すつもりもないんだろうけど、最初の面接シーンで上司気づいてないし・・。大きくてギョロッとした目は、わざと真っ黒に見えるよう撮影しているのだと思う。目は心の窓。ブラックホールのような目は、彼の心が闇であることを表わしているのだ。落ち着いているようでいて落ち着きがなく(小犬に銃を向けて笑われる)、クールでいるようでいて抜けていて(射撃練習では何と天井を撃ってしまう)、用心深いようでいておっちょこちょい(仕事中にハッパでフラフラになっている。襲われたらどーする!)。回想シーンでもわかるが、元来はせかせかと落ち着きのない小心者なんだと思う。銀行員として真面目に働いているごく普通の男。息子の復讐に立ち上がったところで本来の性格は残っている。一挙にヒーローに変身!なんていうわけにはいかないのだ。逆さになって涙にむせんでいても、洗面所で倒れて痙攣していても、悲痛なシーンのはずなのに私は笑いをこらえていた。彼の心情に共感はできるのだが、彼の外観(逆さまになっていること、足が痙攣しているところ)には滑稽さを感じてしまう。悲しいのだが同時におかしい。これってデュポンデルがローワン・アトキンソンに似ているせいもある。落ち着きがなく、目をぎょろつかせ、ぎくしゃくと動くミスター・ビーンやジョニー・イングリッシュを連想してしまう。アレックスの部屋は同僚や襲撃事件の資料でいっぱいだ。それでいて同僚の写真ではなく似顔絵というのが何とも・・。きっと彼、機械で数えただけでは安心できなくて、必ず自分の手でお金を数え直すタイプだと思うわ。彼はなぜか弾丸をいじくっていたりする。何かを改造しているのか。そういうシーンでの彼は孤独で有能なスパイであるかのように見えるが、いざという時にカッコよく動けるかというと・・。何たって彼はスパイでも軍人でも警官でもない「ただの人」なのだから当然なのだが。
ブルー・レクイエム5
もちろんアレックスは自分の目的のことで頭がいっぱいで、カッコのことなんか考えていないのだが、見ている私には、孤独な作業にいそしむクールな彼と、実際に襲われた時の彼とにギャップを感じるわけ。襲撃された時の彼は、あいにく発作が起きて隠れて注射を打っているところだった。ただ彼にとってはそれが幸運だった。真っ先に標的にならずにすんだから。この時のベルナールの「いよいよ来たな」という言葉が印象的だ。彼は軍隊上がりだから実戦経験がある。今まで襲撃されたことはないが、そういう事態に陥ったたった今も、あわてるということがない。恐れるということもない。「いよいよ来たな」と状況を受け入れるだけである。肝のすわった男とは彼のことを言うのだ。ただ彼は普段から怒りっぽい性格で、恐れを知らないのはいいが、銃を撃ちまくり歯止めがきかなくなる。仲間の一人は撃たれ、アレックスも危ないところだったが敵の一人を撃ち殺す。おそるおそるマスクを取ってみると、まだ少年である。初めて人を殺した彼はトイレで吐きに吐く。泣き出す。落ち込む。上司の言葉も同僚の言葉も耳に入らない。正当防衛だった、会社がアメリカ企業の手に渡っても、君のような人には残って欲しい、襲撃を経験した者は必ず会社をやめるけどやめないで欲しい・・いや、やめる。人を殺したショックはそれほどまでに大きかった。彼は復讐だけを考えて今日まで生きてきた。あの時、彼と息子に対して何のためらいもなく銃弾を撃ち込んだ冷酷なマスク男。アイツに対しては、その時が来れば自分も何のためらいもなく撃てるはずだ。撃った後で後悔することなどありえない。後悔するのはアイツの方で・・。アイツはあの時自分達を見逃してくれればよかったのだ。そうすれば息子は死なずにすんだ。あの時・・輸送車のノロノロ運転にいらだって追い越そうかどうか迷っていた。突然何かが爆発し、前の車が止まったから自分も止まった。何が起きているのかよくわからなかった。自分は息子をかかえてふるえていただけだから、生かしておいては困る目撃者でもなかった。見逃したって彼らには何の脅威でもなかったのだ。・・でもアイツは自分を、息子を撃った。自分が命をとりとめ、息子が死んだとわかった瞬間から抱き続けていた決意、それが今日初めてぐらついた。人間なんか冷静に殺せると思っていたのに。
ブルー・レクイエム6
後悔しても後悔してもこれでいいということがないどん底の状況。なぜってあの少年は永遠に生き返らないのだから。彼の受けたショックはこのように大きかったわけだが、まわりはそうは思わない。彼が撃たなければ少年が彼を殺していた。襲撃に成功し、お金を手に入れ、使ってしまった後はまた別の輸送車を襲ったことだろう。運が悪ければ警察につかまるし、もっと運が悪ければ誰かに撃たれて死ぬだろう。少年の運命は、襲撃に加わった時点で暗黒へところがり出していたのだ。彼は自分から死に向かっていたのであり、アレックスはたまたまその通り道にいただけ。少年の死はアレックスの責任ではない。とは言え彼は仕事をやめる気でいる。このまま復讐をあきらめてしまうのだろうか。それとも別の方法を模索するのだろうか。ホテルに帰った彼に、なぜか電話がかかってくる。前に書いたがジャックからである。・・で、アレックスは考え直したらしくまた出勤し、同僚達は皆喜ぶ。一方ベルナールは輸送の仕事からはずされ(彼は襲撃を撃退したと言っても、アレックスと違ってやりすぎた)、そうじか何かをやらされて怒っている。何人かが死に、何人かが生き残ったこのあたりから、怪しいのはジャックではないかと思えてくる。気のいい親切な男なのだが親切すぎる。そのルートの担当でもないのに急に担当になったと乗り込んでくる。どこかに電話連絡をしている。これはもう間違いない。きのうホテルで電話を受けた時から、アレックスには虫の知らせのようなものがあったようだ。今朝出がけにメイドと一緒になった。彼女はここをやめると話した。アレックスは思わず持っていたお金を彼女に渡そうとする。びっくりしたメイドは、すぐには手も動かない。すると・・画面の下から小さな手がのびて、アレックスのお金を取るのである。大人には何かしらためらいがある。彼女は小さな子供を女手一つで育てており、喉から手が出るほどお金が欲しい。しかしよく知りもしない男性からいきなり差し出されたからって、受け取るほど単純ではない。差し出すには何かしら理由があるはずだし、受け取るにもそれなりの理由が必要だ。それが彼女には思いつかない。しかし子供はそんなことにはとんじゃくしない。明らかに母親に向かって差し出されたものを、自分が代わりに受け取るだけだ。お金がいいものであることくらい子供にもわかる。
ブルー・レクイエム7
そして、子供が受け取ったことによって、アレックスもメイドも気まずい思いをせずにすんだ。私にはこのシーンがとても印象的だった。お互いに見つめ合っている男女と、お金にのびてくる小さな指。子供の姿は見えず、「指だけ」。そしてこの指は何も迷っていない。・・クライマックスは予想とは少々違う。アレックスやジャックの乗った車が襲撃されるのは予想通りだが、そしてやっぱりジャックが内通者だったのだが、武装グループは輸送車を乗っ取って会社へ乗り込むのだ。狙いは会社に置いてあるお金。ジャックやアレックスが乗っているから、車は怪しまれることもなくすんなりと入り込む。そしてジャックはアレックスに仲間になるよう懇願する。好意をいだいているらしく、殺すには忍びないのである。だがアレックスはそれどころではない。おそらく彼はそれほど死を恐れてはいないと思う。恐れているとしたら、仇を討つ前に自分が死んでしまうことだけ。激しい銃撃戦で登場人物のあらかたは死んでしまう。どんな人間であろうと銃の前では関係ない。銃弾を浴びせられれば善人も悪人も死ぬ。マスク男を倒し、念願の仇を討ったアレックスもまた死ぬ。息子が死んだあの場所へたどり着き、地面に横たわって死ぬ。彼は本望だったことだろう。しかし妻のことは?見終わって感じたのは満足感。地味な映画ではある。出演者も地味だし、ストーリーも現金輸送会社が舞台というのが目新しいだけで、あとはよくある設定。なのに冒頭のおしゃべりは別として、その後はずーっと緊張感が続く。何でこんなにドキドキさせられるのか。何でこんなに息苦しいのか。何で悲痛なのに笑ってしまうのか。何で主人公の死がそれほど悲劇に感じられないのか。ちぐはぐな点はいっぱいあるのに、なぜかそれらが欠点に感じられず、むしろ興味深いものに感じられてしまう。ホント不思議な映画である。唯一ちぐはぐ感がマイナスに作用しているのがエンドクレジット。普通にやれ、普通に!これを見ておそらくは99%はがっくりさせられる。残りの1%でドキッとさせられる。このにこやかに笑っている社員のほとんどは死人なんだ!ってね。パンフには「ハリウッド・アクションが足し算と掛け算を重ねる物量大作戦で押しまくるのに対し、こちらが志向しているのは引き算の美学である」と書いてあるが、全くその通り。こういうのを作ってくれるからフランス映画はあなどれない!