ブラックサイト

ブラックサイト

後味が悪いという批評が多いので、覚悟して見に行った。普通こういう怖そうな映画は、前の方にお客が座っていたりするものだが、今回はどういうわけかみんな後ろの方。遠巻きにして様子を見るみたいな、見る前から用心しているみたいな、そんなムードが感じられておかしかった。見たのはゴールデンウィークだったけど、お客は15人くらいか。「ヒットマン」の二人よりはましだが、こっちもあんまりヒットしていないようで。前「ハリウッド・エクスプレス」で紹介していたので内容はだいたいわかっていた。それにしてもダイアン・レインは好調ですな。「ジャンパー」では出番少なかったけど、「トスカーナの休日」とか「理想の恋人.com」とか、何と言うか安心して見ていられる。変に若く見せようとかムリせず、シワだってあるわよ、でもちゃんとドレスアップすればまだまだいけるわよ・・って感じ。パンフによれば彼女長く低迷していたのだそうな。おそらくそういう時期のであろう「マッド・ドッグス」というのをカイル目当てで見たことあるけど、ひどい映画だった。出演者は豪華なんだけどなかみがなく、次から次へと人が死ぬ・・それだけのアホ映画。でもその中でダイアンはものすごくきれいでゴージャスでセクシーで光り輝いているの。この映画ですばらしかったのはダイアンの全身うつしたシーン(だけ)。今回は髪も短いし、ほとんどノーメイクだし、中年になりかけの普通のおばさん。夫をなくし、母親の助けを借りながら娘を育てている。娘のためにFBIの夜間勤務を選択したらしいが、私から見るとかえって体力的にきついのでは?と思える。でも・・やっているのよね。後で気づいたけどダイアン扮するジェニファーは、職場と家庭を往復するだけ。娘の誕生会とか学校関係とか、そういう最低限の交際しかしていないみたい。彼女が友人とおしゃべりしたりショッピングしたりなんていうシーンはなし。昼間寝て夜働くという生活だから、削れるものは削って、できるだけ負担の少ないシンプルな生活を心がけているような・・。だから再婚とかデートとかは全く考えていないようだ。さて今夜も彼女は勤務につく。相手はネットを使った詐欺や性犯罪。サイバー犯罪は相手との知恵くらべ、いたちごっこ、がまんくらべ、だまし合い。私のようなパンピーが夜寝ている間もネットでは通信が飛びかい、そのうちのあるものは犯罪で・・。

ブラックサイト2

ネットでは相手の顔は見えず、自分の顔も知られることはない。だからこそ良識が必要とされるのだが、実際は・・。ジェニファーが警察の要請で開いたサイト、そこにうつっていたのは・・。「ブラックサイト」というのはいい題名だと思う。闇サイト・・いかにもまがまがしい。強くて大きな悪の力を感じさせる。原題は「追跡不可能」とかそういう意味らしいが。最初は子ネコが犠牲になる。しかし次は人間だな・・しかも連続するな・・と予測できる。しかし連続するから犯人の目星がつく。もっともこの映画途中であっさり犯人を見せちゃう。じゃあそれで興味がうすれるかというとそうでもなくて。子ネコの次に標的になったのは平凡な中年男。次がテレビのレポーター。このあたりではまだ二人のつながりはわからない。実は子ネコの飼い主(こちらは殺されずにすんだが)も関係しているのだが、そのこともまだわからない。犯人が顔を見せるのはレポーターの時。でもこの時は見ていても最初は意味がよくわからない(後でうまい持っていき方だとわかるんだけどね)。昼間中年の男がある家を訪ねると、若い男性が出てくる。二人は初対面のようで、会話はぎこちない。中年男性は身なりもきちんとしており、その場の空気をほぐそうと努めている。どうやって切り出そうか・・という感じである。若い方は多くを語らないが、相手をいやがっているようにも見えない。見ている人全員ある想像をしたと思う。でもこの映画の流れとして、ここでこういうシーンが出てくるのはおかしい。ネット殺人とどういう関係がある?そのうち我々が勘違いしていることがわかる。中年男性は鉄道模型か何かを譲ってもらいにきたのだ。何だそうなんですか、あたしゃてっきり別のものを買いにきたのだとばかり・・皆さんもそう思ったでしょ?若者は商品を見せると言って・・と言うことはこの若者が犯人なんですか?こんなにはっきり見せちゃうの?まあちょっと変わった感じの青年ではあるのよ。ねっちょりした、ぬめぬめした、ひんやりした・・蛇みたいな感じ。「ハンニバル・ライジング」のギャスパー君思い出す。もちろんあんな美形ではなくて、ごくごく平凡な顔立ち。この犯人オーウェンを演じているのはジョセフ・クロス。知らない人だが、どこかで見たような・・という気もする人。一般人にまじったら見分けがつかない。

ブラックサイト3

後で正体がわかってみると、そう言えば普通の人とはちょっと違うと思ってた・・なんて言われそうな人。彼のおかげで犯人捜しの楽しみがなくなっても失望しないですむ。逆に、彼のこともっと知りたい。なぜこんなことをするのか。最後はどうなるのか知りたい。作り手も自信持ってるから彼を早々と表に出してきたのだろう。彼なら犯人とわかってもお客の関心つなぎとめることができる・・ってね。レポーターの次はジェニファーの周辺に魔の手がのびてくる。娘のアニーが狙われて、でも危ういところを助かって(オーウェンはからかっただけ)、ホッとしたと思ったら今度は同僚のグリフィン。グリフィン役はコリン・ハンクス。名前から見て絶対トム・ハンクスと関係あるんでしょ・・と思うが、パンフには何も書いてない。でも・・調べてみたらやっぱりトムの息子でした。実は私最初このグリフィンが犯人かな・・って思ってたのよ。つかまえてみたら内部の人間でした・・ってのはよくあるでしょ。オーウェンが出てきてからも、実は彼はあやつり人形で、裏ではグリフィンが糸を引いているのだ・・と、まだ疑っていましたの。そしたらグリフィンつかまってるじゃん。それでやっとオーウェンが単独でやっているのだ・・と。このグリフィンの殺され方が残酷でねえ・・。パンフを見ると、そういうシーンはできるだけ削った・・って書いてあるの。とったけど使ってないシーンたくさんあるんですって。でもそれにしたってああいうのは見たくないわけよ。見せなくたって映画はできた・・って思っちゃう。残酷すぎるという批評がこの映画の場合多く見られるけど、子ネコも中年男もレポーターもそうだけど、グリフィンの時が一番残酷に見えちゃう。なぜそう感じるかというと、方法(硫酸地獄)もさることながら、グリフィンがいい人だから。若くて頭がよくてジェニファーにとっては息子か弟みたいな存在。ジェニファーのことを心配し、それとなく気をつかってくれる。軽口をたたいて気分をほぐしてくれる。あまりにもいいコなので、かえって私は彼こそ犯人なのでは?・・と疑っちゃったんだけどさ。グリフィン自身はなかなか女性とうまくつき合えなくて(夜間勤務のせいもあるだろうけど)、メール(チャット?)で知り合った女性とデートしてはふられている・・みたいな。その弱点を突かれて、女性を装ったオーウェンからの電話にだまされてしまう。

ブラックサイト4

この時点でグリフィンは犯人につながりそうなヒントをつかんでいるが、こういう映画のお約束として、まだ確信が持てないからとジェニファーに伝えるのを渋る。そしてそのまま帰らぬ人に。で、ジェニファーはグリフィンの死に深く傷つくわけ。夫をなくした時も辛かったけど今度も辛い。自分の無力さが身にしみる。しかしそれと同時に、夫の時にはなかったものを彼女は感じるわけ。それは怒り。アニーの時もそれは感じたけど、あの時は恐怖の方がまさっていた。さて、捜査はポートランド警察のボックス刑事(変な名前)と協力してやっている。ジェニファーは彼を知らなかったが、ボックスは夫をよく知っていたらしい。たいていの映画だと協力し合っているうちに二人の間には愛情が芽生え・・となる。グリフィンはアニーの誕生パーティにボックスを呼ぶなどやさしい心遣いを見せる。ジェニファーはまだ若い。早く次の幸せ見つけて欲しい。そう願っているのだ。ホントいいやつなのだ。だから彼がむごい目に会うとお客は悲しくなる。でも結局殺されてしまうので(次にジェニファーがつかまって、それがクライマックスになるに決まってるから、グリフィンが助かることはありえない)、お客は後味の悪い思いをする。ネットの恐ろしさよりも犯行の残虐さの方が印象に残ってしまう。まあこのことはまた後で書きますけど。ボックス役ビリー・バークは知らない人。「スパイダー」に出ていたらしい。彼・・誰かに似ている。そうだ、若い時のダーク・ボガード。黒い髪、黒い瞳、額のシワ、そして何よりも鼻の下が長いこと!もちろんビリーの方が背が高く現代風。でもどことなく気が弱そうだし、やさしそうだし・・そういうところが・・。もっとも私は若い頃のボガードって「キャンベル渓谷の激闘」しか見たことないんだけどさ。それも何十年も前にテレビで・・。この映画ではジェニファーの私生活はいろいろ描写されるけど、ボックスの方は全然。だから独身かどうかすら不明なんだけど、そんなこといちいち断らなくたってわかるでしょ・・とばかりに映画は進行する。きっとボックスは友人(つまりジェニファーの夫ってことだけど)の葬式で見た彼女が忘れられず、密かに思い続けていたんだわ。だから今回の事件はお近づきになれる絶好のチャンス!

ブラックサイト5

命を狙われるかもしれないのでアニーは安全なところへ(お邪魔虫その1がいなくなる)。ジェニファーの母ステラ(「レッド・ドラゴン」などのメリー・べス・ハート)もつき添っていく(お邪魔虫その2もいなくなる。ますますチャンス!)。ジェニファーはモーテルに泊まる。オーウェンに知られた以上自宅は安全ではない。夜、食べ物を持ってボックスが訪ねてくる。落ち込んでいるジェニファーをいたわる。そのまま一つのベッドで寝るが背中合わせ。ボックスにすればボディガード(ナイトと言ってもいい)のつもりなんだろう。ジェニファーは彼がいてくれたことで落ち着き、翌朝ふと気がついてPCを開く。死の直前グリフィンがまばたきを使ったモールス信号で送ってくれた情報の意味がわかる。まあここらへんは変にしめっぽくなったりせず(ジェニファーが一人むせび泣くシーンはあるが)、安易に色っぽくなったりせず(御膳立てはすべて揃っているのに!)、二人が良識を備えた大人であることを見せてくれるのがいい。お客(私)は大いに二人に好感を持つ。この後ジェニファーに危険が迫り、オーウェンと対決し、意外な結末・・となるわけだが、彼女を見ていて奇異に感じたことがある。彼女は母と娘との三人暮らしである。女ばかりである。三人で夕食を囲むシーンを窓越しに見せる。なごやかで幸せそうだ。・・それはいい。問題は窓からまる見えなこと。カーテンも引いてない。不用心ではないのか。ジェニファーが一人でいる時も窓からまる見え。誰かが覗いているかもしれない・・などとは思わないのか。もう一つ奇妙に思ったのは、彼女がヤジ馬を見渡すシーン。こういう時はヤジ馬を撮影しておくんじゃないの?ヤジ馬にまぎれて犯人が様子をうかがってる可能性があるんじゃないの?さて、さすがのジェニファーもモーテルに移ってからは用心深い。帰ってきて、何やらはっきりとはしないが、異常を感じ取る。ネコを連れて(何でアニーや母と一緒に避難させないの?)、車でモーテルから離れる。すると途中で車もケータイもどこかから操作されているのに気づく。車を止め、道路脇の公衆電話からボックスに連絡する。まあここまではいい。夜だし雨だし視界が悪いとは言え、彼女は銃を持ってる。怪しい者が近づいてきたら撃てばいい。しかし・・この後彼女は自分の車に戻るのである。

ブラックサイト6

見ている人全員首傾げると思う。自分からのこのこ罠にはまりに行くなんて!車に残したネコが心配?ネコがどうなったかは描写されずじまい。雨にぬれるのがいやだった?車はもうコントロールされてない、大丈夫だとムリに思い込もうとしたのか。しかしやっぱりオーウェンは・・。このへんは「ルール」思い浮かべてた。「後ろの座席に誰かいる!」っていうアレね。さて、まんまとつかまったジェニファー。今度は彼女が犠牲になるのか。現場にかけつけたボックスにはジェニファーがどこへ連れていかれたのか全く手がかりがない。オーウェンの正体や動機はもう明かされている。それに至る映画のテンポは、私がかろうじてついていける速さ。あれ以上速かったらわからずじまいだっただろう。その後の対決部分はだめ。テンポが速すぎて何がどうなったのか全然わからない。それでも途中までは何とかわかる。いつものようにオーウェンは犠牲者をうつす。逆さ吊りにされたジェニファーの下で芝刈り機(?)がうなる。アクセス数が増えれば増えるほどジェニファーを吊るしているロープがゆるむ。その映像を見たボックスは、それがどこなのかわかる。なぜなら前にも見たことがあるからだ(大した記憶力だ)。なぜそんなにすぐわかったのか。それはジェニファーが体を前後に振り子のように振ったから。オーウェンには彼女が何を考えているかわからない。単に芝刈り機から逃れようとして悪あがきしている・・と思えたことだろう。体を振ると画面からはみ出してしまうので、オーウェンはカメラも動かす。それで部屋の中が隅々までうつることになり、ボックスも場所を特定できたのである。ジェニファーが体を振らなかったら、ボックスにもどこなのかわからなかっただろう。また、彼女が体を振っても、オーウェンがカメラを固定したままだったら、やはりボックスにはわからなかっただろう。オーウェンは彼女の行動を誤解し、かえって迫真の映像がとれる・・と喜ぶ。結局犯人がどんなに優秀でも、人間である以上必ずミスを犯すのだ。もっといい映像をとってやれ・・どうせ彼女の運命は決まってる・・そんな思い上がり、気のゆるみが彼のミス。それにしてもジェニファーは大ピンチだってのに、よく冷静にこういうこと思いついたなあ。自分が吊るされることも、場所も前もって予測できないから、彼女が取った行動はとっさの思いつきのはず。

ブラックサイト7

さて、普通だったらもうだめ・・と思われた時、ボックスが(さっそうと)現われ、オーウェンを倒し、ジェニファーを救い出す・・となる。二人はしっかと抱き合い・・。でも、今は違うのだ。ボックスが現われた時にはもう終わっているのだ。だからビリー・バーク何のために出ていたの・・なんて言われるのだ(気の毒に)。女性は強いのだ。男の助けなんかいらない。う~ん、それも何だか味気ないなあ・・。前にも書いたがここらへんはパッパッパッ・・すみませんじぇんじぇんわかりましぇん動体視力検査不合格でーす。しかも!映画はそのままさっさと終わっちまうんですよ、びっくり~。余韻を残さない。断ち切ると言うか・・成功しているかどうかはともかく珍しい終わり方であるのは確か。さてこの映画・・ネットの恐ろしさは見る者に伝わっただろうか。オーウェンは残虐なシーンをライブで流す。アクセスする人が増えれば増えるほど死は早まる。しかしこの映画ではアクセスしている人はほとんどうつさず、カウンターをうつす。その数字の多さ、カウントされる速さ。アクセスしている人にとっては他人事だ。自分は命の危険のないところにいる。高みの見物。いくらアクセスすることが犯行の片棒をかつぐことだと言われたって、こんなに人数が多いのなら平気。逮捕されることなんてありえない。他の人がしていることを自分もしているだけ。自分は見てるだけ。ウーム・・君達「ギャザリング」って知ってる?アクセスしている人をうつさないので、映画を見ている我々はかえってその人達のことをあれこれ想像する。その人達の感じていること・・好奇心、後ろめたさ、怖いもの見たさ、興奮・・などなど。私自身はあの回るカウンターから十分怖さを感じ取った。ウイルスの感染みたいにぱーっと広がる怖さ。ウイルス自身には何の感情もないこと。現代に生きる人々の一つの特徴は無関心さだと思う。例えばオーウェンはこのように犯行を続けているけど、いずれは自分もつかまると自覚している。でも自分が死刑になるにしても、自分が手にかけた者達よりも楽に死ねることは計算ずみだ。自分の命そのものには執着がない。自分の命を大事にしないのだから他人の命なんか大事にするわけがない。また、自分が他人の命奪っているという自覚もうすい。アクセスしている連中が殺すのさ。

ブラックサイト8

しかし無関心さの裏には必ず自己顕示欲がある。本当に無関心で、どうでもいいのなら、こういうサイトがある・・と警察に自分からたれこんだりしない。自然に口コミ(ネットの場合は何て言うのかな)で伝わるのを待つ。何だかんだ言ったって結局は注目されたいのだ。アクセスする人が増えて欲しいのだ(この点は私も同感だけどさ)。この映画の、映像にはほとんど出てこないけどアクセスしている連中も、多くのことには無関心だと思う。そんなの関係ねえ・・とかさ。それでいてちょっと何かあるともうどどーっと同じ方向向いて、同じ行動取って、それで自分は取り残されてない、波に乗ってる・・と、安心するんだろうな。彼らはああいう行動取ってるけど、いけないことなのだから私はしない・・と、がまんできる人、流されずにいられる人はどれくらいいるだろう。さて・・いろいろ書いてきたけどこの映画、見せずに想像させて成功している部分はある。できる限り削ったと言いつつ、やっぱり印象を悪くしてしまう残酷部分もある。どこまで見せ、どれは見せないでおくのか、この線引きは難しい。成功していたりいなかったりでバランスが悪い。もちろん全部どぎつく見せた方が簡単かもしれない。おぞましいホラーサイコサスペンスのできあがり!でもこの映画は違う。がまんしている。流されまいとしている。あえて難しい方選んでいる。結果的に統一が取れず、やや中途はんぱな作品ができてしまったけど。傑作でも名作でもなく、すぐに忘れ去られてしまうであろう凡作だけど。でも私には作り手の良心が感じられて、この作品には好意持ってる。誠実であろうと努力していることは認めてあげたい。もっともDVDが発売されたらそうも言ってられなくなるかも。特典として残虐なシーン加えられているかも。なぜこんなこと書くかと言うと多いからだ。「カースド」「ナンバー23」「モーテル」。より過激になってます、スナッフシーン全部見せます。・・劇場で見た時の感激をわざわざうすめてくれる。余計なことするな!さて「ブラックサイト」の監督はグレゴリー・ホブリットという人。「真実の行方」とか「悪魔を憐れむ歌」を作った人らしい。また、パンフによればダイアン・レインはジョシュ・ブローリンと再婚して幸せに暮らしているらしい。よかったね!これからも活躍してね!