ビロウ

ビロウ

ファーストシーンは海。音楽がちょっと変わっている。「ダークシティ」や「ニューヨーク1997」に感じが似ているが、見る者の鼓動を速めるような、聞いていると落ち着かなくなってくるような、不安をあおる音楽。女性の呼吸の音が入っているのが気になったが、二回目を見ている時、ヒロインのクレアがあるシーンでそれと同じ息づかいをしているのに気がついた。潜水艦の中の空気が汚れ、しかも事件の謎を解くための行動をしているという緊張感から、呼吸が浅く、短くなるのだ。その緊張した息づかいを音楽にかぶせるというのはいいアイデアだと思う。音楽はクライム・レヴェルで、この人は「クロウ」と「ザ・クロウ」の音楽を担当した人だ。珍しく上からうつした飛行艇、それも画面いっぱいにスローモーションでうつる。機体全部ではなく一部・・。何かこの部分を見ただけで、音楽を聞いただけで、この映画は期待してもよさそうだぞ・・なんて思っちゃう。漂流中の生存者を救出せよという命令を受けた潜水艦タイガー・シャーク。ブライスとテーミスの会話は、一回目は何となく聞いちゃうけど、二回目は事情がわかっているだけに、言葉の一つ一つに深い意味のあることがわかる。ダンナには「全く同じものを二回も見るなんて信じられん」と言われるけど、一回目と二回目では違うんですぜ、ダンナ。ブライス役の人は「13デイズ」や「ダブル・ジョパディー」に出ていた人。若いオデルを演じたマット・デービスはジョシュ・ブローリンに感じが似ている。オデルは経験の浅い未熟な士官だが誠実で勇気がある。生存者の一人で看護婦のクレアも、例えドイツ人であろうと私には皆同じ患者・・と言うところや、死体を使っていたずらをしかけてきた乗組員に対して、死者にはもっと敬意をはらうべきよ・・と食ってかかるところなど、やはり誠実で勇気がある。演じているのはオリビア・ウィリアムズで、彼女はこのクレアや「抹殺者」のシャロンのような役がよく似合う。色で言うと真っ白、真っ黒、紺色・・明瞭ですがすがしく、潔い。「シックス・センス」のような思い悩んでいる役はあまり合わない。さてこの映画、潜水艦には不吉な存在とされる女性が乗り込んだことにより、いろいろ不可思議なことが起きる・・というのが宣伝文句だが、あからさまに嫌がらせをされるとか、逆に好色な目で見られるとか、そういう平凡な展開にはなっていない。

ビロウ2

純粋に、見ている者をうんと怖がらせるのが目的で作ったんだ・・みたいなサービス精神が感じられる映画になっている。我々にはあまりなじみのない潜水艦だが、隔壁とかバラストタンクなんていうのはニュースで聞いたことがあるからうっすらとはわかる。パンフレットに爆雷のことが書いてあったが、爆発する深度を調節する作業は名作「眼下の敵」でもやっていた。本当にてんてこまいでやっていて、ちょっとしたミスで指を切断・・なんていうシーンもあった。この映画にはドイツ軍との直接の戦闘シーンは出てこない。客席を見回すと、潜水艦が舞台ということでお客は当然のことながら男性、それも年配の人が多い。中にはちゃんと生きて家に帰れるかよ・・と心配になるほどの(と言うか、よくここまで来れたね・・と思うような)ジイサマもいたけど、たいていの男性客にとっては内容が期待したのと違ったのでは?年配の男性でホラーが好きな人ってあまりいないと思うよ。・・などと余計なことを考えつつ見ていたが、見ているうちに自分も一緒に潜水艦に乗っているような気になってくる。空気を取り入れるために海面に浮上したくても敵がいるためにそれができない。艦の中には何かヘンなのがいて、妙なことばかり起きる。両方とも直接この手でさわったり、目で見たりできない点では共通しているが、正体のわからないものの方が怖い。気の抜けない緊迫シーンが続き、心臓はドキドキ、体はこわばり、自分まで酸素不足に陥ったかのように息をひそめて画面に見入ってしまう。ホラー、サスペンスとしては上出来だと思う。「ゴーストシップ」ほどむごたらしくもないし。ただ一つだけ引っかかるところがある。そもそもの原因となった病院船の沈没である。片方はUボートに攻撃された側、片方はUボートを攻撃した側。それだけを見れば起こった二つの出来事に関連性はない。しかし場所と時間を突き合わせればそこには一致する点が出てくるはずである。クレアのように船内で病人やケガ人の対応に追われていた者ならともかく、キングズリーは航海士である。いくらタバコを吸って一休みしていた時とはいえ、いつどこで攻撃を受けたのか船の位置は把握しているはずだ。暴走を始め、制御できなくなった艦の行き先を調べるようオデルに言われ、海図を調べて目的地らしい地点を割り出し、「ここに何が」なんて言うはずがないのだ。

ビロウ3

だって艦が向かっているのは自分達の船が攻撃された場所なんだから。オデルが調べる理由を言わなくたってキングズリーの方で気がつかなきゃおかしい。オデルはクレア達を救助した時点で事情聴取をし、Uボートが一発しか魚雷を発射せず、とどめを刺さなかったことに疑問をいだいている。しかし自分達はちょうどその頃Uボートに向かって魚雷を一発発射しているのである。そりゃあまさか間違って味方の船を沈めたなんて夢にも思わないだろう。でも向こうも一発、こちらも一発である。自分達が救助を命じられたのは一番近くにいたからだ。艦長の事故死という大事件があったし、救助した後すぐに敵に遭遇したし、オデルの疑問は軽くいなされてしまったし(そりゃあブライスやテーミスにすればこんなことを調べ回られては困る)、すぐに二つの出来事を結びつけるのは無理だが、クレアが決定的な証拠を見つけるまでオデルの態度が(気づいたのか気づいていないのか)あいまいなのは、見ていてじれったかった。まあまわりがよく見える車などとは違い、潜水艦は乗組員が自分の持ち場の勤めに専念していて、全体を把握しているのはほんの数人にすぎないのだというのがよくわかる。隔壁の修理に行ってクアーズが死ぬところとか、水素が爆発して乗組員の大半が死んでしまうところなんかは、映像に凝りすぎてかえって何がどうなっているのかよくわからなくなってしまった。もっとフツーにうつせばいいのに。艦が沈んでいったところにあったのは・・・というラストシーンは、事件の発端になったそもそもの原因を見ている者に改めて強烈に思い出させるのに十分で、うまい終わり方だった。ただ気持ち(?)はわかるけど、だからと言って何も知らない艦の乗組員の命まで奪うことないじゃないのよ・・と私は艦長にはあまり同情できなかった。さて予告で「陰陽師2」をやった。と言っても前作の舞いの部分がちょこっと出ただけで、「2」そのものの映像はなかったのだけれど。でもいよいよ・・と思うとうれしくて仕方がなかった。他にジェニファー・ロペスの映画にファインズが今度は議員の役で出ていた。「スパイダー・・」にも出ているし出演作が続くなあ。それにしてもこの議員の役、もしブレンダンだったら・・。あの体格、あの深みのある声、あの品のよさ。んーもう想像しただけでため息が出ちゃう。早くスクリーンで再会したいよーん。