ブロークバック・マウンテン

ブロークバック・マウンテン

見てからだいぶ日にちがたっている。こういう映画の感想は書きにくい。映画史に残る大傑作とか、アカデミー賞とれなかったのはなぜだ!とか、そういうことは思わない。そういうのとは別のところにある映画。一人で酒を前にして、「人生って・・」と小さなため息もらすと、グラスの中の氷が呼応するようにコロンと音を立てるような・・そんなイメージ。せつないやるせないでも生きていく・・みたいな。お客さんぎっしり入っていたけど、どうなんでしょう。私自身は考えていたのとちょっと違うという印象。前半の山へ登って行くところとか、山での暮らしは私好み。雄大な自然、馬、羊、犬、そして二人。特に子羊だか子犬だか(どっちだったか忘れた)をふところに入れてるジャックが何とも言えずいい。大らかで屈託のない笑顔。山、水、暗闇、光、炎・・。過酷で単調だけど見ていてあきない描写が続く。この部分だけで私には十分いい映画だったな。イニス(ヒース・レジャー)は呆れるほど不器用。あんまりしゃべらず、しゃべる時もボソボソ。苦労してもあんまり顔には出さない。優柔不断で自分の中にため込んでしまう性格。たまに爆発すると暴力的ですらある。ジャック(ジェイク・ギレンホール)は何となくすがるような印象。子犬のような目、人が恋しい。イニスにくらべれば開放的で、感情を表に出す方。普通に出会って普通に友達になって普通に家族ぐるみでつき合ったかもしれない二人。山での経験は二人の運命を変えてしまった。二人はより幸福な、より不幸なその後を送る。さえない薄汚い二人の男の20年にわたる愛憎物語じゃ映画はヒットするわけないが、ヒースとジェイクだからお客が詰めかける。たいていの客(主に女性)はもっとロマンチックで耽美的なストーリー期待したと思う。何を見ても(ポスター、パンフ・・)目をふせた二人の写真ばっかだし、濃厚なラブストーリーなんだろう・・ってね。でもそういうのはさっさと通り過ぎ、苦悩の人生が延々と描かれる。当てがはずれた人多いのでは?倦怠期の夫婦じゃあるまいし、会えば口論の二人にがっくりさせられたのでは?もっと他に見せるものあるでしょ!今の時代例えば陰陽師サイトへ行けば、若い女性の妄想の産物(小説、イラスト)をどっさり見ることができる(私はちょっと覗いただけで恐れをなして帰ってきましたが)。そういうのに慣れた人にはこの作品の描写は物足りないと思う。

ブロークバック・マウンテン2

私自身は、前半の心洗われる描写に感動したが、後半の延々描写には少々退屈した。これで終わりかな、あらまだ続くの。今度こそこれで終わりよね、えッ違うの?画面が切り替わってまた新しいエピソード。変化しているのに変化に乏しい印象。一つ一つエピソードを積み重ね、ていねいにじっくりと誠実にたんたんと・・それが結果的に何とも言えない深い感動を呼び起こし、涙をあふれさせる・・はずだったんだろうけど・・。中にはそういう人もいたんだろうけど・・。少なくとも私はその手法に乗れませんでしたな。例えばイニスが殴られて、次のシーンでは絶対顔が腫れ上がって包帯して・・なんて思っていると全然別のエピソードになってる。何かあっても次に持ち越さない。確かに人生ってそういうふうに過ぎていくけどさ、何かはずされたような感覚。最後も感動するよりやれやれやっと終わったぞ・・ってホッとしたくらい。とは言え、「自分でもどうしようもなく過ぎていく人生」ってのは伝わってきましたよ。出会って恋に落ちて末長く幸せに暮らしましたとさ・・なんて現実の生活ではムリ。決まった職につかずその日暮らしとか、いくらがんばっても妻の家族に見下されるとか。食堂で一人で食事するイニス、義父に軽んじられているジャック。もう空っ風がピューピュー吹いているみたいで心にしみる。彼らを暖かくつつんでくれる女性はいないのか!一人でいても家族といても、愛する人と一緒にいてさえ人間はさびしくせつない。片方が死んで、もう会うこともできなくなって初めて愛は完成する。これ以上変化することはなく、すべては思い出となり、思い出の中ではいいことも悪いことも懐かしく浄化され・・。あのブロークバックでの思い出のように・・。くー泣かせるぜ。てなわけで、物足りない部分はあるものの、それでいてある部分ではこれ以上ないくらい完成していると思わせる映画でしたな。ヒースもジェイクもよかったけど、女性陣は好きになれないようなキャラばっかりでしたな。まあ(私も含め)女性客は女優さんなんかろくに見てなかったと思いますが・・。他にアギーレ役でランディ・クエイド。太っちゃって最初は誰だかわからなかった。でも声は聞いたことあるし・・。どっしりと存在感があり、頑迷さとか暴力と隣り合わせの正義感とか、いろいろ伝わってきましたな。