バイバイ・ラブ

バイバイ・ラブ

この映画でのマシュー・モディンは本当にうっとりするような二枚目である。こんなにきれいな彼を見ることができる映画も珍しい。「リアル・ブロンド」ではちょっとくたびれて来ていたし、「アルジャーノンに花束を」ではとがった鼻が目立ちすぎて、ストーリーよりも鼻にばかり目が行ってしまう。最初から最後まで鼻・鼻・鼻・・なのだ。せっかくいい話なのに。ところがこの映画ではそれが全然気にならない。金髪で目はブルー。白いシャツなんか着たらもうおとぎの国の王子様・・。最初小さな女の子の手を引いて現われる。踊っているうちにとりこになった、結婚してください・・なんて大真面目にお願いする姿のステキなこと。離婚した男性三人が主人公のコメディーなんていうのはいかにもアメリカ的。離婚した奥さんに再婚相手、子供達、現在の自分の恋人・・などなど最初のうちはどれがどうなのかややこしくてよくわからない。ヴィクを演じるランディ・クエイドはこの映画を最初に見てしまったせいか、「フラッド」で敵役の保安官をやってもどうも憎めない。第一印象って後々まで影響するのよ。ヴィクは週末に来た子供達に「子鹿物語」のビデオを借りてとせがまれるが、もう何千回も見たし、その度に泣いてしまうから嫌だ・・と断る。でもやっぱり借りてきて子鹿を殺すシーンで泣く。ここがけっこう笑える。別れた奥さんとは憎み合っていて彼女の新しい相手も気に入らない。自分が週末に汗水たらして作ったポーチであんなプータローにいい思いなんかさせてやるもんか・・と留守中にポーチを破壊する。その気持ちわかるわかる。ブラインドデートの相手ルシルはものすごく文句の多い女性で、レストランへ行ったものの料理を注文するのに果てしなく時間がかかる。自己主張が強く、言い出したら聞かない猛女で、ヴィクがなぜ怒り出さないのか見ていて不思議だった。ラジオで「Dr.タウンゼントの離婚講座」というのをやっていて、三人が聞いているのもおかしいし、マクドナルドが子供の送り迎えの拠点になっているのもおかしい。子供の喜ぶ料理のレシピを交換し、母親から子供を受け取り、どうやって遊ばせるか相談し(結局はいつものように動物園などの決まりきったコースに落ち着くのだが)、父親達の運転する車がぞろぞろと駐車場を発進する。戻ってきた時には親も子供も疲労困ぱい。週末だけとはいえ父親業も楽じゃない。

バイバイ・ラブ2

ポール・レイザー扮するダニーは、いまだに別れた妻クレアに未練たっぷりで、自分がなぜ離婚するはめになったのか理解できない。14歳になった娘のエマは反抗期で、一緒にいるのを嫌がり、父子の会話も成り立たない。クレアがなぜ離婚を持ち出したのかはそのうちにわかってくる。ダニーは自己中心的な性格で、相手のことをちっとも考えない。自分はこう考えているから相手もそう考えているはず・・と思い込んでいる。おそらくクレアは言いたいことも言えず、忍耐に忍耐を重ね、とうとう耐えきれなくなって離婚を申し出たのだろう。再婚相手との仲むつまじい様子を覗き見たダニーはショックを受けるが、彼だって本当は自分のせいでこうなったのだということはわかっている。ただ認めたくないだけだ。しかし娘のエマに「私のせいで離婚したの?いい子になるからまた一緒になって」と言われれば「それはできない」と言うしかない。デイブやヴィクには「向こうもまだ未練があるらしい」なんていう自分かってな思い込みを話しても、娘には現実(クレアは再婚してとても幸せであり、自分と復縁することなどありえないということ)を話すしかない。またこうやって娘に現実を話すことは自分自身に言い聞かせることでもあるから、このことによって彼はやっとクレア離れの第一歩を踏み出すことができたのだった。子供は親の離婚など何かよくないことが起こった場合、まわりの事情がよく理解できないために、結局は一番わかりやすい理由、すなわち自分が悪い子だからこんなことになったのだ・・と思い込むことが多いそうだ。そう考えるとエマの言葉もまさにそれで、ここらへんはなかなか心打たれるシーンではある。マシュー演じるデイブはハンサムで気立てがよくて、それで何で離婚?と思えるくらいいい人なのだが、彼の場合いい人すぎるのが欠点。女性全部に親切なのだが女性の方は自分にだけ特別に親切なのだ・・と勘違いしてしまう。別れた妻のスーザンは今でもデイブのことが好きなのだが、新しい恋人のキムが一緒にいるのを見るとああ・・と思ってしまう。しょっちゅう相手が変わり、子供にも「ややこしいから名札をつけてよ」と文句を言われるくらいプレイボーイらしいが、本人は「楽しければいい」と罪悪感もない。この欠点さえなければ、直るものなら、スーザンにはやり直したいという気持ちはあるのだ。でもその期待も裏切られるばかり・・。

バイバイ・ラブ3

離婚したばかりの女性達が子供を連れ、手料理を持ってデイブを訪ねてくるシーンがおかしい。当然キムは怒り、デイブはなだめる。そのことだけを見れば使い古されたコメディーの設定だが、私がおかしかったのは別のこと。大人の女性のしたたかさである。彼女達は若い女性と違って一人でノコノコやって来たりはしない。いざという時のためにちゃんと逃げ道を用意してある。男の人が料理なんて大変でしょうから、ちょっとこんなもの作ってみたんですけどどうかと思って・・。とんでもない、やましいところなんてこれっぽちもございませんのよ。子供連れで行ったことでもそれはおわかりでしょ?オホホ・・。キムを見ても同類(離婚直後、手料理持参、子供連れ)を見ても目をつり上げたりしない(ただしやんわり皮肉は言う)。如才なくふるまって適当なところで引き上げる。以下は私の想像だが、家に帰って子供達を寝かしつけ、一人になってから言うんだろうな「呆れた!」って。でも自分が決して物欲しそうにふるまったりしなかったことを確認して安心し、キムとデイブの間に起こったであろういさかいを想像して溜飲を下げ、安らかに眠りにつくのである。若い頃にはこんなふうにうまく自分の感情をコントロールできなかっただろうが、彼女達に感じるのは経験による成長である。この二人の女性はなかなかよかった。気の多いデイブに悩まされ、二人の仲を裂こうとする子供にいじめられ、キムも大変だ。他の人の結婚は続いているのに、何で自分達のは続かないんだろうというセリフが出てくるが、結局外ヅラはいいけど内ヅラはよくなくて、それが離婚の原因になるのよね。彼らと対照的なのが老人雇用プランでマクドナルドで働き始めた70歳のウォルター。48年間連れ添った妻に死なれ、生活に困っているわけではないんだけれど孫ほども年の離れた若いマックスの下でせっせと働く。自立した子供達は忙しくてめったに会いにも来ないが仕方のないことだと思っている。家に居場所のなさそうなマックスに一緒に住まないかと持ちかける展開はやや唐突だが、孤独な二人の間に通う友情は見ていて快い。同じく孤独を感じていても子供や別れた妻や新しい恋人とドタバタやっている三人組とは対照的だ。見ている人は気のきいたセリフに笑いながらも一方では身につまされるんだろうな。とは言え、私自身の生活とはかけ離れた世界だ・・とは思う。