バッドサンタ

バッドサンタ

その日は朝から冷たい雨がシトシトと降り、風も吹いてとにかく寒かった。クリスマスもとっくに過ぎた年末。一日に一回しかやってなくてしかも朝早く。開場は8時半で、行ってみたらまだ開いてなくて母子連れが何組か。「ポーラー・エクスプレス」か「ハム太郎」か・・「バッドサンタ」でないことだけは確かだな。雨・風・冬・早朝・季節はずれ(つまりクリスマスもの)・・ということで、こりゃ誰も見る者はおるまいてムヒヒ・・念願の貸し切り初体験か・・と期待して、いや覚悟していたわけよ。そしたら一人入ってきて・・結局二人でした。ありそうでないなあ、一人きりって。「バッドサンタ」はやってるところが少ないし、実家に帰ったりしていたしで、見るのはムリだろうと半分あきらめていたのよ。思いがけなくクリスマス過ぎてもやっていてくれたんで。これ毎中新聞に紹介記事が載っていて、キッドのことを「無邪気にもほどがある」って書いていて、それで見る気になったのよ。その表現が気に入ったの。毎日新聞の方には「本当に酔っぱらっているとしか思えないビリー・ボブ・ソーントンの演技」と書いてあってその文章も気に入ったのよ。ソーントン扮するウィリーは、飲んだくれでだらしなくていいかげんで、とにかくどうしようもないダメ男。毎年クリスマスの売り上げをおさめたデパートの金庫を破り、大金を手に入れるがすぐまた貧乏に逆戻り。酒や女に目がなく、ぐうたらだからいつまでたっても真っ当な暮らしができないのだ。この作品の眼目はそんなウィリーと、彼を本物のサンタと思い込んでつけ回す孤独な落ちこぼれ少年キッドとの心の交流・・なのであるが、ウィリーと彼の相棒マーカスとのくされ縁も重要な部分をしめる。デパートで働く時はウィリーがサンタクロース、マーカスが妖精、裏の仕事ではウィリーが金庫破り、マーカスが警報装置の解除その他である。ウィリーは前にも書いた通りぐうたらなので、サンタの仕事ではマーカスに迷惑ばかりかけている。遅刻する、汚い言葉を吐く、酒を飲む、女を連れ込む、ひどい時には・・。途中でデパートの警備主任ジンがウィリー達の正体を見破り、黙っている代わりに分け前半分よこせと言ってくる。マーカスはジンを殺し、金庫が開いた時点でウィリーまで殺そうとする。この映画ウィリーのバッドサンタぶりにびっくりさせられるのかと思ったらキレた妖精マーカスにびっくりさせられるのだ。

バッドサンタ2

この点は意外だった。でもまあマーカスがキレるのもムリないかも。ウィリーには悪気はないけど、相棒を思いやる気持ちなんてあったためしがない。自分のことしか考えない。そういうウィリーがなぜかキッドのことは心に引っかかり・・でもマーカスのことではなくて、それが悲劇(?)の原因となるわけ。マーカスはウィリーのようなぐうたらではない。それでいてやっぱり年末には彼もこの仕事をくり返しているってことは・・お金がなくなっちゃうんだろうな。これってきっと彼の奥さんのせいだろう。奥さんのいいところはマーカスを一人の人間として扱っていることだ。マーカスは小人だが奥さんは全く気にしていない。ただ彼女はきっとハデ好きなんだと思う。金庫のお金の他にマーカスは(奥さんが前もって目をつけておいた)毛皮とか宝石とかも盗む。けっこうなお金になるだろうに年末になるとお金がないってことは・・。マーカスは奥さんのために今年もがんばるぞ・・って思うのだろう。ウィリーさえまともにサンタの役目を果たしてくれたら・・。さて途中でウィリーはキッドの家にころがり込む。驚いたことにキッドはボケたおばあちゃんとたった二人で豪邸に住んでいた。キッドの話では父親は山に探検に行っていてずっと留守とのこと。しかし実際には横領の罪で服役中。母親は天国に行ったことになっているが、邪推すればダンナにアイソつかして逃げたのかも。離婚したのだと子供に知られるくらいなら死んだと思わせる方がマシ・・ってそういうケースあるでしょ。あるいは横領の罪の連帯責任逃れるためにわざと離婚したとかさ。キッド達が豪邸に住んでいられるのはおばあちゃんか母親の名義になっているからでしょ。ダンナの名義だったら横領したお金の弁済するためにカタに取られてキッド達は宿なしになったはず。どちらにせよあの二人だけで生活するのはムリなんだけどさ、そこは映画ってことで・・。ウィリーのアル中ぶりも現実味がない。犯行の時も手袋とかはめてなくて、あれで何で今までつかまらずにすんだのかしら。さてキッドだけど、太っていてトロくてどんくさくて。こういう映画に出てくる子供は例え太っていても口だけは達者で、感情の起伏が激しい。自己主張が強い。こましゃくれていてかわいげがない。つまりとても攻撃的で、それが普通なんだけど、ここに出てくるキッドはちょっと違う。

バッドサンタ3

うるさく質問し、ウィリーが気味の悪いガキだ、あっちへ行け・・と邪険にしても全然気にしない。「オレはサンタじゃない」と言っても「わかってる」と受け流してしまう。悪ガキにからかわれても口答えもせず黙って通り過ぎる。ほとんど感情を表に出さず、広い家に話し相手もなしに住んでいてもさびしいとも思わず、当然のこととして受け入れている。一度だけ大騒ぎをしたが、それは手を切ってしまった時。それもウィリーにプレゼントする木彫りのピクルスを作っていたのだ、ああ!キッドはこの奇妙なプレゼントを渡し、自分にもお返しのプレゼントを期待する。「オレはサンタじゃない」とウィリーが言っても「わかってる、でも友人ならプレゼントを交換するでしょ」と答える。ああ!私このセリフ聞いた時、鼻の奥がツンとしましたの。サンタと子供だと「与える者」と「与えられる者」だけど、友人どうしということは対等な立場ってことでしょ。キッドはウィリーのことを自分と対等な者として見ているのよね。大人だから子供にこういうことをしてくれるべきだとか、子供だから大人にこういうことをしてもらえるとかではなくてさ。また、彼がしきりに成績表を見せようとするので、この子トロそうだけど案外頭いいのかも、成績優秀だったりして・・と思ったらCばっかりで、見かけもトロいけど頭もトロいんだとわかって、そのとりえのなさがまた胸に迫ってきてね(しんみり)。一方のウィリー、キッドが欲しがっていたのがピンクの象だったか紫の象だったか度忘れしちゃって、どっちにしようかあせりまくるんだけど、どうせ盗むんだから両方持ってきゃいいじゃん!ラストは警官に撃たれてバッタリ。あら死んじゃうの?何とも辛口の映画だぜい・・と思ったら「8ヶ所撃たれたが内臓は無事だった。肝臓は元々無事じゃないけど」とか何とかナレーションが入り、どうやら助かったようで。警察も近所の「小さな子供の目の前」で「丸腰のサンタ」を「後ろから」撃ったのはちとまずかった。しかも前もって罪を告白する手紙も警察に送っていたし・・で、刑務所暮らしもそんなに長くはなさそうで。全体的に単調で、さして笑える内容でもなく(なかなか開かない金庫に業を煮やして斧をふるうところが一番おかしい)暗い映画なのだが、ホロリとさせてくれるところもあり、ラストもうまくまとめて後味よくしてくれたので見てよかった。心がちょっぴり暖まった。