ヒア アフター

ヒア アフター

これは前から見たいと思ってた。途中で上映中止になっちゃって。私から見ると過剰反応かなとも思うけど、耐えられない人もいるんだろうな。あんなふうに何の前触れもなく起きるのは・・地震とか何もなくて・・説明不足な気もするが、ヒロイン、フランス人ジャーナリスト、マリー(セシル・ドゥ・フランス)の運命を変えたきっかけとして描かれるだけだから触れないのかな。命拾いしたマリーだが、仕事に戻っても集中できない。不思議な体験をしたけど、あれは何だったのだろう。頭を打ったせいかな。とにかく現場・・テレビのニュース番組・・を離れ、少し休んで本でも書いてみようか。ミッテランの裏の顔とか・・最初はそう思っていたけど、自分の体験を書きたくなった。簡単に資料を貸してもらえ、すぐ書き上げる。でも契約と違う、こんなの売れないと冷たい反応。気がついてみればテレビ番組は他の女性が仕切り、恋人だったディレクター(たぶん)の心もその女に移っている。冒頭の感じでは、バカンスに来ている夫婦かな・・と。でも違うようで、男には子供がいて、じゃあ不倫してるとか?でもこういう関係ってあんまり・・。たぶんすぐ壊れる。仕事も名声も恋人も失ったマリー。その一方で一度は断られた出版の話がまとまり、ロンドンで開かれるブックフェアに行くことに。サンフランシスコに住むジョージ(マット・デイモン)は、元霊能者。兄のビリーはいい金儲けの手段、あるいは人助け、才能だと思っているが、ジョージにとってはこんな能力、呪いでしかない。病気で難しい手術をして、それがきっかけで死者と交信できるようになった。一時はサイトを開き、本を出したり、ビリーに操られるままいろいろやったが、常に苦痛だった。今は工場で働く普通の労働者。でも何度説明しても兄には自分の気持ちはわかってもらえない。今回だけ・・と依頼者を連れてくるし、やればやったで絶対に口外するなと約束させたのにうわさが広まる。料理教室でお互い好意を抱いたメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)にも結局去られた。そのうち勤め先をリストラされる。また兄に利用されるよりは・・と、行く先も告げず旅に出る。ディケンズファンの彼は、ロンドンへ。また彼は毎晩のようにデレク・ジャコビの朗読を聞きながら眠りにつく。そのジャコビの朗読会がブックフェアでやってる!そしてそこでサイン会をやっていたのがマリー。

ヒア アフター2

一方ロンドンに住む一卵性双生児のマーカスとジェイソン。母親はヘロイン中毒か。ある日ジェイソンが交通事故で死んでしまう。母親は立ち直る決意を固め、その間マーカスは里子に出される。ジェイソンに頼りっぱなしだったマーカスは心細くて仕方がない。あの時だって自分がお使いに行くはずだったのを彼が代わってくれたのだ。もう一度ジェイソンに会いたい。マーカスは誰にも心を開かず、金を盗み、ほうぼうの霊能者を訪ねて回るが、誰も満足させてくれない。彼の前に里子として養育されていたリッキーは、就職して家を出た。彼に会わせれば何か効果あるかも・・と、里親に連れてこられたのがブックフェア。マーカスはネットで見たジョージを見かけ、あとを追いかける。・・まあここまでが長いこと。三人の運命が交差するまでが。不公平にならないよう気を配って、三人ともちゃんとていねいに描く。共通しているのは、いやに暗くて凝った照明。それと見え見えの流れ。マリーの生活が・・やりがいがあって順調でとても忙しくて・・それが違って見えてくる。そんなに価値のあるものには思えなくなる。テレビにうつることが、ポスターが貼られることが、上司と寝ることが、暴露本を書くことが・・それがいったい何?ジョージの場合はメラニー。出てきたとたん、あ、こりゃだめだ。こんなのに引っかかっちゃだめ。彼女ピッツバーグで結婚式をドタキャンされたらしい。新しい土地で誰かお友達ができるといいと思って・・料理なんかどうでもいい、とにかくいいオトコ見つけたい。ぺチャぺチャしゃべってかわいくて人懐こいけど・・何か危なっかしい。ぐらついてる。隠してる。ドタキャンした彼氏はたぶん利口。危険を察知して逃げたのだ。うまくジョージのアパートに入り込み、いい感じでいくはずだったけど、ビリーからの電話が耳にとまる。たちまち好奇心に火がつく。ねえ聞いてもいい?興味があるの。お願いがあるの。ああもうこういう、自分から火の中に飛び込んじゃうタイプ・・いるよなあ。ヤケドするってわかってて飛び込む。しかも初めてじゃない!彼女には暗い過去があって、交信を頼めばそれがわかってしまうというのに、でも好奇心を抑えきれない。で、やっちまった後でお定まりのセリフ。やるべきじゃなかった、なかったことにしましょ。ううん、あんたわかってた。こうなるってわかってた。

ヒア アフター3

そそくさと帰ろうとし、階段の途中で泣き崩れる。そして次の料理教室には現われない。私はもう少しメラニーは引っかかってくると思ってたけど、わりとあっさり退場しましたな。また別の街で出会い捜すんでしょう。ジョージはまた同じ苦痛味わうこととなった。好きになった相手のすべてを知りたいというのはよくあるけど、そんなこと現実にはない方がいい。自分は知りたくもないのに手が触れただけで相手のことがわかってしまう。多くの場合嫌なこと、辛いこと、苦しいことだ。これが呪いでなくて何だろう!何度も経験してるから初めから期待なんかしてないけど、でもへこむよなあ。マーカスの方も・・ジェイソンがケータイ片手に歩いてて、不良に目をつけられるって、逃げようとして車にはねられるって見え見え。混雑したラッシュ時の地下鉄駅。子供にとって危険だよなあ。マーカスがかぶっていた帽子(ジェイソンの形見)がなぜか飛んで、それを捜しているうちに列車が出てしまった。そろそろ・・と思っていたら案の定。列車は爆発。爆弾テロだ。ジェイソンが助けてくれたのだ!で、それらをていねいに描き、決して急がない。そのわりにはラストはあっさり。説明もなく終わる。いちおうハッピーエンドだ。マーカスは立ち直った母親と再会する。さあここで泣きましょう!マリーとジョージは出会ったとたん、目が合ったとたん何かを感じた。サイン会で手が触れた時、ジョージにはすべてがわかった。次に会って握手した時は何もなかったな。能力が打ち消されたってことなのかな。だとしたら都合よすぎるけど。・・てなわけで、出来はいいのでしょうか。悪くはないけどものすごくいいってわけでもない・・そんなとこですかね。嫌な感じは残らない。良心的。私自身はジョージのキャラや境遇に強く引かれた。他の二人はどうでもいいとさえ思えた。望まぬ能力のせいで、世間から隠れてひっそり暮らしている男。彼を利用しようとする者、引かれて近づいてきて結局は傷ついて去る者、ある日突然彼に救いをもたらす運命の人。死に取り巻かれていたのが一転し、霧が晴れて世界は輝く。・・ジョージだけで一本の映画作れるよな。

ヒア アフター4

デイモンはこういう地味で大人しい役は珍しいんじゃないの?不満や怒りを押さえ込んで、じっと耐える。やけっぱちにはならない。ここまで来るにはたぶんいろいろあったと思う。自暴自棄になったかもしれない。薬で抑えようとしたこともあったけど、幻覚を消す薬は生きる気力まで奪ってしまうらしい。一人で食べるシーンや、朗読を聞きながら眠ろうとするシーンが何度か出てくる。例えば騒がしいクラブで飲んだくれるとか、ジャンクフードですませるとか、そういう投げた生き方はしない。きちんと生きる。ディケンズの生家をおのぼりさん丸出しで訪れるところ、あこがれのジャコビに会って感激するところ。とってもまともでささやかなことだけに、こちらの顔もゆるむ。彼には幸せになって欲しい。結果的にはマーカスの願いをかなえ、マーカスがキューピッドの役割を果たし、ハッピーなラストへ。ジョージのマリーへの手紙。内容は不明だが、びっしりと書かれている。むさぼるように読むマリーの表情が変化する。メールより、電話より、やっぱり手紙。今回のデイモンは本当に魅力的だった。世界を股にかけるわけでもなく、超人的な動きするわけでもない。でもこんなに真面目で思いやりがあって忍耐強くて純粋で・・。もうそろそろ報われてもいい頃だよね。幸せになれるよね。マーカスが訪ね歩く霊能者達。中にはインチキなのもいるし、勘違いしてるだけなのもいるし、大真面目なのもいるし。そしてそのまわりには信じている者、信じたい者が集まる。需要があるから供給する方もなくならない。この映画は死んだらどうなる?の映画ではなかった。生きている者は必ず死ぬが、死の前には必ず生の期間がある。普段はあんまり意識しないけど、どう生きるか、自分はちゃんと生きてるか・・考えてみるのもいいんじゃない?出演者は他にマリーに協力するルソー博士役で「インストーラー」のマルト・ケラー、ビリー役が「フェイク シティ ある男のルール」などのジェイ・モーア、マーカスの養母役でニーアム・キューザック。冒頭マリーを助ける男性の一人は日系か。ジャコビは本人役。私が見たのはWOWOWの吹き替え版だが、朗読の声などとてもよかった。