ウルフ

ウルフ

ジェームズ・スペイダーのファンになった頃、DVDをレンタルして見た。その後たいていの中古DVD売場に500円くらいで出ているので、この値段なら持っていてもいいかな~と。この作品の売りはジャック・ニコルソンとミシエル・ファイファーの犬猫コンビ、あるいは美女と野獣、あるいは「バットマン」流れ。そういうことだろうと思う。でも私はニコルソンは好きじゃないので、スペイダーが出ているんでなきゃ見ませんよ、買いませんよ。ニコルソンが出ているだけでもうこの映画のカラーは決まっちゃう。出版社の編集長ウィル(ニコルソン)は、東欧への左遷かクビのどちらかを迫られている。部下にも作家達にも人望はあるが、オーナーのアルデン(クリストファー・プラマー)は本のことはよく知らなくて金儲け主義だから、ウィルとは合わない。ウィルを蹴落としたのがスチュアート(スペイダー)。彼の言動は誠実・忠実そのもの。決定を相手にゆだねるようなソフトな言い方を常にする。君の言う通りにする・・君がこうしろと言うのならボクはそれに従う・・。でもそう言っておきながら裏でこそこそ画策する。いつの間にかウィルの妻シャーロット(懐かしや「ドラキュラ」のケイト・ネリガンだ!)と通じている。まあ大変な偽善者。スペイダーファンとしてはクライマックスでの人狼メイクは汚らしくて見るに堪えないが、変身前の美しさときたら・・完璧!!私がDVD買ったのはひとえにこの美しさのせいです。ウィルは深夜車を運転していて狼をはねてしまう。死んだと思ったら生きていて、手を噛まれてしまう。その後狼は逃げてしまうので、なぜ車の前に現われ、噛みつき、姿を消すのか不明のまま。噛まれたらすぐ病院行くと思うが、あまり急いでいない。そのうちウィルに変化が起きる(・・と言っても元々がニコルソンだからねえ)。「カースド」に似た変化だが、あっちは若者中心だからポップでカラフルで動きがあるが、こっちは60近いニコルソンなので、どこかゆっくりな感じ。嗅覚が鋭敏になり、メガネがいらなくなり、行動に自信が出てくる。しかし完全に変身したわけではないので、初老の男としてはムリが出てくる。熱が出てへたり込む。肝腎の人狼変身説については、研究者アレゼアスが出てきて真面目に解説するが、はっきりすることはほとんどない。彼はウィルの話を聞いても疑ったり驚いたりしない。

ウルフ2

彼は医者から死の宣告受けているので、ウィルに噛んでもらって、自分に変化が起きるかどうか試したい。もしかしたら延命できるかも・・。しかしウィルは断る。噛むのがいやなら血を提供するとか・・そういうこともしてあげないのでアレゼアスとのかかわりはそれで終わりである。死の宣告受けた人に・・冷たいなあ。話も広がらないし。さてウィルは自分で出版社作り、おかかえ作家をごっそり引き抜くぞ・・と強い態度に出たので、アルデンも折れる。アルデンの娘ローラ(ファイファー)と親しくなり、シャーロットがわびを入れてきても突っぱねる。冷たく追い返すところを偶然ローラが見ていた・・というのはいい設定だが、その後二人が結ばれるのは・・。そりゃ彼をだまして浮気していたのは許せなくて当然だが、16年も連れ添った妻だよ。そんな彼にローラが積極的に寄っていくというのも・・奥さん気の毒に・・とか思わないのかね。それに二人が結ばれることは不倫で、シャーロットがやってたことと変わんない。さてウィルはポケットに血のついたハンカチや、誰かの指が入っていたので、自分が恐ろしくなる。夜中の行動は記憶がないらしい。動物園をうろつき(当然動物達は騒ぐ)、警官に見とがめられる。警官の一人はデヴィッド・シュワイマー。彼って・・ホント主役になるような輝き持たない人よねえ。まあ俳優が全員光り輝いていたんじゃ映画や芝居にならないけど。ところでウィルに金をせびって指を噛み切られた少年・・そのうち変身するのでは?同じ夜シャーロットも殺される。ウィルは自分が殺したのでは・・とおびえる。ちなみに調べに来た刑事の一人はリチャード・ジェンキンスである。ローラは父親とうまくいってないが、働きもせずすねかじりか。今まで寄ってきた男とは違う・・とウィルに引かれるが、その彼が殺人犯らしいというので、さすがの彼女もとほうにくれる。見ている我々もてっきりウィルが・・ニコルソンだし・・と思ってる。だからおかしくなりかけたスチュアートが現われた時はすごくびっくりするわけで。それとも他の人は皆、殺しはスチュアートの仕業・・ってすぐわかったのかな。まああまりにも美しいものは(ファイファーじゃないよ、スペイダーのことよ)、ほんのちょっと方向がずれると邪悪に見える・・と。それをまざまざと見せつけられる。コンタクトレンズを入れただけなのに・・。

ウルフ3

警察に来たローラの前にひょこっと現われ、匂いをかぐような妙なしぐさ。あの時のローラがウィルをどうするつもりだったのか、警察で何を話すつもりだったのか私には今いちわからないんだけど、スチュアートが出てきてすべてが明らかになる。今まで起きたよくないことの犯人・・つまりシャーロットを殺したのは彼だとわかる。ウィルと違い、彼には変身中の記憶もあるようだ。まあ欲を言えば彼にはぎりぎりまでサングラスかけていて欲しかったけど。だって刑事達が彼の異変に全く気づいていないのはおかしいでしょ。クライマックスはスペイダーファンにとってはなかったことにして欲しいようなもの見せられるけど、その反面よくやったな・・とも思う。だいたいああいうハンサムって、一部のナルシストを除き、自分のことをハンサムだなんて思ってない。だから汚らしいメイクもおぞましい演技も平気(たぶん)。でもって若い方が勝つに決まってるんだけど、映画だからそうならない。最後はローラがスチュアート撃ち殺す。狼男なら銀の弾でなきゃ・・と思うが、関係ないらしい。その後のことはよくわからない。ウィルはどうなったの?ローラも変身しかけていて、彼女の目をうつして終わり。ファイファーを起用したのはこのシーンのためとでも思いたくなるような・・説明不足で終わるのも気にならないくらいの怪しい瞳。監督はマイク・ニコルズ。わりと静かでゆっくりしていて、そのせいで2時間以上ある。若い人向けなら90分ですむが、じっくりあせらず。音楽(エンニオ・モリコーネ)も静かで美しい。ところどころ狼シーンで躍動感を出す。むやみにCG使ったりせず、スローモーションを多用している。ニコルソンだからこうなるだろうという予測は裏切られる。ウィルは根本的には人を傷つけたりしない善人。狼に変身してもその善性は残る。逆にスチュアートは見かけは大人しく誠実そうだが、邪悪な人間。狼になるとその邪悪さが増幅される。そこらへん・・見かけを逆手に取ったところはよかったと思う。でも・・やっぱりウィルのその後は、はっきりさせて欲しかったな。ローラとは一緒になれないの?彼を噛んだ狼も元は人間なのかも。ひとりぼっちはさびしいから仲間増やしたかったのかも。てなわけでこれと言った欠点はないが、と言って夢中にさせるようなものもないわりと普通の作品。こういうのをやるにはニコルソンはちと年を取りすぎだ。