インセクト

インセクト

今年に入ってレンタル店のカードを四枚も作った。もちろんスティーヴ・レイルズバックのせい。久しぶりに「その俳優の出演作品全部見なくちゃ(集めなくちゃ)気がすまない症候群」にかかってます私。ほとんどのレンタル店は、車で来ることを前提に郊外にある(街中にあったレンタル店は全部つぶれている)。行くのは大変なんだけど、がんばって歩く。四軒目の店は、遠いから・・とあとまわしにしていたんだけど、行ってみてびっくり。ビデオテープが健在なのよ!今はどこもDVDが主流。ビデオなんて隅っこにアニメがちょこっと置いてあるくらい。ところがここはビデオがずらーっと。私一瞬天国に来たのかと思いましたよハレルヤ。だって題名を目で追っていくと、捜していたものが次々に見つかるんですものハレルヤ。ウワッあれもある、キャッこれもある・・のウハウハ状態(ただし「デビルスピーク」と「悪魔の調教師」は見つかりませんでしたけど残念無念。まあ天国では見つからないんでしょう・・って何のこっちゃ)。DVDももちろんずらーっと並んでいるけど、そっちはあとまわし。何たって今はいつ天国が地獄になるかわかったもんじゃないから。・・つまりある日突然ビデオがなくなってDVDだけになってた・・なんてことがありうるから。私にとっては「地球が静止する日」に等しい。いやいや大げさなこと言ってるんじゃないですってば。並んでいるビデオ見ると、えッこんなのまでビデオ化されていたの?って改めてびっくりする。今は毎週のように大量の新作DVDが出ているけど、まだまだDVD化されてないものもたくさんある。ビデオでしか見ることのできないものが。名作や話題作はそれでも将来発売される望みはあるけど、問題はクズの方。この店のSFやホラー、アクションの棚にはクズビデオがぎっしり並んでいる。新作DVDでもクズはどっさり出ているけどほとんどは製作年度が新しいクズ。古いクズが出ることはまれ。だからビデオが置いてある今のうちに見ておかなくちゃならないのだ。それでなくてもレイルズバックのようなタイプの俳優が出ている映画は、ほとんどがこのクズの中に入る。・・てなわけで最近はレンタル店通い。おかげでシネコンには行ってるヒマがない。レンタル店に通う一方で、中古の出物はないかとネットで捜したりもする。

インセクト2

この「インセクト」は、ネットで捜している時店によってはR指定作品になっていたりして。内容から言うとホラー、モンスター物っぽい。R指定と言うことはよっぽど残酷な描写があるのか。「エイリアン」シリーズ顔負けのぐっちょぐちょシーンとか。内臓博覧会とか(←?)。ところが他の情報見るとそうでもないみたいなんだよな。わりと普通のホラー、モンスター系。そのうちわかったけど、「インセクト」という映画がもう一本あるのよ。「変態愛 インセクト」とかいうのが。題名や主演がパッツィ・ケンジットということから、エロティックな映画だろうと予想される。レイルズバックの「インセクト」をR指定にしたのは、こっちと混同したからではないか。本とかネット、ビデオカバーの紹介文を読んでいると、あなたホントにこの映画見て文章書いてます?と思うことがよくある。この場合もよく調べずR指定にしちゃったんだろう。ちなみに店には「変態愛」のDVDもありましたけど、この題名も正常でないという意味での変態と、カエルや昆虫などの変態とを引っかけているんじゃないの?お客が勘違いしてレンタルするように・・。この「変態愛」はちゃんとした文芸ドラマらしいから、あらぬ想像をしてレンタルした人は当てがはずれるかも。そう・・インセクトって昆虫のこと。ネットで検索すると遊戯王のカードとかがヒットする。肝腎の中古ビデオの出物は見つかりませんでした残念。まあレンタル店で見つけて見ることができただけでもいいか。前置きが長くなったけど、この映画が作られたのは1987年頃。テレビで放映された時は「バイオ・エイリアン/新種誕生」という、いかにもな題名。すでに「エイリアン」が作られた後だから、その亜流みたいな感じ?私自身は「ミミック」に似ているなあ・・と思いながら見ていた。内容に共通点はさほどないけど、暗くて湿った感じがね。冒頭はのどかな感じ。年配の女性マーウェラは、今日も温室で植物の世話に余念がない。近所の子供が野球をしていて割ったのか、窓ガラスの修理をしているのはやはり年配の男性フレッド。彼はマーウェラに気があるのか、修理費の代わりに金曜の夕食を一緒に・・と誘う。最近マーウェラが手に入れた外国産の珍しい植物で指を傷つけたけど、デートOKという返事に気をよくした彼は気にとめない。ところが・・急に気分が悪くなり、倒れてしまう。

インセクト3

すぐ病院に運び込まれるが、他にも急患がいた。銃で腹を撃たれた刑事である。つき添っているのがレイルズバック扮するビショップ刑事。いちおう彼が主人公だが、本格的に事件が起きる・・つまり怪物が登場するまでは、あんまりやることがない。怪物が登場すれば彼が先頭に立って行動するだろう。銃を持ってるし、ある程度勇気、実行力、判断力がある。怪物を前にパニクることもない。もちろん専門家(病院内部配置に詳しい者、生物学的知識が豊富な者)の助けは必要だが。しかし登場してしばらくの間は、彼は相棒オスカーの容体を心配する以外やることがない。ヒマを持てあましている無能な男に見えてしまう。忙しい職員達にうるさく質問し、仕事の邪魔をしているみたい。もっと別な描写できるはず。撃った犯人どうなった?署に報告入れた?オスカーの家族に連絡は?この映画は登場人物のキャラ描写はわりとさらっとしている。深く突っ込まない。怪物の方に比重かかっているせいか。さらっとしているせいで逆にうまくいってる場合もあるけどね。やたらキャラを掘り下げりゃいいってものでもないのだ。さて、フレッドを心配してつき添ってきたマーウェラを、入院中の友人ディディがなぐさめる。彼女はどこが悪いのか不明。黒メガネに杖なので、目が不自由なんだろうが、元気がよく規則を全然守らない。マーウェラはフレッドより軽いが、何かに感染しているようなので、隔離病棟に入れられる。ディディはその隔離病棟にも平気で出入りする。自分のところの植物のせいでフレッドが・・と落ち込むマーウェラを元気づけようと酒を取り出し、二人して酔っぱらう。フレッドは首のあたりがうにょうにょしたかと思うと、口から大きなイモ虫が出てくる。うげげ~R指定はこのせい?(違うって!)うにょうにょと言うと「ハムナプトラ」のスカラベが印象的だが、その10年も前にすでにうにょうにょさせていたんですねえ・・。その後フレッドは死んでしまう。電気ショックを与えようとパドルを胸に当てると血がどぴゅー。「エイリアン」思い出させる。女医のレイチェル(グウィニス・ウォルシュ)に血がかかったけど感染しないの?短期間に成長し、成熟し、卵を産むというのもエイリアンぽい。

インセクト4

ミクロネシアから輸入された植物に虫がくっついていたってのがそもそもの始まり。フレッドの指から侵入し、体の中で急速に成長。口から出てくる。この時点では正体不明であるものの、特大のイモ虫程度。容器に閉じ込めておくことができる。しかしマーウェラや、フレッドを運んだ救急隊員に症状が現われる。何かに感染したようだ。と言っても見た限りではマーウェラに変化はないし、救急隊員もうつらないので、どんな症状なのかよくわからない。どういう感染経路なのかもわからない。フレッドにさわったから?事件が起き始めたぞ~ちゅうもーく・・という段階にしては描写不足。イモ虫が口から出てくるシーンで十分、つかみはOK!って思ってるのかな。X線で調べても虫の内部はわからない。解剖しようとすると緑色の汁がどぴゅ。イモ虫の汁がかかったのに感染しないのはなぜ?と言うか防具もつけず生きている虫を解剖するなんて危険じゃないの?緑色の汁が毒だったらどうするの?さて、虫も気になるけど女医のグラスはフレッドの血液も気になる。伝染病管理局へ送って調べてもらうことにする。院長レバリングは騒ぎすぎだと反対するが、グラスの決意は固い。院長役ジョン・ヴァーノンはよく見る顔だ。たいてい悪役だが貫禄があり、声もいい。普通こういう映画だと院長は出世主義、金儲け主義、ことなかれ主義、いばりくさった無能な男として描かれるが、この映画はそうでもない。前にも書いたが掘り下げず、淡白な描写。彼とレイルズバックくらいかな・・知ってる人は・・と思っていたら意外な人が出ていた。院内を四人の子供がうろちょろしている。白血病のような難病の子もいれば、むち打ちらしい子もいる。ベッドに寝ているほど重症じゃないし、親に見捨てられたような状態なので見舞いに来る者も帰る当てもない。することがないから探検と称してあちこちうろつく。リーダー格ジョーイ役はスチュアート・ストーン。今では成長し、ちっとは知られているらしい(私は知らんけど)。もう一人かわいい少女がいて、エレンというのだがこれが何とサラ・ポーリー。まだ8歳かそこら。金髪で色が白く目がぱっちり。ダコタ・ファニングに似ているが、こましゃくれたところはなく無邪気ではかなげな感じ。ジョーイ達のせいでこの後病院ではとんでもないことが起きる。

インセクト5

ここは銃で撃たれた人が運び込まれるなんてめったにないような、いわゆる普通の病院。外見は古いが、中は近代的な設備。でもどこかずさんと言うかゆるんでいるところがある。レイチェルやグラスのように真面目でしっかりした者もいるけど、中には・・。こういう映画には必ず出てくるうっかり者、犠牲者候補。イモ虫には取りあえず大きくて重いガラスの容器をかぶせた。上にあいた穴には栓をしてあるし、下は机だから逃げられる心配はない。何があるかわからないから目を離さないように・・そう言われたアリスはでもやっぱり目を離す。彼女は若く、あまりしっかりした気性でもない。同僚のテッドにハッパを勧められるとホイホイついていく。誰もいなくなったところで現われたのはいたずらっ子達。何かヘンなのがいるぞ~とワイワイ。栓を抜き、そこらにあったビンのなかみを振りかける。実はこの粉・・成長促進剤だった。30分もたってからご機嫌で帰ってきたアリスとテッド。今度は台の上でいちゃつき始める。その彼らに襲いかかったものは・・。もう犠牲者コースまっしぐらですなこの二人。若くて軽薄で無責任。仕事をさぼった代償は大きかった。「エイリアン」の場合と同じで、彼らはすぐには殺されない。生きながら卵からかえった幼虫のエサとなるのだオヨヨ。でも見ていてあんまり気の毒とも思わない。自業自得だ・・とかさ。でもそれを言うならいたずらした子供達も少しはねえ。子供だからという理由で何のおとがめもなしなのは片手落ち。彼らもエサに・・ってそれじゃR指定だろッ!後で調べれば(調べないだろうけど)粉振りかけたの誰の仕業かわかる。指紋がべたべたくっついているだろうから。大きさから子供のだってすぐわかる。こってり油をしぼられれば少しはこりるだろうけど、あのままじゃ自分達のしたこと気づかない。次にあのビン見つけたらまた何かに振りかけますぜ。自分に振りかけたりして・・。まあとにかく慣れと忙しさのせいで規律のゆるみはありますな。危険な薬品がそこらに出しっぱなしなこと、子供が自由に出入りできちゃうこと。今までにも絶対何かやってますぜ。薬ビンのなかみ、試験管のなかみ、検尿コップのなかみ・・入れ替えたりブレンドしたり。誰かが病気になったり検査結果がおかしかったり誤診の元になったり。

インセクト6

さてアリスを捜していた看護婦は、検査室の様子がおかしいことに気づく。病院中に響き渡る悲鳴・・。まあずいぶんはりきって悲鳴上げましたねえ。悲鳴の程度からみてあたしゃてっきり部屋の中が内臓博覧会、脳みそ展示会、血の池地獄だと思ったんですけど。何にもないじゃありませんか。怪物もいないしアリス達もいない。部屋の中が荒らされ、緑色のベタベタがあるくらい。中が荒らされているのはドアが壊れているし、入る前からわかってる。あのばかでかい悲鳴はおかしいぞ。さて、レイチェル達には昆虫のことはよくわからないので、専門家のジャコブを呼び寄せる。使いとして出向いたのは病院の治安係トニー。この人黒人だけどハリー・コニック・Jrにそっくり。ジャコブはいわゆる学者バカ。頭の中は虫のことばっか。家の中は虫だらけ。冷蔵庫の中も食べ物と虫が同居。トニーの車がビートルなのを喜ぶ・・といった具合。一方届けられたフレッドの血液を調べた伝染病管理局は、即第四体制を要請。人類に脅威を及ぼすような細菌が見つかったりすると、感染が広がらないようこの第四体制が敷かれるらしい。病院は隔離され、陸の孤島状態。トニーはそもそもの原因となった植物を取りに行くが、マーウェラの温室は焼き払われていた。・・さて、ここらあたりになると登場人物は出揃ったし、怪物は出たしで、何となく目鼻がついた感じ。昆虫学者が登場したから、怪物のことも少しは説明され、対策も練られるのだろう。レイチェルはビショップにレーザー研究室を見せていたから、クライマックスではこれが怪物退治に使われるのだろう。いちおう感染による病気と怪物と、恐怖の対象は二つある。でも比重はもちろん怪物の方にかかっている。見ている我々だって目に見えないものではなく、見えるものの方に目が行く。病院の外には衛生局の者や軍隊が集まる。感染を広げないためとは言えやることが早い。それとかなり乱暴。問題の植物も燃やしちゃったのか。と言うか、どの植物だったかわかっているのか。マーウェラ以外にも購入した者がいるのではないか。マーウェラに事情を聞いた形跡もなし。普通聞くでしょ、どの業者から・・とか。連中が気にかけてるのは未知の細菌による脅威。病気の原因解明と特効薬の発見。ぶっちゃけて言えば武器には武器で対抗・・ってこと。怪物のことは・・イモ虫が怪物になったことは知らないのよね?

インセクト7

普通電話で報告するでしょ院長あたりが・・。病院の中と外では、だから考えていることにズレがある。隔離ったってそう長い期間じゃない。2時間たって何の指令もなければ・・つまり特効薬が見つからなかったら・・病院破壊するらしい。ウーム何て早いんだ。今のところ一人死亡患者数人だけなのに根こそぎ殺戮ですか?ムチャなことしますな。まあ映画だからね。他の映画なら、院長がこれを知ってみんなに告げるべきか否か懊悩したりするんだろうけどそれはなし。病院から脱出しようとした男は撃たれて死ぬ。これもムチャな設定。足を撃つとか麻酔銃使うとかワンクッション置かない。即殺しちゃう。ケガさせたって病院の前だからすぐ治療してもらえるのに。そうやって罪のない人(ただのあわて者)殺すくせに、怪物に対しては何もしない。何も知らないのか、内部で何が起きようがノータッチという命令なのか。この映画は怪物を怖がるべきなんだろうけど・・確かに怖いけど・・人間のやることの方が怖い。怪物(たぶん作り手の自信作)見ながら私は別のこと考えていた。怪物を作り出し、解き放ってしまう子供の無邪気さやカップルの無責任さが怖い。軍隊が(怪物ではなく)人間を殺すために配置されていることが怖い。内部ではパニックのせいでケガ人が出る。部屋に閉じこもり息を潜めていればやり過ごせるのに、わざわざ出てきて逃げ回る。ころぶ人、踏まれる人が出る。怪物ではなく人間のせいでケガをする。すぐ目の前に武装した軍隊がいても、何もしてくれないからビショップ達が奮闘するしかない。彼は銃を持っているけど他の人は・・。怪物に追われたレイチェルが大きなナイフみたいなものを持って死体入れ(たぶん)に隠れるシーンがある。解剖室だろうから、メスとかノコギリとかそれなりに武器として使えるものあるんじゃないの?・・と思ったけど、レイチェルはそのナイフみたいなもの置いていっちゃうし。身を守るもの全然用意しない。まあ・・とにかく・・私が言いたいのは怪物より人間の方がよっぽど怖いということです。怪物が外に出れば驚いた軍隊が攻撃するというハデなシーン見れただろうけどそういうのはなし。お金がなかったのかな。さて話があちこち飛んでいるけど肝腎の怪物についてちょっと。全体的にはアリみたいな感じ。いろんなものいっぱいくっつけているけど、はっきりした形はわからない。

インセクト8

笑っちゃうのはエンドクレジットで一番先に出てくるのがザ・クリーチャーなこと。レイルズバックより先なのよ。この映画の主役は怪物なのよ。それと怪物の中には人が入ってる・・着ぐるみってことね。ジャコブが登場すると、怪物についてああだこうだと解説される。パッと見ただけでそんなにわかるの?とも思うが、映画だからね。多くの点で昆虫などは人間よりまさっている。「BBCワールド・アニマル・カップ」というDVDを見たことがあるけど、運動能力(跳躍力、力の強さ、走るスピードなど)はほとんど他の動物の方がすぐれている。人間が彼らより上にいられるのは、道具を使える頭があるからだ。話を戻して昆虫の強みは数が多いこと、単純で再生能力があること、鋼鉄並みの固い殻、鋭い嗅覚などなど。今回の怪物も成長が早く両性個体だからすぐ増える。一回に最低でも卵500個。ジャコブは年間一億と言っていたけど、もっと増えるんじゃないの?エサとなる人間はうじゃうじゃいるし。と言うわけで病院内にいるビショップ達にとっては、細菌より怪物の方が脅威。細菌の方は(と言うか本当に細菌かどうかもあいまい)主にグラスが担当。メガネをかけ、地味でさえない感じのグラスだが非常に責任感が強い。職員の中には感染を恐れ、職場放棄する者が続出。いともあっさり仕事や患者をほうり出すのにはびっくりさせられる。日本だったらもうちょっと患者のために・・と残るんじゃないの?今はそうでもないのかな。もっとも前に書いたように病院ごと隔離されちゃったから、誰も帰れないんだけどね。とにかくグラスはこの謎の病気と正面から取り組む。彼女は絶対患者を見捨てたりしない。レイチェルの方が怪物と戦うなど見せ場は多いが、私はグラスに大いに好感持った。治療法はひょんなことから見つかる。マーウェラの症状が軽いままで変化がないのはなぜなんだろう・・と不思議に思っていたが、彼女が酔っていることに気づく。アルコールが毒の回りを止めたに違いない!あの~でもアルコール飲んだら血のめぐりがよくなって毒が早く回るんじゃないの?症状が軽いのは、症状が出るヒマもないほど毒が回っちゃったとかさ。細菌が酔っぱらって仕事忘れて通り過ぎちゃったとかさ(んなわけないか)。これに限らず血や青汁・・じゃない緑汁かかってもレイチェルやグラスは発病しないなど、描写はいいかげん。潔いと言えば潔い。

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さて、ジャコブは怪物を観察し、興奮状態。そりゃめったにお目にかかれないものと遭遇したんだから無理もない。本を出せば印税がっぽりとか、そういうこともちらっと考えたはずだが、まずは産卵・孵化を防がなければならない。難敵だがやっつけるチャンスがないわけではない。二手に分かれ、彼とレイチェルはオスをメスから引き離す。その間にビショップがメスや卵、幼虫をブタンガスで焼き殺す。ジャコブはオスを生けどりにするつもり。ビショップは「学者さんはこれだ」と呆れるが、ジャコブにはそれなりの理由がある。全部殺してしまうと解毒剤を作れなくなる。でも結局生けどりどころじゃなくなるんだけどね。うまい具合にグラスが治療法見つけるから結局は丸くおさまる。べちゃべちゃしゃべったり、写真や録音のためにむやみに怪物に近づくジャコブのようなタイプは、たいていの映画では死んじゃうけど、ここでは生き残る。私自身はジャコブなんかどうでもよくて、ビショップのことが心配だった。レイチェルはヒロインだから死ぬはずないけど、ビショップはビミョー。彼が死に、弔い合戦だ!・・とレイチェルやジャコブが涙の中からふるい立つクライマックスだったらどうしよう!ビショップのいないクライマックスなんていやだぁ~!さてこの映画のもう一つの主役は古い病院だと私は思う。ご多分にもれず、地下には使われていない古くて広い廃墟部分がある。こういう設定はよくある。「キングダム・ホスピタル」とか「ミラーズ」とか。この病院の場合、南北戦争時代の精神病院。重症の患者は、金網の張られた狭くて暗くてじめじめした独房に一生閉じ込められていたらしい。治療法がなく治る見込みがないのなら、取りあえずは閉じ込めておけ。人の目に触れないようにしろ。なかったことにしろ。今病院が置かれている状況そのまんまじゃん。こういうやり方は今も昔も変わりなし。人間て全然進歩してない。こんな薄気味の悪い場所も、ヒマと好奇心を持てあます子供にとってはかっこうの遊び場所。度胸試し、冒険、探検。特にジョーイは、何度も行ってるうちに配置覚えちゃった。と言うわけで彼はビショップの案内役を仰せつかる。「エイリアン2」みたいだな。あっちの換気孔(?)より広いだけマシだけど。

インセクト10

きれいで近代的な部分、忘れ去られた廃墟部分の他に、機関室みたいなところがある。電気や蒸気など病院としてやっていけるのはこの部分のおかげだけど、普段は忘れられている。停電になったりすると、とたんに苦情が来る。文句を言われることはあっても、感謝されることなどない。こういうところにいるのは決まって老人。ヒマをつぶすのが上手で、何かあるとぶつくさ言いながら重い腰を上げる。彼はマユのようなものの中にいるアリスとテッドを見て仰天するが、その直後怪物に襲われる。その場でやられたのかエサ用にマユに入れられたのか不明。おそらくはその場で・・。レイチェルとジャコブがマユを見つけた時には、卵がかえり始めていた。幼虫のエサになっているアリスを見て、レイチェルは悲鳴を上げる。そのせいでオスに気づかれ、追われる。オスがいなくなった後、ビショップが現われメス達を焼き払う。もちろんアリス達も・・。複雑な表情のビショップ。しかしぐずぐずしてはいられない。異変に気づいたオスが戻ってくる。妻子(?)の惨状に怒り狂い、ビショップを追う。病院と地下の廃墟部分との位置関係がわからないので、何がどうなってるかよくわからないのだが、とにかく人間も怪物も病院部分へ戻ってくる。地下の火事(←?)はあのままほうっておいて大丈夫なの?とか、アリス達は検査室から機関室、さらには地下の廃墟部分へとあちこち移動させられたことになるな・・とか、余計なことを考えている私を尻目に、クライマックスへ突入。どこからこんなにわき出したのかと思うくらい職員や患者がうじゃうじゃ。もたもたしていた患者は早速血祭りに・・と言うか首をもがれ、首祭り。レーザー室でも間の悪い職員が血祭りに・・と言うか腸がぼとぼと、腸祭り。レイチェルはオスをレーザー室へ誘い込むつもり。怪物に追われているビショップと打ち合わせしたわけではないが、そこは映画ですからね、何となくレーザー室に近づく。これはもう運命でしょう!ビショップは何度も危ない目に会う。いちおう彼だけ銃を持っているけど、怪物は撃たれても平気。何で目を狙わないのかと思うけど、やっぱり習慣で当たる確率の高い胴を撃ってしまうんでしょうね。でも固い殻につつまれているから撃ってもムダなんですってば。逃げてる途中分娩室に入っちゃったりね、息抜きシーンもあるけど私は前にも書いたように彼のことが心配で心配で。

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どうか死にませんように・・ってそればっかり思って見てましたの。あわや・・という時、ジャコブは録音しておいたメスの声をオスに聞かせる。昆虫の悲しさ、本能的に声に引きつけられ、レーザー室に誘い込まれる。ここらへんはうまい作り。で、レイチェルがレーザーを照射するけど全然効果なし。そのうち今度は彼女がピンチに陥る。狭いところに入り込み、体をよじって怪物から逃げる。ここらへんは「エイリアン」のラスト部分のリプリー風。レイチェル役ウォルシュも、知的ですっきりした顔立ちなので余計。フラッシュピカピカ、あおるような音楽、ゆれる画面。相変わらず怪物の姿ははっきりしないけど、大迫力のクライマックスなのは確か。作り手も俳優も総力結集してがんばっている。中でもビショップのピンチ・・怪物が固い頭・・虫頭・・いや石頭をガンガン打ちつけるところは怖いですよ~。怒りの虫がおさまらないってこういうことを言うんですねえ。あら違った、虫の怒りがおさまらないと言うべきかしら。いやいや虫の怒りの虫がおさまらない・・ですわね?いいえ、虫の腹の虫です。ああん、もうとにかくビショップ大ピーンチ!でもほらやっとこさジャコブに言われて目を狙うんだって気づいて(遅いなあ)。さすがの怪物も目をやられてのたうち回る。いろんなもの飛んでくるけど、あれはみんなスタッフが投げているんだろうなあ。大爆発が起きてやっとオワリ。はい、ご苦労様でした。レーザー室はまた一からやり直しです。外の軍隊は何の役にも立ちませんでしたとさ。一夜明けて病院には平和が戻る(いちおうはね)。相棒のところには家族がかけつけたから、ビショップはもう用なしです。「親友」となったジョーイとの別れ方もいいです。変にベタベタしてなくて。ジョーイは最初出てきた時はただの生意気ないたずらっ子。そして彼らのせいでとんでもない事件起きたけど、なかなかしっかりしたところもあるいい子なのだとわかってくる。頼まれたことはちゃんとやるし、レイチェルと話す時には「イエス、マム」、ビショップには「イエス、サー」とちゃんと言う。怪物の声に驚いてビショップにしがみつくところ、途中で戻るよう言われたけどビショップのことが心配で待っているところなど、誰かさんとは違いかわいげがある。ビショップは妙にジョーイに心引かれるものがあるようだ。彼にも幼い頃両親に見捨てられた経験があるのではないか。

インセクト12

たいていの映画には途中で過去を語るシーンが出てくる。この映画でも怪物との戦いの合間にそういうシーンあってもおかしくないけど全くなし。そのせいでかえってあれこれ想像しちゃう。心が引かれ合うのはビショップとレイチェルも同様。「近いうちに朝食でもどう?」とビショップ。「オムレツが得意」なんですってよウヒ。何だか「レストストップ2」の主人のセリフみたいじゃんウキ。冒頭のフレッドの金曜の夕食は実現しなかったけど、こっちのオムレツの朝食はきっと実現するでしょう!それにしても何で朝食?この食事の誘いの対比同様私が気になったのは人間と昆虫の出産の対比。サンドラとジョージのベイカー夫妻。ジョージはあらゆるデータを元にサンドラの出産時刻を割り出し、サンドラはそれに引きずり回されている。まだ陣痛も始まっていないのに・・と職員は呆れるが、ジョージは間違いないと自信満々。で、その通り陣痛が始まる。ビショップが逃げる途中飛び込んじゃったのがここ。もちろん悪戦苦闘中のサンドラは怪物なんか目に入らなかったけどね。異常とも思えるくらいデータにこだわるジョージに対し、昆虫・・怪物の方はデータもへったくれもなし。産める時に産めるだけ産んじゃえ。必要に応じてオスになったりメスになったり。人間が登場するずっと前から生き続けていられるのは、この単純な強さのおかげなんだろうなあ。とまあ意識して出産を対比したのかどうかはともかく、よく練られた脚本だなあ・・と。さてと、「インセクト」日本最長感想(たぶん)もそろそろ終わりです。ほとんど知られていないし、名作でも何でもないけど、私この映画最初見た時から妙に好きです。さして目新しいものはなくしょぼいけど、あれこれ工夫してあって見ていて退屈しない。一生懸命作りました、楽しんでねという感じが伝わってくるのだ。レイルズバックは小柄だし(ウォルシュより背が低い)、ぱっとしない。ビショップは強烈なキャラでも頼りがいのあるヒーローでもない。ケチな犯罪者追いかけ回し、実りのない毎日に身をすり減らしているような・・。でもがんばって生きてるし弱い者への心配りを忘れない。そんなところが好き。「スペースバンパイア」が印象的なレイルズバックだけどSFは意外と少ない。だからこの「インセクト」は貴重。見ることができてよかった。ラストはモンスター映画らしく思わせぶり。何が生まれたんでしょうねえ。