イカとクジラ

イカとクジラ

新宿でしかやってないのではるばる出かけて行った。公開直後で、客席は半分以上は埋まっていた。・・ってことは半分くらいはあいていたってことなんだけどさ。ここ(新宿武蔵野館)は初めてだけど狭苦しくて落ち着かない館だと思った。あれで満員だったら息が詰まるだろう。スクリーンは小さいし、始まるまでがまたうんざりするほど長い。途中から自分が何を見に来たのか忘れていたくらい。本編は集中して見ていたので(一回しか見られないからね)すごく疲れた。会話が多いし場面が次々変わる。何かあってもまた次、また次。あとをひかないというか積み重ね。両親の離婚という、子供にとっては一大事を描く。もちろん当の両親にとっても一大事なんだけどさ。ある日突然離婚となるけど、前々からのモロモロがあるし、別れた後のモロモロもある。子供がいなけりゃさっぱり簡単グッドバイだけど、12歳と16歳の多感な少年二人は、平等に二つの家を行ったり来たり。アカデミー賞ノミネートとか、ウェス・アンダーソンがプロデューサーとか、ケヴィン・クラインとフィービ・ケイツの息子オーウェンが出演しているとか、宣伝文句はいろいろあるけど(ついでにイカとクジラに関するものを提示すると料金割引なんていうサービスもやってた。利用した人いるのかな。何を提示したのかな)、私はそんなことはどうでもよくて、ずばりジェシー君目当てで見に来ましたの。パンフではジェス・アイゼンバーグとなってるけど、私はやっぱりジェシーの方がいいのでこのままいきます!彼が兄のウォルトで、オーウェンが弟のフランク。父親バーナードがジェフ・ダニエルズ、母親ジョーンがローラ・リニー。彼女はそのうちアカデミー賞とるだろうなあ。ジュリアン・ムーアの「フリーダムランド」の予告かかったけど、どこか「フォーガットン」ぽい。子供がさらわれた・・捜す母親・・こんなのばっかやってるとアカデミー賞遠のくよ。リニーに先を越されるよ!テニスのコーチで、離婚後のジョーンと仲良くなっちゃうのがウィリアム・ボールドウィン。バーナードの教え子で色気たっぷりなのがアンナ・パキン。彼も彼女もこういう役じゃもったいないね。フランクの役は確かに難しいと思う。お酒飲んでてまわりに気づかれないというのはありえないと思うが、離婚のショックで酒びたり(普通はバーナードがなるだろ、そういう状態)。

イカとクジラ2

他にも危ないシーンはある。やってることの意味が本当にわかっているのかな?・・という部分があって、それがもし演技ならすごいと言える。あるものがポトリと床に落ちるシーンがあって、それが印象的だった。まだ体ができ上がっていなくて、ヒョロヒョロしていて危なっかしい。精神的にもまだふわふわしている。ウォルトの方は女の子の前でカッコつけたりパキン扮するリリーにあこがれたり、要するに色気づいているんだけど、フランクはまだそこまでいかない。見かけも女の子のように見えたり、要するに定まっていない。それでいて確実に「男」でもある。その不安定さが見る者の目を引きつける。若くてすべすべの肌に女の子みたいな可憐な顔立ち、折れそうな手足・・。こりゃどうしたってジェシー君、分が悪いです。いちおう彼が主役と言ってもいいほどなのに・・話題になるのはオーウェンばっかり・・。でもいいんです、私だけはジェシー君の味方です!出番が多いのでウヒョホです。ずーっと彼を見てました。例によって高校生役で・・それがまたぴったりで。正直なところウォルトのキャラはあんまり好ましくない。父親を尊敬しマネをする。悪いところもマネするから困る。母親には反発する。いっぱしの大人を気取る。何となく背のびしている。フランクとは別の意味で不安定だし、純粋だけどずるい。ピンク・フロイドの曲を自作だと偽ってコンテストで優勝してしまう。バレてもほとんど反省してない。恥ずかしいとか悪いことをしたという自覚がない。セラピー受けさせられるんだけど、ここでやっとイカとクジラの話が出てくる。もうこの頃には映画の題名なんか忘れている。どういう意味だか知りたいと思っていたことも・・。子供の頃の思い出としてイカとクジラのジオラマが出てきて、ああ・・そう言えば・・となるわけ。ラストはウォルトがそのジオラマをじっと見る。子供の頃は怖くて指の間からおそるおそる見ていたけど、今回は正面から見ることができる。何でもないことのくり返し、積み重ねでずーっと来て、誰にとっても問題は何も解決していない。バーナードにはそれでもよりを戻したい気はあるが、ジョーンにはゼロ。ゲラゲラ笑っちゃう。テニスのコーチ、アイヴァンとの新しい恋、本の出版・・と、公私ともに順調だからね。・・と言うわけで両親はやっぱり別れたままなのよ。

イカとクジラ3

ウォルトも、ソフィーともリリーとも何となく終わっちゃったし、フランクだってこれからも問題起こすかも。何もよくなってないし、よくなる気配もない。でも両親がまた一緒になれば問題は解決するのか。ケンカしたり浮気したりガマンしたりする状態を幸せと言えるのか。ジョーンは今の方が確実に幸せだ。バーナードは発作を起こしたりさんざんだが、まあ生きのびたし。そんな中でウォルトはちびっとだけど一歩を踏み出す。セラピストと会話するまで忘れていた子供の頃の思い出。今は父親のマネばっかりしてるけど、あの頃はママのことが大好きだったのだ!彼は同時に父親との思い出がないことにも気づく。ここらへんはウォルトが変化する大事なシーンだと思うけど、セラピスト役がケン・リョン。高校の熱血教師という感じでセラピスト役には似合わない。会話するにしてもつんけんした感じで暖かみがない。でもだからこそスパッとウォルトの過去が掘り返されるの。最初は盗作したことも反省していなくて生意気なんだけど、ケンがストレートに切り込んでくるから、ついつい思い出しちゃったみたいな。みんなに保護されてあったかくていい気になっていたら、いきなり冷たい水浴びせられ、それで目が覚めたみたいな。出番は少ないけどケンはいつも印象に残ります。逆にぽわんとした感じでよかったのがボールドウィン。元々にやけた顔してるんだけど、年のせいか体型までにやけてしまりがなくなってきた。バーナードはアイヴァンをバカにするんだけど、彼は相手にしない。彼は選手としてもコーチとしても二流かもしれないが偽善者ではない。それなりに働いているしジョーンを暖かくつつみ込む。バーナードよりよっぽどマシな人間だ。ラストのイカとクジラのジオラマ・・別にわざわざ見せなくたって・・という意見もあるが、私は別にどっちでもいい。登場人物の多くに感情移入できない(つまり彼らのは衣食住足りた上での不平不満である。ある意味贅沢でもある)せいで、見終わってもすごく感動したとかそういうのがない。もっと軽い感じで笑えるかな・・と思っていたのだがそれもなし。だから物足りないしさわやかでもない。でも集中して見ていたことでもわかるけど退屈はしなかった。なかみは濃かったと思う。いかにも原作がありそうな内容だが、アカデミー賞オリジナル脚本賞ノミネートということでもわかる通り原作はなし。残念!