エンブリヨ

エンブリヨ

これを最初に見たのは民放だと思う。その後レンタルビデオで何回か。テレビでノーカット字幕版放映したことはあるのかな。DVDが出ているらしいが、購入者の評価を見ると、画質が非常に悪いらしい。何度もダビングをくり返したビデオテープみたいな感じらしい。レンタルビデオの画質も悪かったから、DVDもこれと同じなんだろうな。昔のテレビはこういうぼやけたような画質が普通だったけど。原作だかノベライズだか知らないが、古本を見つけ、何度か読んだ。レンタルビデオで見た時、犬のナンバー1が小型犬を殺し、草むらに隠すシーンがあって、びっくりした覚えがある。テレビ放映の時はこのシーン、あったっけ?これがあるのとないのとではナンバー1の印象も違ってくる。映画はかなり説明が省かれている。ポール(ロック・ハドソン)は夜、雨の中を車を飛ばしていて、犬・・ドーベルマンをはねてしまう。自宅へ連れ帰り、何とか助けようとする。犬は妊娠していたので、胎児を取り出し、タンク・・人工子宮へ入れる。母犬は助かりそうもなく、胎児も一匹を残して死んでしまった。そこでポールは、亡き妻ニコールと研究していた薬を試してみることにする。成長ホルモンのようなものか。彼には息子ゴードンがいて、妻のヘレンは妊娠中だ。ポール自身はニコールの姉マーサ(ダイアン・ラッド)と同居している。本だと、ニコールが死んだのはポールの居眠り運転のせい。同乗していたマーサもケガをしたが、ポール自身はかすり傷程度ですんだ。それ以来ずっと、妻を殺したのは自分だと悔やんでいる。犬をはねたのだって、自殺まがいの猛スピードで運転していたからだ。ポールもニコールも研究一筋で、家庭的なことはいっさいだめ。それでマーサが食事の世話などみんな引き受け、それはニコールの死後も変わらない。彼女は自分がいることで、ポールに罪の意識を感じさせたい。負い目を感じている限り、ここを追い出される心配はない。その一方で、彼女は元来が世話好きな性分なので、ポールの面倒を見ることは生きがいでもある。ここらへんは愛情と恨みがないまぜになって、なかなか複雑である。

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さて、ポールは犬を使った実験が成功したので、今度はいよいよ人間で試したいと思い始める。ナンバー1のことは、マーサ達は実験のことは何も知らないから、奇跡的に助かった母犬だと思い込んでる。そのわりには事故の傷あとがないのが不思議だけど。ポールは友人のジムに胎児の手配を頼む。ジムは法律的にも道徳的にも賛成できないと渋るが、結局ポールの熱意に押しきられてしまう。ニコールはゴードンを産むまで三回も早産した。赤ん坊は育たず、みんな死んでしまった。薬の投与により、何とか生きられる状態まで胎児を育てることができたら・・。多くの命を救えるはずだ。犬と違い、人間はもっと複雑だし、生まれた後もいろいろ面倒だが、ポールは楽観的だ。それとも無責任?自殺を図った女性から取り出された胎児を使い、ポールの実験が始まる。薬により、一日が一ヶ月に相当する速さで胎児は成長。保育器に移し、やれやれとなるが、薬をやめたのに成長が止まらない。学会に発表・・どころではなくなる。成長の次は老化で、やっと25歳くらいのところで状態が落ち着く。ヴィクトリア(バーバラ・カレラ)の誕生だ。何も知らない無垢な状態。脳が100パーセント使えるから(LUCYかよッ!)知識の吸収も驚異的。それでいて感情の発達は不十分。本から得た知識だけで、経験が伴わない。美しく、聡明な彼女はまわりの目を引き、ポールもうれしい。いろいろ教えてやるのが楽しい。まわりには彼女は新しい助手だと紹介する。生気を取り戻したポールに、ヘレン達は喜び、ヴィクトリアに好意を持つが、マーサはおもしろくない。彼女のことは何も聞いてない。しかも同居する・・いえ、すでに同居しているなんて!マーサがポールを恋しているとは思えない。彼女が不安になるのは自分の居場所がなくなるのではないか、のけ者にされるのではないかという点にある。ポールの世話をするのは自分!調べてみたら彼女、学歴はうそっぱちで、どうも怪しい。それと何となく怖い。犬までマーサを威嚇してくるのはなぜなのか。ヴィクトリアにはまだ善悪の観念が育っていない。自分にとって危険だとなれば、すぐ排除にかかる。寝ているマーサに麻酔をかがせ、ヒドロキシミンとかいう薬を注射する。

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ヴィクトリアはポールと結ばれ、生きている幸せに酔うが、突然信じられないような痛みの発作に襲われる。ポールの研究記録を参考に、自分で薬を打ち、痛みはおさまるが、老化が始まっているのに愕然とする。発作はその後も起き、だんだん間隔が狭くなる。効果が鈍くなるため、薬の量が増える。悪循環だ。今まで安定していたのになぜ変調が起きたのか。ポールと関係を持ち、(ラストでわかるが)妊娠したからか。この変調はポールの手には負えず、自分は病院へ送られ、いろいろいじり回されるだろう。そんなのは絶対に嫌だ。ポールに内緒で解決法を見つけなければ。うまい具合にマーサ急死の知らせが入り、ポールは葬式の手配などで家を離れる。ショックを受けた彼は、ヴィクトリアの変調にも気がつかない。彼女はすでに老化を止める解毒剤も突き止めてある。五~六ヶ月の胎児の脳下垂体液・・。病院へ忍び込み、カルテを調べ、手頃な妊婦を捜す。その女・・娼婦を家に招き、帝王切開で胎児を取り出すが失敗。何しろ医学書を見ただけで、手術の経験はゼロだから、うまくいくわけないのだが、ヴィクトリアにはそういうことがわからない。胎児も母親も死亡し、途方にくれている時に訪ねてきたのがヘレン。追い返そうとするが、ヘレンは具合の悪そうなヴィクトリアをほっとけない。考えてみればヘレンはちょうど妊娠五~六ヶ月だ。ヘレンを殺す気はないが、胎児は欲しい。一方ポールはマーサの死因を聞いて驚く。こんなことをするのはヴィクトリアしかいない。ヘレンが家に行っていると聞いてますます不安がつのる。ゴードンと共に自宅へ急行する。ゴードンはこれまでのいきさつを聞き、怒り、恐怖、不安にふるえる。その後の展開はやや駆け足だ。ラストも赤ん坊の産声だけ。登場人物のその後は不明。本の方はちゃんと書いてある。一連の殺人・・マーサ、娼婦、ゴードン・・は全部ポールの仕業にされる。彼はニコールの死で自分を責め続け、頭がおかしくなってしまったのだ。ヘレンの胎児を取り出そうとしたのも彼。誰もヴィクトリアの仕業だとは思わない。研究記録は彼女が全部破棄してしまった。ポールは彼女も殺そうとする。赤ん坊ができたからだ。彼女は急速に老化して(死んで)しまったが、それはポールの投与した薬のせいだろう。彼女は被害者なのだ。

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ポールは早発性痴呆症で再起不能。ヘレンは何とか助かったが、夫と赤ん坊を失う。でも、ヴィクトリアの残した女児を引き取り、育てるつもりだ。もちろんナンバー1も。昔見た時はヴィクトリアの暴走ぶりが印象に残った。生きたいという痛切な思いはわかるが、血を流しすぎだ。今見返すと、ポールのノーテンキぶりに呆れる。状態が安定してしまうと、もう何も起こるはずないと安心してしまう。ちょっと誘惑されると応じてしまう。あとは幸せいっぱいで、ヴィクトリアの変調に気づかない。25歳の女性と関係を持って、妊娠の可能性は考えなかったのか。感情面の未発達を承知していながら見て見ぬフリをする。「そのうちに」「近いうちに」というセリフが何度か出てくるが、のん気すぎる。胎児を手に入れてから惨劇が起きるまでたぶん一ヶ月くらいしかたってない。そんなに何もかもに配慮するのは無理とわかってるが、それでも。薬の残量のチェックもしていない。最初は多くの命を救うためだと意気軒昂である。実験に成功すると有頂天になる。映画では金魚だけだが(これはポールは気づいていない)、本では他に小鳥もヴィクトリアは殺す。小鳥の方はポールも見ていたが、都合のいいように解釈する。ナンバー1には小型犬を殺すというのがあった。ナンバー1の行為を見ていたらポールも何かしら危惧はいだいただろうか。彼女への愛情は一転憎しみに変わる。作り出した責任は自分にあるから、始末するのも自分で。でも、ヴィクトリアはそんな勝手なことされたくない。生きていたい。今この瞬間にも自分はどんどん老化していく。気が狂いそうになるのも無理はない。他の出演者は、鼻持ちならないチェスの名人の役でロディ・マクドウォール。ヴィクトリアをくどこうとして逆に利用されるコリアー役でヴィンセント・バジェッタ。どこかで見たような顔・・と言うか、テリー・サヴァラスに似た顔立ち。エンブリヨというのは胚という意味らしい。受精から八週目までを胚、それ以降は胎児と呼ぶらしい。ショッキングな内容のわりにはどこか穏やかで品がある。生きている喜びや悲しみがある。今ならもっとどぎつく、ハデに描写するだろう。