青い戦慄

青い戦慄

アラン・ラッドの映画は、「シェーン」は別として、そんなにたくさんDVD化されてなかった。ところがここ数年いくつか出るようになったので、定期的にネットでチェックしている。新しいのが出てないか、少しは値下がりしてないか。この作品とか「別働隊」とか・・出してくれるのはうれしいけど値段が高い。特典もキャストの紹介だけなので、定価で買う気にはなれない。この映画はかなり前WOWOWでやった時に見た。ラッドのハンサムぶりが印象に残る程度で、さほど出来がいいとも思わなかった。それでもDVDを買ってしまうというのは・・私の場合映画に魅せられてと言うより俳優に魅せられて・・なのだ。だから出来に関係なくその人の出ているものを集めまくる。原題は「ザ・ブルー・ダリア」。「不可能」という意味(花言葉)らしい。また、「ブラック・ダリア」はこれのもじりらしい。脚本にはかのレイモンド・チャンドラーが関わっていたそうで。製作は1946年頃で、帰還軍人の抱える様々な問題を取り上げたかったが、海軍からパラマウントにクレームがついて、内容・・犯人を変更せざるをえなくなったとか。当時の日本人から見れば何だこの豊かさ、余裕は・・となるんだろうな。一番不思議なのはホテルがあって、まわりにバンガローがいっぱいあって、主人公ジョニー(ラッド)の奥さんヘレン(ドリー・ダウリング)がそこで暮らしていること。何で普通の家とかアパートじゃないんだろう。しかも彼女は毎晩のようにパーティをやっているらしい。ジョニーが帰った時も大勢の客が乱痴気騒ぎ。何でそんなお金あるんだ?ヘレンはブルー・ダリアというクラブのオーナー、エディ(ハワード・ダ・シルヴァ)と浮気しているが、彼からお金をもらっているのか。元々金持ちなのか。この映画は説明不足、不明なことがいっぱいある。たぶん作り手はそれでいいと思っている。つじつま合わせではなく、ダークなムードとスターのきらめきを楽しめばいいのだ。バスを降りた三人の男。バスの行き先はハリウッドになってる。ジョニーは海軍の飛行士で、ジョージ(ヒュー・ボーモント)とバズ(ウィリアム・ベンディックス)は戦友。

青い戦慄2

初めはジョニーが上官で、二人は部下だと思っていた。でも違うようだ。途中でジョージがジョニーのことをチンピラだと言っていて。もし上官ならそんな言い方しないだろうし。結婚しているのはジョニーだけだが、なぜか浮かない顔。バズは負傷して頭に金属板が入っている。そのため騒がしい音楽などを聞くと頭痛がし、怒りっぽくなったり記憶が飛んだりする。これからはジョージが彼の面倒を見るようだが、しょっちゅうトラブルを起こすバズを見ていると、なぜそこまでするのか不思議に思える。たぶんバズはジョージの命の恩人なのだろう。彼を助けるため負傷し、頭に障害が残ったのだ。そうとでも考えなければ説明がつかない。ジョージは弁護士の仕事に戻るとして、バズが仕事につけるとはとても思えない。これからは”たぶん”という言葉が何度も出てくる。脳内補完というやつだ。妄想とも言うが。映画で目立つのはバズで、ジョニーよりも印象が強い。ジョージに至っては顔も思い出せない。髪の色が違うだけで、ジョニーと区別つかないし。さてヘレンとの再会は気まずいムード。パーティ騒ぎにエディの存在。二人がうまくいかなくなったのは戦争のせいか。息子ディッキーの死のせいか。ヘレンは妻や母として家事や育児で家に縛りつけられるのが不満だった。たぶん彼女は社交的で派手好きなタイプなのだろう。欲求不満から酒を飲み始める。ある日ディッキーを連れてパーティへ行き、飲んで車を運転。事故を起こし、ディッキーを死なせてしまう。とても本当のことは言えず、ジョニーにはジフテリアで死んだと手紙に書く。ジョニーは、大変な時に一緒にいてあげられなかったという負い目があるから、彼女とやり直したいと思っている。ところが彼女のせいで息子が死んだとなると・・ウソをついていたとなると・・。さすがの彼も愛想がつき、バンガローを出て行ってしまう。その際自分の銃をヘレンの前に置いていくのは思慮がなさすぎるが。ジョニーが出て行くと、ヘレンは早速エディに電話をかけるが、繋がらない。この映画では何度も電話が使われ、車で移動するが、こちとら位置関係はさっぱりわからない。

青い戦慄3

バンガロー、ブルー・ダリア、ジョージのアパート。電話で呼び出す、呼び出される。車に乗る、車から降りる。何かあってもまずタバコ、何もなくてもまずタバコ。今みたいに映画がせわしなくなったのは喫煙シーンがなくなったからか(違うって)。ヘレンはジョージのところへも電話。出たのはバズで、ジョニーが出て行ったと聞き、心配になる。ジョージは大人だからジョニーの夫婦の危機にも無関心。当人の問題だからほっとけ。でもバズは落ち着かず、出かけてしまう。ホテルのバーで飲んでいたヘレンと出会うが、お互いの素性は知らない。ヘレンは飲み直そうとバズをバンガローへ誘うが、思慮がなさすぎるね。一方雨の中を歩くジョニー、通りがかった車が彼を乗せてくれる。運転していたのはジョイス(ヴェロニカ・レイク)で、実はエディの別居中の妻。見知らぬ男を乗せるなんて無防備すぎるとジョニーは注意する。彼女もやはりエディに愛想をつかし、町を離れるつもりで車を走らせていたらしい。一方エディはジョイスに未練があるのか、ヘレンが鼻についてきたのか別れ話を切り出すが、彼女が承知するはずもなく、逆にバンガローへ行くはめに。翌朝ヘレンの死体が発見され、姿を消したジョニーが疑われる。凶器は彼の銃だし。でも見ている我々には彼の犯行じゃないってわかってる。一番怪しいのはバズだが、バンガローに入ってその後どうなったのかは不明。ヘレンがジョニーの妻だと知れば怒り出すだろうが。ジョージのアパートに帰ってきた彼は何も覚えていないようだ。エディはたぶん犯人じゃない。たぶん彼は犯行の後にバンガローを訪れ、死体を発見して驚き、逃げ出した方だ。エディの行動を覗き見しているのがホテルづきの探偵ダッド(ウィル・ライト)。怪しいのはバズとダッドで、エディはオマケ。ジョニーとジョイスは別れたものの、翌朝同じホテルに泊まっていたことがわかり、都合よく再会。少し気分が晴れたものの、ジョニーはヘレンが殺され、自分が容疑者と思われていることを知り、愕然とする。出頭しないのは映画だからだ。本来なら出頭し、事情を話すところだ。ジョイスという証人もいるし。

青い戦慄4

でも彼は不仲だったとは言え、自分の妻であるから、自分の手で犯人をつかまえたい。と言ってろくに手がかりもないのだが。第一ジョニー自身それほど頭の回る方じゃない。鋭い推理でぐんぐん真相に近づくなんて期待していると、肩透かしを食う。何となく流れに任せているだけ。金には困っていないが、夜泊まる場所に苦労するのがリアル。見知らぬ男が声をかけてきて、ホテルを紹介し、仲介料を要求したりする。そこのホテルの主人がエディのパートナー、レオと通じていたりする。全体的に展開はもたついた感じ。それでいて偶然が多すぎる。後でレオとその仲間が警察を装ってジョニーを拉致するが、目的は何なのか今いちはっきりしない。エディを助けたいのか、それともエディを出し抜いて追い落とそうとしているのか。たぶん助けたいのだろうが、それだったらジョニーを生かしたままにしておくのはおかしい気がする。あるきっかけでジョニーはエディの正体を知る。以前ニュージャージーで殺人を犯したらしい。自分が殺されたら犯人はエディ・・と、ヘレンは写真の裏に書き残していた。当然ジョニーは彼女を殺したのはエディ・・と思ったはずだが。有力な手がかりなのに、やはり警察には行かない。ジョイスがエディのところへ戻ったのは、彼の近くにいた方がジョニーを助けるのに都合がいいと思ったからか。まあとにかくあれこれあるのだが、見ているこっちは何をやってるのだとうんざりする。ダッドがあちこちに顔を出して金をせびるので、だんだん怪しく思えてくる。普通に行動していれば怪しまれることはまずない。それなのにわざわざ顔を出す。金を手に入れるためならどんな小さなきっかけも逃さない。逆に言うと金のためなら何でもやりかねない感じ。一方バズもますます不安定になってきて、怪しい。元々はバズが犯人という流れだったのか。クレームがついたせいでダッドに変更されたのか。見ていて無理やり感があるのは確かだ。バズが自首したらしいと知って、やっとジョニーは警察へ出頭するが、関係者が揃っても何も出るわけではない。

青い戦慄5

ジョニーがバズを誘導し、あっと驚く真相を思い出させ、鮮やかに事件を解決させるのかと期待して見ていると、肩透かしを食う。結局ジョニーにも何も知恵が浮かばず、実りのないままお開きになろうという時、刑事の「ケチなゆすり屋」という言い方にカチンときたダッドが、わりとあっさり本性をあらわす。彼は元警官だが、支配人や客などまわりのご機嫌を取るのにはうんざりしている。探偵という立場を利用して客の秘密を握り、金をゆすっていたのか。ヘレンからもしぼり取っていたのではないか。ダッドは撃ち殺され、事件はあっさり解決。結局犯人を見つけたのは刑事。ジョニーはあまり関係のないことをかき回していただけで、ほとんど何もできませんでしたな。警察も実は彼を疑っていない。彼のアリバイは確認ずみ。逃げ回る必要なんて何もなかったのだ。おまけに余計な犠牲者も。エディがレオのアジトへ来て、バズのことを話すわけだが、彼が来た時レオの仲間がすでに死んで転がっているのは意味不明。レオを気絶させた後カットされたシーンがあるのか。ラスト・・ヘレンは死んだし、エディも流れ弾に当たって死んでしまった。お互いフリーで障害もない。ジョイスを見たバズは「金がかかりそうな女だな」と失礼なこと言ったけど、本来の彼女は違うだろう。彼女もジョニーも出会った時から好意を持ち合ったが、不仲とは言え既婚者だからと二人とも慎みは忘れない。ラストも抑制がきいていて好感が持てた。すぐイチャイチャするのが多いからね。ラッドは端正な顔立ちだが発散するオーラのようなものはない。レイクは金髪が美しいが、顔立ちは美女というわけでもない。二人とも小柄で地味で似た者どうし。いくつかの作品を除くとあまりパッとしない経歴。アルコールで寿命を縮めたってのも似ている。ジョニーが容疑者として報道された時、髪や目の色、体重は言ってたけど、身長は省かれていた。5フィート6インチとはっきり出して、ラッドに恥ずかしい思いをさせないためだったとか。警察がすぐにジョニーの写真を入手できず、軍に問い合わせるなど手間取るというのも興味深い。調べてみたら「ブルー・ダリア」という題で邦訳が出ているらしい。また古本屋での捜し物が増えたぞ。