大いなる眠り

大いなる眠り

これはだいぶ前にテレビで一度見たことがある。同じロバート・ミッチャムで作られた「さらば愛しき女よ」の方は日本でも公開され、「スクリーン」に記事が載っていたが、こちらは未公開らしい。正直言って前にこれを見ていた時は、いつシャーロット・ランプリングが出てくるのかな~なんて思ってた。今もよく混同してしまう。「さらば」の方は録画してあるけどまだ見たことはなく、原作も持ってない。「大いなる」の方はわりと最近原作を見つけて読んだ。ストーリー忘れないうちに映画の方も見ようと、録画しておいたのを引っ張り出して。内容はほとんど覚えていない。ジェームズ・ドナルドが出ていたのでびっくりしたのと、出番の少なさにびっくりしたのと、それだけ。他の人はキャンディ・クラークのヌードが印象に残るんだろうけど。見直して感じたのは、わりと原作に忠実に作ってあるなということ。1時間39分くらいだが、よくこれだけのものを詰め込んだなあという感じ。キャストもなかなか豪華だ。顔ぶれを見ているだけで楽しく、また懐かしい。原作によるとマーロウは33歳。1978年の映画だから、撮影時ミッチャムは60歳くらいか。ずいぶん違うなあ。もっとも33歳の俳優がやったら、この映画の持つ”死”のムードは出ないだろうけど。そう、この映画は・・原作もそうだが・・実によく人が死ぬのだ。依頼主のスターンウッド将軍はいつ死んでもおかしくない状態だし、33歳ではないマーロウは病気ではないもののシワが目立ち、びんには白いものが。将軍役はジェームズ・スチュワート、執事ノリスはハリー・アンドリュース。舞台はアメリカからイギリスへ移され、原作が出版されたのは39年だが、時代設定は現代だろう。将軍の依頼はゆすりの調査。彼には若い娘が二人いるが、どちらも不出来。特に次女のカミラ(クラーク)は借金をしては借用書を書き、ガイガーという男がそれをネタに金を要求してくる。以前もブロディという男にゆすられ、金を払ったが、将軍が心配しているのは、ガイガーの背後に長女シャーロット(サラ・マイルズ)の夫ラスティ・リーガンがいるのではないかということ。彼は武器商人か何かだが、病気の将軍の相手を快く務めてくれるので、気に入られている。

大いなる眠り2

一ヶ月ほど前から姿が見えず、将軍は心配している。シャーロットとの仲はうまくいっておらず、エディ(オリヴァー・リード)の妻モナと駆け落ちしたのでは・・と思われている。マーロウが依頼されたのはガイガーの件であって、リーガンの行方ではないのだが、シャーロットもエディもリーガンを捜すよう頼まれたのかとしつこい。マーロウはその度に「捜してない」と答えるが、相手は信じない。原作を読んでいなくても、藪をつついて蛇を出してるようなものだと思う。リーガンに興味持つということはシャーロットにしろエディにしろ何か探られたくないものを抱えてるってことで。リーガンの行方や失踪の理由知ってるはずで。将軍だって本当はリーガンのこと調べて欲しいと思ってる。でも言い出せない。真実は知りたいけど、どうせ明らかになるのはよくないことで。さてガイガーは表向きは珍本屋だが、実際はエロ本を扱っている。店員のアグネス役はジョーン・コリンズ。ガイガーの家を見張っていると、カミラが来る。銃声がしたのでマーロウが飛び込むと、ガイガーの死体があって、全裸のカミラがいて。写真撮影の最中撃たれたらしいが、フィルムはなくなっている。クスリでラリっているカミラを家へ送り届け、マーロウが戻ってみると、ガイガーの死体が消えている。直後、海に車が突っ込む。翌朝カーソン警視(ジョン・ミルズ)に呼び出され、波止場へ行ってみると、車を海中から引き上げるところ。中にあった死体は、将軍の家で見かけた運転手オーウェンだ。ちなみにカーソンは将軍の友人で、マーロウを紹介したのも彼。ちなみにミッチャム、マイルズ、ミルズの三人は「ライアンの娘」で共演しているな。まだ見たことないけど。オーウェン役はマーティン・ポッター。見たことはないけど「さて離婚」・・じゃない、「サテリコン」に出ていた人。「スクリーン」で盛んに紹介していたっけ。オーウェンは二年ほど前カミラと駆け落ちしようとしたらしい。前科があるのがわかって結婚できなかったと。これが原因でカミラがおかしくなったとか、そういうことにすれば少しは彼女の無軌道ぶりの説明になったのに・・。

大いなる眠り3

オーウェンには生前に殴られたあとがあったが、車の突っ込み具合からみると、自殺の可能性が高いようだ。ガイガーの店から本を運び出しているのがカール。ガイガーの商売を引き継ぐつもりで本を運ばせたのがブロディか。彼は以前将軍をゆすって金をせしめたが、今回はアグネスと組んでシャーロットをゆする。ゆすりのネタはガイガーが撮影していたカミラの写真だ。彼はまた将軍をゆするような危ないことはしないが、ガイガーにはそんなあたまはないから将軍をゆすり、そのせいでマーロウが乗り出すことに。写真と引き換えにガイガーの顧客リストを渡すとか何とか話をまとめようとしている時に、カミラが乗り込んできて発砲する。一騒動あって、マーロウが銃を奪い、その場をおさめてカミラを返す。マーロウはブロディの言い分を聞く。それによるとガイガーが殺された時近くにいたのはマーロウだけではなく、ブロディも別の場所からガイガーを見張っていた。彼はオーウェンを追いかけ、フィルムを奪う。その時殴ったのは確かだが、殺してはいないから、(どういう心理なのかわからないが)オーウェンは自殺したのだろう。話の途中でブロディが殺される。殺したのはカールだが、マーロウは彼をつかまえ、ガイガーの死体を見つけ、警察に事情を話す。カールはガイガーと恋人どうしだったようで、ブロディが殺したと思い込み復讐したのだ。死体を隠したのも彼。彼は思い違いをしていたわけだが、どこかでカミラがガイガーを殺したのはブロディと言ってるのを聞いたのかも。実際カミラがブロディに発砲したのは彼が犯人だと思っていたからだし。てなわけでブロディ役エドワード・フォックス・・出てきたと思ったらすぐ退場で残念。カール役サイモン・ターナーは小柄で金髪で濃い顔立ちでスティーヴ・レイルズバック風味。やっとジェームズ・ドナルドが失踪人係グレゴリー役で出てくる。原作だと終わりの方でもう一度出てくるけど、こっちは一回だけ。もったいないなあ・・。少しやせた感じで・・まあ元々やせてるけど・・この作品が最後の映画出演作らしい。これでガイガーもブロディも死んで、犯人もわかったしで、マーロウの仕事も終わりだけど、リーガンの行方は依然として不明。

大いなる眠り4

マーロウを尾行しているのがいて、それがハリー。情報を提供するから200ポンド欲しい。アグネスと一緒にここからおさらばするのに金が必要。マーロウが将軍から受け取った報酬は500ポンドだから、ハリーに200渡せば残りは300だ。後で将軍はリーガンの行方突き止めるのに1万出すと言ったけど、それは結局もらわなかったのだろう。何度も賄賂をほのめかされるけど、マーロウは受け取らない。それが彼のポリシーだが、そういう生活を送るのはたやすいことではないだろう。とは言え、住んでいるところはわりとりっぱで、うらぶれた感じはゼロ。33歳なら不自然だけど、60歳ならそれもありかなとは思うけど。生活はストイックで、賭け事もしない。それと・・笑うシーンあったっけ?ハリーによると、ブロディはリーガンと一緒にいるはずのモナを見かけたらしい。一緒にいたのがカニノという殺し屋で、エディと繋がりがあり、しかもシャーロットをゆすってる。ところがこのハリーがカニノに殺されてしまう。それからああなってこうなって・・。原作を読んだ直後の私でもここらへんからよくわからなくなってくる。車のパンク、カニノにつかまるところ、モナが縄を解いてくれること・・ここらへんは(映画も原作も)あまり説得力がない。まあ原作を読んでいなくたって、リーガンはカミラに殺されたんだって予想つく。男と見れば色目を使い、相手にしてもらえないと根に持つ。マーロウはブロディのところで取り上げた銃をカミラに返すが、彼女は銃の練習をしたいと言い出す。廃墟に行って練習となるが、カミラはマーロウに銃を向け、発砲する。こんなこともあろうかと空砲を入れてあったのだが、どうせリーガンも同じ方法で殺したのだろう。こんな危ない女性が銃を持っていること自体信じられないのだが。ありとあらゆるバカをやるが、父親が億万長者で警察にもコネがあるから、何かしでかしてももみ消してもらえる。リーガン殺しだってマーロウは将軍には黙ってる。警察にも言わない。シャーロットも色気を振りまき、ルーレットで大金をする。いちおう父のためにカミラの不始末を隠そうとするが、そのせいでかえって死人が増える。二人揃って同情も共感もできないタイプで見ていてイライラするしうんざりする。

大いなる眠り5

ハリー役はコリン・ブレイクリー、カニノ役はリチャード・ブーン。ブーンは出番は少ないがかなりの迫力。足をケガしているのは原作にはなし。撮影時ブーンがケガしていたので・・ということらしい。モナ役ダイアナ・クイックは知らない人だが、なかなかの美人。娘の名前がメアリー・ナイということからわかるが、ビル・ナイと長年パートーナー関係にあるらしい。リーガン役はデヴィッド・サヴィル。やさしそうな顔立ちで、若い時のピーター・フォンダとサイモン・ベイカーをミックスしたような感じ。「ポアロ」の「スタイルズ荘の怪事件」に出ていたらしい。結局、リーガン一人が姿を消すと、誰か・・エディが殺したのではないかと疑われるので、モナも姿消したと。二人でいなくなれば駆け落ちしたと思われ、エディは疑われずにすむ。カミラのリーガン殺しを隠すため、シャーロットはエディに相談。エディはカニノに死体の始末をさせる。モナにも協力させる。そうやってシャーロットに恩を売っておけば、後で見返りがある。将軍が死ねば彼女には莫大な遺産が入る。まあどいつもこいつも金と色との欲に目がくらんであさましいったらない。そのどちらにも距離を置いてるのがマーロウで・・と、そういうことを言いたいのかな。原作も映画もさほど評判がいいとは思えないが・・まあ原作はチャンドラーの処女作だからそんなにけなされることはないだろうけど・・ムードはいいとしても、二人の女がひどすぎて読者の共感得られないからだろう。正義の鉄槌下したくなったのは私だけではあるまい。・・それにしてももう38年もたったのか。ミッチャムとスチュワートが同じ頃亡くなって、「キネ旬」の追悼特集号買ったのは97年だったっけ。ジェームズ・ドナルドはミッチャムと同じ17年生まれだけど、93年に亡くなった。ミルズは97まで生きたから大往生だが、リチャード・ブーンやオリヴァー・リードは早すぎたな。ハリー・アンドリュースもコリン・ブレイクリーも監督のマイケル・ウィナーも死んじゃった。38年もたてば当然だけど。マーロウはリーガンの死体を捜すつもりはない。死んでしまえば当人にはどこにいようと関係ない。将軍にも言わない。どうせ彼もすぐに大いなる眠りにつくのだから。そう考えるマーロウはまだ33歳だから当分死とは無関係でいられるが、60のミッチャムマーロウはそうもいかない。そろそろ老いを感じ始める頃だ。だからこそラストの大いなる眠りうんぬんも現実味をおびて聞こえるのだ。