悪魔と天使

悪魔と天使

題名からどう考えたって「天使と悪魔」公開に便乗したB級C級グルメ・・じゃない、サイコホラー。主演もスター街道からはずれたエドワード・ファーロング。いかがわしさがぷんぷん。DVDカバーの彼の写真・・どう見たって修正してある。彼はこんなにほっそりしてない。2006年の「コベナント」の頃の彼はぽっちゃりメタボ体形。期待できる要素はどこにもなく、旧作扱いになるまで待つつもりだったけど・・ネットでの感想はさほど悪くない。感想と言ってもこんなの見るのファーロングの(忠実な)ファンか、「天使と悪魔」と間違えてレンタルしちゃったとか(今度のトム・ハンクスはいつもとヘアスタイル違うな~)、B級C級好きとか、要するに人数多くないけど、みんな「思ったよりはいい」と書いているのよね。そうなるとこのまま気にしながら100円レンタル待つのも・・と思って、思いきって借りたわけ。まあ・・確かに・・突っ込みどころ、つじつまの合わないところはいっぱいあるけど、全体的にはちゃんとした感じ。真面目に作ってあって好感が持てる。・・アンティオックというのどかな田舎町で、マリアムという女性が失踪。無残な死体で発見される。犯人の手がかりは全くなし。どことなく「フレイルティー」風味の出だし。夫トラヴィス(マーティン・ドノヴァン)は悲しみのあまり神が信じられなくなり、牧師をやめてしまう(「サイン」風味)。三年後無気力で酒びたりの日々を送る彼にさらに悲しい出来事が・・。妻とともにかわいがっていた愛犬マックスが病気で死んだのだ。その頃町では不思議なことが起きていた。教会のキリスト像が流した涙に触れた管理人の膝が治った。マイケル(ノア・セガン)は交通事故を起こしたがケガはしなかった。車椅子の男性が歩けるようになった。警官ブレットを悩ませていた脳の腫瘍が消えた・・などなど。三人の男が目撃され、天使だと思われた。そのうちの一人、金髪の男は「彼が来ると伝えろ」と謎めいたことを言った。そのうちメーコンという老女の農場に住みついたブランドン(ファーロング)という青年が注目され始める。彼は初対面でも相手のことをよく知っており、手を触れるだけで上記のような奇跡を起こすことができた。納屋で集会を開き、そのうち信奉者でいっぱいになる。両手首には傷があり、聖痕と思われた。彼はイエスの再来か。

悪魔と天使2

トラヴィスは、埋葬したマックスが生き返ったり(「ペット・セメタリー」風味)、男達の出現と消失など不思議な体験をするが、他の者のように熱狂する気にはなれない。牧師仲間だったカイル(ランディ・トラヴィス)も、悪魔が我々を惑わしているのでは・・と疑う。マックスの面倒を見てくれた獣医モーガン(ケリー・リンチ)も信仰には興味がない。彼女はヨガや瞑想に凝っている。トラヴィスはそのうち金髪の男が妻の死に関係しているのでは・・と思い当たる。警察で当時の記録を調べてみると、遺体を運び込む時の写真に男がうつっているではないか!発端となったマリアム殺人事件、その三年後の不思議な出来事の数々、熱狂する者疑う者、果たして悪魔の仕業か天使の訪れか。トラヴィス達は少数派だから分が悪い。トラヴィスは敗残者だし、モーガンは引越してきたばかりのよそ者。息子マイケルは熱狂組の方だし、腫瘍が治ったせいでブレットもあちら側だ。ブランドン達が悪魔側なのは察しがつくが、あまりあくどい感じはせず、控えめな描写なのがいい。彼らよりも、彼らに踊らされている人間の方がよっぽど怖く思えるのだ。人間には人間であるが故の喜びもあるが、悩みもまたある。足が不自由とか病気とか愛する者の死。それを受け入れなくちゃならないとわかっていても、治るとか生き返るとか言われれば・・そりゃあ飛びつくわな。悪魔は歓迎されるのでなければその人に取りつくことはできない。つまり人間側に選択肢があり、判断が試されるわけだ。やたらめったら取りついて悪さする・・っていうのでないのがリアル。最初は感謝していたのが、だんだんそれが当然と思うようになるのも人間の常。だから時々前の状態に戻し、恐怖を味わうよう仕向ける。元の状態に戻るのはいや、そのためには何でもする・・あさましさ、さもしさが出てくる。その一方で、自分さえ幸せならいい・・と無気力・無関心にもなる。他にも猜疑心やら嫉妬心やら・・悪魔のせいと言うより、その人が元々持ってる悪いものが表に出てきてしまったという感じ。もちろん中には心がゆれ動きながらも我に返るブレット一家のようなのもいて。つまり、みんなしておかしくなってるけど、もっとおかしいことに出会うとハッと目が覚める・・みたいな。そういうのもリアル。

悪魔と天使3

三人の男が途中で変身したりせず、ずっとそのままの姿なのもよかった。余計なことしないだけの分別は作り手にはあったようで。でもお定まりの虫の大群シーンはあって、まあここだけはやらずにはいられなかったようで。さて映画のカギを握る重要キャラのファーロングだけど、正直言ってこんな太ってぶよんとした状態で出るべきじゃないのよね。ぽっこりおなかのイエスの再来なんかいるかっちゅ~の!ぼうぼうの髪に汚らしいヒゲ、うつる度にがっかりさせられる。クライマックスでパッとカツラ取ってすっきりした髪になるのはよかったけど。昔のイメージいつまでも求め続けるべきじゃないってのは承知しているけど、それにしたってDVDカバーの写真くらいの細さなら、役柄にリアリティー出たと思う。苦難の道歩んできた気の毒な青年という・・。健康診断票に要警戒の※印がいっぱいついているようなメタボ青年じゃなくてね(何のこっちゃ)。そのうちブランドンの正体がわかってくる。彼は以前ハーブという名で、別のところで働いていた。ハーブが住んでいた小屋の壁一面に貼られていた紙、掘り返されたばかりの墓。キャントウェルという牧師、その息子ジャスティン。これらがだんだんつながって、マリアムがなぜ殺されたのかがわかってくる。この流れはとてもよい。父親キャントウェルから虐待されていた12歳のジャスティンが助けを求めたのはトラヴィスだった。その時のトラヴィスは通りいっぺんの対応しかしなかった。役所に通報したのである。そちらも通りいっぺんの調査しかせず・・つまりキャントウェルにうまうまと丸め込まれ、何の手も打たず帰ってしまう。ジャスティンはトラヴィスに相談したことがばれ、しかもトラヴィスは違う宗派(キャントウェルは原理主義・・キリスト教にもいろいろあるのだろう、我々にはよくわからんが・・)、ライバルの教会へ行くとは何事だ・・と。手首の傷はその時つけられたもの。耐えがたい苦痛の中でジャスティンが見たのが三人の男。そりゃ悪魔と契約したって無理ないよなあ。と言うかその時の彼には三人は天使に見えただろうし(「フレイルティー」風味)。まあとにかく見ている者全員ジャスティンの味方。うまいねえ、この持っていき方。超能力授かる代償は三年ごとに一人殺すこと。もちろん一人目は憎い父親を血祭りに上げてやったのさッ!

悪魔と天使4

マリアムを殺したのも彼。トラヴィスがあの時ちゃんと親身になって対応してくれていたら・・(「シックス・センス」風味)。逆恨みだけど、気持ちはわかる。マリアム殺しから今日でちょうど三年目。悪魔との契約果たさなければならない。犠牲者は・・モーガン!トラヴィスは自分を代わりに・・と言うが、妻の死以来死んだも同然だから・・と相手にされないのがなぜか笑える。まあさすがにクライマックスでの苦悩するブランドン・・ジャスティンを演じるファーロングはよかったですけどね。カツラ取って少しはすっきりしたし。あのむさくるしいままじゃ共感も半減。まあこのようにいい感じな出来だけど、欠点もいっぱいある。悪魔と契約してからここへ現われるまで15年というのはやや長すぎる気も。他の町でも奇跡見せて信者集めるとかしていたはずだが、うわさが流れたりしなかったのか・・と言うか、信者集めて何をする気でいたのか今いちはっきりしないんだけど。たくさん集めるほど(悪魔としての)徳を積んだことになるとか?信者の中から若い女性選び、一室に集めていたけど何をしていたのかは不明。ブレットの娘ダーリーンはいやらしいことされそうになったと逃げてくるが、詳しいことは不明。いつの間にか雇い主のメーコン夫人の屋敷を好きかってに使っていて、変な装置のある部屋も出てくるが、ジャスティンは自分を傷つけるような苦行やってるみたいだし(「聖なる狂気」風味)。モーガンが屋敷内を調べて回るのを、金髪の男が見ているだけなのもちょっと変。まあ何もしないってのがこの映画の悪魔の特徴で、そこがいいんですけどね。まあ他にもほじくればいっぱい出てくるけど、あまり気にはならない。トラヴィス役ドノヴァンは「インソムニア」や「ザ・センチネル 陰謀の星条旗」に出ていた人。どちらかと言うと脇役のイメージ。見終わると顔もよく思い出せないような地味なタイプ。でも今回わかったけど、主役もいけるんだな。他のキャストも地味だが堅実な人ばかり。いい役者揃えたなという感じ。モーガン役リンチは「Mr.マグー」に出ていたようだ。マイケル役セガンは一度見たら忘れられないような特徴のある顔立ちで、いかにもホラー向き。「BRICK ブリック」に出ていた。注目株だと思う。あと気になったのはカイル役のトラヴィス。彼は、牧師をやめ荒れた生活を送るトラヴィスを心配し、何かと気遣う親切な男。

悪魔と天使5

また、無神論者のモーガンにさりげなく聖書を渡したりする。そう言えばこの映画聖書の使われ方がおもしろい。内容が・・じゃなくて、そのしっかりした丈夫な装丁がモーガンの命を救うのだ。その聖書をラスト、牧師に戻ったトラヴィスが使っているのもよかった。話をカイルに戻すと、一歩引いた立場のトラヴィスにくらべ、カイルは現職牧師だからブランドン達には強い疑惑いだいている。こういうきっぱりした態度取る人はたいてい命落とすので、心配しながら見ていた。大丈夫だったのでホッ。彼が聖書の一節唱えると、取りついていた悪霊(虫)が出ていくシーンが二回ほどある。こんなに腕のいいエクソシストも珍しい!まあとにかくカッコよかったです彼。他にプリシラ・バーンズ。彼女「エド・ゲイン(OV)」とか「デビルズ・リジェクト~マーダー・ライド・ショー2~」とかそっち系の映画によく出ている。あと・・感じたのは、マイケルが事故起こした時、マイケルに車盗んでビール運ぶよう頼んだダーリーンが、現場にかけつけた警官ブレットの娘だったりとか、そういう田舎町ならではの狭さ。みんなが顔見知りであるということ。あるいは引越してきたばかりでバツイチのモーガンを、警官のトミーがボウリングに誘うところ。この町では独身者が異性と知り合う機会を作るためボウリングをするのだそうで、一人はよくない、連れ合いがいた方がいい・・みたいな雰囲気。都会から来た者にとっては大きなお世話・・という気もするが、町の者にすれば親切心なのだ。あとキャントウェルに対するまわりの評価。ちょっと変わった性格・・と誰もが思っていて、でもそれ以上のこと・・つまり息子をひどく虐待しているなんて思いもしない。トラヴィス自身キャントウェルのこともジャスティンのことも忘れていて。そういうところが何だか印象的で。いっそうジャスティンが気の毒で。牧師として他人の葬儀ではもっともらしいなぐさめや祈り口にしていても、いざ愛する妻の葬儀となると心おだやかではいられないところとか。悲しみのあまり牧師をやめた彼だけど、今回の事件を機に復職(またまた「サイン」風味)。ジャスティンの葬儀での彼は、妻を殺したやつという恨みも捨て、心からジャスティンのために祈るのであった。その手にはあの、モーガンの命を救った傷のある聖書が・・。うまいねえ。何だか感動しちゃった。