76回毎日書道展
(2025年7月) 国立新美術館)
『文質彬彬』(70×180)
『文質彬彬』書譜 孫過庭(70×180)
夫質以代興,妍因俗易。雖書契之作,適以記言;而淳醨一遷,質文三變,馳鶩沿革,物理常然。貴能古不乖時,今不同弊,所謂「文質彬彬。然後君子。」何必易雕宮於穴處,反玉輅於椎輪者乎。
書譜から抜粋した文です。もともとは論語でいうところの外見の美しさと内面の質の両方が調和がとれている様子を表す言葉ですが、ここでは質実に古法に則(のっと)ってはいても、現代の感覚にずれず、現代風でありながらも時流の悪い影響に振り回されないことが大切である、と言っています。
他の隷書作品とは雰囲気が異なっていると思います。重厚さを意識し、木簡書の軽快さを押さえるため、 筆、紙を変えてみました。
筆は唐筆、紙は紅星牌綿料単線、墨は古梅園「紅花墨」五つ星
第72回朝聞書展
(2025年1月 東京都美術館)
「寒梅花發」(240×240)
「寒梅花發」(寒梅花発(ひら)く)
「寒」「發」の長形に対して、「梅」「花」を如何に調和させるかに苦心しました。また、余白を美しく見せるため線の動きは極力抑え、沈着で充実した線を心掛けました。印は大きめのものを使用し、右下が多めに空きましたので室号印を押し埋めたつもりです。
筆は羊毛、剛毛の2本の合筆、墨は墨運堂「玉品」 紙は紅星牌三層
第75回毎日書道展
(2024年7月) 国立新美術館)
『南北書派論』(70×180)
第75回毎日書道展
(2024年7月) 国立新美術館)
『南北書派論』(70×180)
北碑南帖論 阮元
古石刻紀帝王功德,或為卿士銘德位以佐史學,是以古人書法未有不託金石以傳者。秦石刻曰「金石刻明白」是也。前、後漢隸碑盛興,書家輩出。東漢山川廟墓無不刊石勒銘,最有矩法。
日本の書道界を牽引する書家の「松井先生の隷書が見られなくなったね。いまの書道界にもあのような隷書があるといいね。」という言葉に心を動かされ、再び隷書に取り組んでいます。毎日展も4年連続して隷書を出品しました。
今回は阮元の北碑南帖論の冒頭を書きました。過去にはこのような書論をテーマにした作品が多くみられましたが、現在ではすっかり姿を消しました。この論文をすべて支持するわけではありませんが、漢碑に取り組む励みとしています。
筆は極品純白三号「清華」徳鄰堂製、紙は紅星牌単宣、墨は「天衣無縫」呉竹鑒製
第71回朝聞書展
(2024年1月20日(土)~1月36日(金) 東京都美術館)
「抱月」(180×180)
「抱月」(月を抱く)
2字を重ね書きしました。この手法は平安時代の三色紙の一つ升色紙の「いまははや・・・」の歌の後半部の表現に見られます。私が初めて試みたわけではなく、他の方の作品でも拝見したことがあります。私は30年ほど前からいくつかの作品で試みています。中央の手偏の十分な墨量に月の2画目の渇筆を重ねたものです。そして、右への広がりを意識しました。また、上下に黒の裏地を太めに張り白を際立てようとく工夫しました。
印も同様の発想から、この作品のために刻したものです。
筆は超長鋒2本の合筆、墨は墨運堂「天衣無縫」 紙は不明
第69回朝聞書展
(2022年1月 東京都美術館)
「後漢書・蔡倫傳」(106×240)
蔡倫字敬仲,桂陽人也。以永平末始給事宮掖,建初中,為小黃門。及和帝即位,轉中常侍。自古書契多編以竹簡,其用縑帛者謂之為紙。縑貴而簡重,並不便於人。倫乃造意,用樹膚、麻頭及敝布、魚網以為紙。元興元年奏上之,帝善其能,自是莫不從用焉,故天下咸稱蔡侯紙。(『後漢書・蔡倫傳』)
甲州西嶋書法紙産地也。蔡倫社在榮寶寺院境内。祀紙祖。因此録後漢書宦者列傳一節。以懐念故里。
辛丑十月観松井如流作品及其蒐集拓本於成田山書道美術館。感心仿如流先生筆意。白華
紙の紙祖といわれる蔡倫のことを紹介しようと長年考えてきた題材です。後漢の筆書体である簡牘の文字を利用して表現しようと試みました。跋文にはわが故郷、山梨県西島にある蔡倫社に触れました。当社がある栄寶寺住職の故藤巻さんは私の命名者で、父の学資を援助してくださった方でもあります。ご縁を感じていましたのでここに記録しました。
筆は極品純白三号「清華」徳鄰堂製、紙は紅星牌単宣、墨は「呉竹」精昇堂鑒製
第71回毎日書道展
(2019年7月11日(木)~8月6日(火) 国立新美術館)
「梅花之宴」(120×120)
新元号「令和」、その典拠とされた『萬葉集』の梅花の宴を知り、記念として制作したものです。読みやすく書くこと7の中に潤滑と余白の緊張感を意識したものです。落款に墨が足りなかったようです。
印はもう少し大きめの白文がよかったように思います。
筆は和筆、墨は精華堂「光華」、紙は紅星牌二層
新元号「令和」、その典拠とされた『萬葉集』の梅花の宴を知り、記念として制作したものです。読みやすく書くこと7の中に潤滑と余白の緊張感を意識したものです。落款に墨が足りなかったようです。
印はもう少し大きめの白文がよかったように思います。
筆は和筆、墨は精華堂「光華」、紙は紅星牌二層
第43回埼書連役員新春展
(2018年1月23日(火)~28日(日) 埼玉県立近代美術館)
「游神」(50×60)
「精神を遊ばす。心を自由にすること。」
退職した私の心境です。 「斿」は旗の吹き抜きが波打っている形、「遊」「游」に通じます。「神」は」示偏に稲妻、書体は金文です。この紙面にどのように2字を組み合わせるかが課題です。象形の内容をできる限り再現し、絵画的な表現を試みました。墨量の変化により奥行きを意識しました。
筆は和筆羊毛長鋒、紙は紅星牌二層、墨は古梅園紅花墨
第62回朝聞書展 (240×120)
(2015年1月20日(火)~24日(土) 東京都美術館)
「李頎詩」
この作品は潤渇の対照を追求したものです。潤筆の部分と渇筆の部分を数字の文字群でなく、行毎で対照させようとしました。筆が大きく割れましたが、それを強引に最後まで押し込んで表現しました。そのことに新鮮さをおぼえ、この作品を選びました。
筆は唐筆「天地玄黄」、紙は紅星牌綿料単宣、墨は清雅堂「墨妙」
第51回朝聞書展 「趙秉文詩(174×54)
(2005,2 上野の森美術館)
1973年から74年にかけて出土した木簡を基調にした作品です。木簡の書体は草隷です。明るくさわやかな書風です。縦画と横画の交わりを、二画に分けず円運動で一気に書き上げるのが特徴です。また、横画、右払いに波勢が見られます。墨の潤渇を出し、行草作品のように表現したものです。