火星移住計画から地球永住計画へ ー地球を大切に生きる人類のための課題ー

講師:相沢韶男


ー講座概要ー

民俗学の名誉教授相沢韶男先生は、以前、建築学科の授業で、「火星移住計画」という課題を出したことがある。

私たちが火星移住する時、いかに環境を作り、どのような建造物を作るのか。講評はかなり厳しく濃厚な授業だった、

10年間授業を続けている間に、相沢先生は火星移住計画ではなく、地球永住計画のほうが大事だと気づいていく。

その授業の様子、学生が考えた建造物の写真を見ながら、相沢先生の素の課題への思いと経過を語って頂く。



ー講座内容ー








ー講師紹介ー

相沢韶男 あいざわつぐお

昭和18年生れ、茨城県水戸育ち。昭和43年武蔵野美術大学建築学科卒。武蔵野美大名誉教授(民俗学)。

武蔵野美大建築学科の学生の時に日本の古い町を訪ね歩くうちに、南会津で草屋根宿場の大内に出会い、壊さない建築家を模索しはじめる。

宮本常一の教えを受け、壊さない建築家を模索しはじめる。悩んだあげく就職浪人十年の末、祝人(ほがいと)となり、村に居候、宿場保存を訴える。

他の村と比較のために旧街道を歩き、さらに海外を放浪し、越えた国境は八十余り。その結果、大内という一つの村にこだわり続け、半世紀がまたたく間に過ぎる。

数年前より破棄寸前の紙を利用して、ささやかな限定一部出版をしてきた。再生紙利用がはかどらぬ時勢を嘆いている。

武蔵野美術大学を退職し、残された時間を、自著の出版に使うべく準備している。いずれ毛坊主として、尊民攘夷を核に、成物(仏)屋の道を模索中。

大田区の売捌所の倉庫(雑色庵)にいる時は、生活防衛ハウスを建設中。

ただ今、太陽光発電の配線、雨水利用の配管、やがておこるであろう火星移住計画に対抗するため、地球永住計画を三十四坪の土地に始めた。


公式ウェブサイト https://sites.google.com/site/yuideku/



主な著作(ゆいデク叢書)

『大内のくらし』一(村の一年・村の憲法) 一〇〇〇円 (281頁270g)

『大内のくらし』二(里歩きと炭焼き・生業変遷) 整理中

『大内のくらし』三(通過儀礼と人の一生と信仰) 整理中

『この宿場、残して!一』(村に入って・保存の経緯と備忘録) 一二〇〇円 (389頁330g)

『この宿場、残して!二』(村にダムがやって来た) 近刊

『この宿場、残して!三』(村は文化財) 近刊

『村への提案』(保存の意義と提案・草屋根から森へ) 一〇〇〇円 (319頁270g)

『瞬間の遺産一』(草屋根の一年、行事の一年) 一〇〇〇円 (89頁160g)

『瞬間の遺産二』(大内の子供たち) 編集中

『美者たらんとす』一九四三~七〇年 (壊さない建築家をめざして) 一〇〇〇円 (374頁307g)

『美者たらんとす』 一九七〇~七七年 (壊さない建築家をめざして) 一〇〇〇円 (375~750頁324g)

『美者たらんとす』一九四三~七七年 (壊さない建築家をめざして) 二〇〇〇円 (750頁680g 合本)

『西方見聞録』1ユーラシア大陸編 編集中 受注出版

『西方見聞録』2アメリカ大陸編 編集中 受注出版

『西方見聞録』3東欧・北アフリカ編 編集中 受注出版

『人類学からみたデザイン』 近刊



ゆいデク叢書発刊に寄せて


戦争の二十世紀が終ろうとしている。これから迎える二十一世紀はいかなる時代になるのだろう。

環境や人権の問題は、今世紀の延長として問われ続けるだろう。さらに宇宙探検と生命平等が加わる時代になるのではあるまいか。既成の価値観が崩れ、混沌とした中で、人類は破局の道を確実に歩んでいる。どうしたら思い止まることができるだろう。もしかすると、卑近な過去の生活の中に解決の糸口があるのかもしれない。次の世代にその中の何を渡せばよいのか、二十世紀を生きてきた者として責任を感じる。

ゆいデクの「ゆい」は、村落共同の根幹をなす相互扶助、労働交換の「結(ゆい)」である。共に生ることは、人類にとっての永遠の課題ではなかろうか、村が継承してきた生活のしくみに一つの真理をみる。「デク」は、宮沢賢治の雨ニモマケズのデクノボウから拝借した。ホメラレモセズ、クニモサレズ、そういうものを目指した先達に、宇宙での生命平等の世界観を感じる。

小さな村の人間の命は、周囲の自然に生かされてきた。その延長に、人類が地球に生かされていることがある。地球が再生する量を人間の消費が越えないように生きる、それが次世紀の生き方と考える。しかも人も動物も植物もその命は、地球という星では平等である。木の恵みが紙となり、文字の載った本が人の心をうるおし、山の神を喜ばして森を栄えさせたい。栃も熊も蛍も人も、共に生きる村ができぬものだろうか。

村里を歩くと人の情けを受ける。情を受けたまま次の世紀にはうつれない。情報は、情に報いると書く。それならば調べた者が、情報を源泉に直接返すことができぬものだろうか。やがて子どもたちが、自らを知りたがる時代が来る。未来を生きる子たちが、いつの日にか役立ててくれたら、それにまさる幸せはない。

しかし口頭伝承の世界へ、文字の媒体が最適かどうかの疑問はつきまとう。そこで江戸時代の草双紙を手本に、挿し絵や写真の助けを借りた。過去を引きずりながら進歩とは何かを問い続けたい。

平成十年一月


この講座は2017年09月26日に武蔵野美術大学 1号館103教室で開催されました。