ミジンコから世界、宇宙を考える

講師:坂田明


ー講座概要ー

「ミジンコから世界、宇宙を考える」 60分

対談「ミジンコから世界、宇宙を考える」+サックス演奏 60分

坂田明 × 関野吉晴



ー講座内容ー

さかなクンが絵を描いてくれた白衣で坂田さんが登場。

【命が透けて見えるミジンコ】

まず映像を見ながらミジンコの基本的なこと。ミジンコは身近なところにいて、タイリクミジンコ、オカメミジンコ、タマミジンコ、ケンミジンコ…といろいろな種類がいます。甲殻類です。微小生物で、微生物ではありません。植物プランクトンとバクテリアを食べて、うんこをします。変態、脱皮をして成長します。

【コップの中に宇宙が見えた】

・・・嘘です。ところがそのように見える。錯覚です。人間は色眼鏡でものを見ます。色眼鏡で見てはいけないと言いますが、みんなひとりひとりが自分の色眼鏡をもっていて、その眼でいろいろなことを確かめて生きています。客観性とは宇宙に存在しません。幻想ですね。

コップの中にミジンコを入れて虫眼鏡で観察すると、背景が無限大になる。宇宙だと錯覚するんですよ。それで気持ちいいんです。

【微塵子】

ミジンコはエビやカニの仲間です。ただちっちゃいだけ。

漢字で書くと「微塵子」。「木端微塵」ぐらい小さいということ。中国語は「水蚤」、英語はwater flea。世界では水の蚤の意味です。

【プランクトン】

「プランクトン」の定義は「遊泳力がまったくないか、あっても流れに対して定位を保てない生物の総称」です。水の中でホバリングできる生き物はプランクトンではありません。人間はプランクトンであります。(笑)イデオロギーで動くのは人間だけです。それ以外の生物をネクトンといいます。

【ミジンコの一生】

生きているミジンコの映像を見ます。・・・卵巣から卵が出てくるところです。にゅるにゅるにゅる~・・・脱皮をしています。今から赤ちゃんが生まれます。一生(2~3週間)に150個くらい卵を産みます。お母さんががんばってるのに子がボーっとしている。(笑)こういうことが毎日行われているんですよ、世界中で。

お母さん死にました。原生動物がたくさん入ってきて食べてますね。バクテリアが体を分解しています。こうしてミジンコの命はもう一回水の中に戻っていきます。Back to nature.で、今日もミジンコたちは楽しく暮らしております。(笑)

【採集の方法】

田んぼや池に行って、金魚をすくう網ですくえば採れます。本格的なプランクトンネットというのもあります。ペットボトルが持ち帰りに便利です。

【ミジンコは食べられても滅びない】

ミジンコは要するにエサですから、大量に増えます。環境が良いときは無精卵が生まれます。クローンですから、病気にかかると全滅します。家で飼う場合はいくつかに分けて飼ってください。そうして少なくても10億年くらい生き延びてきたのではないかと私は思っています。人間は20万年ですよ。

【環境が悪化すると両性生殖が起こる】

遺伝子もコピーを重ねると壊れてきますが、受精すると復元されるようになっています。もうひとつは、多様性を作ることで環境適応能力が高まる。一年を通じて単為生殖と両性生殖を繰り返して生きている。オスが必要なのはごく危険な時だけで、あとは別に用がないですからね。赤ちゃん産むのは全部お母さんですから。人間も全部お母さんから生まれたことを忘れてはいけませんよ。

【それぞれの種は種の都合で生きている】

科学的に裏付けされた嘘が山のようにあります。客観性は幻想ですが、大切な方便です。

「環世界」という言葉があります。ダニもニワトリもウグイスも自分の都合で生きている。犬は群れを作る動物だからリーダーが必要です。猫は違います。人間を飼い主と思っていません。同居人だとしか思っていない。ミュージシャンのことをキャットといいますけど、都合のいい時だけゴロニャンと行くからです。ですからミュージシャンのこと信用しちゃいけませんよ。(笑)

【ミジンコに愛は通じない】

これ大事なことです。(笑)愛は人間が作ったんですよ。他の動物にはまず概念というものがない。人間はヒューマニズムを大事にしていますよね。それは人間が一番大事ということです。愛は所有と支配というものと結びつきやすい。愛は人間の都合でできたものですが、ミジンコはこのような概念や文化と関係なくミジンコの都合で生きている。ここが一番肝心なところです。

【多様性はせめぎあいのバランス】

ミジンコは魚のエサになってますね。人間は生きるために他の動植物を食べているが、金儲けのために動植物を殺しているというのが文明発生以降の大問題です。日本語の「いただきます」はあなたの命をいただきますという意味なんですよね。「ウレシパモシリ」というアイヌの言葉は「互いに育てあう静かなる大地」という意味です。いわゆる縄文人の末裔ですから、あらゆる衣食住をすべて自然からもらっているという考え方ができたと思います。

【人間は他の命を支えているか】

莫大な数のバクテリアや植物プランクトンが地球上の莫大な命を支えています。人間は他の命を支えているでしょうか。経済発展や人間の長生きっていったい何だろうとぼくは思うんです。自分が生きていることがまわりの役に立つような社会に生きていけるのがいいと思うんですね。

簡単に言うと、100キロのカジキマグロは10~20倍のカツオを食べています。1トンのカツオは10トンのアジやサバを食べています。10トンのアジやサバは100トンの動物プランクトン、つまりミジンコを食べています。100トンの動物プランクトンは1000トンの植物プランクトンやバクテリアを食べています。それが地球の命を作っている仕組みです。そうして命のある人間が音楽をやっているということなんです。(拍手)他の動物は音楽をやっていません。

【生きるとは死ぬとは】

「動的平衡」という言葉があります。食べて排泄することによって人間は細胞が毎日1兆個ぐらい変わります。変わるものが生きていける。しかし、時間がたてば必ずエントロピーが蓄積して死ぬ。死ねなかった場合は大変なことになりますよ。若い人と話が合わなくなる。(笑)

ひとりひとりにはみんなジグゾーパズルのワンピースのように役割があります。死ぬまでジタバタしていいんです。煩悩が無くなったら死にます。ですから、安心して死ぬまでジタバタしましょう。生きられる限り、できれば地球上で永住していただきたいということで締めましょう。ありがとうございます。

対談「ミジンコから世界、宇宙を考える」

坂田明 × 関野吉晴

【なぜオスとメスがいるのか?】

関野「ミジンコを見ていて一番面白いのは処女生殖、生まれるのはメスばかりですが、環境が悪くなるとオスも作ってオスとメスが合体して子どもを産みます。なぜオスとメスがいるんでしょう。めんどくさいですよね。」

坂田「とりあえず気持ちがいいという状態を作って、どうにもそこから逃れられないようにオス・メスの関係はできているんですよね。」

関野「オスができるのは環境が悪くなった時というのがヒントですね。」

坂田「お母さんがオスとメスを産むんですよ。それが交尾することによって遺伝子が復元されて、なおかつ多様性ができるという巧妙なシステムです。」

関野「クローンは環境変化で絶滅するんですね。環境が悪くなった時にオスとメスができるのと、私たちがある時にオスとメスを作ったことが関係あるということですね。」

坂田「偶然と言われているんですよね。20億年前に地球上に酸素が増えて、葉緑体やミトコンドリアをもった真核細胞ができて、多細胞生物が生まれた。そしてオスとメスができた。めんどくさいことだけど、それによって多様性がキープされている。」

関野「性ができた理由もたくさんの説があるけれども、ミジンコを見ていると多様性のためですよね。」

坂田「そうですね。多様性がすごく大事ですね。」

【優しさと強さ】

関野「最近重度の障がい者を19人殺害するという事件が起きましたが、あれはまったく間違った、多様性を認めないということですよね。」

坂田「ナチスがやったのと同じことですね。かつては町の中に普通に障がい者がいて、うちの店でも一緒に仕事していました。」

関野「いろんな人がいるのが面白いわけです。日本のある場所では障がいをもった子が生まれると福子という名前をつけてみんなで大事にして育てた習慣があったのに、最近は隠す。でも、ミジンコから見れば同じ人間ですよね。ぼくは採集狩猟民とか遊牧民が大好きで、マッチョな男たちに「優しさと強さとどちらが大切か」という質問をしたんです。強さと言うと思っていたら、「個人は強い方がいいかもしれないけど、群れとかチームがまとまるためには優しさの方が圧倒的に大切だ」という答えでした。」

坂田「面白いね。」

関野「実際そうですよね。支配する人には強さが必要かもしれないけど、支配される人は…。ところが、日本人とドイツ人はちょっと困ったところがあって、自由にしていいよと言われると自分で考えて責任とらなきゃいけないから、つらくなってだれかに決めてほしいと思った時にヒットラーが出てくる。ヒーローを欲しがる。ぼくはヒーローが必要な世界っていやですね。」

坂田「日本の社会は世界と比べると、考えない人間を作るようなシステムになっていますね。駅で白線の内側にお下がりくださいなんてやかましく言うのは日本だけです。ヨーロッパの駅のホームでは黙って電車が出ていくから、勝手に自分で考えてやる。日本人は扱いやすい国民だと思うよね。」

関野「大衆はメディアに影響を受けやすいから、支配者がメディアをコントロールしたら都合のいいように動かせる。」

坂田「どうしたもんでしょうね。」

【会場から質問:ミジンコとの出会いは?】

坂田「学生の時水産学科にいて、卒論で海のプランクトンの研究をしながらブルーギルの稚魚にやるミジンコを飼う手伝いもしていました。それで、息子が金魚すくいで取ってきた金魚が産卵して赤ちゃんがいっぱいになった時に、またミジンコを飼い始めました。」

関野「坂田さんは地球永住計画に当初から非常に興味をもってくださってますね。」

坂田「関野さんはパタゴニアからアフリカまで何年もかけて人間の力で地球を歩きまくってるよね。地球環境の大切さがとてもよく体感できますよね。ぼくもいろいろなところを旅してますけど、地球はほんとに素晴らしいところだと思います。」

関野「皆さんお待ちかねの演奏の時間になりました。」

サックス演奏

坂田明

「見上げてごらん夜の星を」、「ひまわり」など3曲演奏していただきました。ユーモアたっぷりの楽しいお話と、心に深く響くサックス演奏を聴いて、地球がますます好きになりました。


(構成:足達千恵子)



ー講師紹介ー

坂田明

ミジンコ研究者、サックス奏者、東京薬科大学生命科学部客員教授。山下洋輔、赤塚不二夫、タモリらのお友達としても活躍、ハナモゲラ語の元祖でもある。


この講座は2016年7月30日(土)にルネこだいら中ホールで開催されました。