2015.2.17(火)動物生態ゲストセミナー 鈴木芳人氏

投稿日: 2015/02/03 3:45:55

眼前で進行している小進化の難題:殺虫剤抵抗性にどう対処するか

鈴木芳人(元農研機構・中央農業総合研究センター)

要旨:農薬は人や環境の安全を脅かす悪の権化としてマスコミに扱われてきた。DDTなど残留性や毒性に問題ある殺虫剤が使用禁止となってからすでに40年以上が経過し、今日では農薬の安全基準は厳格さを極めている。もちろん完全に無害とはいえないけれども、殺虫剤が農産物の安定生産に大きな役割を果たしていることは疑問の余地がない。その殺虫剤の持続的利用が危機に瀕している。最大の原因は薬剤抵抗性の発達である。抵抗性害虫の出現はこれまで何度も繰り返されたが、従来は新系統の殺虫剤開発で対処できた。ところが、登録薬剤の失効と新剤開発コストの増大のために、使える殺虫剤が次第に限られている。抵抗性発達は避けられないとしても、どうしたら発達速度を抑制できるだろうか。セミナーではその原理と現実的対策について、検討結果を紹介したい。抵抗性管理に関する常識には嘘が多い。たとえば、強い選択圧をかければ抵抗性発達が速まると広く信じられている。しかし、単純なメタ個体群構造を導入するだけで、結果は逆転する。総合的害虫管理によって殺虫剤の使用回数を減らすことが推奨されてきたけれども、これも抵抗性を促進するケースがある。さらに抵抗性発達速度には、これまで注目されてこなかった害虫の配偶システムが著しい影響を与えることが明らかになっている。まずは殺虫剤に関する思い込みから自由になって、この現実問題をともに考えていただけることを期待したい。

鈴木さんは一時期京大に所属され,その後は応用昆虫学分野で仕事をされた後,現在は京都市に住まわれています.研究歴もご紹介いただきながら,応用に直結した進化生態学の話題を提供していただきます.来聴歓迎!