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山口大学国際総合科学部:文化・社会論演習Ⅱ(応用社会学)

2021年度後期後半 水34, 金34

担当:秋谷直矩


講義概要(シラバスより)

本講義で取り上げる社会現象は、趣味的な文化活動である。本講義は以下3カテゴリーで構成される。

  1. 既存の社会学がどのように趣味的な文化活動にアプローチしてきたのかを概観する。

  2. 趣味的な文化活動を実践する知識や技術について探求する方法・方法論の基礎を学んだ上で、分析できるようにする。

  3. 自分たちで集めたデータを集め、データセッションをする。

余裕があれば、収集したデータとその分析記述を一冊のzineとしてまとめる。

教科書

秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版

※生協には入れていないので、各自講義第3回終了までに入手してください。


第1回:ガイダンス&趣味・遊びの社会学概説(1)

初回のガイダンスでは、(1)本講義についての説明と、(2)趣味の社会学研究の展開、以上について簡単に説明します。このタイミングでは受講者数が確定していないので、本題は次回からになります。

  1. まず「(1)本講義についての説明」についてです。本講義の対象・目標・スケジュール・評価法について説明します。なお、この講義の最終課題は(A)「何かを楽しむことについて、本演習で講読してきた文献を参考に、具体的な事例を分析したエッセイを書いてください」と、(B)「エッセイで書いた『何かを楽しむ技法』について、他人も同じようなことができ、それを追体験できるようなコンテンツをA4一枚で作成してくださいです。この課題の狙いや、社会学とのかかわりについては、本演習を進めるなかで理解できるようになることも目指しています。

  2. 続いて「(2)趣味の社会学研究の展開」についても、導入として簡単に説明します。詳細は次回にあらためて説明しますが、さしあたり、「趣味」という対象について、社会学はこれまでどのように取り組んできたのか。そこでは何を明らかにしようとしてきたのかについておおよその理解を獲得できることが目標です。これらについて、教科書の「おわりに」(秋谷 2021)を見取り図として利用し、概説します。以上の話を聞いた上で、履修するかどうか決めてください。

【文献】

  • 秋谷直矩(2021)「おわりに」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 273-282.


回:趣味・遊びの社会学概説(2)

第2回の出席をもって本講義の履修確定とします。というわけで、本回より本格的に議論を進めます。前回は導入として、非常におおざっぱではありますが、趣味の社会学の展開について見ていきました。本回では、教科書の團(2021)を手掛かりに、もう少し詳細にその展開を見ていきます。れをベースに、日本語で読める重要文献のいくつかをレビューします。ただし、時間の関係上、サラッとした紹介にとどまります。紹介した本はすべて研究室にあるので、関心があれば借りていってください。

【文献】

  • 團康晃(2021)「はじめに」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 1-12.

  • 井上俊1995)「生活のなかの遊び」井上俊他編『仕事と遊びの社会学』青弓社, 1-16.

  • 浅野智彦(2011)『趣味縁からはじまる社会参加(若者の気分)』岩波書店

  • 宮入恭平・杉山昂平(2021)『「趣味に生きる」の文化論:シリアスレジャーから考える』ナカニシヤ出版

  • Jenkins, Henry., 2006, Convergence Culture: Where Old and New Media Collide, NYU Press.(=2021, 渡部宏樹・北村紗衣・阿部康人訳『コンヴァージェンス・カルチャー:ファンとメディアがつくる参加型文化』晶文社)

ほか


第3回:趣味・遊びの実践学

前回までで、「趣味の社会学」の動向と射程について概説しました。第回では、先行する取り組みでは必ずしも中心的に検討されてこなかった「楽しみの技法」を取り上げます。このキーワードは、本演習の中心的キーワードです。次回以降、このキーワードに関係する研究論文を読んでいきます。そのための導入として、再び教科書の「はじめに」「第1部 趣味の境界」に簡単に触れたあと、「第Ⅱ部 趣味の実践学」を解説します。この文章を書いたのは私(秋谷)なので、たぶんそれなりに説明できると思います。

また、第4回から研究論文の講読に入る予定です。それに先立ち、履修者のなかから文献発表担当者も決めます。演習の割に履修人数が多いので、割り当て方法については別途検討します。

【文献】

  • 秋谷直矩(2021)「趣味の実践学」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 106-124.


第4回:服飾制作サークル

  • 回から個別具体的な研究論文を読んでいきます。教科書からいくつか抜粋します。第回は、大西(2021)を取り上げます。この回は発表のお手本を秋谷の方で示します履修者は指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 大西未希(2021)「趣味の集まりの中の活動時間と気晴らし」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 28-52.


第5回:「小説家になろう」

第5回では團(2021)を取り上げます。発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 團康晃(2021)「可視化される読者共同体:オンライン小説投稿サイトにおける感想欄の相互行為分析」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 53-78.


第6回:映画鑑賞

第6回では岡沢(2021)を取り上げます。発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 岡沢亮(2021)「いかにして「異文化」のユーモアを理解するのか:コメディ映画鑑賞と字幕・吹替の技法」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 125-148.


第7回:カラオケ

第7回では、吉川(2021)を取り上げます。発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 吉川侑輝(2021)「「歌いたい曲がない!:カラオケにおいてトラブルを伝えること」秋谷直矩・團康晃・松井広志編(2021)『楽しみの技法:趣味実践の社会学』ナカニシヤ出版, 149-169.


第8回:コスプレ

第8回からは教科書から離れて関連文献を読んでいきます。第8回では松浦・岡部(2014)を読みます。石川(2018)も取り上げる予定です。発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 松浦李恵・岡部大介(2014)「モノをつくることを通した主体の可視化:コスプレファンダムのフィールドワークを通して」認知科学, 21(1), 141-154.

  • 石川初(2018)「FAB-G」石川初『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い ──歩くこと、見つけること、育てること』LIXIL出版.


第9回:家の中での趣味活動

第9回では引き続き、松浦さんの論文を取り上げます。題材は前回と同じく「コスプレ」ですが、主眼は「家の中」です。家の中での趣味活動という観点はみなさんにとっても身近なことだと思います。関連文献として、土橋(2006)も紹介しようと考えています。発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

  • 松浦李恵・加藤文俊・岡部大介(2019)「家の中における趣味活動のフィールドワーク:コスプレ衣装製作にみる人工物と家族とのインタラクション」認知科学, 26(4), 440-455.

  • 土橋臣吾(2006)「インターネットを使い倒す:集合体としてのユーザーとヘビーユースというふるまい」上野直樹・土橋臣吾編『科学技術実践のフィールドワーク:ハイブリッドのデザイン』せりか書房, 212-231.


第10回:学校の中の物語作者たち

10回では團(2014)を通して、学校の中で物語を作る中学生たちの実践を検討します発表担当者は講義当日までに発表資料を作成してきてください。それ以外は、指定された事前課題に取り組み、締切までに所定の場所に提出してください。

【文献】

團康晃(2014)「学校の中の物語作者たち : 大学ノートを用いた協同での物語制作を事例に」『子ども社会研究』20(3), 3-16.


第11回:小括

第11回で、これまで読んできた文献と議論の内容をまとめ、あらためて本演習の狙いについて説明します。この演習では「楽しみの技法」それ自体がいかなるものなのかを検討すること、これを中心トピックとしました。エスノメソドロジーの態度で趣味的な文化活動を分析することについて、本演習でこれまで説明したことや、具体的な事例を新しく提示しつつ、復習的にあらためて説明します。これまで文献を読み、自分自身がこれまで経験してきたことから省察的に議論してきたみなさんは、おそらく本演習初回にバーッとエスノメソドロジーについて説明を受けたときよりもある程度理解する土壌ができていると思います。ここでもう一度説明を受けることで、エスノメソドロジーの態度により分析することをしっかり自分のものにしましょう。

実は、狙いはもうひとつあります。それは、「テクノロジーの使用」です(この観点を入れることで、本演習は次年度以降に科学技術論演習に変更になっても対応できるようにしています)。大西論文でを例に挙げましょう。イヤホンやヘッドホンは、その機能は「音楽などを個人で聴く」ことです。他方で、特定の目的のもとでの使用という観点で見れば、ただ単に「聴くこと」だけをやっているわけではないことがわかります。これは非常にトリヴィアルなことですが、しかし、それが「うまくできる」ことが、活動にうまく参加し楽しむことの重要な「技法」であることがわかります。團論文では「小説家になろう」というウェブサイトのアーキテクチャ、岡沢論文では「字幕」というツール、吉川論文では「カラオケのリモコン」、松浦論文では「百均の売り物」や「ファブリケーション機器」、岡部論文では「上映機器」が活動の組織に不可分なものとしてかかわっていることが示されています。こうした「テクノロジーの使用」の観点からの分析の重要性についてもあらためて説明します。

併せて、ここまでで具体的に紹介してこなかった関連文献についても紹介します。たとえば「推しの上映会」をトピックとした岡部(2021)などです。

そして、最終課題の作成に向けた説明もこのタイミングで行います。最終課題は、演習冒頭で予告したとおり、(A)「何かを楽しむことについて、本演習で講読してきた文献を参考に、具体的な事例を分析したエッセイを書いてください」と、(B)「エッセイで書いた『何かを楽しむ技法』について、他人も同じようなことができ、それを追体験できるようなコンテンツをA4一枚で作成してください」です。

(A)については、秋谷の分析練習用ブログの記事「お片付けをめぐる親子の攻防」を指定のフォーマットに再構成したものを「エッセイ事例」として紹介します。

【文献】

  • 岡部大介(2021)「プランと即興:愉しみをつくる身体」岡部大介『ファンカルチャーのデザイン:彼女らはいかに学び、創り、「推す」のか』共立出版, 131-158.…など


第12〜15回:最終課題作成・最終発表

第12回は各自のフィールド調査回とします。最終課題作成用のプロットを第13回までに作成してください。templateはmoodleにアップしています。必ず期限までに提出してください。

第13回は個人での最終課題作成回とします。

第14回も個人での最終課題作成回にしますが、作成途中の最終課題について、小グループに分かれて履修者内でお互いにコメント・助言しあう時間を作ります。

第15回の最終発表回までに各自最低2回は、最終課題の進捗と内容について秋谷に報告・相談をしてください。作成途中のものでまったくかません。演習時間内での実施を前提としていますが、履修者が多いので演習時間内に終わらない可能性があります。その場合は演習時間外も対応するので、個別に時間を調整しましょう。なお、この2回の個別面談を最終課題提出の条件とします。

第15回は最終発表になります。

最終課題は2月11日17時提出締切です。なお、提出してもらった最終課題は、私の方でまとめてzineにします。完成したら連絡するので、各自適当なタイミングで取りに来てください。