PBL(プロジェクト型課題解決研究)についての基本的な指導方針
PBL(プロジェクト型課題解決研究)についての基本的な指導方針
山口大学国際総合科学部では、4年次の総決算としてPBL(プロジェクト型課題解決研究:以下PBL)を実施しています。私はオリジナルコースを担当することが多いので、ここでは、オリジナルコースを対象とした秋谷の基本的な指導方針について記します。
以下目次です。1はシラバスの記載を転用したものなので、PBLについてすでに知っている学生は2から読んでもらってOKです。
「実社会に存在する問題をテーマに取り上げ、自らがプロジェクトを企画、実践すること」(シラバスより)を目的とした学習プログラムです。チームでの活動と、官公民の組織との連携が原則となっています。
秋谷が担当するPBL(オリジナルコース)は、学生自身の知的関心を基盤とした学生提案型のゼミとして運営します。
「学生自身の知的関心を基盤とする」とは、学生のこれまでの活動や講義での学習を通して得た「知的関心」を出発点とする、ということです。「○○について知りたい」「●●がどうしてそうなっているのか気になる」「□□という技術を使ってみたい」「△△という手法を使ってみたい」でスタートしていいと思っています。教育プログラムとしてのPBLという機会が与えられる前に、「気がついたらすでに取り組んでいた」というのが理想で、それをより発展させるためにPBLという機会を利用してやろう、ぐらいの気概があるとうれしいです。なので、「社会的意義があるか」とか「誰のために、どのように役立つのか」といったことをプロジェクトのスタートから机上であれこれ考えてこねくり回すことはあまりオススメしません。なぜならこういったものは、自分たちの知的関心に基づいた活動実践の積み重ねの先に、あるいは丹念な文献・フィールド調査の先に、具体的な輪郭をもって見えてくるものだからです。
「学生提案型のゼミ」とは、文字通り、ゼミのスケジュールや内容、ルールの設計は学生提案を中心とする、ということです(最低限こうしてほしい、という要望は私の方から最初に伝えますが)。だからといって放任ではありません。プロジェクトの内容や進行などを踏まえて秋谷の方からも折々提案や確認、情報提供をします。ただし、プロジェクトが危機に瀕していると見た時は積極的に介入します。
なお、秋谷の専門は社会学および科学技術社会論です。学生提案のプロジェクト内容と私の専門性がある程度一致していると、指導の質もそれなりに保証できるかと思います。が、この一致は必要条件ではありません。学生からオリジナルコースの担当依頼があったら優先的に引き受けるよう学部から要請がきているので、私もこれは本当に指導できないなと思ったもの以外は基本的に引き受けます。
例年、多くの学生がオリジナルコースを志します。しかし、連携先の確保というハードルを越えられないケースが多いのが実態です。秋谷個人としては連携先がなくてもプロジェクトとして十分成立するならいいのではと思っていますが、今のところはそれはダメということになっています。では、どうやって連携先を見つければよいのでしょうか。いろんなやり方があると思いますが、私のおすすめは次のようなフローです。
自分たちの知的関心に従って勝手に自主プロジェクトを立ち上げる(教員の許可なんていりません)。
興味のおもむくままにプロジェクトを進める。
その実績をポートフォリオにまとめる。
プロジェクト進行中につながることができた人のうち、自分たちの活動に共感を示してくれた人・組織にポートフォリオを携えて「協力」のお願いをしに行く。
よくある失敗ケースとしては、曖昧模糊としたアイディアと熱意だけを持って突撃するケースです。地域の方の多くは地元の大学の学生をあたたかく見守ってくれており、さまざまなことに協力してくれることが多いので(本当にありがたいことです)、徒手空拳で突撃しても「まあ学生だからね」と話を聞いてくれることも多いのですが、そこから話がまとまるのはレアケースです。
提案されたことに価値を感じるか。それは自分たちにとってもメリットがあるものなのか。そして、プロジェクトを遂行する能力と熱意が目の前の学生に備わっているのか。こうしたことを先方は気にすることが多いです。そこで、「気がついたらすでに取り組んでいた」です。どんなレベル・内容であれ、目に見える活動実績は、これらの懸念に対する検討材料になります。
他のやり方として、教員や学内の地域連携系の教職員に協力してもらって連携先候補を紹介してもらうとか、特定の人・組織の困りごとをキャッチし、いわば御用聞きとして関係を築くといったものがあります。が、私としてはこれらを初手から採用することはあまり薦めていません。なぜなら、繰り返しになりますが、PBLのオリジナルコースを自分たちの知的関心からスタートしてほしいと個人的に思っているからです。そうすることで、誰かから強制された、お仕着せのものではなく、「自分たちのプロジェクト」にしてほしいと思っています。そうじゃないと、1年半続けるのは大変です。もちろんこれは私自身の理想であって、みなさんにPBLオリジナルコースはこのようにとらえろ、と強いるものではありません。
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PBLは、3年次Q4からカリキュラムとしては開始になります。ここで注意してほしいのは、あくまでも「カリキュラム上は」という点です。オリジナルコースは正式に開始する前からどんどん動いてよいです。繰り返しになりますが、自分たちの知的関心に基づいた自主活動が結果としてPBLになった…ということであれば大変よいと思います。ここで述べたいのは、スタートしてからのことです。おおまかに念頭においてほしいことがあります。
3年次Q4の終わりの構想書提出及び構想発表会
4年次8月の中間発表会
4年次Q4の終わりの最終発表会
以上の公式イベントをマイルストーンとして考えたとき、この時点ではここまで完了しているのが望ましい、ということがいくつかあります。まず、3年次Q4から年度明け6月ぐらいまでは、文献調査やフィールド調査にかなり時間をかけた方がよいということです。その間に取り組むべき課題を見つける、あるいはこれまで念頭にあった課題をより地に足のついた具体的なものにするという作業をここで行いいます。これがしっかりできていれば、夏以降の実践の基盤になります。
達成目標としては、6月ぐらいまでに私たちのプロジェクトでは「◯◯という課題に取り組みます」「その課題は、▲▲という歴史や背景、特徴を持つもので、先行する取り組みは□□などがあります」「以上を踏まえ、私たちは◯◯という課題について、■■という点に焦点化し、××というゴールの達成を目指します」「そのために、夏以降に実践することはあれとこれとそれです。具体的な方法はこれこれを考えています」…こうしたことを簡潔に説明できるようになることです。中間発表ではこれを目指してほしいと考えています。
ただし、夏以降もフォールド調査や文献調査などはずっと並行して続けたほうがよいです。プロジェクトの進行中には、プロジェクトの前提や情報の見直しを迫るような発見があることもしばしばだからです。このタイミングで見直すは大変だ…という気分になるかもしれませんが、間違った前提や情報のもとでプロジェクトを進行することによる問題や、地域への被害は大変なものです。むしろ、ここで見直すことができてよかったと思うべきでしょう。
最後に最終発表会ですが、それに併せて最終報告書を作成する必要があります。例年この最終報告書の作成は大変です。誰が何をどこに書くかの合意を得る作業にかなり時間がかかります。私としては、最終報告書をスムーズに書けるようなプロジェクト体制をあらかじめ組んでおくのがよいと考えています。たとえば、PBLスタートから中間発表までの前半と、中間発表までにまとめたプロジェクトの具体的な目標達成に向けた実践的活動をする後半という感じでPBLを2つの期間に分けて考えてみましょう。メンバーが3名いるとして、前半に個々人をリーダーとした調査プロジェクト3つ、そして後半にも同様に目標達成に向けたサブプロジェクトを3つ組めば、少なくとも最終報告書のうち6章分は主たる執筆者が確定します。また、プロジェクトの中身もかなり充実したものになるでしょう。こうした分業体制については、次の章でもう少し詳しく説明します。
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