COHAT : Complete Oral Health Assessment & Treatment

当院では単なる歯石除去ではなく口腔内の健康状態を総合的に評価し治療を行います。また動物歯科治療において最も重要な歯周病の予防・治療にも注力しており、口腔内の健康状態を健全に維持し、本来の歯を長持ちさせることを目標にしています。また口腔内の状態を総合的に評価することで歯周病以外の疾患(腫瘍や歯根部破片の残存など)の診断につながることがあります。 

動物医療における歯科処置の認知度はまだ低く、全身麻酔を伴うと言う理由で敬遠されがちです。その結果かなり悪化してから処置をされるケースがほとんどで、多数の抜歯が必要なことも珍しくありません。最近では無麻酔の歯石除去が流行していますが歯周病は歯周ポケットの感染から周囲の歯槽骨が破壊されていく“見えない部分"の病気”ですので、"見える部分"の歯石だけを除去する処置はあまり意味がありません。近年は麻酔の安全性も向上しており、事前の検査で麻酔リスクをしっかりと判定し、麻酔下で適切な処置をすることが推奨されています。

高齢動物の麻酔については外科のページもご覧下さい。

歯周病

歯周病は、歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)の細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯周ポケットの細菌感染は歯肉の炎症(歯肉炎)を引き起こし歯の周囲の組織を破壊していきます。その結果歯周ポケットはどんどん深くなり歯を支える歯槽骨まで破壊され歯が動くようになり、最後は抜歯が必要になります。また歯周ポケットに蓄積した菌は周囲の血管から血流に入り他の臓器(心臓・肝臓・腎臓等)に感染が波及する可能性があります。 

図は日本臨床歯周病学会:hhttps://www.jacp.net/perio/about/ より

歯科処置を行うタイミング

多くの場合、食べにくそうにしている・歯がグラグラしているなどのかなり進行した症状の他に歯冠部に沈着した歯石の量をもとに歯科処置が検討されていますが、外から見える歯冠部の歯石の量は必ずしも歯周病と相関関係はありません。

下の例では付着する歯石の量は比較的少なめですが、歯科用レントゲンで撮影すると歯槽骨が広範囲にわたり破壊されていることがわかります。このような症例は無麻酔で歯冠部の歯石だけを除去してきた場合によく見られます。歯周病の進行を妨げ歯を長持ちさせるためには「歯石が溜まったら歯石を取る」ではなく、歯周病を疑う所見があればいち早く歯根部の状態を把握し適切な処置を行うことが大切です。

歯石以外に早めの歯科処置を検討すべき所見

処置後のメンテナンスの重要性

歯周病治療は処置後のメンテナンスを行うことを前提に処置をします。具体的には深くなった歯周ポケットの汚れや感染を除去しすることで歯肉と歯の再付着を促し、歯周ポケットを減らします。また歯周ポケットの深さを健常に近い状態まで外科的に調節し、汚れなどが蓄積しにくくすることで処置後のデンタルケアを行いやすくします。残念ながら歯槽骨の喪失が大きすぎて抜歯が必要な歯についてはそれ以上周囲組織の破壊が広がらないよう抜歯後に洗浄・消毒し、歯肉フラップを形成し外科的に縫合します。 

口腔内は通常多数の細菌が常在しており、せっかく歯科処置をしても歯周ポケットに汚れがたまり細菌の再感染が起こりますので処置後も速やかにデンタルケアを行い再感染の予防をすることが歯を長持ちさせる重要なポイントです。歯周病治療は破壊されてしまった組織の再生を促す治療ですので処置後の歯ブラシなどメンテナンスを行わないと、歯周組織の再生や歯肉の再付着にはつながらず効果が見られない可能性が高くなります。

歯根部の把握

歯科用レントゲンとプロービングにより全ての歯の歯根部の状態と歯周ポケットの深さをチェックし必要な処置を検討します。下の写真のようにプローブを挿入した際に容易に出血するのは歯周病の典型的な症状です。

スケーリング・ルートプレーニング

一般的にSRPと略されクローズド・ルートプレーニングとも呼ばれます。 周囲組織の破損が少なく、歯周ポケットも比較的浅い場合(犬:5mm以下、猫:2mm以下)は歯根部表面の歯石・歯垢・汚染された組織をスケーラーで除去し、歯根部表面をツルツルに仕上げることで歯周ポケットにより歯から離れてしまった歯肉の再付着を促します。またスケーリング後に抗生剤を含む軟膏を充填することでさらに治癒が促進されます。

オープン・ルートプレーニング

周囲組織の損傷が激しい、または歯周ポケットが深い場合は通常のスケーリングではポケットの奥深くまで届きません。そのため一度歯茎を切開し歯根部を確認できる状態にして歯周ポケットの最深部まで確実にスケーリング・プレーニングを行い、切開した歯茎を再度縫合し歯肉の再付着を促します。

歯肉の調整

慢性の歯肉炎などにより歯肉組織が過形成し盛り上がった状態になると、歯肉が歯の表面を覆ってしまい汚れが沈着しやすくなります。このような場合は増成した部分を一部切除し健常な深さの歯周ポケットになるよう調節します。 そのほかに抗生剤ゲルの充填、充填剤の使用などがありますがいずれも比較的軽度から中程度の段階で有効な処置です。歯周病がかなり進行し歯槽骨の破壊が著しく一定の範囲を超える場合は歯周病治療の効果が見込めず抜歯が必要になることがあります。

下の写真は前臼歯の抜歯後に犬歯の周囲を切開、歯根部の汚れや感染部を除去し再縫合した1症例です。また増生してしまった犬歯周りの歯肉を一部切除し歯周ポケットの深さを調節しています。