分析化学研究室では,「犯罪の証明に寄与する科学技術の応用」を行う分野である法科学の研究を中心に,様々な対象について新しい分析手法を開発することを目標として研究を行っています.
分析化学は読んで字のごとく,化学の視点から観察対象を分析する分野です.
大学の「分析化学」の授業では,中和滴定をはじめとした様々な滴定法が内容の中心であることが多いと思います.一方,分析化学系の研究室で実際に行われている研究は,様々な観察対象について新しい方法論で解決を図るものがほとんどです.
その手法,観察対象共に年月が経つにつれ多様性が増加しており,そうした広がりが分析化学という分野をより面白くしています.
そんななか,当研究室では分析化学の「法科学」への応用を中心に据えて研究を進めています.
上述のとおり,法科学は犯罪の証明に寄与する科学技術の応用を行う分野です.
分析化学で実際に用いられる分析法を大別すると
試料に何が含まれているかを明らかにする「定性分析」
試料に含まれている成分の量を明らかにする「定量分析」
に分けることができます.
法科学ではさらに、定性分析と定量分析を組み合わせることで,
試料Aと試料Bが同じものであるか否かを明らかにする「異同識別分析」
を加えた,大きく3種類の方法で事件の解決につながる科学的な情報を提供します.
当研究室では,犯罪に関連し得るもの=身の回りに存在する様々な物質について,これら3種類のいずれかの側面から新しい分析手法を開発することを目指しています.
薬物の迅速な検査,特に捜査現場で使用される手法としては,特定の薬物と反応して特徴的な色を示す呈色試験がよく用いられます.
(警察活動に密着するテレビ番組などで見たことがある方も多いかもしれません).
このような現場予試験をより向上させるため,新しい分析法の開発に取り組んでいます.
例えば,金属ナノ構造体の表面において顕著な強度増強がみられるラマン分光法を利用した手法を開発しました.この手法では,例えばいわゆる「脱法ハーブ」製品(このような呼ばれ方をしますが,違法です)について,試料を溶媒に少し浸すだけで迅速にラマンスペクトルを取得し,含有される薬物を検出することができます.
コンピュータの計算能力の発展を背景に,近年は化学の分野でも「取得した情報をいかに活用するか」に関して注目が集まっています.そこで,従来から行われていたような汎用的な分析技術について,データ解析を高度化することにより,新しい分析法として提案する研究を進めています.
例えば,覚醒剤メタンフェタミンの代表的な原料物質であるエフェドリン類は4つの立体異性体が存在します.覚醒剤試料に含まれる微量のエフェドリン類を一度に分離分析する手法を開発し,さらに多変量解析を利用することで,押収覚醒剤試料間の類似性を評価する新しい手法を開発しました.
観察対象に光を照射すると様々な現象が生じます.入射した光の強度に線形な応答を示すものだけではなく,入射光強度の2乗や3乗以上の応答を示す非線形光学過程を含め,様々な光学過程を利用した分光法・分光イメージング法を開発してきました.
例として,ラットの角膜を3種類の非線形光学過程を利用して分光イメージングした結果を示します.この手法では角膜に染色などの前処理を行っていませんが,角膜内部の構造を可視化することができています.さらに,画像のそれぞれが異なる起源に基づいている(特定の分子の分布,非対称な構造,屈折率の差異)ので,一度の測定で様々な情報を取得することができます.