研究背景(微生物と環境)
Research background (microbes and environments)
Research background (microbes and environments)
・環境微生物と自然浄化
Microbes and their role in the resilience of ecosystems
生態系の自浄作用ってご存じですか?
例えば、様々な汚染物質が含まれる汚水が水圏環境中に流入したら、それほど量が多くなければ、環境中に棲息する微生物の働きで徐々に自然分解されます。この自然浄化の現象を「自浄作用」と言います。
この現象からヒントを得て、人為活動由来の生活排水をきれいにする「生物学的水処理法」が開発されてきました。特に日本では、都市下水を処理する方法として、活性汚泥法が普及されています。有機物が大量に含まれる濁度の高い下水は、この方法を使うことで、透明度の高い処理水になって河川等に放流されています。
しかし、排水中には生分解が容易なタンパク質由来の有機物以外に、水圏富栄養化をもたらす無機栄養塩類(窒素、リン)や、微量でありながら健康被害を引き起こす難分解性物質などが存在しています。これらの物質は、標準活性汚泥法では処理しきれません。
より健全な水環境の構築のためにも、安全安心な水道水を提供するためにも、従来法より高度な水処理技術(現在の放流水の水質をさらに上げる技術)の開発が必要です。
また、現在の排水処理プロセスでは、曝気によるエネルギー消費が高く、処理施設での電力代の負担が大きいです。また、窒素成分(特にアンモニア)は水中から除去できるものの、副産物として強力な温室効果ガスである亜酸化窒素の放出が懸念されています。そのため、省エネな処理方式の効率化・安定化、及び温室効果ガス放出抑制技術の開発が強く求めらています。
当研究室は、バイオエコエンジニアリングに利用可能な微生物(特に硝化菌とメタン酸化菌)に注目し、その環境中の挙動及び制御方法を複合的な手法を用いて探っています。
・環境微生物と物質循環
Microbes and their role in the biogeochemical cycles
環境微生物の多さについて、イメージがありますか?
1滴の環境水(川などの水)には微生物が凡そ数万~数十万程度で存在しています(ウィルスを除き)。(この数は、深海などの極限環境は別論として、きれいな水でも汚い水でもそんなに変わらないよ。)
こんなにたくさん存在する微生物は、私たちの目の届かないミクロな世界で、活発な物質交換を行っています。
例えば、光が届く水深では、光合成ができるシアノバクテリア等が無機栄養塩類を吸収して有機物に作り変えており、水圏環境の一次生産を駆動しています。そういう光合成微生物の排泄物や死骸に由来する微粒子の表面には、従属栄養細菌がくっ付いてきて粒子中の有機物を利用して無機の二酸化炭素などを排出しています。シンプルな例だったが、炭素の有機・無機化以外にも、窒素、リン、硫黄、鉄などすべての元素の環境中の物質循環(同じ元素の異なる形態間の転換)の大部分は、環境中の微生物によって複雑に(且つで巧みに)駆動されています。
そこで、人為活動などによって生じた小さな物質濃度の変化でも、そのまま持続すると、長期的に環境中の微生物叢から高次的生物相(魚など大型生物)まで影響を及ぼしています。実際に、富栄養化という問題(水中の窒素、リンの濃度上昇)も、アオコなど藻類の異常増殖だけでなく、長期的に水圏からのメタン(もう一つ強力な温室効果ガス)放出量の増大や生物多様性の減少など、複次的な生態系かく乱を引き起こしていることが近年の研究で分かっています。
そのため、環境微生物に関する研究は、水処理などの人間社会への活用目的だけでなく、様々な人為活動の影響を受けた生態系には現在どのような変化が起きているか、そのまま進行すると将来どうなるか、を理解するためにも極めて重要である。
・環境微生物の解析手法
Methods to study environmental microorganisms
古典的な微生物学だと、単離された株を使いますので(要するに、フラスコ内には一種類の微生物しかいない)、その増殖特性を評価する際は、シンプルにOD600の値を使えば(または細胞をDAPI染色して計数すれば)、わりと容易に測定ができます。
しかし、うちの研究対象である環境微生物は多様性が極めて高いです。最小分類単位であるOTUでいうと数千、数万種類が混ざっている状態になります。そのため、OD600や全細胞染色では、群集中に誰がいるかの判明ができません。
もちろん、こんなに豊富に多様に棲息している微生物を1個体1個体に分けることも不可能ですし、顕微鏡で観察しても、外見で分別できるような違いはほぼありません(プランクトンなら形態的な違いがあるけどね)。
じゃ、どうすれば解析できるのかな?
切り口は、すべての生物の遺伝情報の「保管庫」であるDNAにあります。
人によって好きな食べ物や好きな生活環境が異なるのと同様に、微生物たちも種類によってよく利用する基質(食べ物の嗜好性)やニッチの棲み分け(好みの生育環境)などが異なります。この特性は、DNAの遺伝子配列の違いによるものだと考えられています。
そのため、微生物が多種多様に混在していても、まとめてDNAを抽出して、その中にある機能遺伝子の数を調べたり、ゲノムの塩基配列を調べたりすることで、特定微生物の定量から群集構造(種の組成)まで分かることが可能です。
ですが、数万人の血液が混ざったら鑑定と情報識別が難しいのと同様に、数万個(多くの場合はそれ以上)の微生物のDNAが混ざっているため、網羅的、効率的、そして安価的に検出する技術の確立にはまだ様々な課題が残っています。
当研究室は、生態学・環境工学視点の研究を行うために、qPCRやFISH、次世代シーケンシングなど最新の技術を使った環境微生物の定量解析・網羅的群集解析等に力を入れています。物質循環の研究(生態学の分野)も、水処理の研究(環境工学の分野)も、微生物検出技術の革新によって、以前当たり前だと考えられていた物事は現在再定義されています。
これらのDNA(またはRNA)をベースにした解析においては挑戦が多いけど、未知の領域をこれから切り開いていく中では日々やりがいを感じていますよ(躓いて泣くときもよくたまにあるけどね(笑))!
・現在実施中の研究内容 (詳細はこちら)
Current researches (please click here)
©芝浦工業大学水圏生態工学研究室
©Lab. of Aquatic Environmental Eco-Engineering, Shibaura Institute of Technology