お金の価値を可視化する
お金の価値を可視化する
Creator : 鈴木 翼徳 / 神谷 佳汰 / 佐相 昂志 / 岩崎 莉ヶ華
現在、過去と比較して現金を使用しない電子マネー等の支払い方法はとても増えた。実際に2008年から2017年の期間でキャッシュレス経済の支払い額がほぼ倍となったというデータがある*1。また、日本クレジットカード協会の調査によると支払いをクレジットで行う人は現金で行う人よりも1.7倍*1多く使うというデータがある。支払いを行う際、現金よりもクレジットの方が使いすぎてしまう要因の一つとして、現金は自分の手元から物体が無くなるが、キャッシュレス決済は画面上の数値が変化するだけだということがある。そのため、キャッシュレス決済では現金の匂いや手触り、音を感じることができないのだ。
このデータ結果と考察から、キャッシュレス決済は、現金を使った支払いよりもお金の重みを感じられないだろうと推測した。本プロジェクトでは、お金の価値を、スマホなどで認識する視覚情報に、聴覚・触覚・嗅覚・物理的な重みを表現することによって、お金の価値を身体で感じることができるインスタレーションを企画する。
お金を視覚以外で感じる方法として視覚を除いた五感を選択した。聴覚、触覚、味覚、嗅覚で金額が変わる毎にそれらの感じ方も変化させるということを前提にした。しかし、この中で味覚は採用していない。味覚という感覚でお金の価値を感じるとなるとそもそも口に何かを含むということになるので安全が保証できない。また、他の感覚でお金の価値を理解することの妨げになってしまうのではないかという意見もあり、味覚という感覚はこの企画では採用しなかった。感覚で金額の差を表現するために使う物のベースとして、3Dプリンターで制作したスマートフォンを象ったデバイスを使用している。実際のキャッシュレスを想定し、スマホに近いもので体験できるようにすることが狙いだ。
嗅覚はアロマビースの量、つまり匂いの強弱でお金の価値を表現しようということになった。最初はいい匂いか悪い匂いかで表現しようとしたが人によって大きく変わるため匂いの強弱で表現するということに決めた。匂いの強弱であれば多少人によって差はあれど同じように認識できるだろうという意図で制作している。
触覚は鉛シートでデバイス自体の重さを変えることで体感できるようにした。金額によってお金の重みが違ってくることを表現している。紙幣は枚数が増えれば重くなり、硬貨においても同様に重くなる。小銭であれば実際の重みを想定しやすいが、紙幣だと金額が多くなるほど重くなるという認識がない人が多いのではないかと考え、硬貨に焦点を当てた。
聴覚はデバイスに異なる量の硬貨を入れ、金額によって振った際の音が変化するという仕組みにした。紙幣で金額の違いを表そうとすると音の違いがほとんどないため金額の差を実感できないことも予測される。よって、触覚と同じように硬貨に焦点を当てた。
金をつい使い過ぎてしまう理由の一つとしてお金の重みを理解していないからということを取り上げ、身体感覚でお金の重みを理解してもらうという企画になったが、これ以外にも使った金額に応じて電流が流れるようなスマートフォンや使った金額に応じて室温を上げたり下げたりするという企画案もあった。
本企画では3Dプリンターでスマートフォンを象ったデバイスを作成した。レーザーカッターで加工するという手段もあったが、使用者のスキルによって出来が変化するのと材質を1から考えなくてはいけないため、使用はしていない。このデバイスをベースに聴覚、嗅覚、触覚でお金を感じられるようにした。また、金額の範囲は100円、1000円、10000円となっている。
嗅覚でお金を感じる方法としてアロマビーズを選択した。ポプリなど匂いを感じられるものは多数あるが、中でも匂いの強弱を調整しやすいのがアロマビーズであると判断した。
聴覚でお金を感じる方法として単純にデバイス内に硬貨を入れて振った際の音で認識できるようにした。お金を聴覚として捉えるのはやはりお金そのものの音が良いと想定した。紙幣でも表現するとわかりにくくなるだろうと考え紙幣では表現していない。
触覚でお金を感じる方法として鉛シートをデバイス内に入れ、重さを変えるようにした。
主にこの企画では4つの成果物がある。どの成果物も手作り感を出すことを意識しており、実際に触って感じやすい、理解しやすいようにするのが狙いだ。
3Dプリンターで作ったデバイス→
上鉛シートを入れたデバイス↑
アロマビーズ↓
←硬貨を入れたデバイス
これが完成品のスマートフォンの模型である。ガラスの部分に関しては市販のスマートフォンカバーを用い、白い部分に関しては3Dプリンターで作成した。形やサイズのモデルはiPhone12miniとなっている。その理由としては3Dプリンターの可能作成サイズとして適しており、使っている人が多いであろうシリーズだからである。以下の通り、それぞれのスマートフォンの模型に聴覚、触覚、嗅覚でお金を認識するための物質を収納し、身体感覚でお金を体験できるようになっている。
聴覚→実際の硬貨、紙幣
触覚→鉛シート
嗅覚→アロマビーズ
展覧会に用いた導入映像のコンセプトは、「お金はものか?それともデータか?」である。キャッシュレスでは、お金がデータとして示されるため、ものとしてのお金が有する音やにおい、触感に関しての情報を感じることができない。キャッシュレスが台頭している現代ではそのようなお金の重みという感覚が薄れつつある。ではお金とは一体何なのか、データとしての情報が失われた場合、どのように価値を判断するのかを問いかけ、その回答を展示を通して体験者自ら発見していくことを促す導入映像となっている。
ロゴの中央のオブジェは、企画構想段階で出ていた本企画のイメージの1つである「箱の中身はなんじゃろな」をモチーフにしている。ブラックボックスの中に入っている目に見えない中身を、聴覚・嗅覚・触覚を駆使して確かめていく様子をイメージして制作した。ブラックボックスの中身は抽象的なお金のイメージとなっており、3つの感覚を使ってその価値をどう見出すのか、という展示のコンセプトを表現している。左右にあるタイトルロゴは、展示に使用するスマートフォンの画面に、デジタルをイメージしたドット形式でタイトルを表示するデザインとなっている。サブタイトルには展示の鍵となる動詞をそのまま用いている。
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