標題をみて、多くの人はアニメ版を思い浮かべると思う。原作、なかなか読まないだろう。
しかし、実はアニメ版のイメージとは全く違う「大人のための文学作品」であり、アニメ版では商業的な事情からバッサリとカットされてしまっている作品の大切なメッセージが入っている。
それは「信仰がいかに大切であるか」ということだ。
聖書、キリスト教が伝えているメッセージがふんだんに散りばめられているのだ。
登場人物は目の見えないペーターのおばあさん、足の悪いクララ、主人公のハイジは環境が変わって夢遊病を患う、と困難を抱えている人がとても多い。偏屈なおじいさんも、外国の傭兵となって戦争を体験した上に妻も息子も亡くし、心を病んでいたのだろう。
ハイジは優しく温かいクララのおばあさまから信仰をもち神に祈ることを教えられ、その後、周りの人々が、ハイジを通して神と対話することをおぼえ、癒されていく様子が、雄大な自然の描写とともに描かれている。
聖書を学んだ君たちなら、「○○をください」と祈って叶えてくれるものが神であり祈りであるわけではない、と知っているよね。苦難とも思える状況の中でも、「これもきっと振り返れば大切な時間、神さまの計画」と信じることで、前に進める気がする、ということもあるのでは?
繰り返し読んでほしい物語だ。
日本語訳は過去に数えきれないほど出版されているが、松永美穂氏の翻訳は、温かい珠玉の言葉であふれている。
(司書 山中)
読んでおくといいと思われる海外文学作品ですが、全14冊を前にするとなかなか手が出ないと思います。ですが、この神業的「失われた時を求めて」全1冊なら読めるかもしれません。「超」が付くほどの縮約版に、角田光代さんの偉大さを感じること間違いなしです。
主人公(作者のことが投影されているのでは?と、言われていますが……)がふとしたことをきっかけに人生の回想をしていきます。正直、私としては開いた口が塞がらないようなことばかりが展開され、主人公に感情移入するどころかあきれしまうのですが、最後の最後でこの作品の奥深さがガツンとやってくるのです。「ああ、このために今までの伏線(?)があったのか……!」と、感心、敬服の極みへ達します。そして自身を振り返らずにいられません。
10代の皆さんには、これからの人生の反面教師として読まれるのがいいのかなと思いつつ、完全版では何巻からが肝になるのだろう、と完全版への興味関心も湧いてきます。それも角田さんの策略なのかと思うと、ますます角田さんが偉大に思えてくるのでした。
(司書 寺内)
最初にこの書名『だから路面電車は生き返った』を見たときは、21世紀になって見直されつつある路面電車(たとえば宇都宮ライトレールや富山ライトレール、あるいは都電復活論)について書かれた本だと思っていました。
しかし、ページを開いてみたら、全然違いました。
この本は広島電鉄について書かれた本だったのです。
1945年8月6日、原爆投下により広島市は壊滅的な被害を受けました。
それは広島電鉄も例外ではなく、朝のラッシュ時間に満員で市内を運行していた車両はもちろん、架線から線路、変電所、本社、乗務員に至るまで、広範囲な被害を受けてしまいます。
しかし、広電はわずか3日後には一部路線で運行を再開。その後も精力的に運行を回復させていきました。
作者は、史料を読み解くことで、短期間に広電が復活したのは、応援に来た近隣の鉄道会社や、終戦になっても引き続き復興に尽力した軍部隊のおかげであることを明らかにしていきます。
こうして広電は、焼け野原のなか、運行を続けることで人々に勇気を与えていきました。
この本は、壊滅的な被害を受けた鉄道を、なんとか復活させようと力を尽くす人々の美談です。
しかし、この美談は、戦争をしなければ、または戦争が早くに終わっていれば、語られることのなかったはずの美談です。
二度と繰り返してはならない美談がここにあります。
(司書 中島)
本作品は、第172回直木賞を受賞し、また第12回高校生直木賞候補作にも選ばれたものです。理学系出身の著者が描く、いずれも科学のエッセンスが盛り込まれた短編5編で構成されています。中でも書名にもなっている『藍を継ぐ海』の「海」というワードが引っ掛かりました。
『藍を継ぐ海』の舞台は、徳島県の太平洋に面したアカウミガメが産卵に訪れる小さな町。主な登場人物は中学2年生の女子と同じ町に住む70代の女性です。アカウミガメを通してつながるこの二人は、それぞれが背負っている過去や不安があり、心にしこりを残したまま暮らしていました。そこに、突然現れた一人の男性により、しこりが消え1本の道筋が見えてきます。
作品のベースに流れるアカウミガメの産卵や子ガメの旅立ちと勇気。さらには、太平洋の長旅から母浜回帰が「海」によってもたらされ、彼女らの人生と絶妙に重なりあいます。
ネタバレになりますが、最後に全てが解きほぐれ、心が放たれる瞬間が訪れるでしょう。不安や過去に縛られず、自由に歩んでいいのだと背中を押してくれる気がします。
(司書 古川)
この本はみなさんのための本ではないかもしれません。
10代のうちは疲れていてもちゃんと寝さえすれば疲労なんて吹っ飛ぶというのが私の持論だからです。
この本はぜひ、皆さんの保護者に読んでもらいたいと思います。
昔から疲労回復の方法は個人の経験則や先人からの言い伝えなどで理解されてることが多いように思います。
例えば疲れたら酸っぱいものを食べるといいよ!なんて耳にしたことはありますか?
実はその通りのようです。なぜいいのか、著者の梶本修身先生(東京疲労・睡眠クリニック院長)が分かりやすく解説してくれています。
疲労には種類があり、それぞれの回復パターンが異なり、その適切な対応方法が書かれています。もし、家族の誰かが「今日は疲れた」などと言っていたら、皆さんの持てる知識でどんな種類の疲れなのかを突き止めてフォローしてあげてください。
では、皆さんは疲れるまで勉強や部活に励んでください。そしてよく寝てくださいね。
(司書 鎌田)
「ぶっとんだ」エピソードだらけで、驚いた。何かを成し遂げる人は桁違い、と。
ナイチンゲールと言えば、クリミア戦争の時に「敵味方関係なく看護をした、ランプを持った天使」というイメージが児童書や教科書などで定着しているが、そんなことだけでは収まらない彼女の驚きの実情を知ることができる。
怪我よりも感染症で亡くなる兵士が多いことを統計学を駆使して証明し、病気の兵士を救うために環境を整える意義を訴え、建築学の見地から病院の構造の問題を指摘して病院の改築も指導した。統計学者でもあり、建築学者でもあった。
彼女の活動を報じた新聞『タイムズ』に寄せられた寄附で病院の環境改善を試みたが、必要な資金の半分ほどしか集まらず、「残りは私が自費で出します」ということもあったという。必要総額は約3万ポンド、今の金額で4億5千万位だったらしく、その約半分、1~2億を彼女が出していたことになる。実家のお金持ちぶりも、今の我々が想像するレベルとは桁違い。その辺の逸話も存分に語られている。
戦後は病床に臥せていることも多かったが、ビクトリア女王に2度3度と呼び出され、女王の方からナイチンゲールを訪ねることもあったそう。二人は茶飲み友達。当時看護師というのは上級階級の女性の職業ではなかったので、家族の抵抗はとても大きなものだったらしく、一時期、鬱状態にもなった。
これらの「ぶっとんだ」エピソードを「白衣じゃねえよ、黒衣だよ」など「ぶっとんだ」表現で漫談のように語る書。一般的な伝記とは全く違った異色の人物伝だ。
(司書 山中)
食べ物に消費期限があるように、本にも共感期限みたいなものがあるのではないかなと思った作品です。絵本には「対象年齢」というものがありますけど、それに近いかもしれません。タイトルを日本語訳にすると「ライ麦畑でつかまえて」となりますが、内容は退学処分になった少年が自分の家に帰るまで。それを聞いてちょっぴり気になってきませんか?
主人公であるホールデン・コールフィールド少年、なかなか家に向かわず寄り道ばかり。「参っちまったね」「嘘じゃないよ」「冗談抜きで」「まったくの話」が彼の口ぐせで、そのたびに「いいから早く家に帰りなさい!!」と、つい親目線の突っ込みをしてします。アメリカ文学の代表作品ですが、私には作品の世界に共感する年齢を過ぎてしまったようです……。
全てを否定してしまうような感情や怒り、そして正義感。とらえどころのない不安とほんのちょっぴりの恋愛感情。訳者が村上春樹というのも気になりますよね。安心してください!! ドキドキするような表現は全くありません。それどころか、文章の巧みさにいつの間にか自身と投影させてしまうかもしれません。
読んでみてもし、大人のわたしのように「いいから早く帰れ」と思ったあなた。ちょっとくらいならはっちゃけてみてもいいかも……しれませんね。
(司書 寺内)
「漢文」、得意ですか?
現代文は得意という人はそれなりにいる気がします。古文はどうでしょう? なんとなく意味が取れるので、得意ではなくても点数は取れるという人がいそうです。でも、漢文となると…。
大学受験でも、漢文は出題しない大学が増えているようで、漢文の読解には努力を割きたくない、なんて人もいるかもしれません。
でも、この本を読むと、「漢文」に対してそんなに苦手意識を持たなくても良いのかも、と思えてきます。
たとえば「半信半疑」(はんしんはんぎ)。
四文字熟語としておなじみの言葉ですが、これだって実は漢文。送り仮名を付けると「半バ信ジ半バ疑フ」(半ば信じ半ば疑う)という日本語に変わります。
「我田引水」(がでんいんすい)だってそう。
送り仮名と、「引」に「レ点」を付けると「我ガ田ニ水ヲ引ク」(我が田に水を引く)という日本語に。
こうして、見知った四文字熟語を例にして漢文を説明されると、なんだか親しみが出てきませんか?
(司書 中島)
私が高校生だった頃は実にたくさんの種類のコンビニが存在していました。それが首都圏では、30年位前からいわゆる大手以外のコンビニは撤退や統合などによりほぼ消滅してしまいました。慣れ親しんだコンビニがなくなっていくのを寂しい気持ちで見ていたのを憶えています。
ところが、全国には小規模ながらも頑張っているコンビニがあることを知りました。
それがこの「全国ローカルコンビニグルメ図鑑」です。地方で経営しているコンビニ紹介です。
皆さんも地方に行く機会があると思います。その時の事前準備として一度目を通してみて下さい。「感動のグルメ」に出会えるかもしれません。
(司書 鎌田)
タイトルから受ける印象はいかがでしょうか。一見テーマはとてもセンシティブで、どう扱ったらいいか苦慮し避けてしまいがちです。しかし、決してやり過ごせるものではなく、むしろ丁寧に向き合うべきものです。かつて保護者親世代の学生時代は、保健体育の授業でさらっと話を聞きおしまいというケースが殆どでしたが、昨今はそうは言っていられません。
著者は焦点がボケないよう敢えて対象を男子校に絞り込み、各学校現場での性教育の取り組みを取材し特色を伝えています。そして、「人権」といった抽象的な概念だけではなく具体的に切り込み、そこから垣間見える幾つもの社会課題をあぶり出しています。それは、教科の保健体育だけではなく家庭科や社会科、倫理等、あらゆる領域を横断する包括的性教育であり、大きな学びにもつながります。確かこの著書には触れてなかったと思いますが、私自身は生物の生殖の奥深さや法律等にも関心を寄せるきっかけになると思います。生徒だけでなく、大人にも読んでいただきたい1冊です。
念のため、別学を否定、肯定する内容ではないことを申し添えておきます。
(司書 古川)
1700年代の終わりにテレグラフが発明され、1800年代イギリスのヴィクトリア朝時代には、モースル信号が発明されて新しい通信の時代がやってきた。新聞社や通信会社のスクープ合戦、電信を通じた詐欺、オンライン恋愛、ハッキング…今と同じで驚く。
この発明により、それまで船で書簡を運ぶか伝書鳩に頼るしかなく膨大な時間を要していた情報の伝達が即時可能になったことで、新聞の役割も大きく変わった。
クリミア戦争は、情報が飛び交うという意味で、戦争の形を大きく変えたものだった。
SNSが大きな力をもつようになった現代と同じだ。
英仏がロシアに宣戦布告してクリミアへ軍を送った当初は、軍は積極的にその規模や活動の情報を新聞社「タイムズ」に報告していた。読者への情報提供が、戦争への意欲を掻き立てると考えたからだ。
しかしそれらの情報はタイムズからロシアへ渡ることとなり、英軍の総司令官は「敵の情報は我々のスパイが手を尽くして得てくるのに、敵は5ペンスの新聞ですべてを手に入れる」と嘆いたとの話もある。
一方、電信は平和をもたらすと信じる者も多かったようだ。「外国の人と親近感をもって繋がることで、戦争はなくなるだろう」と当時の英国の通信専門家は書いている。
コンピューターもなかった時代に、インターネットとまるで同じような情報合戦があった事実が興味深い。情報時代の起源を垣間見ることができる。
(司書 山中)
『坂の上』の雲は全8巻。8巻と聞くと、読み切れる気がしないと思うかもしれません。ですが、司馬作品は読み始めたらページをめくるのが止まらないくらいに面白いのです。まるで、そばで見てきたのかと思うほど登場人物が鮮やかに描かれていて、彼らの行動や心情に「どうなってしまうのか」と、目が離せなくなります。
この作品の主人公は俳人の正岡子規と、「貧しさの中でも学びたい」という理由で軍隊に入った秋山兄弟です。子規は優れた作品を生み出していきましたが、病にたおれ、35年の短い人生を閉じました。秋山兄弟は軍人として頭角を現していき、日露戦争へと向かっていきます。
日清、日露と不敗の大日本帝国ですが、実際は日露戦争で勝利を納めるには大変な犠牲を払いました。武士道に厚い英雄と称される乃木希典の苦悩と悲哀、何としてでも勝利へと導かんとする児玉源太郎の豪快さ。教科書では威厳漂う近寄りがたい存在ですが、読めば人間味を感じて親近感が湧いてきます。もしかしたら、こんなおじさんが親戚にいるかもしれませんね。
(司書 寺内)
「数学はちょっと苦手」という人がいるかもしれません。
でも、せめて色々な定理や法則を発見した数学者は嫌わないであげてください。
この本は、古今東西のさまざまな数学者の面白エピソードを集めた本です。
ある数学者は数学に神秘を見いだして、宗教団体を結成してみたり、また、ある数学者は数学史に燦然と輝く業績を残しながらも、わずか20歳で決闘により命を落としてみたり、ある数学者は直感で公式を発見することができるのに、自分で発見した公式を証明できなかったり…。
数学は、しばしば論理的学問の代名詞のように言われますが、その数学を見いだした人たちはこんなにもユニークなのか、と感心させられます。
なお、この本には、日本人の数学者も取り上げられています。その一人は「岡潔」。岡潔が生涯に発表した論文はわずか10本。しかし、それらの論文はどれも数学界に大きな影響を与えるもので、一人の数学者がこれらの論文を執筆したとは信じられず、「オカ・キヨシ」なる数学者グループが存在すると考えた研究者がいたほどです。
そんな岡潔の変人エピソードは…。ぜひ本書を読んで確かめてください。
(司書 中島)
「袴田事件」の時30歳だった裁判官の「熊本」は死刑判決に異議を唱えるが、2人の先輩裁判官に押し切られ、最終的には多数決で負けて、心にもない「死刑判決文」を書くことになるー
彼は懊悩し、裁判官を辞めて酒におぼれ、家族を崩壊させ、自殺未遂をし、やがて行方不明となってしまう。
この後、「熊本」は40年を経て突然マスコミの前に現れ、あの裁判は間違っていたと告白し、海外のメディアでも大きく取り上げられて一躍「美談の男」となる。
しかし彼にはもう一つの顔があることが、だんだんと分かってくる。本心は何なのか。償いなのか、それとも売名行為なのか?
袴田さんや袴田さんの家族は言うに及ばず、この裁判官「熊本」、「熊本」の家族…どれだけの人の人生が狂うことになったのか、なぜこのようなことになったのか、私たちは知って、考えなければならないと強く思う。
本校にご勤務されていた社会科教諭、海老原栄先生(故人)が寄贈してくださった本です。
(司書 山中)
「スイカ割り列車」や「ドレス登山」を知っていますか?
昔、熊本県のある農村部では豊作すぎて処分しなければならないスイカを線路に並べ、列車にひかせて粉砕していました。これが「スイカ割り列車」です。
また、「ドレス登山」は、80年代ならではの光景で、夜通しディスコで踊り明かした女性が、ドレス姿のまま山登りをしていたことから名付けられました。
どちらもコンプライアンスが緩かった昭和時代ならではの光景です。
と、ここまでの文章を読んで、「あぁ、それ、知っている」と思った人。何かの間違いです。
この本には、「スイカ割り列車」や「ドレス登山」のような、実際にはなかった昭和時代のさまざまな風景を紹介しています。文章だけだと「なんだ、それ?」と思うものが、AIによるリアルな画像付きで紹介されていて、「昭和時代はこんなことがあったんだ」と思わされます。
この本を読んでも、すべて架空の出来事なので、なんの教養も身に付きません。でも、いかにも、な文章と、それっぽい画像をセットで見せられると、本物っぽく思えてきて、面白いですよ。
ところで、私たちの身の回りには「昔からの伝統だから」とか、「前からそういうものだから」というだけの理由で決まっている物事がありますけど、それって本当なのですかね。
(司書 中島)
「山」の定義はとてもあいまいなものです。
この本は主に東京23区内の山についてまとめられています。
でも、23区で山?みなさんそんな感じを持ちますよね。
実は、山は「周囲よりも高く盛り上がった地形や場所」であれば「山」と呼ぶらしいのです。
ちなみに自然にできた山の中で日本一低い山は、徳島市方上町にある標高6.1メートルの弁天山だそうです。こちらは毎年6月1日に山開きが行われているようです。
さて、それなら23区でも多くの山を発見することができそうです。
著者は、その視点で例えば愛宕山(港区)や飛鳥山(北区)の紹介をしています。
みなさんもぜひ、近くにある飛鳥山など、身近な山登りを楽しんでみてください。
(司書 鎌田)
小説のような、文章を書くための指南書のような、哲学書のような、不思議な本です。
海の中で生きているタコジローは学校で友達にいじめられていると感じ、登校できないことがあります。学校をさぼって公園に行ってしまったある日、そこでヤドカリのおじさんと出会います。日記を書くことをすすめられ、書き方を教えてもらううちに、友達との接し方も変わっていきます。書くことで、自分との向き合い方を学び、自分の気持ちを言葉にする方法を身につけていくのです。
本文はまるでとても読みやすいファンタジー小説。携帯のことを[シェル(貝殻)フォン」と表現し、[吾輩はウニである。名前はまだない…」と人間界のお馴染みの小説のパロディが出てくるなど、ウィットに富んだ表現もたくさん出てきます。
書くことで思考が整理され、行動も変わっていく様子が、タコジローとヤドカリのおじさんのやり取りを通じてよく理解できます。また、タコジローに指導する、という体で書く方法も一歩ずつ教えてくれているので、書くことが難しいと感じる人にとっても、読みながら「よし、自分にもできるかもしれない、書いてみよう」と思える本です。
著者は『嫌われる勇気』が様々な言語で翻訳されて世界中で大ベストセラーになった、古賀史健氏です。
ベストセラーの著者が、とても読みやすい言葉、おそらく10代前半の世代を意識して書いたと思われる著作です。
(司書 山中)
タイトルの「孤独」「不安」というワードが引っかかり手に取りました。もしかするとタイトルから重い印象を持ってしまうかもしれませんが、むしろ思考を転換させ、悩みを解決するための糸口を授けてくれる本です。つまり、心を軽くしてくれる本です。
ふと「孤独」や「不安」にかられることはありませんか。一人でいることは惨めなことだと思い込んでいませんか。著者は、一人でいることは惨めなことではないと言います。そして、「孤独」にも「本物の孤独」と「ニセモノの孤独」があり、一人でいる「本物の孤独」の状態から自己との対話を深められれば、本当にやりたいことに気づき、成長へとつながる勇気や希望を手に入れることができます。しかし、一人でいることは惨めだと思い込んでいると、そこから抜け出すためにSNSにのめり込んだり、言い換えると「ニセモノの孤独」へと身を委ねてしまうことになりかねないと、注意を払うよう優しく諭してくれます。
また、著書の後半は「不安」について述べられています。
一日の大半を学校という社会の中で過ごし、毎日を忙しく過ごす中高校生に、そっと手渡したい本です。
(司書 古川)
太宰治の熱狂的なファンは多いと聞きます。三島由紀夫、芥川龍之介、川端康成、大江健三郎と1冊でも読んでいれば自分の箔が少し上がるように感じます。村上春樹の作品を読めば「今年は文学賞を取れるかな?」なんて、知的な発想が展開されるかもしれません。ですが、「文学を読む」というのは敷居が高いですよね。「一体誰の作品を読めばいい?」と、悩んでいる人にお勧めしたいのがこの本です。
この本はお笑いが俳優や歌手のモノまねをするように、文豪を含めた著名人の特徴を掴んで、まるでその人が紹介するようにカップ焼きそばの作り方を紹介しています。代表作をもじってみたり、著名人の特徴を誇張してみたり、クスリと笑いが漏れるのはもちろん、「こんなこと書いて大丈夫??」と、心配になることも。この人誰だろう?と思っても、略歴も添えてありますので新たな知識が加わります。読後気になる文豪が見つかれば文学への敷居もきっと下がることでしょう。
(司書 寺内)
将来医師を目指したい人はぜひ読んでください!
人体全体がパーツごとに解説されているのですが、それぞれがかなり深堀されています。
専門用語も多く使われていますが、作者はわかりやすい例えなどで頭にスッと入り込めるように工夫しています。
皆さんは人体については生物や理科で学ばれてるでしょう。
この本は、例えば、なんとなく漠然と理解していただけかもしれなかった染色体やDNAなどについて、総合的に教えてくれます。
テーマの中には、幽体離脱などスピリチュアルな項目もありますが、それについても科学的な説明があり、面白いですよ。
人体は約37兆個の細胞と、繋げば10万キロにもおよぶ血管が存在していると書かれているなど、興味深い記述もたくさんありました。
この本を読んで、人体というミクロの宇宙へ思いをはせてください。
(司書 鎌田)
コロナ禍で、「三密を避けよう!」のスローガンに応じたアウトドア・レジャーが一気に流行しました。(もうその流行は過ぎ去りつつあるという説もありますが…)
しかし、110番や119番通報をすると数分で救助の手が差し伸べられる都会や、安全性が担保されている遊園地と違って、自然の中に入っていくアウトドア・レジャーでは、ちょっとしたことが命取りになってしまうことも珍しくはありません。そう、文字通りの「命取り」に……。
この本は、アウトドア・レジャーで起こりうる(そして実際に死者が出た)事故を紹介し、注意喚起をしています。
紹介されている事故は「これは確かに危険だ……」と思うものから、「こんなことで……?」と思うものまで様々。
これを読んで、楽しいアウトドアを楽しいまま終わらせてください。
(司書 中島)
就活で失敗続きの大学生、「すみません」が口癖のシングルマザー、原発の下請け会社を辞めた男…辛くても、世間から邪険にされても、生きていかねばならない。そんな状況の人たちの弱った心に、科学の普遍的な知識が光をもたらす物語。短編集です。
著者は元理系の研究者。風船爆弾と高度1万メートルの場所にふき続ける風の話や、目には見えない磁場を頼りに飛び続けるハト、精緻で完璧な美しさをもつ珪藻、といった科学の知識を物語に巧みに絡ませて、人知の及ばぬものへ思いを馳せることから人々が癒されていく様子を描いています。
温かい物語を楽しみながら、ちょっとした科学の豆知識も知ることができる、一石二鳥の作品です。
(司書 山中)
「ここは日本ではありません」全寮制、日本語禁止、無断外出厳禁。18歳のミヨンが飛びこんだ大学は高い塀の中だった…実在するもうひとつの〈北朝鮮〉を舞台に描く物語です。
東京都小平市にある朝鮮大学校を卒業して米国に留学し、ビデオジャーナリストとして活動している在日コリアン2世の筆者が、朝鮮大学校や北朝鮮の内部を書いています。
日本に生まれ育ったのに、その国籍故に、こんなにも制約のある生活を強いられて、自由を得るために大変な思いをしなければならない現実。クラスの中に同じ境遇の人もいるこの学校で学ぶ君たちに、一度は考えてみてほしい、知ってほしいと思います。
日本を糾弾するとか、在日という境遇に対する恨みつらみを述べる、という内容ではありません。「そんなことがあるんだ」と驚きながらも、胸が苦しくなるようなものではありません。文章が軽快で、サクサク読み進めることができます。
フィクションという形で語られ、恋愛小説でもあり、挫折、旅立ちを描いた青春小説でもあります。
(司書 山中)
「まこと」を写し撮る
カメラマンの渡部さんと言えば、一時期、テレビのバラエティー番組によく出演されていた方です。物腰の柔らかい独特の話し方で、共演者におもしろおかしくイジられていたのを覚えています。
でも、渡部さんの本職は「戦場」カメラマン。この本では、バラエティー番組で見せていた面白キャラは姿を消し、代わりに戦場カメラマンとしての真摯な言葉が並んでいます。
なぜ撮りに行くのか。それは現地政府機関にとって都合の良い情報ではなく、その地で生きる人々の真の言葉を伝えるため。悲惨な場面をどうして撮れるのか。それは当事者から「撮ってくれ」「撮って自分たちの代わりにこれを世界に広めてくれ」と頼まれるから。
これらが、戦場に身を置いた人間ならではの迫力ある文章で書かれています。
そのうえで、第二次世界大戦後、一度も戦争に巻き込まれていない日本に住む私たちに、戦争とはなにか、平和とはなにか、を問うています。
日本の周辺地域の世情が騒がしくなっている今、戦争とは何かを考えるためにも一読をお勧めします。
(司書 中島)
さて、皆さん学校では英語や国語、数学など、毎日毎日勉強大変ですよね。
勉強はわかると楽しいし、わからないととてもつらいものになってしまいます。ですので、皆さんはつらい思いをしたくないから、一生懸命勉強に励んでいるのだと思います。
今回紹介する本は普段の勉強とは少し違った雑学の本です。
物事には理論や理屈では説明できないことがいっぱいあります。この本は、みんな誰もが一度は「そうそう、そういう経験したことがある。」というような事柄がまとめられたものです。
例えば、「止まっているエスカレーターを歩く時、変な感じがする(80頁)。」どうです? 皆さん、経験したことがありますよね。
ちなみにこのふしぎ現象は「エスカレーター効果」と名前がつけられています。
どうしてそのように感じるのかは、実際に読んでみてくださいね。
このようにふしぎに思うことばかりの現象をまとめた事典ですが、全部で56個のふしぎが載っています。
こういう本をまとめようと思った作者は本当にユニークだし、皆さんに雑学の楽しさを伝えようとしているのだと思います。
一気に読める本です。どうぞ手にとって下さい。
(司書 鎌田)
先日、高校1年生の書評合戦(ビブリオバトル)を見学する機会がありました。5分間でその本の魅力を語り、みんなにアピールし、その後1分間の質問タイム、そして聞いていた人たちの投票で、一番読みたいと思ったチャンプ本を決めます。今回のテーマは「新書」。とても面白かったので、私も新書を読もうと書架を眺めていて、目に留まったのがこの書名です。
著者は、東京の巨大新刊書店から沖縄の小さな古本屋へ移り、本屋になりたいという夢をかなえました。実は、私も本屋になりたいというのが長年の夢なのです。我が家にはどの部屋にも本棚があり、おそらく3,000冊位は所有しているでしょうか。そろそろ整理も考えているのですが、ブックオフに持ってくのは味気ない、それなら自分で古本屋をやって売ろうか、あるいは児童文庫を開こうかなどと考えています。
本好きのある友人は、離島で本屋を開いたことがあります。友人はミッフィーの作者ディック・ブルーナの大ファンで、ブルーナの自宅近くのカフェに行ったところ、偶然ブルーナご本人に出会い、自分の本屋の夢を語り、なんとオリジナルのマスコットキャラクターを描いてもらえました。しかし経営は思ったよりも大変で、採算が合わず閉店……うーん、やはり商売となると難しいものです。まあ正直なところ、私は本にかかわる仕事であれば何でもいいんですがね。
(司書 石田)
「言葉には、疲れた時にそっと肩を貸してくれたり、息が苦しくなったときに背中をさすってくれたり、狭まった視野を広げてくれたり、自分をやすませてくれたり…そんな役割や働きがあるように思う。」
このようなまえがきに興味を持ち、手に取った本です。文学や障がい者文化論が専門の著者によるエッセイです。
「自分の力ではどうにもならない事態に直面して、それでも誰かのために何かをしたくて、でもどうしたらいいかわからなくて…という思いが極まったとき、ふと生まれてくる言葉が「詩」になる。」と書かれている一説もあり、納得できました。
「私が「生きる意味」について、第三者から説明を求められる筋合いはありません。もし私が「生きる意味」についてうまく論証できなかったとしたら、私には「生きる意味」がないということになるのでしょうか。」
という問いかけもあり、何かを「言葉にして発信する」ということについて、深く考えさせられます。
力強くもあり、優しさもあふれる文章で、重い問いを投げかけてくれます。
(司書 山中)
ヒトの造りしモノ
「土木」と聞くと、思い浮かべるのはダムや橋、トンネルなど大規模な構造物ばかりで、そこに「かわいさ」を見い出すのは難しそうに思います。
しかし、この本の著者はさまざまな「土木」に「かわいさ」を見出し、「ドボかわ」と名付け、そのかわいらしさを愛でています。
給水塔や橋、駅に付けられた瀟洒な装飾にかわいさを見出したり、土木技術が未発達だったため、工事の多くを人力が担っていた時代の小さな土木遺産にかわいさを見出したり……。
収録されている「ドボかわ」は全国に渡るのですが、都内および東京周辺の土木も数多く紹介されています。
次の休みにでも見に行ってこようかな……。
(司書 中島)
本書は、志賀直哉の短編小説が多数、収められています。その中のタイトルにもなっている「清兵衛と瓢箪」の最も気になった部分にふれたいと思います。
12歳の少年清兵衛は、瓢箪の魅力に心を奪われ、その収集に熱中します。しかし一方で、父親や教師ら大人たちは、清兵衛の気持ちや行動に寄り添ったり、理解しようとはしませんでした。例えば、興味感心事に熱中する子供と、興味関心事を取り上げる親との間に確執が生まれるという感じでしょうか。では、なぜ大人と子供との間にギクシャクしたものが生まれるのでしょう。大人に子供とはこうあるべきという固定観念があるからでしょうか。それとも、親が世間の目を気にし過ぎているからでしょうか。いろいろありそうです…
この作品の子(清兵衛)、親(父)、または教師の思いをそれぞれの立場からみると、見えてくるものがあるように思います。決めつけや事象の背景への無理解が、気持ちの中に内在していることを気づかせてくれます。
(司書 古川 郁)
ゴールドラッシュ。極北の地、アラスカで巻き起こった狂乱に満ちた大騒動。この時に何が起こっていたのか。物語(フィクション)という形をとりつつも、現地の人々(イヌイット、本書ではイニュイと表記されている)とアメリカからやってきたヨーロッパ系のいわゆる白人との衝突を知ることができる物語。自然を愛し、畏怖の念を抱きつつ共存するイヌイットの人々の生き方を綴る記述や美しい自然を描く表現なども魅力的である。
「運さえよければ誰でも大金持ちになれる。身分も人種も関係ない好機が氷の大地で待ち受けている。」こう信じて、アメリカ本土で恵まれない生活をしていた人々が、黄金の夢を見て身ひとつでアラスカにやって来る。これを、極北の地で悠久の時を過ごしてきたイヌイットの生活を荒らす悪人、とバッサリと切ることはできない。アラスカの複雑な歴史を垣間見つつ、主人公の日本人少年を通してスリルと感動も味わうことのできる冒険物語だ。
(司書 山中)
「地球に国境線は描かれていない」とは言うけれど
日本は、島国のため、国境に対して、「海を越えた向こうは他国」という程度の認識しかない人が多いでしょう。しかし、陸続きで他国と接している国々は違います。国境の「こちら側」は自分の国、「あちら側」は違う国、と明確に分けており、国境線をまたいだ「こちら側」と「あちら側」で適用される法律が全く異なっていたりします。そして、その国境線は、一朝一夕で引かれたものではなく、歴史を背景とした妥協の産物であるため、時に「なんでこんな国境になっているだろう?」と疑問を持つような奇妙な国境ができてしまうことがあります。この本は、そのような奇妙な国境を紹介した本です。
たとえば、ベルギー国境近くのオランダの町、バールレ。この街には、町内にベルギーの飛び地が20近くもあり、そのベルギーの飛び地内にさらにオランダの飛び地が10ほどもあるという入り組んだ状態。国境が貫いているレストランもあり、オランダで決められた閉店時間を過ぎると、店内でベルギー側に移動し、営業を続けるそうです。
他にも、おなじ群島に属し、たった4kmしか離れていないのに、時差が21時間もある2つの島があったりします。2つの島の間には、国境と同時に日付変更線も引かれているからこそ起きる現象です。
地学的には同じ群島に属しながら、2つの島の間に引かれている国境。どことどこの国の国境なのか。ぜひ、本書を読んで確かめてみてください。
(司書 中島)
今回はドーナツ探求家、溝呂木一美さんの本です。
みんな大好きなドーナツの起源や言葉の意味、日本でドーナツがどのように広まっていったのかなど、とても分かりやすく書いてあります。
少しだけお話ししますと、ドーナツの起源は、「オーリークック」といわれる小麦粉などを混ぜた生地をボール状にして揚げたオランダのお菓子という説が有力のようです。
「揚げたもの」というのがキーで、よく遊園地などで売られているチュロスや沖縄のサーターアンダギーも、ドーナツの仲間です。
日本で有名なドーナツ店としては、ミスタードーナツがありますが、この店は1971年に1号店がオープンしています。もう50年以上も前のことです。
ところでこのミスドの親会社はみなさんも知っている超有名企業ですが、全くドーナツとは関係のない会社です。どんな会社なのか、それは実際にこの本を手に取って確認してみて下さい。
世の中の意外性にも気付くはずです。
では、みなさんも一緒にドーナツの旅を楽しみましょう!
(司書 鎌田)
自然界はまだまだ不思議なことだらけ。しかし、普段私たちは気に留めずに過ごしていませんか。タイトルにもなっている“ヤモリの指”には、壁が乾燥していても濡れていても、汚れていても粘着性が衰えることなく無限にくっつき、自由自在に動き回ることを可能にする優れた秘密があります。その機能や構造を解明すれば、テクノロジーとして応用でき、私たちの暮らしを便利なものへと変化させていけるでしょう。“ヤモリの指”のように接着剤不要で利便性の高い製品の実用化には多くの課題を残しているそうですが、当たり前と見過ごしていることの中に不思議が眠っているなんて心がときめきます。また、聖学院図書館が製作した「利用案内」の“ミウラ折り”の逸話も載っています。ぜひ、自然科学と社会をつなぐ入門として読んでみてください。
ところで、イモリとヤモリの違いをご存じでしょうか。イモリは両生類で前足の指の数は4本、ヤモリは爬虫類で5本です。
(司書 古川郁)
リトさんは、インスタグラムの投稿から人気が出た葉っぱ切り絵アーティストだ。
はじめて彼の作品をスマホで見た時、その小さな世界に感動した。その頃、彼はあちらこちらのカフェで作品展をしていた。埼玉の小さなカフェに来ると聞いて、とにかく実際に見てみたいと出かけて行ったのが2020年4月。この時、リトさんと一緒に作品を見ながら、ゆっくりとお話することができた。
その後、この本が出版され、作品を展示する場所もぐっと大きくなり、今や日本全国を飛び回ってワークショップや展示会をしているリトさん。でも彼は、自分の作品一つで勝負しているアーティストなので、このブームの火を絶やさないように必死なのだという。
インスタに新作が投稿される度に、「これってシリーズ化できるんじゃないですか」「カレンダーや日めくり作ってほしいなぁ」などとメッセージを送ると、ちゃんと返信をくれる。フォロワー47万人を超えるというのに、実にまめな人である。
社会人になってからADHDと診断され、会社を辞めてアーティストを志したことや、自分の切り絵のノウハウも惜しまず公開して出したのがこの本だ。彼が使うのは主にサンゴジュという葉、その半分かそれ以上を切り取ってしまう。その作品は小さくて繊細で、見る人の心を和ませてくれる。さらに作品タイトルをつけるまでに、いつも悩みまくるそうだ。そんなリトさんの作品集、ぜひ手にとってみてもらいたい。
(司書 石田)
世界に平穏はない、人生に嵐は避けられない…
親という荷物を背負う櫂とあざみが、高校生の時に出会い、その後、求めあいつつもすれ違い、迷いながら歩んでいく物語。
「正しい」ことだけが生きるべき道なのか…深い問いを残してくれる。
最後に表題の謎が解ける魔法が、素敵です。
本校文芸部の生徒たちが「高校生直木賞」に推薦する作品を選ぶ際、この作品を激推ししたそうです。10代男子にも響く物語のようですね。
2023年本屋大賞受賞作です。
(司書 山中)
怪獣大進撃
今回紹介する「怪獣古生物大襲撃」は、同じ出版社の「リアルサイズ古生物図鑑」の番外編、といった本です。
「リアルサイズ古生物図鑑」は、すでに絶滅してしまった古生物がどのくらいのサイズの生物なのか感じられるよう、それらの古生物を現代の風景に合わせて登場させるという斬新な手法が面白い本でした。
一方「怪獣古生物大襲撃」は、「もし、古生物が怪獣となって現代に現れたら…」という体で、現代の風景に古生物「風」の怪獣が描かれています。
本の中では、次々に来襲する怪獣に日本各地の都市が蹂躙される様子がリアルに描かれており、読んでいると映画「ゴジラ」で使われる例のマーチが頭の中に鳴り響きます。
また、怪獣の元となった古生物についての解説もあり、実在した古生物のユニークな生態を詳しく知ることもできます。
度重なる怪獣襲来…。日本はどうなってしまうのか。その結末を、本を読んで確かめてください。
なお、同じく怪獣が来襲する作品として、山本弘氏が書いた「MM9」という小説もあります。これは、怪獣襲来を自然災害ととらえ、その対処に奮闘する気象庁(!)職員の物語です。
現実には存在しえない「怪獣」を登場させるため、作者が考え出した理屈に、「さすがSF作家!」と膝を打つ作品で、おススメです。
(司書 中島)
2021年8月、アフガニスタンの政権は崩壊し、タリバンが実権を握りました。メディアは連日タリバンから逃れようとする人々の映像を流しました。
タリバンは悪魔のような組織なのでしょうか?
でも、ちょっと待って。アフガニスタンの政権が崩壊したのは、後ろ盾となっていた米軍を中心とするNATO軍が撤退したからであり、また逃れようとする多くの人々の映像を流していた日本を含む欧米諸国は、積極的に逃れてくるアフガニスタン人を受け入れたという事実もありません。
イスラム「国家」と言っても、多数の部族・宗派がひしめき合って暮らしているアフガニスタンは、それらの部族の代表が永延と議論をして物事を決めていく形の国家でした。多数派が全体のことをぱっぱと決めてしまう「民主主義」や「国家」という形は、もともとこの地域にそぐわないものだったと著者は書いています。
民主主義を掲げて突然やってきた米軍に爆撃されることはあっても、援助は政府の一部の人たちに握られて民衆には届かない。当然、多くの国民は米軍に恨みの感情しか持ちません。この辺りはベトナム戦争とも似ているかもしれませんね。
アフガニスタンで長年医療支援や用水路の建設を行ってきた故中村哲医師の言葉も多数紹介されています。例えば、こう言っています。「民主主義や自由や人権を持ってくるなら、戦闘機とミサイルでもってくるな」と。
諸外国がいくら援助をしても、多数の軍閥(部族)の上層部に流れているだけで、多くの国民は貧困状態です。兵士の多くは「食えない」から、お金をくれる軍に雇われているだけだと中村医師は書いていたそうです。「欧米が支援していると言っているのに、自分たちのところにはどうして何も来ないのか」という感情があるところに、国軍の兵士になってタリバンと戦えと言われても、民主主義を勝ち取る、などという意識は皆無なのです。
このように、タリバンやイスラム教の考え方の解説にとどまらず、なぜ欧米の民主主義が受け入れられないのかや、女性に対する考え方の違いなども解説しています。
「文化の違い」について考えてみるきっかけになる本です。
余談ですが、欧米とイスラムという対決構図でみると、まるでキリスト教とイスラム教は敵対しているように見えますが、実は想定している『神』は同じです。コーラン(最近はクルアーンと訳されることも多いですね)と聖書には同じ登場人物がたくさん出てきます。天使ガブリエルはコーランではジブリール、アブラハムはイブラーヒム、ノアはヌーフ…というように。イスラム研究者である著者の内藤先生は、同志社大学(キリスト教学校)の教授です。
久保先生にもお話しを伺ってみてくださいね、キリスト教とイスラム教のことを。
(司書 山中)
皆さん、ぐっすり眠れていますか?
スタンフォード大学の西野精治教授は、本格的に睡眠の研究をされており、この本で眠りについてのアドバイスをしてくれています。
すべて図解と文章でまとめられていて、内容も分かりやすく、スラスラと読むことができます。興味のあるところだけ読んでも大丈夫です。
(例)「午後の眠気はランチを抜いても撃退でない」
午後の授業中に眠気が襲ってウトウトする人、いますよね。この眠気は「アフタヌーン ディップ」と呼ばれていて、食後の満腹感からくるのではなく、体内時計(生体リズムの)の影響らしいです。みんな、ちょっと安心したかな?
睡眠はとても大切です。良質な睡眠を手に入れれば、明日からの生活リズムも変わるかもしれません。
何しろ人生の三分の一はみんな寝ているわけですから、睡眠は本当に大切なのです。
(スタッフ 鎌田)
「推理小説」には、大きく2つの種類に分けられるように思います。
一つは、探偵役の登場人物が容疑者の中から犯人を絞り込んでいくもの。この種の小説は、読者にも犯罪の全貌が明らかにされておらず、犯人を指し示す手掛かりが文中に提示され、読者が探偵役の登場人物より早く犯人を見つけることができるか、知恵比べができるようになっていたりします。
もう一つは、読者に対してはあらかじめ犯人が明らかにされており、探偵役の登場人物が犯人を追い詰めていくもの。読者は、探偵と犯人の攻防を手に汗握りながら見守ることになります。
そして、どちらも、いわゆる「解決編」があるのが普通です。(解決しない推理小説なんて、フラストレーションがたまるだけですから)
前者では、容疑者を一か所に集め、探偵が「犯人はこの中にいる!」といった決め台詞とともに犯人を名指しするのが、後者では、探偵が犯人に「あなたはたった一つ、ミスをしました…」といった決め台詞とともに、言い逃れができない証拠を突き付けるのが黄金パターンです。
そしてどちらのパターンでも、先に「解決編」を読むとネタバレします。(当たり前です)
ところが、この本は、文章としての「解決編」が存在しません。章の最終ページに1枚の「何気ない」写真があるだけです。そして写真「だけ」を見ても、それにどんな意味があるのかわかりません。
写真の前には、なにか事件らしき出来事が描かれている文章がありますが、犯人はもちろん被害者すらも判然とせず、「何かが起きている」という感覚だけを抱かせます。
しかし、「何かが起きている」文章を読み、そのあとに写真を見ると、どんな事件が起きていたのかが推測できるようになり、「あっ!」や、「あーーっ!」という感嘆符が口から洩れることになります。
冒頭から順番に読む人にはもちろん、ついつい「解決編」を先に読んでしまい、ネタバレ状態で推理小説を読んでいる人にも、ネタバレが起きないので、面白く読める本です。
(司書 中島)
著者の白石さんは、YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」で情報発信している国家公務員YouTuber です。うさん臭いと思わないでくださいね。農林水産省の公式YouTubeチャンネルの製作、運営を担当している方なのです。農業に対する昔のイメージを払拭し現代の農業を広く知ってもらうため、また各地の農産物や農家さんの魅力を多くの人にわかりやすく伝えるために開設されたチャンネルです。
著書では、白石さんが農林水産省に入省するまでの道のりやこれまで担当した仕事、「BUZZ MAFF」を担当することになった経緯にもふれています。全体を通して強く感じるのは、白石さんの農業全般に対する尊敬の念や、人とふれあうことが大好きな人柄が滲み出ていることです。そして、常に明るく前向きな思考で、なんでも乗り切ってしまう白石さんの元気の源をお裾分けしてもらえることでしょうか。
私は普通にテーブルに食事が並ぶことが当たり前になっていて、特に何も考えずに食することが常になっています。しかし、これからはちょっと箸をとめてじっくり味わうこともしたいと改めて思いました。やがては、生産者の地道な研究や工夫、生産地特有の事情に思いを馳せることにも通じると思うからです。
(司書 古川)
YOASOBIを知っていますか?小説を音楽にして主に配信で発表している音楽ユニットですが、最近はCMなどでも楽曲を耳にする機会があるので、音楽に興味のない人でも聴いたことがあるかもしれませんね。
このYOASOBIとのコラボレーションを前提に、4人の直木賞作家が「あなたに贈る、はじめての読書体験」というコンセプトで書き下ろした小説を集めたのが、この本です。すべてに「はじめて〇〇した(になった)ときに読む物語」という副題がついています。
アンドロイド、ユウレイ、パラレルワールド、タイムマシーン…一見新しいものや奇想天外なものを扱っているようですが、そこは直木賞作家の方々、斬新なだけで終わっているのではありません。流れている心は、古今東西変わらないもの、といえるのでしょうか。そんな物語の数々です。
それぞれの物語をもとにした楽曲も配信されています。合わせて楽しむのもよいかもしれませんね。
(司書 山中)
1984⇔2021の写真と記憶。
新宿、渋谷の繁華街をメインに撮影されていますが、代々木八幡の踏切(124頁)や東京駅ホーム(104頁)など、特段気に留めないような場所も写っていて逆に新鮮です。
カメラアングル、季節や時間など、同条件で撮影されているので、この時代を知らない世代でも不思議とノスタルジックな気持ちにさせてくれます。
37年前の東京は、全く違った風景だと思っていましたが、案外変わっていない場所も多いことが分かりました。
例えば西武渋谷店(72頁)は信号の位置以外は全く変わっていません。
人の記憶とは本当に曖昧なものです。
写真に残すことは、人の記憶の補完として大事な作業ですね。
今はすぐに写真を撮ることができる時代です。何気なくスマホで撮った風景が、貴重な一枚になるかもしれません。
(司書 鎌田)
先達に訊け!
世の中、人生への様々な格言があふれ、生き方についての助言が書かれた本が山ほど出版されていたりします。
でも、それらは、昔の偉い人や、成功経験がある人の、いわば「勝ち組」からの「お言葉」で、「そうは言ってもね…」と若干の反感を覚える人もいるでしょう。
その点、この本は、動物からの回答という体で書かれている分、「まあ、こんな考え方もありかもね」と多少は素直に感じられます。
さらに、回答に至った理由として、回答した動物の生態についても書かれていて、悩み相談とともに動物の生態にも詳しくなれる、一石二鳥の効果もあります。
ところで、図書館では「人生について書かれた本」と、「動物について書かれた本」では、並べる場所が全く違います。
この本はどちらに並べれば良かったでしょうね…。(この図書館では「動物について書かれた本」の場所に並べてみたのですが。)
(司書 中島)
皆さんの中には将来、動物に関係した仕事に就きたいとか、水族館で働きたい、または獣医師になりたいなど希望している人はいますか。では、その理由は何ですか。何に興味があるからですか…
一口に生き物に関する仕事と言っても、実にさまざまな職業があり、生き物にアプローチできるチャンスは多々あります。著者の田島さんは、主に海に打ち上げられたクジラを解剖し調査研究をする、国立科学博物館の研究者で獣医師でもあります。海辺に打ち上げられたクジラの一報が入ると、全国どこへでも駆けつけ、腐敗の進行と戦いながら解剖し回収するのだそうです。実際に体験されたエピソードや苦労話、その舞台裏が紹介されています。
また、クジラだけでなく海の生き物たちの生態の不思議にも触れ、その内容は海の生き物を取り巻く環境問題などにも及び、興味関心の幅が膨らむ一冊です。
分野にかかわらず、何歳になっても探究心が尽きないこと、また没頭するほど好きなことがあるのは素敵だな、とつくづく思います。皆さんもぜひ「自分の好きなこと」に没頭する時間を確保してほしい、とこの本を読んで思いました。
(司書 古川)
おまじないのようなタイトル。初めて聞く言葉でした。(この言葉の意味は読んでみてのお楽しみ)
主人公は中2の沙弥、2学期から転校してきた帰国子女。新しい学校に馴染もうとがんばっています。私にとって中学時代は遠い日のことですが、好きな人、好きなものに出会ったキラキラした気持ちが蘇えるのが、読書のいいところ。
ひとつの場所にいると、それが世界のすべてに思えてしまうことがあります。でも、ちょっと視点を変えるとちがう景色が見えてくる。沙弥は短歌を通して世界を広げていきます。
「言葉にならない気持ち」を歌にすることができたら素敵ですね。私も短歌を詠んでみたくなりました。
(司書 岩楯)
短編が3作品おさめられています。
どれも、「駅で突然声をかけられる」「不倫相手の子を預かる」「ホームレスを家に連れてくる」という、いびつな形で出会った人達の物語。
そのいびつな関係を温かいものにしようとする人たちの営みを、春の風のような優しく柔らかい文章で描いています。
コロナで人とのかかわり方に変化が生まれた人も多いことと思います。面倒でやっかいな面も多い、人と人との繋がり。でも、避けられないのも事実。この本を読むと、「面倒も多いかもしれないけど、人と関わることはやっぱり悪くないな」という気持ちになります。
瀬尾まいこさん、お優しい人柄が伝わってくるような文章が魅力的ですね。
(司書:山中)
夏の夜、電気を消した部屋で、枕元に忍び寄る、あの甲高い羽音…。
「蚊が大好き!」という人は、ほとんど皆無でしょう。
しかし、この本を書いた3人の科学者…、いえ蚊学者たちは違います。
彼女たちは、それはそれは愛情たっぷりに蚊について書いています。
例えば、本の前半には蚊についてのQ and Aが載っているのですが、「なぜ刺すの? なぜ血を吸うの?」という質問に対して、「子どものためだから。(中略)簡単につぶせないよね。」と答えています。でも、多くの人たちにとって、共感できるものではないでしょう。
また、本の後半は、国内で遭遇する可能性がある蚊34種類が図版付きで紹介されているのですが、その紹介文が、「家畜を愛するカントリー派」「上品なセレブ蚊」「待ち伏せタイプの都会っ子」のようなアオリ文がついていて、「これはファッション誌か?」とツッコミを入れたくなります。
共感はなかなかできませんが、読めば蚊の生態に詳しくなれることは間違いなし。
真夏の夜の安眠のためにも一読してみてはいかがでしょう?
(司書 中島)
この本は、単に東京の有名スポットを紹介するものではありません。この写真集を発行するためにおそらく作者は東京中を歩き回ったに違いありません。
108~111ページにある「トレインビュースポット」では、同時にたくさんの電車を見ることができるスポットの紹介があります。
ここでは北とぴあと聖橋が紹介されていますが、「撮り鉄」の皆さんの間ではよく知られたスポットかもしれませんね。
68ページにある「渋谷スクランブル交差点」は、言わずと知れた観光名所になっていますね。これは2003年に公開されたハリウッド映画の象徴的なシーンで使われてから外国人がこぞって訪れるようになり、有名になったそうです。
2020年のオリンピックに向けて、大きく東京の観光は変化しました。しかし、延期となったうえに無観客という条件での開催となり、東京という街を多くの人に知ってもらう機会を失いました。そこで、「これからは私たちが歩いて見て楽しみ、東京という街を盛り上げていくべきではないか」と著者は言っています。
ぜひ、皆さんもこの写真集を参考にして、人に伝えられる「自分だけの東京」を発見してみて下さい。皆さんの住んでいる街にも、そういうものがあるかもしれません。
(司書 鎌田)
ハイタイ!今年は沖縄の本土復帰50年の節目です。本校では沖縄平和学習の棚がありますね。沖縄びいきの私としてはうれしい限りです。(ちなみに紹介した本によると「ハイサイ」は男性、「ハイタイ」は女性が使うそうです)
朝ドラでは4月から沖縄を舞台にした『チムドンドン』が始まりました。セリフに方言が使われています。私は何度も沖縄を訪れたことがあるので、方言に親しみが湧きますが、馴染みのない家族によると何を言っているかわからない時があるそうです。方言だけでなく、イントネーションも独特かもしれません。ゆったりとした島のリズムです。
沖縄に行ったら、生の言葉に耳を傾けてみて下さい。きっとチムドンドンするはずさぁ。
(司書 岩楯)
世界十大小説とも称されるアメリカ文学の名作、ハーマン・メルヴィルの著書『白鯨』。鯨を追う捕鯨船の話なのですが、その船にジョン万次郎が乗っていた、という設定の小説です。これだけで、わくわくしますよね?
ジョン万こと中浜万次郎が14歳で漁船に乗って出港したのが1841年1月27日。『白鯨』の著者ハーマン・メルヴィルは、その24日前の1841年1月3日に捕鯨船に乗ってアメリカから旅立っています。もちろん、その時の体験がメルヴィルの『白鯨』の源です。白鯨の船が出港した時期もほぼ同じ設定になっています。
そこで、日本の『白鯨』の著者、夢枕獏は「万次郎を助けたのが実はアメリカの『白鯨』のエイハブ船長が乗ったピークオッド号だったら…」と思いついたそうです。
この物語を通じて、捕鯨が古くから伝わる日本の文化であり、それに携わる人たちがいかに捕鯨という行為を神聖に考えていたのか、また、鯨に対して畏怖の念をもって接していたのか、ということもよく理解できます。また、それはアメリカの捕鯨船も同じで、それならなぜ今捕鯨が欧米の人たちのやり玉にあがるのか、少し不思議な感じもします。
アメリカの『白鯨』は主人公エイハブ船長(アハブ)をはじめ、エライジャ(エリヤ)、ガブリエル、と聖書に出てくる名前の登場人物がたくさん出てきます。聖書のエピソードも度々登場人物により語られます。乗組員の一人が度々歌う歌は「主われを愛す 主は強ければ われ弱くとも おそれはあらじ…」聖学院の皆さんは知っていますよね?ヨナの亡霊…というエピソードもあります。
それでいて乗組員はアメリカ人・ネイティブアメリカ人のほかに、フランス人、オランダ人、中国人、マルタ島、シシリー島、東インド…そして日本の『白鯨』には万次郎も加わり、人種のるつぼと言われるアメリカの多様性をそのまま船に閉じ込めた様相になっています。聖書にからめた記述の多い小説ですが、これらの人々は実に様々な宗教を信じており、異文化の思想に触れることのできるエピソードも満載です。
全編を通じて流れているメッセージは、人知の及ばないものに対する畏怖の念が、あるときは人の強さを、ある時は人の優しさを生み出すということです。白い鯨というのも、その象徴のようです。
メルヴィルの『白鯨』、とても長くて読むのが大変です。正直、退屈です。ありとあらゆる場面で描写が細かいので、進まないのです。私も挫折しました。
でも、夢枕獏の『白鯨』はハラハラドキドキの連続、飽きさせません。それでいて、ジョン万次郎のこと、名著白鯨のことを知ることができる、一石二鳥の作品です。
アメリカ人にとっては大切なソウル文学のようで、白鯨の名前である「モービィ・ディック」という名前のカフェやレストランを私はアメリカで複数みかけました。スターバックスは重要な登場人物「スターバック」の名前が由来です。(創業者が3人だったので「ス」がついています。)
とにかく、読んで欲しい1冊です。
(司書 山中)
一般的に「ぼんやり」というと、ボーッとしてふわふわと定まらず、プラスのイメージを持ちにくい印象がありませんか。しかし、著者はこの「ぼんやり」とした時間こそ個を充実させる貴重な時間だと言います。串田孫一はじめ著名人の言葉を紹介し、「ぼんやり」した時間を専ら称賛しています! 「ぼんやり」と過ごす時間にエネルギーを蓄え、思考を巡らすからこそ、いざという場面で力を発揮できるのです。
『西の魔女が死んだ』『モモ』なども紹介され、時間や周囲に縛られない過ごし方を改めて考えるきっかけにもなります。
新学期の今、新しいクラスや友達との出逢いもあり、また学年が上がると課題も増えて!?ちょっぴり疲れが出始めるころです。こんな時期こそ、「ぼんやり」する時間が必要かもしれません。ゴールデンウィークにあちこち出掛けるのもいいけれど、「ぼんやり」過ごして心も身体もリフレッシュしてくださいね。
(司書 古川 郁)
現在、空前のAIブームが起きていて、見渡せばそこら中に「AIによる〇〇」なんて言葉が見られます。
でも、それら『AI』が本当に信頼に足るものなのか、疑問に思うことがあります。
『AI』とは、『Artificial Intelligence』(人工知能)の略。つまり、人間がおこなっている知的活動を機械でおこなわせてみた、という程度の意味です。
しかし、今のところ、我ら人間がどうやって知的活動を行っているのか、それどころか、そもそも知的活動とは何か、ということすら判明しておらず、AIを実現するために様々な試行錯誤がおこなわれています。
その中で、現在もっとも広く使われ、かつ成果を上げているのが、大量のデータを読み込み、良い結果が得られるパターンを学習させるという手法です。
これにより、AIはチェスの世界チャンピオンを打ち負かし、クイズ王を知識で凌駕することができました。
でも、この手法では、AIに偏りや誤りのあるデータを与えてしまう、あるいはAIが「良い結果」に至る「抜け道」を考えるなどの理由で、人間には思いもしなかった結果に至ってしまうことがあります。
たとえば、この本には、画像から男女を見分けるAIが「台所にいれば女性」と学習していた例が挙げられています。そう、『がらくた』(偏りや誤りがあるデータ)を入れれば『がらくた』(誤った結論)が出てくるのです。
ぜひ、この本を読んで、「AIによる〇〇」という言葉を見たときには、どのようなデータを基にして、どのような学習をして、どのような結論を出すAIなのか想像して、「そのAIは本当に信頼できるのか」を考えられるようになりましょう。
(司書 中島)
朝日新聞の記者が、東日本大震災当時の取材の様子をあえて主観的な感情を色濃く反映させて書いた「手記」である。「ルポタージュではなく手記だ」と筆者自身が強調している。記者として現場の状況を伝える、ということよりも、そこに居て感じたことをそのまま伝えたいという気概を感じる。
想像がつくことだが、混乱の中に記者が取材に入ると、当然住民からは「そんな暇があったら手伝え」「人の不幸がそんなに楽しいのか、どこかへ消えろ」という目で見られ、実際に筆者はそういう言葉を浴びせられている。
そういう現実の中で、筆者は次のように書いている。
東京からバスで訪れた小学生に聞かれた。
「どうしてこんなに多くの人が死んだのですか」
「原因の一つはたぶん、メディアにあるのだと思う」
人を殺すのは「災害」ではない。いつだって「忘却」なのだ、と。
こんなエピソードも紹介している。
―2003年朝日新聞宮城版の記事に、明治29年の津波で壊滅した集落のあった場所にある石碑に「後世の人々が津波に対する警戒心を怠らないようにと願う」という趣旨のことが書いてあるのだが、苔むしていて読めなくなっていた。
―震災直前の2011年3月3日には、津波が来た時に車で避難しようとすることは危ないと、2004年のスマトラ沖大地震や1993年の北海道南西沖地震の例を引き合いに出して警告している記事がある。
手記を通して「人を殺すのは災害ではなく忘却なのだ」という言葉が、心に迫ってくる。
(司書 山中)
せっかくキリスト教のミッションスクールに在籍しているのだから、生徒のみなさん、聖書の教えを日々の中でどう生かしていくのか、考えてみませんか?
この本はTwitterで11万人のフォロワーを持つカトリック教会の神父様の日々の呟きを、1冊の本にまとめたものです。日付が記されていて、1日1ページ、短い言葉を読むことができますが、日付にこだわる必要はありません。副題「気づきと癒しのことば366」とあるように、ちょっとした日々の生活の中で見失いがちな、でも大切な言葉が366個書かれています。なぜ366かって?2月29日もあります。2月29日が大切な日(大切な人のお誕生日など)である人もいるでしょう。また、うるう年にも読むことができるように、という著者の心遣いのような気もします。
聖書を引用した解説書ではありません。日々、神父様の言葉で語りかけてくれています。でも、内容はまるで聖書の翻訳のようです。(神父様の言葉ですから、当然と言えば当然なのかもしれないですが。)
きっと君の背中をそっと押してくれる、そんな言葉があると思います。全部読み通す必要もないので、一度気軽に手に取ってみてください。
(司書 山中)
~あの映画に会いに行こう~
「ロマンティックな旅」「ノスタルジックな旅」
「エキゾチックな旅」「スリリングな旅」
と、4つのカテゴリーで紹介されています。
メッセージのように紹介されていて、ワクワクと読み手に伝えてきます。
例えば
「もっと大切なものは、友情と、そして勇気よ。」
これは何の作品だかわかりますか?
正解は…『ハリーポッターと賢者の石』です。(76項)
とにかく手に取ってみて下さい。
すでに映画を観ている人は、あの時の感動的なシーンが甦り、まだ観ていない人はきっとその映画を観たくなるような、心躍る一冊です。
(司書 鎌田)
前作『医学のたまご』では、思いがけず東城大の医学部に通うことになったスーパー中学生曾根崎薫が、論文をめぐる大変な騒動に巻き込まれてしまいます。その続編『医学のひよこ』は、薫とその仲間たちが世紀の大発見、新種の巨大生物のたまごと遭遇し、秘密裏に育てていきます。
しかし、ここで前作からの因縁の相手が再び現れ、さらには権力組織との全面対決へと発展していきます。果たして新種の生物<いのちちゃん>や薫の仲間たちは、絶体絶命の事態を切り抜けられるのでしょうか。
本作では薫の出生の秘密も明かされ、次作完結編『医学のつばさ』へとつながっていきます。そこでは薫のお父さんの正体も解き明かされるのでしょうか。
代表作『チームバチスタの栄光』とは一味違う小説で、ズッコケ中学生が繰り広げるストーリー展開は親しみやすいと思いますので、中1生からどうぞ。また、医科学の分野に興味のある人も、そうでない人にも楽しんでいただける作品です。
(司書 古川)
3人は去り、謎が残った。
南極点到達競争で、あと一歩のところでノルウェーのアムンセンに競り負けたイギリスのスコット隊の悲劇は、比較的よく知られていますが、気球を使って北極点一番乗りを目指しながら失敗したスウェーデンのアンドレー隊については、日本ではほとんど知られていません。
アンドレーとその仲間たち3人は、北極点を目指し、1897年7月11日に離陸。しかしそのまま消息を絶ってしまいました。
その33年後、1930年に野営地と3人の遺体が発見され、探検は失敗に終わっていたことが判明。
残された手記によると、出発後わずか3日で不時着。徒歩での帰還を試み、3か月間流氷上を放浪した挙句、無人島に上陸したところで何らかの原因により死亡したことがわかりました。しかし、死亡した理由がわかっておらず、さまざまな説が唱えられています。
この著者は、ふとしたきっかけでアンドレー隊について知り、3か月間もの間、流氷上を放浪できたのに、なぜ陸上で彼らが遭難したのかを調べ始めます。
手記や、遺留品、今まで唱えられている様々な説を徹底的に吟味し、ついには彼らの臨終の地、北極海に浮かぶ無人島にまで足を延ばします。
その地で、著者がたどり着いた一つの結論とは…。
(司書 中島)
三重県の進学校に、1匹の捨て犬が迷い込んだ。学校で飼われることになったこの犬が見つめた、ある高校の12年間の物語。
物語のはじまりは昭和63年。そこから、卒業生が巣立ち新しい新入生が入って来て…を繰り返すたびにその生徒たちの物語が始まり、連作となっています。
勉強なんてできても仕方がない、東京の大学なんてもってのほか、と家に縛り付けようとする家族との葛藤。
阪神大震災で被災した祖母を引き取るものの、遠慮と孤独で決して幸せそうではない祖母と家族の間で悩む少女。
真逆のタイプだと思っていた同級生と同じ趣味を通じて心を通わせる少年。
援助交際に走る少女の抱える葛藤。
当時の社会を絡めながらの物語ですが、現代を生きる同世代の人たちの15歳から18歳の物語でもある、鮮やかな心の描写が、きっと今の君たちにも響くことだと思います。
途中、
「少年は大人になるにつれ、たくましさが増していく。過ごした日々が充実していれば、そのたくましさには自信が備わり、年をかさねるごとに魅力が増していく。」
という言葉があります。これ、そのまま君たちに投げかけます。
(司書 山中)
現代社会は、インターネットの発達によって様々な情報が簡単に得られるようになりました。
皆さん、初めて博物館や美術館を訪れた時の感動を覚えていますか?
東京には古美術、現代アート、マンガやファッションなど「こんなミュージアムあったの!?」と思うような施設がたくさんあります。
この本は、テーマ別に100のミュージアムを紹介しています。
インターネット情報でも知的好奇心は満足させることができますが、是非、実物・本物を自分の目でみて感じて、大きな感動を味わってください。
中学生・高校生は、ほとんどのミュージアムで割引があります。今の特権を存分に生かして素晴らしい世界に浸ってください。この本は皆さんの知的好奇心の扉を開くための一冊です。
(司書 鎌田)
ふとしたきっかけで「アンパンマンの世界観て何だろう」と気になり、やなせたかしさんの本を館内で探してみるとありました、この本が。アンパンマンと戦争、、やなせさんの作品作りに何か関係がありそうです。
これまで自身の戦争体験を語ることは少なかったそうですが、この本では戦時下の日常の様子や、入隊後のやなせさんの任務とその変遷をユーモア交えながら若い人たちにやさしく語りかけています。また、この中で戦死した弟、千尋さんと最後に会って話した時のことは印象深く、やなせさんが千尋さんに捧げるために書いた『おとうとものがたり』の存在を知るきっかけになりました。
「おしまいに」の部分で、「ぼくが『アンパンマン』の中で描こうとしたのは、分け与えることで飢えはなくせるということと、嫌な相手とでも一緒に暮らすことはできるということです。」という一文があります。アンパンマンもばいきんまんも対戦しながらも共存していますね。このほか、アンパンマンは、小さなこどもが読むアニメという位置づけだけでなく、世界中で起きている紛争の原因の一つ、食糧問題などにも目を向けるきっかけになるかもしれません。(ちょっとこじつけですが)
(司書 古川)
山は突然、牙をむく
高尾山…。都内西部に位置する標高599mの低山で、登山道はもちろん、ケーブルカーやリフトまでも整備され、ミシュラン観光ガイドに掲載されていることもあり、多くの観光客が訪れます。
本校のほとんどの生徒も、登ったことがあるのではないでしょうか?
しかし、その高尾山でも、多くの遭難事故が発生し、その遭難者が死亡してしまうことすらあるのです。
中学2年生で参加する蝶ヶ岳登山は、かなり本格的な登山となります。
この本を読み、油断することなく、安全で楽しい蝶ヶ岳登山を楽しんでください。
登山は、「登るだけでなく、下りるまでが登山」なのですから。
(司書 中島)
YouTuberになりたい君へ!
一口に『映像を作る仕事』と言っても、映画なのかテレビなのかYouTubeなのか…
それらは何が上で何が下、という価値観が存在する世界なのか?
映画作りを通して出会った二人が、それぞれ違う道を進み、違う形で映像制作にかかわっていきながら、迷いながら、前へ進んでいく物語。
青春お仕事小説ですが、それだけではありません。受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応ー映像作品の質や価値は何をもって測られるのか?など、様々な問いを投げかける作品です。
特に、YouTuber や映画製作、また映像だけでなく舞台製作や俳優など、芸術に携わることに興味がある人にはぜひおすすめしたい本です。
(司書:山中)
鉄子現る
この本の著者、市川紗椰さんは、ファッションモデルとして活躍する傍ら、多彩な趣味をたしなんでいる方です。そして、その趣味の中で、とりわけ目立つのが『鉄道』。
そう、市川紗椰さんは、『鉄子』だったのです。
女性の鉄道ファンである『鉄子』は、男性の鉄道ファンに比べて人数が少ないためか、一般的には「ライトに」鉄道を愉しむ方が多いようです。
しかし、市川紗椰さんは、「ガチ勢」です。
この本には、日本一短い鉄道とされる芝山鉄道の「東成田駅」から、不動産会社が経営する鉄道「山万ユーカリが丘線」、さらには「懸垂式モノレール」や、京急の「ドレミファインバーター」、銀釜こと「EF81型電気機関車」まで、鉄道に興味がない人からすれば取り残されること間違いなしのテーマで満載です。
ファッションモデルといえば、「鉄オタ」と対極の存在としてとらえられるだけに、そのギャップの面白さを、ぜひ、楽しんでください。
(司書 中島)
6つの短編が収められている、ちょっとだけ“大人の世界”を覗いたような感覚になる一冊かもしれない。
これらの短編に共通するのは、「運命」と「宿命」というものに縛られ、背負い生きている人が登場すること。例えば、幼少の頃、殺人未遂事件の現場に遭遇し壮絶な体験をする。
のちに犯人は偶然事故死してしまうのだが、自分が犯人を呪い殺してしまったからだ、と自責の念に苛まれ、誰にも言えないまま大人になった女性など・・。
そんな人たちも、いずれは長い年月を経た後に出会う人から得る「癒し」によって、背負い続けたものから解放されていく。この出会いも実は「運命」なのか・・。解放されていく姿に、正直ホッとする。読後モヤモヤしたものはなく、むしろ勇気づけられる感じだ。
様々な境遇から抱えるものの種類も大きさもそれぞれ違うけれど、「明けない夜はない」という名言が頭に浮かんだ。
(司書:古川)
世界で唯一の、あなに入るねこだらけの写真集。
ねこは狭くて暗いところが大好き。
こんな所に入っていくの?という行動を、みなさんも一度は見たことがあると思います。
しかし、この行動は科学的にはまだ明らかにされていないそうです。
あなに入ったり出たりするねこたち。
その特性をうまくとらえた写真と吹き出しが想像力をかきたてます。
「あざとかわいい」だけじゃない、待ち伏せ型の捕食者であるねこの野生本能を垣間見ることができる一冊です。
(スタッフ 鎌田)
病気で余命1年と宣告された主人公は、仕事を辞めて故郷に戻り、そこで1人の高校生と出会います。彼の名前は沖晴。
沖晴は大津波に遭いながら、奇跡的に生き延びることができた少年です。ただし、家族はすべて失って。
1人で生きる沖晴は、主人公との交流を通して、まわりの人との繋がりを取り戻していきます。「喜び」以外のすべての感情を失った状態から、ひとつひとつ感情を取り戻していきます。
怒りや嫌悪、悲しみといったネガティブな感情は、時には鬱陶しく持て余してしまうものでもあります。でも、それらはすべて生きている証、そういう感情も含めて生きていることが愛おしいと思える作品です。
(司書 山中)
犬の名は。
今でも、たまにテレビ放送される映画『南極物語』。
1957年、第1次越冬隊は、南極探検ため、樺太犬を連れて行きました。
それらの樺太犬は、第2次越冬が急遽中止されたため、南極に置き去りにされてしまいます。
ところが、1年後、第3次越冬隊が南極に到着した時、生存が絶望視されていたのにもかかわらず、タロとジロの2頭が生き残っていました。
『南極物語』は、この史実を基にした映画です。
この映画のおかげで、タロとジロの2頭の兄弟犬が、お互いに助け合って、過酷な南極で生き残ったことは広く知られるようになりました。
しかし、当初、行方不明とされながら、数年後、昭和基地付近で遺骸が発見された1頭については、ほとんど知られていません。
作者は、鎖から脱出しながら基地付近にとどまった、この1頭こそが、年若く経験不足なタロとジロのリーダーとなり、兄弟犬を生還へと導いたと考え、その犬の名を知ろうと奮闘します。
樺太犬が南極探査でどんな活躍をしていたのかを、一頭ごとに振り返り、少しずつ手掛かりを集めていきます。
タロとジロとともに鎖から脱出するも、あと一歩のところで命を落とした犬の名は…。
(司書 中島)
なぜ「友だち」との関係でこうも悩まなくてはならないのか?著者の菅野仁さんは2016年に亡くなってしまいましたが、友だち関係に悩む娘さんにあてて書いた温かい眼差しのこの本が、初版から10年以上の時を経て注目を集めました。キーワードは「同調圧力」。人との距離の取り方に悩むすべての人へ紹介したい本です。
すでに38万部以上の売り上げだそうです。CDなどはミリオン(100万)セラーという言葉がありますが、本、特に小説以外で30万部以上は、なかなか到達できない数字です。
過剰な「つながり」がもたらす息苦しさが生む「同調圧力」に目を向け、「人と人とのつながり」の常識を丁寧に問い直した著作。社会学者の著者が若年層向けにまとめたものです。著者の娘さんも「学校」という社会に苦しんでいて、その娘さんに向けたメッセージでもありました。ただ、著者の菅野さんは病気でもう亡くなっており、娘さんも20代前半という若さで亡くなっています。今、再び脚光を浴びているこの状況を、天国から見つめてどう考えておられるのか…
(司書 山中)
文藝春秋社『オール讀物』1月号掲載
「コロナ禍でのストレス?大学生が会社員を暴行」という新聞の見出しで始まります。そして、主人公の大学・生耀太(ようた)と、高校生の娘の母親である未希子(みきこ)の恋心を秘めたやり取りを軸に物語は進んでいきます。
コロナ禍での2020年春の緊急事態宣言をうけた自粛生活、その期間、一人で過ごしたのか家族と過ごしたのか、友達や恋人と連絡を頻繁にとっていたのか、その中で絆が深まったと感じたのかぎくしゃくしたと感じたのか、地方にいたのか東京にいたのか…立場や状況によって見えた景色は様々なはず。上京したばかりの一人暮らしの大学生にふりかかる事件を通して、現代の「人の繋がり」について考えさせられる作品です。繋がる道具はSNS、扱う事件がロマンス詐欺(恋心に付け込んだ詐欺)、というところも、まるで「人と繋がる」ことは避けては通れないような、現代の社会を描いている作品です。
耀太と未希子のロマンスの行方は…あっと驚く結末。でも、読んだ後は続きが読みたくなる温かさを残すところが、辻村さんらしい作品だと思います。短編です。すぐに読めます。
文芸雑誌、敷居が高く感じられるかもしれませんが、一回で完結する短編も数多く掲載されているので、まとまった時間がない人にもおすすめです。図書館ではこういう雑誌を4種類購入しています。
(司書山中)
23区にはさまざまな謎がある
皆さんは、自分が住んでいる区や市の形を知っていますか?
小学校の社会科で、『郷土を知る』授業がありますから、おおよその形は知っていることでしょう。
でも、自分たちが住んでいる区や市が、いつ、その形になったのか、そして、その形が変わることもある、ということも知っていましたか?
先日ようやく決着した、江東区と大田区による新埋め立て地の帰属問題。いまだに帰属先が決まっていない境界未定地。住民の合意が得られないため、新座市に帰属できないままポツンと市内に存在する練馬区…。
この本には、このような、思わず「へぇ~」と言ってしまう、23区の逸話がたくさん載っています。本校生徒の多くが住んでいる東京を、もっと知るためにおすすめの本です。
最後にこの本からのちょっとしたミニ知識を。
「豊島」が付く地名は、北区にはありますが、豊島区にはありません。その理由は…。ぜひ、本書を読んで確かめてください。
(司書 中島)
『小僧の神様 他十篇』より「流行感冒」
およそ100年前、世界中を震撼させた感染症、スペイン風邪が流行しました。日本もその余波を避けられず、1918年(大正7年)スペイン風邪が大流行します。そしてその翌年、小説『流行感冒』が発表されました。
主人公の「私」は第一子を亡くした経験から、一人娘左枝子を外聞も気にせず異常なまでに神経を使い育てていましたが、とうとう親子が住む町にも流行性感冒が忍び寄ります。女中にも細心の注意を払うようきつく言い渡しておいたのですが、石という女中は私に嘘をつき、人が集まる芝居を観に行っていたのです。私は憤りから石に暇を出すと決めていたのですが、妻の言い分をくみ取り思いとどまることに。その後、石以外私の家の者は全員感冒に罹ってしまいます。常に不安と石への不信を抱えながら生きる私も石の献身的な働きに触れ、心に変化が生じ始めるのです。
今感染症が蔓延する中、私たちが抱える問題を描き出し、自らを見つめ直すきっかけになる小説です。
(司書 古川)
新型コロナウィルス感染症対策により不要不急の外出自粛となり、自宅で過ごす時間が増えていますね。きっと家で食事をする機会が多いと思います。
少しでも「おうちごはん」を楽しくするために、料理に挑戦してみませんか?今まで料理をしたことがない、ハードル高そうだし、めんどくさいかも…そんな人に向けてとにかく簡単で美味しい、作りやすいレシピが満載です。自炊に関する基本的な疑問にも、わかりやすく答えてくれます。
個人的には火も使わない「納豆揚げ玉やっこ」がイチオシ。(P67)
自分で作ると残さず食べるので、体作りもばっちりですよ!
無理せず、まずは1品から作ってみる、と、できることからやってみてください。
「おうちごはん」を楽しみましょう。
(司書 鎌田)
芥川賞受賞作です。
「逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。」
『推し』ているものがある人にはとても良くわかる言葉ではないでしょうか?
この言葉を新聞の書評でみかけ、心惹かれて読んだ本です。
『オタク』というネガティブな響きをもつ言葉で片付けられがちな「推す」という行為。対象が異性の人、ばかりではなく、同性だったり時には物だったり、様々なものを推している人がいると思いますが、推すということは、対象を理解しようとする、わかろうとする行為だということがこの物語から感じられます。「何かを応援する」ということが、生きる寄る辺となる、それは、オタクと呼ばれる人だけではなく、誰にでもある人間の性なのかもしれないですね。
主人公はアイドルを推す女子高校生。推しがすべて、という女子高生の生き方を、ドギツい表現も交えつつ、壮絶なタッチで描いた作品です。アイドル推しという言葉から連想する、キラキラちゃらちゃらした雰囲気を、これでもかというくらい排除した文体が新鮮です。推すという行為をこう表現するか、と衝撃を受けました。
21歳で本作が2作目という、若い作家さんの芥川賞受賞にびっくり仰天。図書館に入っています。今、書店では品薄です。いち早く読んでみてください!
(司書:山中)
一級建築士の青瀬の代表作品は、雑誌にも掲載された斬新な家。施主に喜ばれて建てたはずの家には、誰も住んでおらず、引っ越しをした形跡もなかった。その謎を追う話を軸に進むミステリー。
登場人物の幼少期や家族の物語、家をめぐる人々の思いなど、誰もが思い当たるような心の情景を絡めて、謎は解き明かされていきます。ミステリーとしてもハラハラドキドキでとても秀逸、そこに人々の心の描写も入り込み、悲しい事件も起こります。でも、読後は希望という名の何かを心に残す、そういう物語です。
『半落ち』『64』など、時代を映すミステリーの旗手の作品、読み終えたときは思わず「さすが!」と叫んでしまいました。
(司書:山中)
「スカンクワークス」を知っていますか?
ミサイルが届かない超高空から偵察を行うU-2。ミサイルよりも早いマッハ3で飛行するSR-71偵察機。安価でありながら超音速で飛行でき、自衛隊にも採用されたF-104戦闘機、世界初の実用ステルス機であるF-117攻撃機。現時点で世界最強とされるステルス戦闘機F-22「ラプター」。自衛隊での採用が始まったステルス戦闘機F-35「ライトニングII」。
これらの革新的飛行機は、ロッキード社の「スカンクワークス」と呼ばれる開発部門で生み出されました。
この本は、そのスカンクワークスの創立者である「ケリー・ジョンソン」が、自らの人生を振り返って書いた自伝です。
何がきっかけで飛行機の設計者になったのか、スカンクワークス設立の経緯、革新的なアイディアを生み出す手法など、航空機に興味がなくても、「人との協同」を考えるうえでヒントになることがたくさん書かれています。
そして、飛行機マニアには、特にこの本はお勧めです。数々の革新的飛行機はどのような背景で開発されていったのかが書かれていますから。
残念ながら、「ケリー・ジョンソン」自身は、1990年に80歳で亡くなっていますが、スカンクワークスは、その後も革新的な飛行機を生み出し続けています。これは、「ケリー・ジョンソン」の意志が後続に引き継がれたおかげなのでしょう。
(司書:中島)
著者は、京大の総長であり、霊長類学・人類学者です。特に、アフリカの現地で自らゴリラの社会に溶け込み参与観察をし、その生態を研究したこの分野での第一人者です。
ところで、皆さんは、サルとゴリラの行動は似ていると思いますか。山極先生によれば、両者は全く違うらしいのです。ボスザルという言葉を耳にするように、サルの社会ではボスが存在し、サルは仲間と食べ物を分け合い、仲良く向かい合って食べるということはしません。競争社会なのです。一方、ゴリラの社会は、群れの仲間の顔を見つめ合い、しぐさや表情で感情の動きを読み取りながら暮らすのだそうです。そんなゴリラの社会から見た現代人への警告とは何でしょう・・
どうやら現代の人間は、勝ち負けばかりを気にし、自分にとって都合のいい仲間ばかりを求め、閉鎖的な個人主義を作ろうとしている。つまり、互いの顔を見て、感情を読み取る感覚が薄れてしまい、信頼関係を築くことを忘れているのではないかとの警告のようです。
さて、日頃の自分の行動や感覚はどうでしょうか。振り返るきっかけになる一冊です。
(司書:古川 郁)
究極に不器用な二人の恋愛模様を描いた物語。
キラキラした人生を歩むことは、何年経っても決してあり得ないのだろうと思わせる主人公の男女二人。平凡すぎるほど平凡で、ここまで平凡で不器用な人っている?と思ってしまうほどのレベルであることがクセになって、どんどん読み進めてしまいました。
大都会でひっそりと、脚光を浴びることもなく、大きな幸福もなく生きている人…でも実はこういう人がほとんどなのが現実社会。市井の人が懸命に下手な生き方をしている姿を丁寧に書いているところが、不思議と共感を持てる作品です。小説を読むと「しょせん小説の中だけの話」と思ってしまう人に薦めたい小説です。
2015年の芥川賞受賞作家です、又吉直樹。でもこの作品は芥川賞作家にありがちな「時系列が複雑で読みにくい」「表現が凝りすぎて、よくわからない」「浮世離れしていて内容が入ってこない」などということは一切ない作品なので、日ごろ本を読まない人でも大丈夫ですよ。
(司書 山中)
絵本作家、ヨシタケシンスケさんの初エッセイ集です。身近なものや人、出来事に対してついつい考えてしまうヨシタケさん。フツウは全く何とも思わないことを深く考えて、あーだこーだと悩むのですが、意外と前向き。
繊細で感受性が豊かだからこそのヨシタケワールド。そして、挿絵がよりわかりやすくしてくれています。
どこから読んでも大丈夫。気軽に読んでもらいたい一冊です。
(司書 鎌田)
自分の居場所を守るため、男は立ち上がった!
生物好きが高じて、水族館に就職した著者。好きを仕事にできる、あこがれの職場ではありましたが、そこは閑古鳥が鳴く寂しい水族館でした。
そんな中、とうとう廃館が検討されてしまします。
「このままでは自分の居場所が危ない…」。
危機感を抱くも、改善に必要な予算はない。では、どうするか。
答えは「できるところからやる。何でもやる」でした。
通常の水族館では考えられないような、考えても実行しないような展示を次々と実施。
その結果、入館者数が見事に回復。
その過程は、タイトルにあるように本当にドタバタです。表紙に「水の泡とは消えたくない」とありますが、自分たちが「水の泡」となって消えるかもしれない、という危機感もあったでしょう。
でも、著者の明るい、そして楽しい文章のおかげで、悲壮感を抱くことなく、一緒になって水族館の改革過程を楽しむことができます。
(司書 中島)
「映像現場で働きたい!!」そんな夢を抱いて上京したが、現実はそう上手くいかない。しかし、巡りめぐって映画撮影の現場でバイトをするチャンスに遭遇する。ひたすら撮影が滞りなく進行するよう走り回り、俳優さんが気持ちよく本番に臨めるよう周囲にも気を配る。日の当たらない縁の下の力持ち役だが、これを率先してやる人がいないと現場は回らない。
人をおもんばかることで、自分はどう行動したらいいのか考えを巡らすことが必要なのだ。そして、その背景にあるのは、常に人への尊敬の念だろう。
果たしてそれは、映像制作の世界だけの話だろうか。いや、私たち一人ひとりが日々生きていく中で大切な心構えなのではないだろうか。
(司書 古川郁)
サバクトビバッタの生態を研究するためにアフリカのモーリタニアへ旅立った筆者。サバクトビバッタは数年に一度アフリカで大発生し、農作物に甚大な被害を与えます。それは、食料危機を引き起こすレベルです。
バッタの研究でアフリカを救いたいという気概が認められ、現地の研究所から『ウルド』という高貴なミドルネームを与えられて研究活動をした記録が綴られています。
ただ、この本の面白いところは、バッタ研究の成果を披露する内容だけではなく、モーリタニア人の日常や考え方、食べ物や風景の描写も軽快な文章で綴られ、旅行記の側面も持ち合わせているところです。そのうえ、研究者の立場や日常、日本で科学研究を続けていく上での困難な状況も、興味深いエピソードやユーモアを交えながら語られています。
日本で食べられているタコは実はモーリタニアからの輸入に頼っています。モーリタニアが地図上でどこにあるのかも知らない人が多いのではないでしょうか。そんな国で日本の研究者が活動した記録、面白いですよ。
2018年新書大賞受賞作です。
(司書 山中)
本校図書館も毎年参加しているイベント「東京・学校スタンプラリー」。
このイベントはこれまでに8回開催され、毎年小冊子が作られています。そのうち第1回から第5回までの小冊子が1冊の本にまとめられ、『学校図書館の司書が選ぶ小中高生におすすめの本300』として出版されました。その好評を受けて、新たに2017年から2019年までの3冊の小冊子がまとめられ、第2弾として『学校図書館の司書が選ぶ小中高生におすすめの本220』が出版されました。
『ハンセン病』を知っていますか?名前は聞いたことがある、その病気にかかった人が差別を受けていたことも知っている、という人も多いと思いますが、その人たちがどういう人生を送ってきたのか、具体的に興味を持ったことがある人は少ないのではないでしょうか。
この小説の主人公はその『ハンセン病』を患い、壮絶な人生を送ってきた人ですが、そんな哀しみ苦しみをクローズアップした重苦しい小説ではなく、ふんわりと温かい文体で、こちらもまた壮絶な人生を送ってきた和菓子屋の店長との心の交流を描いています。
もし、今、生きる意味が分からない…などと考えている人がいたら、ぜひこの本を手に取ってみてください。優しい文体で何かを語りかけてくれるはずです。
美しい表現の数々に、心が温かくなります。
(司書 山中)
今度の異世界は、「江戸」?!
本屋に行くと、「チート能力を持って異世界に転生して、大活躍」という小説が大量に置いてあります。そして、その手の小説が、売上ランキングに、頻繁に顔を出しています。
きっと、今の中高生には、こんな本が大人気なんだろうな、と思うので、そんなノリで読める本を紹介します。
あらすじ…
昔の東京、「江戸」にタイムスリップする方法を知った「島辺国広」は、自分が受講する古文書解読講座の「会沢竜真」先生とともに江戸に旅立ちます。
江戸の様々な習慣に戸惑う島辺と、文献で知る江戸の姿を実際に目で見て感動に打ち震える会沢先生。
二人は、「医者とそのお付き」として、江戸の人々と交流する…。
あらすじを紹介すると、「『異世界』モノを、江戸時代に焼き直したものなんだな」と思うかもしれません。
しかし、この本の一番の特徴は、この本の「分類」にあります。
この本の図書館での分類は、「小説」ではなく、「歴史」。
つまり、この本は、れっきとした「歴史解説書」なのです!
主人公たちが江戸で何かを見聞きすると、それらが詳細に解説されるので、自然に江戸の知識が身につけることができます。
日本史の教科書を読んで、「難しそう…」と思ったら、ぜひ、この本を手に取ってください。歴史を生き生きと感じることができ、面白くなりますよ。
(司書 中島秀男)
知らないことだらけ!?研究の面白さに触れることからはじめよう
サッカー小説など数々の作品を発表し、作家としても活躍されている川端裕人さん。そんな彼が、多様な科学分野の研究者を訪ねて、日頃の研究活動や研究内容をわかりやすい言葉で伝えてくれる一冊です。
著書の中に登場する「恐竜」「気象」など、6分野の研究者の中からお一人、サメの研究をリードする沖縄美ら海水族館副館長について紹介しましょう。皆さんの中には、沖縄美ら海水族館を訪れた人もいると思います。わたしは行ったことがありませんが、どうやら研究環境にも恵まれ、日本のサメ研究には持ってこいの場所らしいです。
ところで、サメは何類でしょうか? 大きく分類すると魚類になります。魚類ですから、てっきり全てのサメが卵から生まれてくるものと思い込んでいました。ところが、実はそうではないらしいのです。一例を挙げると、沖縄美ら海水族館の名物ジンベイザメは、卵を産み落とさず、メスのお腹の中で胎仔(産まれる前の子ども)を育てるのだそうです。しかし、サメの研究者の間でもまだまだ解明されていないことがたくさんあり、サメの産み方は、「繁殖様式のデパート」と例えられるほど、多種多様で未知の世界のようです。
この本を読んでみると、驚きの連続とともに、まるで自らが研究室を訪れたようなワクワク感にかられること間違いなし!! 自分の興味の分野に限らず、まずは様々な科学分野に触れてみてはいかがでしょうか。
(司書 古川)
休み中に交通事故に遭い、自転車ごと湖に転落した高校生の古谷野真樹。命に別状はなかったが、後遺症ですべての記憶を失いました。新学期が始まり、今では見知らぬ人ばかりになってしまったクラス。友人達は温かく迎えてくれますが妙な孤独感は否めません。そんな中で、文化祭の準備中に落書き事件が起こり、その事件の謎を追うことが、自分の知らない自分を発見する手掛かりになると真樹は感じました。謎解きの過程で見えてきたこととは…
高校生の恋愛、友情、そして今ホットな社会問題も織り交ぜながら展開する青春小説。ミステリー仕立てなので、先が気になってどんどん読み進めてしまいます。
(司書:山中)
中学一年生の安西こころは、ある出来事を機に学校へ行けなくなり、いつも家で過ごしています。ある日一人で家にいると、部屋の鏡が突然輝き始め、潜り抜けてみると、そこは城の中でした…
戸惑いながらも次第に心を合わせて繋がっていく7人の中学生の物語。ファンタジーの要素もあるので、普段ファンタジーを読まない人にとってはリアリティに欠ける物語にみえてしまうかもしれません。でも、7人の心の動きは、今どきの10代リアル、です。
本屋大賞受賞作です。
(司書:山中)