Research

細胞には様々な形があります。そして、その形態が異常になると、必要な栄養を取り込めなくなったり、染色体を正しく分配できなくなったりして、結果的に正しく生育できなくなります。形態を正しく形成し維持していくことは、細胞にとって、とても重要なことなのです。

私たちは、大腸菌をモデル生物に研究を行っています。バクテリアのような数ミクロンの大きさの細胞でさえも、その形態を正しく形成しなければなりません。細胞の形がどのようにして作られ、維持されているか、それを支配する形態形成の普遍的な機構、あるいは特定の形態を形成するための特別な機構を明らかにしようとしています。また、形態形成と密接に結びついている細胞分裂機構の解明も行っています。

Cell Shape

大腸菌は、桿菌です。桿菌の形態は、中央のシリンダー部分と、両極のキャップ部分からなります。私たちはおよそ4000個の大腸菌の非必須遺伝子を一つずつ破壊したライブラリーから、形態が球状になった変異体を見つけました。この原因遺伝子は、これまで機能未知の遺伝子であり、私たちはこの新規遺伝子をrodZと名付けました (Shiomi et al., 2008)。RodZタンパク質は、既知の形態形成因子MreBアクチンなどと協調して、形態形成を制御する因子であると考えられます。現在、私たちは、RodZ-MreBを中心とした形態形成制御機構の全容を解明しようと研究しています。

Cell Elongation and Cell Division

大腸菌は、細胞伸長 (elongation) と細胞分裂 (division) を繰り返しながら生育します。RodZやMreBアクチンは細胞伸長に関与します。大腸菌が持つ別の細胞骨格タンパク質FtsZチューブリンは細胞分裂に必須の因子です。私たちは、RodZとFtsZの関係にも着目しています。RodZを中心として、2つの細胞骨格タンパク質MreBとFtsZの機能解析も行います。通常、大腸菌が分裂する時には、細胞の中央で分裂しますが、私たちは、不等分裂する変異体を同定しました。つまり、中央以外のところで分裂します。この変異体の解析から、細胞が中央で分裂する仕組みや細胞伸長と細胞分裂の切り替えのメカニズムを明らかにできると考えられます。

L-form

大腸菌をはじめ、通常は細胞壁を持ち、細胞壁が細胞の生育や細胞形態の維持に必須です。細胞壁がペニシリンなどの抗生物質の標的となっているのも、そのためです。しかし、大腸菌などのバクテリアは、特殊な条件下では、細胞壁がなくても生存可能です。このような細胞壁の無いバクテリア(L型細菌と呼ばれます)は、ある種の抗生物質に対する耐性を示すので、病原菌の感染などにも重要なプロセスかもしれません。私たちは、人工的に細胞壁の無い大腸菌を作り出し、どのように生育していくかなどを明らかにしようとしています。また、元々細胞壁を持たないバクテリアもいます。そのうちのひとつ、らせん型細菌スパイロプラズマの細胞分裂機構を明らかにしようと試みています。

最初の12時間はペニシリンを含む培地、12時間後にペニシリンを含まない培地で大腸菌を培養。ペニシリン添加で細胞壁を(ほとんど)含まないアメーバ状のL-formに変形し、ペニシリン除去により元の細胞壁を持つ大腸菌に戻る。詳細はChikada et al., 2021をご覧ください。

2021年度オープンキャンパス(オンライン)での研究室紹介です。