質量の大きな恒星は,核融合による熱で自分自身を支えられなくなると重力崩壊と呼ばれる「死」を迎えます。このとき超新星爆発を起こしますが,恒星の中心部分は自分自身の重力から逃れられず,ブラックホールや中性子星といったコンパクト天体になります。これらの天体は地上では決して実現できない極限状態にあり,天然の高エネルギー物理学実験室となっています。
どんな研究?X線で明るいブラックホールや中性子星は,その強力な重力圏に恒星を捕獲し,互いの周りを公転し合う連星系を作ります。このX線連星では,恒星からコンパクト天体がガスを剥ぎ取り,降着円盤を作ります。降着円盤や恒星が放つ恒星風の相互作用で,さまざまな時間変動が観測されるので,衛星で取得したデータの時系列解析や,天体の状態ごとのスペクトル解析から,どのような現象が起きているかを探ります。近年は,国際宇宙ステーションに搭載され,たくさんのX線を集める能力に優れた NICER や,かつてない精度でスペクトルを取得できる XRISM 衛星のデータ解析に取り組んでいます。
次のステップは?コンパクト天体は,その非常に明るいX線で周囲のガスを電離します。この電離されたガスはもともと恒星がその表面の物質を放出した恒星風であり,場合によっては小さく濃い塊(クランプ)を形成しています。このような恒星風のクランプがコンパクト天体の手前側を横切ると,電離ガスがコンパクト天体からのX線の一部を吸収し,X線の到来頻度が一時的に減る「ディップ」現象が起きます。「ディップ」の継続時間の長さや,起き始めの急激さから,クランプやコンパクト天体のサイズを観測的に制限することを試みています。また「ディップ」中のスペクトルには電離ガスに含まれる元素に固有の吸収線とよばれる構造ができることがあり,これを利用してクランプの物理状態を調べようとしています。
大質量星の重力崩壊や白色矮星に大量のガスが降り積もって起きる熱核暴走といった現象により,超新星爆発が起きます。飛び散った星の破片(イジェクタ)は超音速で星間空間のなかを膨張し,衝撃波を形成します。衝撃波で加熱された星間物質やイジェクタは数千万度のプラズマとなり,数万年にわたりX線で明るく超新星残骸となります。超新星残骸のX線観測により,爆発で解放されたエネルギーや元素を測定することができます。
どんな研究?超新星残骸は数十光年の広がりを持っており,銀河系内のものであれば現代のX線望遠鏡でその形状を「見る」ことができます。円いものからひしゃげたものまで多様性に満ちています。また,X線スペクトルに含まれる輝線を解析することで,プラズマの物理状態がわかります。特にイジェクタのスペクトルからは,恒星の進化途中や超新星爆発の特殊な環境で作られた元素の成分分析を行うことができます。
次のステップは?近年,われわれも長年開発に参加してきた XRISM 衛星がついに打ち上がりました。この衛星の最大の特徴は,代表的なX線エネルギー (6 keV) においてこれまでの 30 倍も精密なスペクトルを測定できることです。たとえば,元素分析の場合には,大量に含まれる元素からの明るい輝線に埋もれてしまっていた,希少元素の輝線を検出できるようになります。さらに,ドップラー効果による輝線エネルギーの「ずれ」を利用してプラズマの運動も測定できるようになります。
(準備中)
X線は波長が短いため,理論上可能な角度分解能はミリ秒角以下と非常にシャープです。それだけの分解能があれば,ほかの波長ですでに実現されているような,天体の非常に解像度の高いX線写真を撮ることができるはずです。しかし,望遠鏡の形状の精度の問題のため,実際にこのような性能を実現するのは非常に難しく,過去最高の解像度を誇ったチャンドラ衛星でさえ,理論限界より3桁ほど悪いレベルにとどまっています。
どんな研究?北本研では,補償光学をもちいて形状精度を補正し,これまでより優れたミリ秒角の角度分解能を達成することを目指す「X-ray milli-arc-sec 」計画,通称 Xmas (クリスマス) 計画を進めています。現在すでに稼働中の Xmas 望遠鏡を改良し,そのさらなる性能向上を図りたいと考えています。
次のステップは?望遠鏡は光学系と検出器から構成されるので,光学系だけでなくその焦点面検出器にも相応の位置分解能が要求されます。そこで2026年度は特に,焦点面検出器として従来一般的だった CCD カメラよりも細かいピクセルサイズを達成できる CMOS カメラを望遠鏡に取り付け,その駆動・性能評価を実施したいと考えています。
われわれが天体観測にもちいる CCD カメラなどのX線検出器は,X線だけでなく,より高エネルギーの電磁波であるガンマ線や,原子核から飛び出した電子であるベータ線など,さまざまな放射線にも感度を持ちます。つまり CCD カメラは放射線検出器としても応用できます。最大のメリットは,CCD カメラ内での放射線の反応の仕方の違いから,その種類を区別できる可能性がある点です。
どんな研究?放射線の種類により,CCD に入射した後の反応の仕方が異なります。その結果,CCD 画像上にポツポツと現れる放射線イベントの形状も異なると期待されます。ガンマ線は CCD 内で光電効果などを起こすと電子に変換されるため,一見ベータ線と区別することはできないように思われます。しかし CCD のイベント検出方法をよく理解すると,これらの間にはある違いが期待されます。そのような違いを実験で確認し,装置を工夫することで放射線の識別精度を上げることを目指しています。
次のステップは?これまでは,ベータ線・ガンマ線のいずれかを放射する線源を利用し,それぞれでのイベント形状や,両者の間での違いを評価してきました。ベータ線照射時に,事前の予想に合致するイベント形状の特徴が実際に観測されています。その一方で,同じ特徴がガンマ線照射時にも観測されてしまう,という問題が起きています。これはおそらく,形状を評価する際のデータ解析方法を改良することで解決できるでしょう。2026年度は特にこの点に取り組みたいと考えています。
ブラックホールはX線天文学の主役のひとつですが,自分自身は光を放ちません。そのかわり,その重力で周囲の星からガスを剥ぎ取って「降着円盤」を作り,これを纏って明るく輝きます。しかし,われわれの銀河の中にある比較的近くのブラックホール連星でさえ,X線望遠鏡がその構造を分解するには解像度が圧倒的に足りません。これを可能にするには,ミリ秒角よりさらに細かいマイクロ秒角の角度分解能が必要になります。
どんな研究?マイクロ秒角をX線で実現することは,現在の望遠鏡の延長線上的な進化では達成できません。そこでわれわれは電波などですでに実現されている干渉計をX線望遠鏡の世界に持ち込み,X線干渉計を実現させようとしています。
次のステップは?X線干渉計の準備研究として,これまでさまざまな実験コンフィグレーションでの干渉縞を計算によって予測してきました。これを実験的に実現させるため,さらに本格的なシミュレーション実施し,それに基づいてコンフィグレーションを工夫し,実験計画を練り上げようとしています。2026年度は,実際にビームラインなどをもちいて実験を行い,X線干渉縞の測定に進みたいと考えています。
天体からのX線は地球大気が吸収してしまうため,観測装置は衛星などに搭載する必要があります。一度打ち上げてしまうと,現場に行って装置の具合を確認することはできません。そこで,素性のわかっているX線を定期的に観測装置にあてることで,エネルギーゲインなどの重要な性能をリモートで取得します。この「素性のわかっているX線」を作り出すX線発生装置が,現代の観測装置には必ず備わっており,観測装置そのものに負けず劣らず重要な構成要素となっています。
どんな研究?北本研では,衛星上やその開発段階での地上試験において汎用で使えるX線発生装置を設計・製作しています。特に,X線の発生のオン・オフを LED からの紫外光などで柔軟かつ細かくコントロールできる Modulated X-ray Sources (MXS) とよばれる種類のX線発生装置の改良に取り組んでいます。実際に製作した発生装置を真空チェンバ内で駆動し,発生したX線の成分が期待通りかや,その量が計算からの予想値に比べて十分かなどを評価し,設計改善にフィードバックします。
次のステップは?近年の実験では,発生装置のサポート構造由来の余計なX線が発生していることが判明し,いくつかの異なる方法でこれを取り除くことを検討し,その実証実験も進めてきました。これはおおむね解決しましたが,X線の発生効率が計算による予想に比べ一桁以上低いという問題があります。2026年度は,電磁シミュレーションや実際の測定を通じてこの原因を探り,装置のジオメトリ(幾何的配置)や構成部品の改良などによって発生効率の向上を目指したいと考えています。
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