2021/3/9 Science requirements and detector concepts for the electron-ion collider (EIC Yellow Report) が公開されました。
2020/1/9 Electron-Ion Collider 建設サイトに 米国ブルックヘブン国立研究所 が選定されました。
2019/12/19 米国エネルギー省(DOE)により学術的意義の承認( Critical Decision 0: CD0) が得られました。EIC実現にむけた大きな一歩です。
Electron-Ion Collider (EIC) はアメリカにおける次世代加速器計画です。世界初の偏極電子・偏極陽子衝突型加速器、(偏極)電子・原子核衝突型加速器の実現し、素粒子原子核物理学に関する研究を行います。2030年代の実験開始を予定しています。
Electron-Ion Collider の公式ホームページ
Electron-Ion Collider での研究に興味をもつ世界各国の研究者により構成されるユーザーグループ
EICでは大きく以下の3つ点
How does the mass of the nucleon arise? (どのように核子質量は創発されるのか?)
How does the spin of the nucleon arise? (どのように核子スピンは創発されるのか?)
What are the emergent properties of dense systems of gluons? (高密グルーオン状態によってどのような性質が創発されるか?)
の理解を目標としています。
原子核の構成する陽子と中性子をまとめて「核子」と呼びます。電子の質量は核子の約1/2000であるので、物質の質量は含まれる「核子」の数で決まるといっても良いでしょう。核子は複数のクォークで構成されますが、ヒッグスにより与えられるクォークの質量はわずかであり、核子質量はクォークを結びつけている「強い力」による束縛エネルギーから創発されます。あまりに強い力のため、未だに、具体的にどのように核子質量が創発されるかは素粒子原子核物理における大きな謎の一つとなっています。
CERN-COMPASS実験、Fermilab-SpinQuest実験 でおこなってきた核子スピン研究の集大成。これまでの実験は「固定標的」を利用して研究をすすめてきた。固定標的型と衝突型の実験の大きな違いは、到達できる衝突エネルギーの大きさにあります。衝突型実験では相対論的効果によって、言葉どうり、桁違いの衝突エネルギーを得ることができます。反面、粒子をスピン偏極したまま加速することは技術的に非常に難しい挑戦でありこれまで実現されていません。EIC実験は世界初の偏極電子・偏極陽子衝突型実験であり、まずはその大きな衝突エネルギーを生かしてクォークを結びつける役割をする「グルーオン」が果たす役割を明らかにします。EICの高い輝度を活かし、クォーク・グルーオンのスピン(自転)だけでなく公転運動の果たす役割についても究極的な答えを得ることを目指します。
山形大学先進的研究拠点(YU-COE)「総合スピン科学」として取り組んできた「核子スピン構造の研究」における究極的解決にあたる。
EICでは陽子だけでなく原子核を加速することができます。陽子からはじまりウランのような重い原子核に至るまで、その内部構造の理解にはグルーオンが重要は役割をもっています。核子や原子核の中を電子散乱によって調べていくと、エネルギースケールの上昇に伴い内部に大量のグルーオンが生成されます。グルーオンは指数関数的に増加しますが、どこまでも増加しつづけることはできず、どこかで「グルーオン凝縮状態」が生まれることが示唆されています。グルーオン凝縮はこれまでに未発見のまったく新しい物資の存在形態であり、その発見およびその物性解明を目標とします。
EICの建設が予定されているBNLでの相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)や、CERNにおけるハドロン衝突型大型加速器(LHC)で精力的にすすめらている重イオン衝突実験でおこなわれている、クォーク・グルーオンプラズマの研究とも関係しています。
山形大学から提案したEIC計画が、学術大型研究計画の一つとして選定されました。
https://kds.kek.jp/indico/event/35224/
コライダー実験は素粒子物理領域では既に長い歴史を持ち、現在もLHCやSuperKEKBなどが強力に推進されています。原子核物理領域においても、RHICおよびLHCでの重イオン衝突の物理やRHICでの核子構造の物理が行われ、さらに米国でEIC(Electron-Ion Collier)計画が立ち上がりつつあります。ここでは偏極e+p衝突やe+A衝突が行われ、HERAを引き継ぐ物理も行われます。EICは今後10年程度で実現する新たなコライダーとしては唯一のものとなる可能性もあり、素粒子物理と原子核物理が加速器物理業界として協力して推進することを目指しています。この研究会では、そのような目的でコライダー実験に対する素粒子物理と原子核物理の交点を理論、実験、加速器の観点から探りたいと考えます。
EIC Yellow Report, 2021.3
米国アカデミーによる EIC がとりくむ物理テーマに関するレビュー。
サブタイトル"Understanding the glue that binds us all."、「我ら全てを結びつけるもの理解」がEICの目指すテーマです。